技術講座

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[技術講座(交換―1)]               (2002/10/04作成)

 交換技術は伝送技術とともに多対多通信を支える基盤技術です。今回は交換機の機能および構成の概要についてまとめました。

1.交換機の役割

 電話のように多くの人が相互に通信する多対多の通信システムは、図1に示すように各送信者と受信者の間に1対1の通信システムを多数設けることで実現されます。図1のシステムは、常時すべての相手と通信できると言う意味で、多対多の通信システムの理想と言えますが、伝送路などを各送信者と受信者の間に専用に設ける必要があるため、不経済となります。



   図1 多対多の通信システム


 交換機の役割は、この欠点を克服しネットワークを経済的に構成するために、伝送路の共用を図るとともに発信者が希望する相手だけと通信できるように、伝送路の繋ぎ替えを行うことです。例えば、図2に示すように利用者Aの伝送路とAが通話を希望する相手の伝送路の間に交換機により通話路を形成すれば、利用者AはB、C、Dのいずれの利用者と通話するときでも同じAの伝送路を使い、希望する相手だけと通話できます。



   図2 電話の通信システム


 このように、交換機の役割は多くの発信者の要求に従って迅速かつ正確に伝送路を繋ぎ替えることで、この動作を交換動作と呼びます。

2.交換機の機能

 交換機の機能は、「迅速かつ正確に伝送路を繋ぎ替える」役割を実現することです。そのために配置される基本機能と、基本機能の配置に伴い経済的・技術的に有利にするため交換機に配置される付加機能に大別されます。後者の代表例にはネットワーク制御機能、課金機能およびサービス機能があります。

2.1 基本機能

 交換機が発信者の要求に従って、伝送路の繋ぎ替えを行うためには、図3に示すような機能が必要になります。



                 図3 交換機の基本機能


(1)通話要求検出

 交換動作を行うためには、まず第一にどの発信者からの通話の要求があるのか知る必要があります。交換機は、常時、利用者の伝送路(加入者線)を監視しています。通話を要求する利用者(発呼者)が端末機器の受話器を上げると加入者線に電流が流れ、交換機はこれを検出し通話を要求している発呼者を識別します。これを一般に発呼検出と呼んでいます。

(2)要求内容の分析

 次に、発呼者の要求内容を知る必要があります。発呼者がダイヤルする相手先番号(選択番号)を受信し、通話を希望する相手(被呼者)を識別して、被呼者への回線を選択します。これらの機能はそれぞれ選択信号受信機能、翻訳機能、出線選択機能と呼ばれます。

(a) 選択信号受信機能
 交換機が発呼者に対し被呼者の電話番号をダイヤルするように発信音(ダイヤルトーン:通常ツーと言う連続音)を送出します。その後発呼者から送られてくる選択信号を受信し、これを記憶する機能です。

(b) 翻訳機能
 受信した選択信号を接続に適した情報に翻訳し、被呼者の収容されている加入者線の位置(収容位置)を識別する機能です。また、選択信号の翻訳の結果被呼者が他交換機に収容されている場合は、その交換機への伝送路(回線)を選択し、被呼者の電話番号を送って被呼者と接続する必要があります。

(c) 出線選択機能
 被呼者が収容されている他交換機につながる回線を選択するために、まず選択信号によりその回線のルートを識別します。回線のルートは他交換機へ向かう回線群ごとに決められています。この識別機能をルート識別と言い、その回線群の中から空いている1回線を選択する機能を出線選択と言います。出線が選択されると、次に述べる伝送路の繋ぎ替えにより他交換機と接続のうえ選択信号を送出します。

(3)要求内容に基づく伝送路の繋ぎ替え

 発呼者の要求内容を識別すると、交換機の本来の役割である発呼者と被呼者の加入者線を繋ぎかえるための通話路の形成が可能になります。通話路の形成の準備を終えると、被呼者に呼び出し信号(リンギング:通常リ―ン・リ―ンというベル音を鳴動させるための16Hz信号)を送出し、被呼者に着信を知らせます。被呼者が受話器を取り応答すると、通話路を形成し発呼者と被呼者の通話を可能とします。これらの機能をそれぞれ呼出信号送出機能、応答検出機能、通話路形成機能と呼びます。

(a) 呼出信号送出機能
 被呼者に着信があることを知らせるための呼出信号を送出し、発呼者には被呼者を呼出し中であることを呼出音(リングバックトーン:通常ルルル------の繰返し音)を送出して知らせます。また、通話中であれば、話中音(ビジートーン:通常ツーツーという早い繰返し音)を発呼者に送出します。

(b) 応答検出機能
 被呼者に呼出信号を送出している間、交換機は被呼者の加入者線の状態を監視しており、被呼者が受話器を上げると応答信号としてこれを検出します。

(c) 通話路形成機能
 被呼者が応答すると、発呼者と被呼者の加入者線を接続するために、交換機の通話路を形成して両者の通話を可能とします。

(4)伝送路の開放

 通話が終了すると、次の通話ができるように伝送路を空きの状態にしておかなければなりません。そのためには、通話の終了を検出して通話路を切断し復旧する機能が必要になります。前者を終話検出機能、後者を通話路切断機能と呼んでいます。

(a) 終話検出機能
 通話中も交換機は加入者線を監視しており、通話が終了すると終話信号を検出します。終話信号は受話器を端末機器にかけることにより、加入者線に電流がなくなることで検出されます。

(b) 通話路切断機能
 通話の終了を検出した交換機は通話路を切断し、復旧します。

 交換機が必要とするこれらの基本機能交換動作との関連は図4のようになります。また、図4の交換動作に必要な機能を見ると、本質的に同じまたは密接な関係にある機能が繰り返されて交換動作が行われていることがわかります。これらの機能をまとめると次のように3つに大別できます。

 ・ 端末機器や他交換機との信号の送受を行う機能
 ・ 交換動作に必要な情報を識別して動作指示する機能
 ・ 通話路を形成する機能



               図4 交換動作と基本機能


 図5に交換機の機能ブロック図を示します。



               図5 交換機の機能ブロック


2.2 付加機能

(1)ネットワーク制御機能

(a) 迂回制御機能
 通信システムの信頼性を確保するために、伝送路が切断されても通信の確保ができるよう、大規模なネットワークでは発信交換機と着信交換機の間には複数のルートが設定されています。図6に示すように、@ルートとAルートの2つのルートがあると、それらのルート選択方法を決める機能が必要になります。例えば、@ルートのトラヒックが多い場合は、Aルートを選択する必要があります。このように@ルートからAルートに迂回する機能を迂回制御機能といいます。通信ネットワークにおいて、幾つかのルートの中からどのルートを選択していくかは、回線の使用効率や信頼性の向上に深く係わる重要な問題です。



               図6 迂回制御機能


(b) 輻輳制御機能
 社会的事件、災害、電話リクエストなどで非常に多くの呼が集中発生した場合や、中継用の伝送路が切断された場合などに交換機が処理できる限界を大幅に超えるトラヒックが発生し、輻輳が生じることがあります。また、1つの交換機が輻輳すると、対向している周辺の交換機にも影響を与えることがあります。これは輻輳している交換機向けの呼の待ち合わせ時間が長くなり呼の渋滞が起こり、周辺の交換機自体も輻輳に陥るためです。次々と周辺の交換機に波及すると輻輳が雪だるま的に大きくなり、ネットワーク全体を麻痺させる危険が生じる場合もあります。このような輻輳状態を回避するために予測を上回るトラヒックが発生すると、これを制御し、ネットワーク全体への影響を抑えるようにします。これを輻輳制御といい、表1に示すように主に3つの機能があります。
               表1 輻輳制御

機  能
内          容
発信規制  非常に多くの呼が一度に発生し、交換機が処理できる限界を大幅に超えると正常な交換動作が行われなくなるので、通話の確保が必要な一部を除いて発信呼を受け付けないよう規制する機能
入呼規制  発信規制と同様の条件で入呼の待ち合わせが多くなり、正常な交換動作が行われなくなるので他交換機から入呼を受け付けないよう規制する機能
出接続規制  ある地域または特定の利用者へのトラヒックが集中し、輻輳が発生することで他の地域や利用者への呼に影響を与える場合、ネットワーク全体に輻輳が波及することを防ぐためにその地域または利用者への呼を規制する機能


(2)課金機能

 課金とは、定められた料金制に従って、通信ネットワークが扱った通信に応じて適切、正確に料金を算定できるよう、料金データを収集・蓄積することです。交換機は、発信されるすべての呼について、どの利用者から発信された呼で、どの利用者へ着信し、何分あるいは何秒通話しているかなどの情報を、伝送路の繋ぎ替えの過程で知ることができます。このため、一般的に課金機能は交換機に配置しています。例えば、NTTでは、通話するたびに電話番号ごとに設けられた度数計(メータ)へ、通話の距離と時間に応じて通話度数を加算していきます。この度数を元に、1度数当たりの単位料金を乗じて、通話料金を算出し、利用者に請求することになります。

(3)各種サービス機能

 ネットワークが提供している色々なサービスのうちで、交換機によって実現されるものが多くあります。これは、交換機が繋ぎ替えを行う過程で機能を追加すれば簡単に実現できるからです。例えば、NTTのネットワークで実現されているサービスの一例は表2のとおりです。

表2 NTTのネットワークで提供しているサービス(例)

サービスの分類
サービス項目
発信の利便化
     可変短縮ダイヤル
     国際自即
着信の利便化
     自動通知案内
     でんわばん
     自動着信転送
通話中の利便化
     キャッチホン


3.交換機の構成

 交換機は、図5の機能ブロック図に対応して図7に示すように、通信路を形成するための装置として次のものがあります。

 @ 通話路スイッチ網
  伝送路の変化や情報を分析して接続動作を行わせるための装置

 A 制御装置
  端末機器や他交換機と信号を送受する装置

 B 加入者線ごとに発呼信号などを検出する加入者回路

 C 回線ごとに終話信号などを検出するトランク回路

 D 端末機器と呼出信号などの送受を行う信号装置

 E 他交換機と選択信号などの送受を行う信号装置

 F 交換用ソフトウエア
  電子交換機やディジタル交換機において、交換機の制御手順を記憶するソフトウエア



               図7 交換機の基本機能と装置構成



3.1 通話路スイッチ網

 通話路スイッチ網は、制御装置からの指示により発呼者と被呼者の通話路を形成、切断、復旧するものです。通話路スイッチ網は、交換機のハード量に占める割合が大きいため、これを以下に効率的な構成にするかが交換機の構成上大きなポイントとなります。

3.2 制御装置

 制御装置は、監視信号選択信号情報を翻訳し、分析した結果をもとに被呼者の識別出線選択、必要選択信号などの情報の送出および通話路形成の動作指示などを行うもので、その構成は制御方法によって大きく異なります。図8(a)の共通制御方式は、通話路スイッチ網を構成する複数スイッチに対して共通に制御回路が設けられています。個別制御方式は、制御機能の面で融通性に欠けるため最近ではほとんど使われていません。



               図8 制御装置の構成


 共通制御方式には、機能の実現方法によって布線論理回路というハードウエアで制御機能をつくる布線論理制御方式(wired logic control)と、コンピュータとほぼ同様の蓄積論理回路を採用し、ソフトウエアで制御回路をつくる蓄積プログラム制御方式(stored program control)があります。前者の代表例としてはクロスバ交換機が、後者の代表例として電子交換機およびディジタル交換機があります。蓄積プログラム制御方式の制御装置の構成は、図9に示すように通話路スイッチ網を駆動する通話路制御装置、その通話路制御装置や信号装置を制御する中央制御装置は、記憶装置に格納されている交換機の制御手順が記述されたプログラムを読み出し、その命令を実行して制御します。



          図9 ディジタル交換機制御装置の構成


3.3 加入者回路

 通常、加入者回路は発呼信号や終話信号など加入者線の状態を監視しています。ディジタル交換機の場合には、通話路スイッチ網が電子部品で構成されているため、アナログ交換機のように呼出信号のような大電力信号を通話路スイッチ網経由で送出することはできません。そこで、ディジタル交換機ではアナログ端末機器を収容する加入者回路に「通話電流供給機能(B)」、「過電圧保護機能(O)」、「呼出信号送出機能(R)」、「監視機能(S)」、「アナログ信号/ディジタル信号変換機能(C)、「2線4線変換機能(H)」および「試験引込み機能(T)」の "BORSCHT" (ボルシュトと呼ぶ)という7つの機能を持たせています。

3.4 トランク回路

 トランク回路は、応答信号や終話信号などの回線の状態を監視するとともに通話電流を供給します。ディジタル交換機の場合、ハードウエアとしてのトランク回路はなく、回線の監視は信号装置で行います。

3.5 信号装置

 信号装置は、端末機器や他交換機と発信音、選択信号などの送受信を行います。

3.6 交換用ソフトウエア

 交換用ソフトウエアは、図10に示すようにシステム部、局データ部および加入者データ部から構成されています。システム部は、交換システムが同じであればそれぞれの交換機で共通に使用できます。システム部に属するシステムプログラムは、交換機の制御手順を記述したプログラムで、システムデータは交換システムにより一義的に定まるデータです。



     図10 交換用ソフトウエアの構成


 局データおよび加入者データは、交換システムが同じでも交換機ごとに異なるデータです。交換機が設置される交換局によって設備の規模回線の設定方法電話番号の割付方法などが異なります。これを局条件といい、この局条件を記述したデータを局データといいます。加入者データは、それぞれ端末機器固有の電話番号、通話路スイッチ網に収容されている端子位置(収容位置)、端末信号種別(ダイヤル式/プッシュ式)、サービス種別など利用者の属性を記述したデータです。

4.交換機の接続動作

 電話をかける動作は、端末機器の受話器を取り上げてダイヤルする、相手とつながって話をする、話が終わって受話器を下ろす、という順序になります。これに対応した交換機の接続動作を、発呼者と被呼者が別々の交換機に収容されている場合を例に図11に示します。


               図11 交換機の接続動作 (1/2)



               図11 交換機の接続動作 (2/2)

[出典]
 (1) 電気通信研究会:伝送交換設備及び設備管理、日本理工出版会(2000-2)

 以上、交換機の機能および構成の概要についてまとめました。次回は各構成要素の仕組みについてまとめる予定です。



[技術講座(交換―2)]                 (2002/10/16作成)

 前回に引き続き、今回は交換機の構成要素である通話路スイッチ、信号発生器、加入者回路、交換用ソフトウエアについてまとめました。

5.通話路スイッチ

 通話路スイッチ網は、任意の入線出線接続および切り離しできる構造が必要です。例えば、発呼者の加入者線をダイヤル番号で指定した被呼者の加入者線に結びつけるのが、通話路スイッチ網です。このため、通話路スイッチは図12に示すように入線1本に着目すれば、複数の出線の中から任意の出線を選択・接続できる機能が必要となります。この例では入線「1」から出線「C」への接続を示しています。



          図12 基本スイッチ


 入線が複数になった場合、スイッチの出線を能率よく使用するため、図13に示すように何本かの入線に対し、出線を共用させています。このようにマトリックス状に構成することにより、任意の入選から任意の出線を効率よく選択・接続することができます。このスイッチが通話路スイッチ網の基本となり、格子スイッチと呼ばれています。この格子スイッチを実現するには各交差点に開閉のスイッチ機能が必要となりますが、通常継電器(リレー)接点やLSIによる電子ゲートなどを用います。



     図13 格子スイッチ


 1つの交差点を1つの呼で使用する方法と、多くの呼で使用する方法がありますが、前者は、各交差点を空間的に配置することから空間分割方式(SD:Space Division)と呼ばれ、後者は、PCM多重伝送技術をスイッチに応用して各交差点を多重使用するために、時分割的にスイッチングを行うことから、時分割方式(TD:Time Division)と呼ばれています。

5.1 空間分割形スイッチ

 現在、空間分割形スイッチの構成部品は、クロスバ交換機や電子交換機で用いられたクロスバスイッチ、電磁形のリレー、LSI等電子回路によるゲート素子などがあります。空間分割形スイッチの例として、電子交換機で用いられている多接点封止形スイッチ(SMM:Sealed Multi-Contact Matrix)について述べます。図14に示すように、1個のSMMスイッチは8個の接点組(1接点組は2接点)を有しており、このSMMスイッチ8個で8×8の格子スイッチを構成し、この格子スイッチを多段に接続して大規模な通話路スイッチを実現しています。



          図14 SMMを用いた格子スイッチ


5.2 時分割形スイッチ

 時分割形スイッチの具体的構成、動作原理は、空間分割形スイッチと大きく異なりますが、論理的には格子スイッチとして同一に扱うことができます。図15に空間形スイッチと時分割形スイッチの違いを概念的に示します。空間分割形スイッチでは、入線と出線を空間的に分離配置された格子スイッチの交差点を開閉することにより交換動作を行っています。時分割形スイッチでは、各入線、出線ごとにタイムスロットと呼ばれる個々の時間位置を割り付けており、スイッチ内では入線のタイムスロットを出線のタイムスロットに入れ替えることにより交換動作を行っています。時分割形スイッチの交換動作原理を入線3回線、出線3回戦の場合を例にとって、図15の@〜Cに従って説明します。



          図15 空間分割形スイッチと時分割形スイッチ


 @ 各入線A、B、Cの音声信号は、PCMによって入線ごと個々にA0、A1、・・・・・・、B0、B1、・・・・・・、C0、C1・・・・・・のように8ビットを単位としたディジタル符号に変換されます(これを符号化といいます)。

 A 符号化された各入線のディジタル信号は、1本の時間軸上に時間的に少しずつ間隔を取って、各入線ごとに割り当てられた時間位置に順にA0、B0、C0、A1、B1、C1、・・・・・・のように周期的に繰り返して並べられます(これを時分割多重化といいます)。時分割多重化された信号は、図16に示すように周期的に繰り返されるビット列を作って送られますが、この1周期の単位をフレームといい、このフレーム内でA、B、Cのビット列が占める時間位置をタイムスロット(TS:Time Slot)といいます。この場合、入線A、B、Cはそれぞれタイムスロット#0、#1、#2を割り当てられています。



     図16 フレームとタイムスロット(3回線多重の例)


 B 各出線D、E、Fもタイムスロットが割り当てられており、この場合、出線D、E、Fはそれぞれタイムスロット#0、#1、#2に対応して割り当てられたタイムスロットに入っている音声信号を受け取ることになります。ここで交換処理を行うためには、入線側のタイムスロットに入っている#0 = A、#1 = B、#2 = Cの音声信号を、例えばタイムスロット間で#0 = C、#1 = A、#2 = Bの順序に入れ替えてやれば、Aの信号はE、Bの信号はF、Cの信号はDへ送られます。このようにタイムスロットの入れ替えにより、A、B、Cの音声信号をD、E、Fのどこへでも自由に送ることができます。

 従って、時分割形スイッチでは、タイムスロット間で音声信号を入れ替えること、つまり音声信号の時間順序を入れ替えることが交換動作を行うことになります。

 C 入れ替えを終えた音声信号は、タイムスロットに対応した出線ごとに振り分けられ(分離)、ディジタル信号は元のアナログ信号に戻され、端末機器に送られます(復号化、補間ろ波)。

 このように時分割形スイッチの基本原理は、時間順序の入れ替えということができます。 

6.通話路スイッチ網構成

 交換機に多くの加入者線や回路を収容する場合、1つの格子スイッチで大規模な通話路スイッチを構成することは、経済性や技術的な面から実現性に問題があるので、複数の格子スイッチの組み合わせで通話路スイッチ網を構成します。一般に、個々の利用者の電話使用頻度すなわちトラヒックが低いことを利用して、トラヒックを集めて絞り込み(集束)、群に振り分け(分配)、どの利用者にも接続できるようにする(展開)という手順を踏むことにより、スイッチ(接点)の数を節約して通話路スイッチ網を構成します。

 例えば、住宅用の電話では図17に示すように、8利用者の場合に2本の通話路で十分なケースがあります。この場合、収束階梯と展開階梯の中間に2本の通話路による分配階梯を設けるのは、どの群にも接続可能とするためです。



          図17 通話路スイッチ網構成(例)


 通話路スイッチ網は、一般に図18に示すように、収束、分配、展開の階梯から構成されます。集束階梯の入線数は利用者数によって決まるが、出線数はそのトラヒックによって決まります。この入線数と出線数の比率すなわちトラヒックの集束比を集線比と呼んでいます。分配階梯においては、一般に入線と出線の数はほぼ同じです。展開階梯は集束階梯と同じですが、呼の流れは逆になります。そこで実際の交換機では、集束階梯と展開階梯は図19に示すように共用しています。 それぞれの階梯において、通話路スイッチ網を経済的に構成する方法が通話路スイッチ網構成技術です。




6.1 空間分割形通話路スイッチ網の構成

 1個の格子スイッチで通話路網を構成する場合、空間分割形通話路では各交差点に1つずつ接続が配置されるため、加入者線や回線が増加するとその2乗に比例して所要接点数も増大します。このため、経済的な通話路スイッチ網を構成するために小さな格子スイッチ多段に配置し、一定の条件で接続して所要の接点数を極力削減し、必要とする容量の通話路スイッチ網を構成します。これを多段接続といいます。

 例えば、図20(a)に示すように、入線100本、出線100本の通話路スイッチ網を構成する場合、1個の格子スイッチで実現すると100×100 = 10000個の接点が必要となります。一方、入線10本、出線10本の小さな格子スイッチを図20(b)に示すように3段に配置し実現すると、所要接点数は(10×10×10)×3 = 3000接点となり、1段の場合に比べ約1/3に削減でき経済性が図れます。



     図20 空間分割形通話路スイッチ網の構成


 反面、デメリットもあります。通話路を1個のスイッチで実現した場合は、接続しようとする端子が空いている限り、いずれの入線からも接続できますが(完全群構成:ノンブロック構成)、通話路を多数の格子スイッチにより多段接続すると、出線が空いているのに途中のリンク(多段接続におけるスイッチ間を結ぶ線)が塞がっていて接続できない場合(不完全群構成:ブロック構成)が生じます。このような状態を生じる確率を内部輻輳率といい、接続に当たってこの確率を許容しうる一定の範囲内に収めて、できるだけ接点数を少なくすることが設計上の要となります。

6.2 時分割形通話路スイッチ網の構成

 時分割多重化された音声信号が通る伝送路をハイウエイ(HW:High Way)といいます。一般に、時分割形通話路スイッチ網はハイウエイ上で音声信号の時間位置を入れ替える時間スイッチ(TSW:Time Switch)と音声信号をハイウエイ間で入れ替える空間スイッチ(SSW:Space Switch)を組み合わせて構成されます。その理由は次の2つです。

 @ 時間スイッチ1段では、大容量の通話路スイッチ網を作ることは経済的、技術的に困難である。
 A 空間スイッチだけでは時間位置の入れ替えができないことから、交換動作はできず、通話路スイッチ網を構成することができない。

(1)時間スイッチ

 時間スイッチは、図21に示すように入側ハイウエイの多重度分(0〜n)の容量を持つ通話メモリ、その通話メモリへ書込番地を指定する書込制御メモリ、および通話メモリに蓄積された内容を順番に読み出すための順番読み出しカウンタから構成されます。



     図21 時間スイッチの動作原理


 時間スイッチの働きは、ハイウエイ上の各情報の時間位置、すなわちタイムスロットを入れ替えることです。この動作の原理を以下に示します。

 @ 入ハイウエイのタイムスロット0に来た"A"の情報は、書込制御メモリの0番地(タイムスロット番号に対応)の内容に基づいて通話メモリの1番地に書き込まれます。
 A 同様に、タイムスロット1、2に入ってきた情報"B"、"C"は、通話メモリの2番地、0番地へそれぞれ書き込まれます。
 B 一方、通話メモリからの読み出しは、順番読み出しカウンタ(シーケンシャルカウンタ)に基づいてシーケンシャルに読み出され、通話メモリの0番地から順番に出ハイウエイへ読み出されます。

 このように書込制御メモリによって通話メモリへの書き込み、順番読み出しカウンタによって通話メモリから読み出すと、情報"A"はタイムスロット0から1へ、情報"B"はタイムスロット1から2へ、情報"C"はタイムスロット2から0へとタイムスロット(時間位置)が入れ替わったことになります。この入れ替え方式は、ランダム書き込み(ライト)・シーケンシャル読み出し(リード)方式と呼びます。逆に、入ハイウエイの情報をシーケンシャルカウンタに従って通話メモリに書き込み、この情報を読み出し制御メモリでランダムに出ハイウエイに乗せて実現させる方式があり、これをシーケンシャルライト・ランダムリード方式といいます。

 以上のように、書き込み制御メモリの内容を書き換えることによって、自由にタイムスロットを入れ替えることができます。ディジタル交換機では、これをプログラムで制御しています。

(2)空間スイッチ

 空間スイッチは、高速で動作するゲート素子を用いて、ハイウエイ相互間で情報の入れ替えを行うスイッチであり、ハイウエイスイッチと呼ばれています。空間スイッチは、図22に示すように格子状のゲート回路とタイムスロットごとにゲートの開閉を制御する制御メモリで構成されています。



     図22 空間スイッチの動作原理


 空間スイッチの動作原理を以下に示します。

 @ タイムスロット0の時間には、各制御メモリの0番地の内容に基づいてゲートを開きます。制御メモリの内容は、ゲートを開く入ハイウエイの番号に対応しており、# 0制御メモリによって(a)のゲート、# 1制御メモリによって(b)のゲート、# i制御メモリによって(c)のゲートを開きます。
 A (a)、(b)、(c)のゲートが開くことによって情報 "A"は#0ハイウエイから# 1ハイウエイへ、情報 "P"は# 1ハイウエイから#0ハイウエイへ移し替えられ、情報 "X"は# iのハイウエイのまま出て行きます。
 B 同様に、タイムスロット1の時間には、各制御メモリの1番地の内容に基づいてゲートを開きます。

 このように制御メモリの内容を変えることにより、ハイウエイの移し替えを自由に行うことができます。ディジタル交換機では、これを時間スイッチと同様、プログラムで制御しています。なお、空間スイッチはハイウエイの移し替えだけでタイムスロットの入れ替えはできません。

(3)時間スイッチと空間スイッチの組み合わせ

 時間スイッチと空間スイッチを組み合わせた通話路スイッチ網の構成パターンは、図23に示すようにピラミッドの形で表すことができます。図23において、動作速度が向上するほど通話路のスイッチ段数が少なくなり、通話路の選択や制御は簡単になります。また、スイッチ間の接続数が少なくなるので信頼性も向上します。このピラミッドでは、T(時間スイッチ)−S(空間スイッチ)−T(時間スイッチ)系列とS−T−S系列とがあります。



図23 ディジタル通話路のピラミッド構成


 時分割通話路スイッチ網を多段で構成する最も簡単な形式は、TSTとSTS形式です。両者を比較すると、TSTは多重化されるチャネル数が増大するにつれて、通話路の入線と出線の接続において選択できる経路数が増加し、通話路スイッチ網の使用能率が高められます。すなわち、TSTではタイムスロット数分だけの接続経路が存在するのに対し、STSではハイウエイ数分のみの接続経路数となり、選択できる経路数が限られてくることになります。

6.3 TST構成と交換動作

 時分割形通話路スイッチ網は論理回路で構成されているため、信号は片方から入り他方へ出るという方向性を有しています。図24に示すように、利用者Aの音声信号が利用者Bに伝えられる場合を例にとってTSTスイッチ網の動作を説明します。

 @ 利用者Aの音声信号を一次時間スイッチT11で送信用タイムスロット#0から接続用タイムスロット#3に入れ替える。
 A ハイウエイスイッチで接続用タイムスロット#3の利用者Aの音声信号をハイウエイ#1からハイウエイ#2へ移し替える。ここでは、タイムスロットの位置(TS#3)は変わらない。
 B 二次時間スイッチT22で利用者Aの音声信号を接続用タイムスロット#3から利用者Bの受信用タイムスロット#5に入れ替える。

 同様に利用者Bの音声信号が利用者Aに伝えられる。



          図24 TST構成の交換動作概念


6.4 時分割集線方式の原理

 集束階梯による集線は、格子スイッチに入る入線数より出線数を少なくしてトラヒックを絞り込むことによって、通話路スイッチ網の規模を縮小して経済化を図るために必要となります。この集線の原理を図25に基づいて説明します。この例では、入線数1024を出線数512に集線する場合で、入ハイウエイのタイムスロットは加入者線に対応し、出ハイウエイのタイムスロットは分配段の入ハイウエイのタイムスロットに対応します。この場合、使用できる通話メモリのアドレス数は、書き込み制御メモリによって最大512に制限されています。集線の動作は次のようになります。

 @ 通話メモリへの書き込みは、書き込み制御メモリによって発呼した加入者線に対し、任意の空アドレス(#0〜#511)が割り当てられます。
 A 通話メモリのアドレスがすべて割り当てられると、書き込みができなくなり、それ以上に発信される呼については接続されない。

 このようにして、1024の加入者線のうち512回線の呼のみを通過させることで集線を実現しています。



         図25 時分割集線の原理(集線比2:1の場合)


7.ディジタル信号処理

 端末機器からのPB信号や交換機間のMF信号は、特定の周波数の組み合わせで構成されているアナログ信号なので、クロスバ交換機や電子交換機などのアナログ交換機では、アナログフィルタでその周波数を選別し、元の信号を取り出しています。一方、ディジタル交換機では、PB信号やMF信号はディジタル信号に変換されて入ってくるため、これらの信号をアナログ信号に変換せず、ディジタル信号のままコンピュータが行うような加算、乗算などの演算を行うことにより選択信号を得ています。これをディジタル信号処理といいます。ディジタル信号処理の利点には、次のものがあります。

 @ D/A変換器が不要となるので、ディジタル交換機と親和性が良い。
 A ディジタル回路なのでLSI化に適しており、小型化、低価格化が可能である。
 B アナログ回路に比べ、温度変動や経年変化が少ないので動作が安定している。

 また、ディジタル交換機で使用されるディジタル信号処理技術には2種類あり、受信系技術と送信系技術に分けられます。これらの技術とその応用である信号処理装置の対応は、図26のようになります。



     図26 ディジタル信号処理技術と信号処理装置の対応


7.1 ディジタルフィルタ技術

 ディジタルフィルタ技術は、ディジタル化されたPB信号やMF信号をそのまま処理し、アナログフィルタと同様に特定周波数の信号のみを選別して出力する技術です。図27は、ディジタルフィルタに100Hz+400Hzのディジタル信号を通すと、100Hzと400Hzの信号を選別して出力する様子を表しています。図28は、ディジタルフィルタを応用したPB信号受信器の構成例です。端末機器のプッシュボタン"2"を押すと、697+1336Hzのアナログ信号がディジタルPB信号受信器で受信され、697Hzと1336Hzの出力が出る様子を表しています。



          図27 ディジタルフィルタの概念




          図28 ディジタルPB受信器の構成例


7.2 ディジタル信号発生技術

 ディジタル信号発生技術は、ディジタル交換機で必要な発信音、話中音などの各種音源やMF信号をディジタル信号で発生させる技術です。この原理を図29に基づいて説明します。メモリ内部には出力波形の標本値がPCM符号化されて2進数の形で記憶されています。従って、サンプリング周期でメモリの内容を順々に読み出せば、ディジタル信号のまま直接出力が得られます。読み出し方を工夫すると、同一のメモリで異なる周波数のディジタル信号を出力することができます。図30に示すように、メモリを3アドレスごとに読み出せば3倍の速度で波形が変化するので、3倍の周波数が得られます。MF信号発生器発信音信号発生器は、この原理を応用したものです。


7.3 ディジタルフィルタの特徴

 フィルタとは、信号に含まれる特定の周波数成分を除去したり、取り出したりする働きを持つ回路、すなわち周波数選択性がある伝送回路のことです。アナログ素子L、C、Rの物理的特性を生かしてフィルタの特性を実現する回路をアナログフィルタと呼びます。これに対してディジタルフィルタでは、アナログ信号を一度ディジタル信号に変換(A/D変換)して信号処理を行い、適当な演算を行った後、再びアナログ信号に変換(D/A変換)してフィルタ特性を実現しています。アナログフィルタと比べて特にディジタルフィルタが優れている点は、係数メモリと呼ばれるメモリのデータによってフィルタ特性が決定されるため、容易にフィルタ特性を変えることができることです。

8.加入者回路

 端末機器と交換機間のインターフェース機能として、交換機側で備えていなければならない機能には次のようなものがあります。

 @ 通話電流供給機能
  音声信号を端末機器と交換機で送受するため、通話用の直流電流を加入者線に供給する機能を言います。

 A 直流ループ信号機能
  端末機器からの発呼、応答、切断、ダイヤルパルスなど加入者線(2本線)のループ状態の断続、反転など信号送受機能を言います。

 B 高レベル信号機能
  呼出信号などの高レベル信号を端末機器に送出する機能を言います。

 これらの機能の多くは、個々の端末機器の使用頻度が極めて低いことから、端末機器ごとに設けるのは不経済となるため、一般に、図31に示すように、通話路スイッチ網を介してトランク側に設けることにより、装置を集約化し使用能率を上げています。しかし、ディジタル交換機にアナログ方式の端末機器を収容する場合には、通話路スイッチ網が電子化されて大振幅信号や大電流は通せないので、加入者線対応にこれらの機能を備えた加入者回路が必要になります。



図31 空間分割形交換機におけるインタフェース機能配置例


 加入者回路は、表3に示すように機能の頭文字をとった"BORSCHT"機能を持たせており、LSIで構成した全電子化回路となっています。図32に加入者回路のブロック構成を示します。

          表3 加入者回路の機能

要因
機能
BORSCHT
 端末機器とのインタフェース  電流供給  B  Battery Feed
 監視  S  Supervision
 呼出信号  R  Ringing
 試験引込み  T  Testing
 ディジタル化に起因するもの  2線―4線変換  H  Hybrid
 A/D変換  C  Codec
 電  子  化  過電圧保護  O  Overvoltage Protection




          図32 加入者回路のブロック構成


 時分割通話路においては以下の理由から、BORSCHT機能をネットワーク後置のトランク回路で実現することは不可能です。

 @ 時分割通話路は直流信号を通さない。
 A 時分割通話路は大電力信号を通さない。

 このように、ディジタル交換機においては、各種加入者回路はすべて時分割通話路の前段に設置する必要があり、これらの機能を如何に経済的に実現するかが問題となります。

9.交換用ソフトウエア

 交換用ソフトウエアの特徴は、交換システムと一般の情報処理システムとの違いから派生してくるものです。交換用ソフトウエアは、処理方式、信頼性、適用形態および維持管理機能などの観点から、次の4つの条件を満足しなければなりません。

 @ 多重処理と実時間処理
 通話路スイッチ網は、数万に達する多数の加入者線や回線を収容しており、交換用シフトウエアはこれらから任意に発生する接続要求を即時に処理する必要があります。従って、交換用ソフトウエアは任意に発生する多数の呼に対して同時に交換処理を効率よく行い、また実時間処理(リアルタイム処理)できなければなりません。

 A 高い信頼性
 交換機は24時間連続運転することが必要条件であり、社会的にシステムの安定性確保が必要です。従って、ハードウエアのみならずソフトウエアについても高い信頼性を実現する必要があります。故障発生やソフトウエアハードウエアの追加、変更の再にも連続運転できる機能を持つ必要があります。

 B 交換機ごとの異なる設置条件に対する柔軟性
 交換機は、利用者数、収容回線数および電話番号など設備規模やサービス条件の異なるいろいろな交換局に導入されますが、プログラム論理を変えることなく交換局ごとに異なる設置条件をデータ定義した局データ、加入者ごとに異なるサービス条件などをデータ定義した加入者データのみを設置条件に合わせて変更することで、柔軟に対応できなければなりません。

 C 機能の追加・変更に対する柔軟性
 通信ネットワークは時代の進展に合わせ、新しいサービスの導入など次々と様々な機能追加が求められます。交換機は高価なため一旦設置されると使用年数が長く、開発後の種々の機能追加、変更に柔軟に対処できなければなりません。

 このため、交換機用シフトウエアは様々な処理上の工夫をして実現されています。ここでは多数の呼に対して、実時間処理を行うための多重処理方式、高い信頼性を実現するための故障処理方式、異なる環境条件に対応するためのソフトウエアの一般化および機能追加・変更に対応するためのソフトウエアの構造化について述べます。

9.1 実時間多重処理方式

 交換機は、多数の呼を同時に処理する必要があり、ダイヤル中の呼もあれば通話中や呼出中の呼など、多数の呼を平衡して通話接続や切断あるいは途中放棄の処理を行っています。また交換機は、これらの多数の呼に対して、利用者のダイヤルに追随して誤りなく選択信号を受信したり、速やかに遅滞なく接続すること、すなわち実時間性が必要です。

 そこで個々の呼の一連の接続動作を処理単位に区切って、多くの呼を時分割的に扱い、見かけ上同時並行処理する多重処理方式をとっています。すなわち、それぞれ分割された呼処理ごとに対応するプログラム群と、これらをどのタイミングに、どの順序で起動させるかをスケジュール管理するオペレーティングスシステム(実行管理)プログラムとにより構成し、任意に生起する呼に対して実時間性を損なわないように工夫されています。

(1)プログラムのレベル化と優先度

 1つの呼の流れに着目すると、図33に示すようにダイヤル中は状態が高速度に変化する一方、応答から終話まで(通信中)は全く変化しないなどの特徴があります。つまり、ダイヤル信号の受信のように正確な時間間隔で処理しなければ情報を誤って受信し、誤接続にいたるような処理は、遅延が許されず厳しい実時間性が要求されます。しかし、利用者が発信するときに端末機器の送受話器を取り上げた情報(オンフック)や、終話時に送受話器を戻した情報(オフフック)の検出のように1秒近く処理が遅延してもほとんど支障のないものもあり、必要な実時間性のレベルは様々です。



     図33 呼の発生から終話までの状態変化


 このように、実時間性の厳しさが異なる処理を多重に実行するため、プログラムの実行レベルをグループ分けし、実行上の優先度を設けています。例えば図34に示すように、処理の緊急度に応じて優先実行レベルのクロックレベルと一般実行レベルのベースレベルに分けています。



     図34 プログラムの流れとクロック割込み


 交換機をソフトウエアにより動作・制御している中央制御装置(CC:Central Control)は、平常、時間制限の緩やかなベースレベルの仕事をしていますが、一定周期(例:8ms)ごとにそれを中断して緊急度の高いクロックレベルの仕事を介入させます。これをクロック割込みといいます。中央制御装置はクロックレベルの仕事が全て終わると、ベースレベルに移るようにして仕事を処理しています。ベースレベルの仕事が終了しないうちに、一定周期が経つと仕事の途中結果をまとめておいて中断し、クロックレベルの仕事を行った後、次の周期のベースレベルで中断した仕事を引き出して再開します。

(2)多重処理を行うためのプログラム構成

 多重処理を行うために呼の接続動作を行うプログラムは大きく3つのプログラム群に分けられ、さらに各群は個々の処理単位ごとのプログラムに分けられます。

 @ 入力プログラム
 発呼・応答・切断・ダイヤルパルスなど、加入者線または回線の状態変化を検出して入力情報を得るプログラムで、周期的に起動され、ほとんどが実時間性の厳しい処理を行うためのクロックレベルのプログラムです。

 A 内部処理プログラム
 入力プログラムで得た入力情報の内容を翻訳分析して、その要求に応じた接続上の処理の手順を編集して、必要な出力情報を作り上げるプログラムで、全て入力プログラムからの起動要求に基づき走行する非周期のベースレベルのプログラムです。

 B 出力プログラム
 出力情報により、実際にスイッチの駆動や信号の送出をするための指令を出すプログラムで、入力プログラムと同じく実時間性が厳しいため、ほとんどがクロックレベルのプログラムです。

9.2 故障処理

 故障処理は、交換機の高い信頼性を確保するため、交換機に異常が生じたとき、交換処理動作を極力低下させることなく、交換処理を持続させるための処理です。故障処理は、交換機の装置(ハードウエア)、ソフトウエアに異常が生じたときに次の処理により回復動作を行います。

 @ 故障原因(何処が故障か)を識別する
 A 故障装置を切り離す
 B 故障処理を正常に戻す

 故障を検出すると、一時的な故障か、固定的な故障かを判断し、固定的な故障であれば故障装置を識別して予備装置と切り替えたり、あるいはプログラムデータなどを初期設定したりして呼の接続処理を再開させます。

9.3 ソフトウエアの一般化

 交換機は設置される交換局ごとに使用条件、例えば電話番号、設備規模、回線ルートなどが異なりますが、それぞれの交換機ごとにソフトウエアを開発することは生産性、保守性の悪化を招くことになります。このため、交換用ソフトウエアは、一般的に交換処理手順を記述したシステムプログラム部分と、プログラムに条件を与えるデータ部分を分離し、さらに、データ部分はシステムデータ、局データおよび加入者データに分割して、設置される交換局の条件の相違は局データと加入者データで吸収する構成となっています。

 この構成により、システムプログラム部分とシステムデータ部分を一元化して、各交換機で共通的に使用することができ、効率的なソフトウエアの開発維持管理を可能としています。

9.4 ソフトウエアのモジュール構造化

 次々に発生する交換機の機能の追加や変更を容易にするために、ソフトウエアはできるだけ簡明に取り扱える単位のブロックに分割してモジュール化を図ることが重要です。例えば、NTTの交換用ソフトウエアでは、以下のとおりソフトウエアのモジュール化を図っています。

 @ 交換機として本質的な機能(監視・翻訳・接続制御など)に着目して、機能単位にモジュール分割し、そのモジュール間のつながりを疎の関係にして、モジュール単位で独立してソフトウエア変更が容易にできるようにしています。

 A また大規模な交換用ソフトウエアを、サブシステム→機能ブロック→プログラムユニットの順に階層化を図り、取り扱いを容易にしています。図35に階層構成例を示します。



     図35 プログラムシステムの階層構成例


[出典]
 (1) 電気通信研究会:伝送交換設備及び設備管理、日本理工出版会(2000-2)

 以上、交換機の各構成要素の仕組みについてまとめました。伝送交換技術の基礎についてはここまでとし、次回はデータ通信についてまとめる予定です。


 

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