技術講座
[技術講座(CATV-1)] (2002/08/18作成)
今更の感はありますが、CATVがADSLと共にブロードバンドの一翼を担っていることは確かであり、デジタル放送対応やHFCによる高速伝送網などの技術開発が進められていることから見て無視するわけにはいかなくなりました。
そこで、CATVの基礎技術についてまとめることにしました。しかし、CATVは放送に係わる部分とインターネット接続に係わる部分が密接に関連しており、後者だけを単独に取り出すことが困難なため、やむを得ず前者も含めたCATV技術としてまとめることにしました。
1.放送のデジタル化とCATV
CATVの放送のデジタル化は、BSデジタル放送の開始から本格的に進み、2002年3月現在、全国172施設でデジタル方式によるBSデジタル放送の再送信が実施されています。再送信の方式として、BSパススルー方式とBSトランスモジュレーション方式の2方式が実用化されています。BSパススルー方式は、日本CATV技術協会によって規格化され、伝送帯域に余裕のある施設へ導入されています。BSトランスモジュレーション方式は、日本ケーブルラボによる仕様の統一で各メーカーが製造した機器間の相互接続が確保されるとともに、CATV事業者によるダウンロード・視聴制御機能が付加され、ケーブルでのBS伝送方式のスタンダードとして広く普及しています。どちらの方式でも、加入者は、直接受信と同じサービスを受けることができます。
CSデジタル放送、110度CSデジタル放送、地上デジタル放送など、多様化するデジタル放送メディアに対応した、デジタル放送再送信に関わる仕様の統一化を図るため、統合デジタルCATVシステムの運用仕様の策定が日本ケーブルラボで進められています。統合デジタルCATVシステムでは、各種のデジタルサービスが一つのSTB(Set
Top Box)で受信できるようになるため、ケーブル加入者はメディアの違いを意識することなく、簡単にすべてのデジタル放送サービスが受けられるようになります。また、多くの番組をあらかじめケーブル伝送に適した形式で多重化し、衛星を使用して配信するHITS(Headend
In The Sky)の事業も進められています。
2.BSデジタル放送のケーブル伝送
(1)BSトランスモジュレーション方式
BSデジタル放送で送られてくるデジタル信号は、一つの中継器で送られる情報量がCATVの1ch分の伝送容量を上回るため、そのままの形でCATVに伝送することはできません。BSデジタル放送は、複数のTS(Transport
Stream)を用いて情報を伝送しているので、BSトランスモジュレーション方式では図1に示すようにTS単位で情報を2分割し、さらに変調方式をCATVに適した効率の良い方式(64QAM)に変換することで、一つの中継器の信号をCATVの二つのチャンネルで伝送できるようにしています。現在、BSデジタル放送は4つの中継器で運用されているので、CATV
8chでBSデジタル放送のすべてを伝送することができます。加入者宅では、CATV用デジタルSTBをテレビ受信機に接続することで、直接受信とまったく同じサービスを受けることができます。
図1 BSトランスモジュレーション方式
この方式は、基本仕様のほかCATV局での独自サービスのためのダウンロード機能と視聴制御機能の仕様が、日本ケーブルラボにおいて仕様化されています。これによりCATV局では、B-CAS(BS-Conditional
Access System)によるBSデジタル放送の限定受信とは独立に、加入者の視聴者制御やSTBの機能更新ができるようになりました。現在ラボ仕様のBSトランスモジュレーション装置として、ヘッドエンド装置13社、STB
8社の製品の相互接続を確認しています。
(2)BSパススルー方式
BSパススルー方式は、図2に示すようにBSアンテナで受信したBSデジタル放送の受信信号の周波数を、ダウンコンバータでBS-IF帯(1GHz帯)からSHB(Super
High Band)などのケーブルで伝送可能な低い周波数に変換して伝送するシステムです。加入者宅では、受信した信号をアップコンバータによって再度周波数変換して元の周波数に戻し、直接受信と同じBSデジタルチューナー(または内蔵テレビ)に接続して受信します。利用できるサービスは直接受信とまったく同じです。
図2 BSパススルー方式
この方式は、設備費用が比較的安価であり、直接受信用のチューナー(または内臓テレビ)が使用できるというメリットがある反面、すべてのBSデジタル放送を伝送するために、約30ch分の連続した帯域が必要です。このため、この方式は伝送帯域に余裕があるCATVに導入されています。2002年3月現在、全国18のCATVで導入されています。なお、将来、BSデジタル放送の中継器が増えた場合には、ダウンコンバータおよびアップコンバータの変更が必要になります。
3.CSデジタル放送のケーブル伝送(リマックス方式)
リマックス(ReMux)は、Re-Multiplexer(再多重化)に由来します。最大の特徴は、再送信したいチャンネルをCATV局側で選択し、自由に組み合わせられることです。図3に示すようにCSデジタル放送では、一つの中継器で3〜7番組の標準テレビ放送が多重化されて送られてきます。これをCATV局で受信し、番組ごとのデータに分割します。その後、再送信したい番組のみをCATV用に再多重化し、番組情報などを付加して独自の番組編成を行います。また、PSI/SIの書き換えや付加により、独自のEPG(電子番組表)サービスを行うことができます。変調方式は64QAMを使用しており、番組を再多重化する際のCATV
1ch当たりの合計容量の最大値は、約29Mbpsです。
図3 リマックス方式
リマックス方式は、日本ケーブルラボの統合デジタルCATVシステムにおいて、仕様化が検討されています。この方式では、放送メディアの枠にとらわれることのないCATV局独自の番組編成が可能ですが、トランスモジュレーション方式に比べ、設備が高額になります。
4.110度CSデジタル放送のケーブル伝送(TS分割トランスモジュレーション方式)
110度CSデジタル放送で送られてくるデジタル信号は情報量が多いため、一つの中継器からの信号をそのままの形でCATVの1chに伝送することはできません。そこで図4に示すように、ケーブルに伝送可能な情報量になるよう情報を番組単位で複数に分割し、変調方式をケーブル伝送に適した方式(64QAM)に変換して伝送します。この方式は、BSトランスモジュレーション方式とよく似ていますが、情報をTSというくくりで2分割するのではなく、番組単位で分割する点が技術的に異なっています。各家庭では、デジタルSTBをテレビ受信機に接続して受信します。双方向機能のためのSTBからの上り信号は、電話回線のほかより高速なケーブルモデムの使用も考えられています。日本ケーブルラボでは2002年4月にTS分割トランスモジュレーション方式を仕様化し、同年12月までに機器の相互接続試験を実施する予定です。
図4 TS分割トランスモジュレーション方式
5.地上デジタルテレビ放送のケーブル伝送
(1)UHF帯によるパススルー伝送
地上デジタルテレビ放送は、UHF帯の470〜710MHzの帯域を用いて放送されます。この帯域まで広帯域化されているCATVでは、周波数や変調方式を変更することなく、地上デジタルテレビ放送信号を伝送することができます。加入者は直接受信と同じデジタル受信機で視聴できます。
(2)伝送可能な周波数に変換して伝送
UHF帯の地上デジタルテレビ放送信号を、CATVで伝送可能なMID(Mid band)やSHBなどの低い帯域に周波数変換して伝送する方式です。周波数変換の方法としては、以下の方法が考えられます。
● すべてのチャンネルを一括して周波数変換する方式
● 複数のチャンネルを一括して周波数変換する方式
● チャンネルごとに周波数変換する方式
現在のところ、地上デジタル受信機の規格はUHF帯による直接受信が基本で、SHBやMIDに対応していないため、地上デジタル受信機の前に周波数を元に戻す周波数変換器を用いるか、受信機を全帯域受信可能とする必要があります。
(3)トランスモジュレーション方式
受信した地上デジタルテレビ放送を64QAMに変調方式を変えて伝送する方式で、変換後の帯域も放送波とほぼ同じ帯域で伝送されます。加入者は、BSデジタル放送やCSデジタル放送を含めたさまざまなサービスを、1台のSTBで受信できるというメリットがあります。図5に地上デジタルテレビ放送の各種ケーブル伝送方式を示します。
図5 地上デジタル放送のCATV伝送
6.デジタル放送伝送システムの統一
日本ケーブルラボが構想している統合デジタルCATVシステムは、ダウンロード機能・視聴制御機能などを含めたBSトランスモジュレーション方式をもとに、すべてのデジタル放送の運用仕様を定めるものです。110度CSデジタル放送、地上デジタル放送には、トランスモジュレーション方式が、CSデジタル放送およびCATV局による自主番組にはリマックス方式の採用がすでに決まっています。一方、限定受信機能(CAS)については、BSデジタル放送・110度CSデジタル放送がB-CASを、CSデジタル放送・自主放送がCATV用CAS(C-CAS)を使用します。C-CASは、ケーブル事業者が複数の種類の中から選択することが可能で、カードIDはケーブルCAS協議会での管理を検討しています。
本システムの受信機にはBSトランスモジュレーションSTBの機能を拡張した標準STBと呼ばれるSTBを使用します。標準STBはB-CASとC-CASに対応するように、2つのスロットを搭載します。また、双方向用の上り回線には電話回線が必須ですが、ケーブルモデム(RF)の併用も検討されています。統合デジタルCATVシステムでは、異なるメーカー間のヘッドエンド機器やSTBの相互接続が可能となり、事業者のデジタル導入時における選択の幅が広がるとともに、加入者は、一つのSTBですべてのデジタル放送サービスを受けられるようになります。図6に統合デジタルCATVシステムの概要を示します。
図6 統合デジタルCATVシステム
7.デジタル化による多チャンネル伝送
今後、放送メディアのデジタル化が進むとともに、放送で送られてくる番組の数は増加する一方、CATVで使用できる帯域(空きチャンネル)には限りがあります。今までのようなアナログ形式による伝送では、多くの番組を伝送することは困難であることから、多チャンネル化への対応という観点からも、CATVのデジタル化は有効な手段となっています。CATVで伝送に使用している周波数帯域は、VHF(90〜108MHz,170〜222MHz)、MID(108〜170MHz)、SHB(222〜468MHz)、UHF(470〜770MHz)です。しかし、770MHzまで対応し、チャンネルに余裕のあるCATV施設の数は、全体の約2割程度と少なく、残りの約8割が450MHzまでの施設です。これらの施設では伝送帯域に余裕がなく、今後新たなサービスに使用できる空きチャンネルが数十ch程度しか取れないのが現状となっています。
一方、今後デジタル放送に必要なチャンネル数は、BSデジタル放送、CSデジタル放送、110度CSデジタル放送、地上デジタル放送など合わせて30chにも及び、現状の帯域では伝送チャンネルの不足が生じます。それに対応するためには、直接的には施設の広帯域化が必要となりますが、伝送方式のデジタル化も有効な手だてとなります。デジタル伝送では圧縮技術により、一つのチャンネルで8番組程度を伝送できることから、現在アナログに変換されて伝送されているCSデジタル放送をデジタル伝送に置き換えることで、同じ番組数を伝送した場合でも、伝送に使用するチャンネルを大幅に節約することができます。統合デジタルCATVシステムでは、CSデジタル伝送にはリマックス方式を採用していますが、設備経費などの点で導入が困難な場合には、ヘッドエンドの共有化やHITS(Headend
In The Sky)などの利用も有効です。図7にデジタル伝送による多チャンネル化のイメージを示します。
図7 デジタル伝送による多チャンネル化
[出典]
(1)NHK受信技術センター編:デジタル時代のケーブルテレビ、NHK出版(2002-5)
(2)MichaelAdams:OpenCableアーキテクチャ、ソフトバンクパブリッシング(2002-7)
[技術講座(CATV-2)] (2002/09/06作成)
前回に引き続きCATVによる情報通信についてまとめました。
8.ケーブルインターネット
ケーブルインターネットとは、CATVネットワークを介して提供されるインターネット接続サービスです。図8に示すように、加入者はインターネット端末とケーブルモデムをEthernetで接続し、ケーブルモデムを介してCATV網に接続します。
ケーブルインターネットは、CATV局から加入者への下り方向の通信速度が最大約30Mbpsと高速であることが最大の特徴です。CATVの上り回線と下り回線の通信速度は非対称であるため、上り回線の通信速度は最大約2Mbpsです。
また、変調方式も上り下りで異なり、上り回線は流合雑音の影響に強いQPSKを採用し、下り回線は伝送路のCN比が十分取れるため64QAMを採用しています。ケーブルインターネットはADSLとは異なり、加入者宅までの距離には関係なく高速接続できる点が優れています。
図 8 ケーブルインターネットの概要
インターネットの普及に伴い、インターネット接続サービスを行うCATV事業者およびその加入者は増え続けています。しかし、インターネットに接続する回線は通常のケーブルインターネットのほか、電話回線、ISDN、ADSL、無線LAN、FWA、光ファイバーなど多様化しており、ケーブルインターネットと競合しています。特にADSLの普及が急激に伸びており、CATV事業者は通信速度、安定性、価格など、さまざまな面でサービスの向上に努めています。
実際の運用では、加入者に数百kbps〜2Mbps程度が割り当てられている場合が多いが、ADSLや光ファイバーなどに対抗して8〜10Mbps程度までスピードアップを図っている事業者もあります。
9.CATVのネットワーク構成
CATVの伝送路は、ヘッドエンドの出力が幹線を通って一定距離ごとに増幅器を通りつつ次第に分岐し、最終的に引き込み端子から引込み線によって加入者宅の保安器に接続されています。線路には同軸ケーブルか光ファイバーケーブルを用います。また、サービスの内容やサービスエリアの規模、コストなどによって最適なケーブルのネットワーク構成は異なり、いくつかの方式が存在します。代表的な方式としては、図9に示すようにツリー型とスター型があります。
図 9 ツリー型とスター型
ツリー型はヘッドエンドから樹枝状にネットワークを構成する方式です。幹線、分岐線から構成され、中継増幅器または分岐器を介して各々の端末に信号を分配します。山間部の難視解消共聴などのサービスエリアが小規模な施設に適した方式です。比較的幹線が長くなる場合は、中継増幅器が多段となるのを避けるため、幹線に光ファイバーを用いています。幹線が同軸ケーブルのネットワークでは、流合雑音の問題から双方向サービスにはあまり適しません。
スター型は、ヘッドエンドから各中継点と1対1の放射状のネットワークを構成する方式です。各中継点に対して個別にケーブルを敷設するため、ある伝送路で生じた障害が他の伝送路に影響しません。そのため、上り回線における流合雑音の影響を軽減できるので、双方向のサービスを行うのに適しています。
ヘッドエンドからいくつかの中継点まで光ファイバーで結び、そこから小規模のツリー型ネットワークを構成しているHFCやFTTHは、流合雑音の問題も軽減されるためインターネットなどの双方向サービスも可能であり、大規模なサービスエリアを持つCATVに適した方式です。
10.双方向伝送と流合雑音
流合雑音とは、CATVネットワークの上り回線において、端末からのさまざまな雑音が累積された雑音のことです。端末が多数存在し、上り回線の送信出力が低い場合、ネットワーク全体の上り回線の通信品質が大きく低下します。このため、幹線あたりに多数の端末を持つツリー型のネットワーク構成は、双方向通信に不利です。
日本のCATVネットワークは、上り回線に10〜55MHzの帯域を利用しています。この帯域には短波放送波や家庭の電化製品から発生する雑音が存在し、これらがシールドが不十分な部分から伝送路に混入し、流合雑音の原因となっています。特に、ケーブルネットワークの末端に集合住宅が多い場合は問題となります。
幹線に接続される端末が少ないほど流合する雑音が少なくなるので、ヘッドエンドにおける流合雑音も低減されます。そこでサービスエリアをセルと呼ばれる複数のエリアに分割し、ヘッドエンドから直接それぞれのセルに信号を送受すれば、流合雑音を低減し双方向サービスを行うことができます。
しかし、線路に同軸ケーブルを用いると距離による減衰が大きいため、数百mごとに幹線増幅器が必要となり、多大なコストがかかってしまいます。そこで、線路に距離による減衰が少ない光ファイバーを利用することで、中継なしに各セルへの信号伝送ができます。各セルでは光信号を電気信号に変換する光ノードから、対象地域の各加入者に同軸ケーブルのネットワークで電気信号を分配します。このような構成のネットワークをHFC(Hybrid
Fiber Coaxial)といいます。
HFCは、図10に示すように光ノードあたりに接続される端末を少なくでき、流合雑音の影響を軽減できるため、インターネットなどの双方向サービスに適しています。さらにHFCは、距離による減衰が少ない光ファイバーを幹線に採用しているため、より遠くまでサービスエリアを拡大することができます。また、中継増幅器の縦続接続段数が減るため、各増幅器におけるひずみの累積が減り、信号品質を向上させることができます。多段中継を避けることは、CATVネットワークを広帯域化する場合にも必要で、HFCはこれからのデジタル放送時代に不可欠な技術と言えます。
図 10 HFCネットワーク
11.CATVの音声通信サービス
CATV電話とは、CATVネットワークの双方向通信機器を使った音声通信サービスです。加入者は、市販の電話機で通常の電話と同じように利用することができます。通常、加入者側の通話料は大幅に割り引かれることが多く、市内・市外通話も割安です。
CATV電話は図11に示すように、加入者とCATV局の間に回線を設定し、局に設置した交換機を通して外部電話網に接続されています。伝送路は上り下りの回線を構成する必要があり、一般に同軸ケーブルによるネットワークでは上り帯域に10〜55MHzが、下り帯域には70MHz以上が用いられています。また、光ファイバーによるネットワークでは、上りと下りで別々のケーブルを使う方式と、1本のケーブルを用いる方式があります。
図 11 CATV電話のイメージ
これまで、日本ではCATV電話があまり普及しませんでした。その理由には、CATV局に高価な交換機やスター方式のネットワークが必要となること、もともと電話機の普及率が高かったこと、また、差別化を図るためには価格を安くしなければならないため収益がよくなかったことなどがあります。
しかし、近年高速なインターネット回線が希求されるようになり、比較的安価な設備投資で導入できることもあって、CATV事業者は次々に第一種電気通信事業許可を受けインターネット事業を開始しました。また、インターネットの基盤技術を応用した会話サービスVoIPが実用化されるなど、電話サービスへの参入も容易になってきています。
12.CATVの新サービス
(1)VOD
VODに必要な基本システムは、図12に示すように番組を蓄積・送信するビデオサーバー、伝送のためのネットワーク、番組を要求し動画像を受信するSTBとで構成されます。サーバーからデータを読み出し再生する手法として、ダウンロードとストリーミングの2つがあります。VODでは個々のリクエストに応じた複数の動画像を配信する必要があり、サーバーやネットワークに対する負荷が大きくなります。そのため、これらの負荷を軽減させるためのシステムもVODの実現に必要です。
CATVの普及が進んでいるアメリカではデジタル化も進んでおり、大手MSO(Multiple System
Operator)では、すでにVODサービスを実験的に行っています。ネットワークの混雑を軽減する技術として、サーバーを分散するシステムや、サーバーの負荷を均等化する技術などが利用されています。また、VODに対応した専用のSTBが使用されています。日本では、2002年春からVODの実験サービスが予定されています。
図 12 VODのイメージ
(2)VoIP
VoIPは、音声信号をデジタルデータ化し、パケットに分割して伝送することで、IPネットワーク(インターネットなど)を伝送路として使用する電話です。IPネットワークと公衆電話回線の接続には、相互の伝送方式を変換するゲートウェイと呼ばれる中継器を用います。つまり、一方の電話機から最も近いゲートウェイを介してIPネットワークに接続し、IPネットワークから通話先に最も近いゲートウェイを介して他方の電話機と接続します。
CATVでのVoIPには、ITU-Tで規格化されたH.323に基づくシステムがあります。このシステムは図13に示すように、CATV網をVoIPネットワークとして使用するもので、VoIPに対応したケーブルモデム、センターモデム、呼制御・管理などを行うゲートキーパー、ゲートウェイから構成されています。
CATVの普及が進んでいるアメリカでは、ケーブルラボがPacket Cableという標準規格を作成しています。この規格では、異なるCATV局を結ぶための方式を規定しており、これによりサービスの広域化が進むと予想されます。日本でも既にVoIPのサービスを行っているCATV事業者があります。VODのサービスについても2002年中にサービス開始を発表した事業者もあります。また、放送用の帯域を使用した新しいIPデータのストリーミングサービスも開発されています。
図 13 H.323によるケーブルVoIPシステムの例
(3)IPマルチキャスト
メールやWebなどでは、一般にサーバーと1対1で通信するユニキャストが使用されています。同一の情報を複数の端末に配信する場合、ユニキャストでは端末の数だけ通信が必要で、サーバーやネットワークにかかる負荷が大きくなります。
IPマルチキャストでは、同報的にグループ宛の通信を行うので、サーバーやネットワークの負荷を軽減できます。サーバーは特定の端末アドレス宛にIPパケットを送信するのではなく、事前に取り決めた特定のグループアドレス(マルチキャストアドレス)宛に送信します。端末は個別のアドレスとは別にマルチキャストアドレスの登録を行うと、その情報がルーターに伝わり、ルーター上では指定されたマルチキャストアドレス宛のパケットの複製が行われ端末に届きます。
サーバーはマルチキャストアドレスしか感知しないので、参加している端末を個別に把握することはできませんが、1回の送信で済み、放送のようなプッシュ型のサービスに適しています。
IPマルチキャストはマルチキャスト対応ルーターが必要で、さらにオンデマンド型のストリーミングには不向きなことから普及は進んでいません。今後放送のようなリアルタイムのプッシュ型サービスのニーズが高まれば普及が進むと予想されます。
(4)無線分配システム
CATVネットワークは、有線での敷設が基本ですが、迂回が困難な河川や鉄道などの横断、集合住宅で各戸ごとへの敷設にコストがかかりすぎるなど、ケーブルを敷設しにくい場合があります。このような場合に、CATVの信号を無線で伝送するシステムが有効となります。これまで、23GHz帯を利用するシステムが実用化されていますが、一部の信号を伝送できる帯域しかなく、下りを伝送するだけの片方向のシステムにとどまっています。
現在、770MHzまでの伝送帯域を持ち、インターネットなどの双方向サービスに対応できる40GHz帯の無線分配システムの開発が進められており、総務省から委託を受け日本CATV技術協会が伝送実験、性能の検証、実用化への検討に取り組んでいます。開発システムは、下りは770MHzまでの伝送信号をそのまま40GHz帯の電波に変換し無線伝送するとともに、55MHzまでの上り信号も伝送する双方向となっています。用途に応じて、河川・鉄道横断に用いるP-P方式と、集合住宅などで用いるP-MP方式が検討されています。
これまでに、全国3箇所で試作機による伝送実験(P-P方式2箇所、P-MP方式1箇所)が実施され、性能の検証が行われました。CATV技術協会では一連の伝送実験結果をもとに、機器の大きさや価格などの面で有利なP-P方式から実用化を進めていく予定です。伝送距離はP-P方式が約1km、P-MP方式が約100mで、伝送帯域は両方式とも下りが70〜770MHz(最大70波)、上りが10〜55MHz(最大7波)です。
13.CATVインターネット技術
CATVインターネットを実現するには、下り信号と上り信号を周波数帯域で分けることで電気的衝突を回避し、1本の同軸ケーブルで双方向通信できるようにするとともに、増幅器や分岐分配器などのネットワーク機器をすべて双方向に対応したものとしなければならず、大規模なインフラ整備が必要になります。周波数帯域は、下りが90〜770MHz、上りが10〜55MHzを使用しています。
(1) CATVインターネットの構成
CATVインターネットは図14に示すように、CATV局側においてインターネットとのゲートウェイとなるセンター装置(ケーブルルータ)と、ユーザー側においてパソコンと接続されるケーブルモデムで構成されます。伝送路はCATV網で、ケーブルルータとケーブルモデム間は、ブロードバンド伝送となります。ケーブルモデムとパソコン間の接続は10Base-TのEthernet接続が主流ですが、最近ではUSBなどによるものもあります。また、一般的なケーブルルータは1台で数千のケーブルモデムを収容できます。
図 14 CATVインターネット構成
(2) CATVインターネットの規格
CATVインターネットの標準規格は、主に二つの組織で検討されています。一つは、IEEE802.14Iグループ(Two-way
Cable TV Protocol Working Group)、もう一つは米国のCATV標準化団体であるMCNS(Multimedia
Cable Network System Partners)です。MCNSはTCIやTime Warnerなどの大手MSO(Multiple System
Operators:CATV運営会社)で構成されています。 また、技術的な検討は、CATV系の研究機関であるCableLab(Cable
Television Laboratories)が中心になって行っています。ここで策定された規格が、DOCSIS(Data
Over Cable Service Interface Specifications)です。IEEE802.14の標準化が遅れていることもあって、一般的にDOCSIS規格の製品が多く出回っています。
(3) DOCSISシステム
[規格の概要]
DOCSISは、CATV網上でIP通信を可能にする規格で、セキュリティやアカウンテイング機能なども備えられています。現在、DOCSIS1.0までが規格化されており、近々にDOCSIS1.1がリリースされ、QoS制御などを規定することになっています。DOCSISのシステムポリシとしては、セキュリティ、不正アクセス防止などの点から、ケーブルモデムの環境設定などをすべてセンター側からダウンロードする集中管理方式を採用しています。
DOCSIS1.0規格は、インターフェースやシステムにより、次の三つのフェーズに分かれています。図15に各規格の範囲・区分を示します。
図 15 DOCSIS規格構成
(a) Phase1
● SP-CMCI(Cable Modem to Customer Premises Equipment Interface Specification)
ケーブルモデムとユーザー(パソコンなど)間のインターフェース仕様
● SP-CMTS-NSI(Cable Modem Termination System Network Side Interface Specification)
インターネットとケーブルルータ間のインターフェース仕様
(b) Phase2
● SP-OSSI(Operation Support System Interface Specification)
ケーブルモデム、ルータのオペレーションシステムを定義
● SP-CMTRI(Cable Modem Telco Return Interface Specification)
アップストリーム(モデム→ルータ)の電話回線接続の定義
(c) Phase3
● SP-RFI(Radio Frequency Interface Specification)
ケーブルルータとモデム間のインターフェース仕様
● SP-DOCSS(Data Over Cable Security System Specification)
CATV上におけるデータのセキュリティの定義
● SP-RSM(Removable Security Module Specification)
ケーブルモデムに実装可能なセキュリティモジュールの定義
● SP-BDS(Baseline Data Over Cable Security Specification)
基本的なセキュリティの定義
[ネットワーク構成]
DOCSISシステムでは、センター装置であるケーブルルータをCMTS(Cable Modem Termination
System)と呼び、ケーブルモデムをCM(Cable Modem)と略します。図16に示すように、基本的にはCMTSとCMでネットワークが構成されますが、センター側にDHCP(Dynamic
Host Configuration Protocol)、TFTP(Trivial File Transfer
Protocol)、TOD(Time of Day)の3種類のサーバーが必要になります。各機器はネットワーク機器として、CMTSはブリッジまたはルータ、CMはブリッジとして動作します。
DOCSISでは、双方向化されていないCATVシステムにも対応するため、アップストリームを電話回線で行う「テレコリターン」という規格もありますが、日本のように通話料が高い国ではユーザーから見てもコストメリットが出ないので普及していません。
図 16 DOCSISネットワーク構成
[DOCSIS プロトコルスタック]
図17にDOCSISプロトコルスタックを示します。物理層のプロトコルはアップストリームとダウンストリームで異なっています。

図 17 DOCSISプロトコルスタック
(a) ダウンストリーム
1) データフロー
DOCSISでは、@〜Cの手順でCMTSからCMへデータを転送します。
@ 上位レイヤからのパケットに種別などを記述したDOCSIS独自のCable MACヘッダを付加
A Cable MACパケットにDOCSISデータ識別子のMPEG-2ヘッダを付加
B 複数のMPEG-2フレームを時分割多重(TDM)してひとつのデータにする
C TDM化されたデータをディジタル変調し、CATV網へブロードキャスト送信する
次に、D〜Hの手順でCMTSから受信したデータ信号を、CMからパソコンへ転送します。
D ダウンストリームはブロードキャストなので、すべてのCMが受信する
E 各CMは受信した信号をディジタル復調する
F TDM化された複数のMPEGフレームの中から、DOCSISデータのあるものだけを選択する
G 選択されたフレームのCable MACフレームでデータ種類を判別する
H DOCSISであればCable MACを外し、IEEE802.2中の宛先MACアドレスを確認し、宛先が配下のパソコンであれば送信する
2) ディジタル変調について
ダウンストリームのディジタル変調はQAMを使用します。QAMは振幅と位相を同時に変調することにより、狭い帯域で多くのデータを搬送できる方式ですが、振幅変調において電力量によるシンボル化を行うので、ノイズなどの影響を受けやすい欠点もあります。QAM信号は矩形波となります。
3) 伝送速度
DOCSISでは、QAM変調のうち64QAMと256QAMを使用します。基本的に伝送速度は変調のシンボル化のスピード(変調速度:sym/s)と帯域幅で決まります。64QAMの場合、1sym/sあたり6ビット、6MHz帯域あたりのシンボルレート5.056941Msym/sなので、伝送速度は約30.3Mbpsとなります。256QAMの場合は、1sym/sあたり8ビット、6MHz帯域のシンボルレート5.360537Msym/sなので、伝送速度は約42.89Mbpsになります。ただし、FEC(Forward
Error Correction)の誤り訂正符号が入るので、それを差引いた27Mbps(64QAM)、36Mbps(256QAM)が実際の伝送速度となります。
なお、DOCSISでは、ITU-T J83-Annex Bを踏襲しているため、Interleave機能もサポートしています。これは、バーストノイズからデータを保護する機能で、データの配列を組み替えるものです。深度(depth)と呼ばれる単位が大きくなれば、データ保護の確率が高まりますが、CMTS側のバッファに負担がかかるという問題もあります。
4) MPEGフレーム
DOCSISではMPEGを用いて伝送を行います。MPEGフレームは、図18に示すように全長188バイトで、4バイトのヘッダと1バイトのポインタフィールド、183または184バイトのペイロードで構成されます。各CMは、ヘッダの情報からペイロードがDOCSISか映像かを判断し、DOCSISデータであれば読み込みます。なお、MPEGフォーマットは、ITU-T
J.83 Annex Bの北米仕様となっています。
図 18 MPEGフレーム
(b) アップストリーム
1) SID
データ伝送においてCMはCMTSの完全管理下におかれます。CMTSは、CMにDOCSIS独自のIDであるSID(Service
ID)を付加し管理します。規定では、1CMTSで最大約8000のSIDまで発行できます。
2) 伝送方式
一つのアップストリームには複数のCMが接続され、同時アクセスを実現しなければなりません。このため、アップストリームはいくつかのチャネルに分割され、CMはそのチャネルを使ってデータ伝送を行います。チャネルは「Mini-Slot」と言う単位で構成されます。Mini-Slotは、CMTSがTime
Tick(1Time Tick=6.25μs)を使ってサイズを決めます。CMTSはデータ伝送しようとするCMに対し、必要に応じていくつかのMini-Slotを与えます。CMは、与えられたMini-Slotを使用してデータを伝送します。Mini-Slotの予約、帯域幅などの情報は、MAPというMAC管理メッセージで常にCMTSからCMへ送られ、CMはこの情報でMini-Slotの状況を把握します。
3) データフロー
CMは、次の@〜Fの手順でデータを送信します。
@ CMはブロードキャストMAPのBandwidth Allocation Messageを受信する
A 受信したメッセージの中のランダム予約が可能なMini-Slot、または自分専用に予約されているMini-Slotを把握する。
B 把握したランダムまたは予約Mini-Slotを使ってリクエストをCMTSへ送信する。このとき衝突が発生した場合、CMはBinary exponential
back-off algorithmによりリクエストを再送信することができる
C リクエストを受信したCMTSは、そのCMにMini-Slotを予約する
D CMTSは予約情報をMAPに記述し、送信する
E MAPを受信したCMは、自分用のMini-Slotが予約されたことを認識する
F CMは、そのMini-Slotを使ってデータを送信する
4) ディジタル変調と伝送速度
アップストリームのディジタル変調方式は、QPSKと16QAMを使用します。ダウンストリームと変調方式が異なるのは、アップストリームが使用する帯域は非常にノイズが多いため、64QAMのような高能率の変調では耐えられないためです。16QAMは64QAMなどと同じQAM変調ですが、シンボルが16個と少ないため、64QAMに比べて対ノイズ性が高くなります。一方のQPSKは、位相パラメータのみで変調しシンボルも4個しかないため、16QAMよりさらに対ノイズ性が高くなります。ほとんどのCATVはQPSKを採用しています。しかしその反面、シンボル数が少ないため伝送レートは低くなります。
また、DOCSISでは、周波数帯域も6MHzではなく、0.2、0.4、0.8、1.6、3.2MHzのいずれかを環境に合わせて設定可能な仕様になっています。表1に各帯域幅における伝送速度を示します。
表 1 アップストリーム伝送速度
(c) Cable MACフレーム
Cable MACフレームは、DOCSIS独自のMACです。図19にCable MACフレームの構成を示します。
図 19 Cable MACフレーム
1) フレーム構成
Cable MACフレームは、MACヘッダとPDUで構成され、PDUには上位レイヤーの802.2のMACフレームが収納されています。MACヘッダは、PDU中のデーターの種類や役割などを示します。Cable
MACフレームには通常のデータを送るもの以外にいくつか種類があり、これらの識別はMACヘッダで行われます。実際には、MACヘッダ中のFCに識別のための情報が記述されています。
2) MACヘッダの種類
@ タイミングヘッダ
CMTSとCM間を同期させる目的のフレームで使用される「グローバルタイミングリファレンス」を送るために使用します。また、アップストリームでは、タイミングのほかに信号レベルを調整する「レンジングメッセージ」を送るためにも使用されます。
A リクエストヘッダ
このヘッダ付きのフレームは、CMがMini-Slotを予約するためにアップストリームのみに使用されます。
B MAC管理ヘッダ
MAC管理メッセージのヘッダとして、帯域幅の予約(アップストリームのみ)に使用します。また、CMのデータ優先度を識別するために必要なスロット数などの情報とSIDも含んでいます。
C MAC連結ヘッダ
1回のバーストで複数の802.2MACフレームを送信するときに使用します。
D 拡張ヘッダ
上記以外のPDUを持った場合に使用します。
3) PDUの種類
PDUは、通常のデータ以外に図20に示すようにMAC管理メッセージを実装して送る場合があります。

図 20 MAC管理メッセージのPDUフレーム
4) MAC管理メッセージ
MAC管理メッセージは、CMTSがCMをコントロールするときや環境の変化に伴う設定の変更を通知するために用意されたもので、LLCフレームに入り送信されます。実装されるメッセージの種類は、次のとおりです。
@ SYNCフレーム
CMTSが各CMの遅延時間を測定したタイムスタンプ情報
A UCDフレーム
アップストリームの情報(周波数やチャネルIDなど)を各CMに対してブロードキャストで定期的に送信する
B MAPフレーム
Mini-Slotやバックオフ(再送信)の開始、終了の情報
C RNG-REQフレーム
送信電力のレンジング(調整)リクエスト
D RNG-RSPフレーム
レンジングリクエストの応答
E REG-REQフレーム
CMTSへのレジストレーション(登録)のリクエスト
F REG-RSPフレーム
レジストレーションリクエストの応答
G UCC-REQフレーム
CMTSがCMへ送信するアップストリームの周波数変更の情報を通知する
H UCC-RSPフレーム
アップストリーム変更が完了したことを通知する
[セッションの確立手順]
CMはユーザーが購入した時点では、ネットワーク設定をまったく持っていません。したがって、CMは自分が接続する環境をまったく知らない状態です。また、ユーザー個人が設定することもできないようになっています。DOCSISでは、CMはCATV網を通じてCMTSとのやり取りの中からすべての設定を取得し反映します。図21に示すように、次の@〜Iの手順でCMはセッションを確立します。
@ 電源投入(CM)
CMは、電源を投入すると自己診断テスト後、前回の設定を初期化する。一部メーカーのCMは、この手順の時間短縮を目的として前回の設定を覚えているものもある。
A ダウンストリームのスキャン(CM)
CMはCMTSを探すため、ダウンストリーム信号のスキャンを行う。6MHz単位にQAM信号を検索し、見つけたらDOCSISヘッダのMPEGフレームが入っていないかを確認する。
B UCDの取得(CM)
ダウンストリームを取得したら、CMTSが定期的にブロードキャスト送信しているMAC管理メッセージのUCDから、使用周波数帯域や変調方式などのアップストリームの情報を取得する。
C 送信電力のレンジング(調整)(CMTS)
UCDを取得したCMは、その内容に従いRNG-REQをCMTSに送信する。CMTSには、あらかじめアップストリーム信号到達時の電力値(dBmV単位)が設定されており、RNG-REQを受け取った CMTSは、その値になるまでRNG-RSPとMAPを送信し続け、CMとの電力調整を繰り返す。この作業がCMTSとCM間の最初の通信となる。このとき、CMTSはテンポラリのSIDを発行してCMを特定する。このレンジングが完了すると、データ通信可能な状態が整ったことになる。
D DHCPサーバからIPアドレス、情報の取得(CM-DHCP)
CMは、RFC-1541の手順に従ってDHCPサーバからIPアドレスを取得する。このとき、DHCPサーバは、アドレスのほかにDHCPオプションもCMに送信しなければならない。CMはこのオプションにより、以降で必要となるTFTPサーバ、TODサーバなどの情報を得ることができる。
E TOD(Time of day)サーバから時間を取得(CM-TOD)
CMは時間を取得するためにTODサーバへアクセスする。
F TFTPサーバから設定ファイルを取得(CM-TOD)
CMは設定ファイルをTFTPサーバから取得する。設定ファイルの内容は、COS、SNMP、セキュリティ、ダウンストリーム周波数、アップストリームIDなどである。CMはこの内容のとおりに自らを設定する。また、ダウンストリーム周波数、アップストリームIDについては、CM自身が最初にA、Bの手順で取得した内容と設定ファイルに記述してある内容が異なる場合は、設定ファイルの内容を優先し手順Aから再試行する。
G ベースラインプライバシのネゴシエーション(CM-CMTS)
DOCSISでは、データ保護を目的とした暗号化システムが用意されている。これをBPI(Baseline Privacy Interface)と呼ぶ。設定ファイル内でBPIがアクティブの設定になっている場合、CMはBPIのネゴシエーションをCMTSと行って確立しなければならない。
H CMTSへの登録(CM-CMTS)
CMはすべてのネゴシエーションが完了した後、CMTSへセッションが確立したことを通知するとともに、COSの情報などを登録する。このことにより、CMTSは配下のCMがセッションを確立し、通信可能な状態であることを知る。
I セッションの確立(CM-CMTS)
登録が完了すると、CM配下のパソコンはIP通信が可能となる。
図 21 セッション確立手順
[DOCSISサーバの構成]
図22に示すように、DOCSISではセッションを確立するために各サーバが必要不可欠となります。
図 22 DOCSISサーバ
(a) DHCPサーバ
DHCPサーバは、CMに対してIPアドレスを割り振るだけでなく、ほかのサーバ情報などをRFC-1541のオプションコードと、RFC-1542で定義されているBOOTP互換用メッセージ内の各種サーバアドレスを記述することにより与えなければなりません。図23にDHCPメッセージのフォーマットを示します。
また、CATVオペレータは、DHCPのリーステーブルやスコープでCMのMACアドレスを管理し、オプションの記述により制御することになります。したがって、DOCSISシステムに導入するDHCPサーバは、MACアドレスを振り分けする機能があるものや、オペレーションが容易なものが良いのです。
図 23 DHCPメッセージフォーマット
(b) TODサーバ
TODサーバは、CMに時間を与えるサーバです。RFC-868で規定しているもので、NTP(Network
Time Protocol)より単純な仕組みです。サーバは、リクエストに対し秒単位の標準時間を送信します。それを受信したCMは、DHCP
Option2のtime offsetを用いて、標準時から現地時間に時差を調整します。
(c) TFTPサーバ
TFTPサーバは、RFC-1350に規定されている単純なファイル転送プロトコルで、FTPのようなTCPセッションを必要とせず、UDPセッションによってファイルの転送を行います。DOCSISではこのTFTPを利用してCMへ設定ファイルを送信します。また、CMは自分が取得すべきファイル名をDHCPオプションから判断しTFTPへ要求します。このファイルでCMの性能が決定します。ファイルの設定項目は以下のとおりです。
@ ダウンストリーム周波数
ダウンストリームが複数ある場合には、記述された周波数へ再接続を行う
A アップストリームID
アップストリームが複数ある場合には、記述されたIDのアップストリームへの再接続を行う
B Network Accessの許可
PCからのデータ伝送の許可/不許可
C COS制御
帯域制御などのCOS情報
D Software Upgrade
CMのファームウエアなどのアップグレード用ファイル名
E SNMP情報
SNMPサーバのIPアドレスやSNMPオブジェクトの情報
F 拡張機能
CMメーカー特有の機能をCMへ反映するためのフィールド
G CPE MACアドレス
CMに接続するPCのMACアドレス。記述がない場合はフリー
H MAX CPE
1CMあたり接続できるPCの台数制限。記述がない場合はPC性能に依存する
I BPI
暗号化キーの有効期限などのBPIに関する情報
[COS制御]
COS(Class of Service)は、伝送速度や優先度などサービス内容のクラスです。DOCSISでは最大16クラスまで設定できます。基本的にCMは設定ファイルを基にCOSを反映しますが、CMTSからオペレータにより任意に変更することも可能です。しかし、CMはリブートすると前回の設定を消去してしまうので、オペレータが変更した値も消えてしまいます。そして、新たにTFTPから設定ファイルを取得してその内容で起動します。
クラス別に設定できる項目は次のとおりです。ただし、最大伝送速度のリミットは、最終的にはCMの性能に依存します。経験値で言えば実際のフィールドでは、1CMあたり最大でも3〜4Mbpsが限界で、全体の速度が30Mbps(ダウンストリーム)でも、そこまでのスループットを1台で実現しているCMは存在していません。
(a) class ID
COSのClass IDで、1から16まで16とおりの設定が可能。
(b) maximum downstream rate
ダウンストリーム最大伝送速度の制限
(c) maximum upstream rate
アップストリーム最大伝送速度の制限
(d) upstream channel priority
同一アップストリーム内のCMの優先度で、1から7まで設定可能。混雑時にCMは自分より高い優先度を持ったCMが通信を開始すると、通信を止めてMini-Slotを開放。
(e) guaranteed minimum upstream rate
アップストリームの保証伝送速度
(f) maximum upstream transmit burst
アップストリームの最大バースト伝送数の設定で、最大255バーストまで設定可能
[VoIPへの対応]
VoIPに対応するには、ひとつのデータストリーム上でデータと音声の二つの帯域を分割し保証しなければなりません。もし帯域分割を行わないと、図24に示すようにデータ同士が干渉し、通信が切れたりデータ通信が止まったりします。DOCSISでは、この帯域分割を「マルチSID方式」で実現します。マルチSID方式とは、ひとつのCMに対し二つのSIDを割り振り、SID単位にCOS制御を行って図25に示すように帯域を確保する方式です。いうなれば1台のCMを仮想的に2台にするようなものです。ただし、この機能は次期バージョンであるDOCSIS1.1で正式にサポートする見込みで、現在では一部のメーカのCMTSとCMが独自に実現しているだけです。

図 24 帯域分割をしない場合 図 25 マルチSID方式による帯域分割
[セキュリティ]
DOCSISでは、暗号化の方式としてBPI(Baseline
Privacy Interface)を規定しています。BPIは、DESを使用してデータを暗号化します。DESは米国商務省が公示した標準暗号アルゴリズムで、IEEE802.11の無線LANなどでも使用されています。BPIでは、KEK(Key
Encryption Key)とTEK(Traffic Encryption Key)の2種類の鍵が使用されます。KEKは、TEK用の鍵を暗号化するための鍵で、TEKは実際のデータを暗号化するための鍵です。BPIは図26に示すように次の@〜Iの手順で確立されます。
@ CMの設定ファイルの取得(CM)
CMは、設定ファイルの内容からBPIがアクティブになっていることを認識する。
A 認証要求メッセージの送信(CM→CMTS)
CMはCMTSに対し認証要求を送信する。このとき、工場出荷時に実装されたRSAの公開鍵を一緒に送信する。
B 認証鍵の暗号化(CMTS)
認証要求を受信したCMTSは、付属されているRSAの公開鍵で認証鍵を暗号化する。
C 認証応答メッセージの送信(CMTS→CM)
暗号化した認証鍵は、認証応答メッセージとともにCMへ送られる。
D 認証鍵の復号化(CM)
認証応答メッセージを受信したCMは、暗号化された認証鍵をRSAの秘密鍵で復号化する。これにより、CMTSからCMへ共通の認証鍵が渡ったことになる。
E KEKの生成(CMTS,CM)
CMTSとCMは、共通の認証鍵を使ってKEKを生成する。
F TEKの暗号化(CMTS)
CMTSは、生成したKEKでTEKを暗号化する。このときはDESが使用される。
G TEKを送信(CMTS→CM)
CMTSは暗号化したTEKをCMへ送信する。
H TEKの復号化(CM)
CMは、受信したTEKを自ら生成したKEKで復号化する。これにより、CMとCMTSは共通のTEKを持つことになる。
I BPIセッション確立
データを送信する際には、TEKにより暗号化、復号化が行われる。なお、KEKとTEKの有効期限や猶予時間はCMTSが任意に決定でる。CMは猶予期間中に鍵の更新を行わねばならない。
図 26 BPIセッションの確立手順
[DOCSISの今後]
MCNSは、今後DOCSIS1.1を正式にリリースする予定です。DOCSIS1.1は1.0をベースに、よりマルチメディア化に対応した機能を追加しています。また、それに伴いセキュリティも強化されています。DOCSIS1.1の主な追加機能は次のとおりです。
1) 機能強化されたBPI+(Baseline Privacy Plus)によるセキュリティの向上
2) SNMP ver.3とOSSI(Operation Support System)ver.1.1によるネットワーク管理
3) マルチサービスフローとクラシフィケーションを持ったダイナミックQoSパケットフィルタリングとIGMPの統合
なお、DOCSIS1.2もすでに検討が始まっており、1.2は多重方式やフレーム構成も大幅に変更しそうな状況です。
[出典]
(1) NHK受信技術センター編:デジタル時代のケーブルテレビ、NHK出版(2002-5)
(2)MichaelAdams:OpenCableアーキテクチャ、ソフトバンクパブリッシング(2002-7)
(3)飯田:CATVインターネット技術の徹底研究、ネットワンシステムズ(2001-9)
URL:[http://www.netone.co.jp/doc/kiji/if200109_iida.pdf]
以上、CATVの概要およびCATVによる情報通信についてまとめました。ここまでで、ブロードバンドインフラ(ADSL、無線アクセス、光ファイバー、衛星通信、CATV)について一通りまとめましたので、次回からは視点を変えて電気通信技術の基礎についてまとめる予定です。
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