技術講座

[技術分野■ADSL■無線■光ファイバー■衛星通信■CATV■伝送技術■交換技術■データ通信■ネットワーク技術■ルーティング技術]
【技術講座(無線ー1)】               (2001/05/25発行)

1.無線アクセス

 一口に無線と言っても、光学マウスから宇宙探査体との通信まで、その範囲は極めて広いのですが、ここではユーザー宅からインターネットへ接続するまでのアクセス系における無線技術に絞り、調べた結果をまとめました。従って、屋内だけに限定された無線通信、通信事業者の局間無線、地球局へのアクセスに有線を用いる衛星通信などは対象外としました。

1.無線アクセスに利用される周波数帯

 表1に無線アクセスに利用される周波数帯と用途を示します。

    表1 無線アクセスに利用される周波数帯と用途

用 途 特定小電力無線(データ伝送) 携帯電話
FDMA
TDMA
CDMA
高速データ伝送システム 携帯電話
TDMA
PHS
WLL
IMT−2000

無線LAN
IEEE802.11b

無線LAN
IEEE802.11a
構内データ
伝送
加入者系無線
アクセス
(FWA)
周波数帯 400MHz 800/900MHz
1.5GHz
1.2GHz 1.5GHz 1.9GHz 2GHz 2.4GHz 5.2-5.8GHz 19GHz 22/26/38GHz
名 称 UHF UHF
準マイクロ波
準マイクロ波 マイクロ波 準ミリ波 準ミリ波
ミリ波

上記の他に周波数500THz(1T=1000G)帯の近赤外線光を用いる赤外線光無線LAN、レーザー光無線LANがあります。

■表1の「特定小電力無線(データ伝送)」、「高速データ伝送システム」、「無線LAN(2.4GHz)」は、特定小電力無線局として定められた規格に対応しています。これらは二つの条件、「最大空中線電力10mW」及び「技術基準適合証明の取得」を満たした機器を用いて、ユーザーが免許取得なしに特定小電力無線局を運営できるものです。

■携帯電話は周知のものですが、データ伝送方式としてFDMA(Frequency Division Multiple Access、周波数分割多元接続)、TDMA(Time Division Multiple Access、時限分割多元接続)、CDMA(Code Division Multiple Access、符号分割多元接続)があります。

■PHSに併記しているWLLは、無線ローカルループ(Wireless Local Loop)の略で、加入者宅から通信事業者の収容局までの回線部分に、従来の銅線や光ファイバーの代わりに無線回線を利用するシステムです。

■ IMT2000は、次世代の移動体通信の総合規格で、国際電気通信連合(ITU)によって標準化されました。IMTはInternational Mobile Telecommunicationsの略で、2000は2000年に標準化を行う2000MHz帯の規格を意味します。

■ 無線LANの国際規格としては、IEEE(Institute of Electrical and Electronic Engineers、米国電気電子技術者協会)が1997年に策定したIEEE802.11があります。IEEE802.11aは5GHz帯、IEEE802.11bは2.4GHz帯の電波を使用します。
■ 高速無線LAN用の帯域として割り当てられている19GHz帯の無線LAN運用には無線局免許が必要です。

■ FWA(Fixed Wireless Access、固定無線アクセス)は、電気通信事業者が提供する通信サービスとの接続を無線LAN技術で実現するものです。インターネット接続においては、ユーザーからISP(インターネットサービスプロバイダー)までのアクセスラインとして、無線を利用する方法です。欧米では5GHz帯を使用した固定無線アクセスの実現を目指しています。

2.各種無線アクセス方式の通信速度と通信距離

 表2に各種無線アクセス方式の通信速度と通信距離を示します。

      表2 各種無線アクセス方式の通信速度と通信距離

アクセス方式 周波数帯 通信速度 通信距離 備  考
特定小電力無線 400 MHz 4.8 kbps 1/2/5 km  
携帯電話(現行) 800/900 MHz 9.6 /28.8 kbps 100 m〜数 km  
携帯電話(次世代) 2 GHz 64/384 k/2 Mbps
2 Mbps
  W-CDMA
HDR
携帯電話(次々世代) 3 GHz以上 100 Mbps   Beyond IMT-2000
高速データ伝送 1.2 GHz 32 kbps    
PHS 1.9 GHz 64 kbps    
IMT−2000 2 GHz 2 Mbps(静止時)   移動時384kbps
無線LAN
(802.11b)
2.4 GHz 11 Mbps 100 m/数 km 1km以上は指向性アンテナ要
無線LAN
(802.11a)
5.2−5.8 GHz 6/12/24 /54 Mbps   地球探査衛星、ETCと周波数重複
高速無線LAN 19 GHz 10Mbps以上 50 m 無線免許要
FWA 22/26/38 GHz

2.4 GHz**
2-156 Mbps,
10 Gbps*
3.2 Mbps**
1/4 km
5 km*
8 km**
日本
*米国(光搬送波)
**実験(アンテナ)
赤外線光 500 THz 10/100/155/622/700 Mbps 15/100/200/300/500 m
1/2/4/6 km
 


 通信速度で見ると、ブロードバンドの無線アクセスとして使える可能性があるのは、次世代(第3世代)及び次々世代(第4世代)の携帯電話、IMT−2000、無線LAN、FWA、近赤外線光です。しかし、いずれも通信距離は10km未満で、ユーザー宅とインターネットへのアクセスポイント間の距離に制約があります。通信距離については、アンテナや無線中継装置を設置することで、ある程度制約を回避できる可能性はあります。

 通信事業者がサービスを提供する携帯電話やFWAは良いのですが、ユーザーが機器を購入してシステムを設定する無線LANや赤外線光では、無線アクセスに対応するISPの存否がネックになります。最近では「スピードネット」のような無線LAN接続サービス(2.4GHz帯使用)を行うISPが出てきており、今後発展する可能性はあります。

 電波(300万MHz以下の周波数の電磁波)を利用した無線通信は、電波法による規制を受け、運用には基本的に無線局免許が必要で、使用できる周波数も割り当てられています。無線LANに使用される2.4GHz帯は、米国ではISMバンド(Industrial Scientific and Medical band)と呼ばれ、産業、科学、医療用に開放されています。日本でこれに対応するのは特定小電力無線局の制度で、前述の一定条件を満たす機器であればユーザーは免許取得の必要がありません。ただし、無線LANを使って通信事業を行う場合には、第一種電気通信事業者の資格取得が必要です。

 5GHz帯には5.2GHz帯(5.15〜5.25GHz)、5.3GHz帯(5.25〜5.35GHz)、5.8GHz帯(5.725〜5.825GHz)があり、欧米では5GHzのISMバンドとして設定されていますが、日本では5.2GHz帯しか使用できません。それは5.3GHz帯は気象レーダーや地球探査衛星のレーダーに、5.8GHz帯は高度道路交通システム(ITS)の柱ともなる自動料金収受システム(ETC)に使用されているためです。なお、アメリカでは5.8GHz帯で無線システムを実用化しています。

 FWA(22、26、38GHz)は利用料金が高額過ぎて個人ユーザーでは利用できそうもなく、現状では企業向きシステムの域を出ないと思われます。3〜15GHz帯で低料金のFWAシステムの開発と、周波数の割り当てが必要と思われます。
 赤外線やレーザー光線を利用した無線通信は、電波法の規制対象外で、設置や運用に免許や認可が必要ないという利点があります。しかし、波長が極めて短いため直進性が高く、送受信点間での完全な見通しが必要になります。また、赤外線光通信に対応するISPが存在しないこともネックになります。

 以上のことから、現時点では妥当な料金で利用できそうな高速無線アクセスとしては、次世代携帯電話及び2.4GHz無線LANということになります。
 少し長くなりましたので無線アクセスの概要はこのあたりで留め、次回は無線通信技術についてまとめたいと思います。

[出典]
1. 武藤佳恭:無線アクセスのすべて ,翔泳社(2000.8)
2. ASCII5月号 特集「(快)ワイヤレス」(2001.5)
3. Yahoo! Internet Guide 2000年4月号、12月号
4. http://www.idg.co.jp/ 他多数の無線関連ホームページ

 

【技術講座4(無線ー2)】                    (2001/06/23発行)

 前回の「無線アクセス」に引き続き、無線通信技術についてまとめました。

2.電波通信方式

 電波通信方式では、伝送すべき原信号(ベースバンド信号)をそのまま電波として放射し、通信することはできません。そこでより高い周波数の搬送波(carrier)に原信号をを乗せる操作、即ち変調(modulation)が行われます。変調の目的は、(a)より高い周波数帯への周波数変換、(b)多数の搬送波による信号の多重化の二つです。

 一方、受信側で搬送波から元の信号を取り出す操作を復調(demodulation)または検波(detection)と呼びます。

 振幅Ac、周波数fc、位相φcの搬送波をAc cos(2πfc t +φc)と表すと、ベースバンド信号(変調信号)で変化させるパラメーターに対応して、振幅変調(AM)、周波数変調(FM)、位相変調(PM)の三つの変調方式が存在します。また、変調には原信号の波形に対応してアナログ変調とディジタル変調があります。

2.1 アナログ変調


(1) 振幅変調(AM:amplitude modulation)方式

 搬送波(高周波の正弦波)の振幅をベースバンド信号波の振幅の大きさに比例して変化させる方式です。図1にAM波(被変調波)の周波数スペクトルを示します。


 
     (a)変調信号が単一周波数の場合            (a)変調信号が帯域を持つ場合

                  図1 振幅変調波(AM)のスペクトル
    
 (a)は変調信号が単一周波数の場合で、搬送波周波数fcとfcから±fp(変調信号波周波数)だけ離れた二つの周波数成分(上下側波帯)を持っています。

 (b)は変調信号波が単一周波数ではなく、ある周波数帯域を持つ任意の波形の場合で、搬送波周波数fcを中心に、その両側に対称に広がった分布になります。変調信号の最高周波数をfp2とすると、AM波の占有周波数帯域幅は2fp2となります。従って、ベースバンド信号に高周波成分を多く含めるほどスペクトル分布が広がり、通信に必要な帯域幅も広がります。

 AM波の電力の内、信号伝送に寄与する電力は全体の1/3で、2/3は信号伝送に寄与しない搬送波電力です。そこで搬送波を取り除いて伝送する搬送波抑圧振幅変調(AM-SC:suppressed carrier amplitude modulation)方式や、同じ情報を含む上下二つの側波帯の一方のみを伝送する単側波帯振幅変調(SSB:single sideband amplitude modulation)方式が用いられます。

(2)周波数変調(FM:frequency modulation)方式

 搬送波u(t)=Ac cos(2πfc t +φc)の位相φcを一定とし、周波数を搬送周波数fcを中心として信号波(例えばmf2πfpcos2πfpt)によって変化させる方法です。ここで、mfはFM変調指数(modulation index)で、変調の深さを表します。変調によるFM波vFM(t)は式(1)で表されます。

    vFM(t)=Ac cos(2πfc t + mf sin2πfpt)               (1)

(3)位相変調(PM:phase modulation)方式

 搬送波u(t)=Ac cos(2πfc t +φc)の周波数f cを一定とし、位相角を搬送波位相角φcを中心として信号波(例えばmpcos2πfpt)によって変化させる方法です。ここで、mpはPM変調指数です。変調によるPM波vPM(t)は式(2)で表されます。

    vPM(t)=Ac cos(2πfc t + mp sin2πfpt)               (2)

 式(1)、(2)からmf=mpであれば(即ち、変調指数が等しければ)FM波とPM波は全く同一であることがわかります。FMとPMを総称してアナログ角度変調と呼びます。

2.2 ディジタル変調


(1) ディジタル変復調の原理

 ディジタル変調は、搬送波に2進符号に対応する二つの状態を与えることにより変調するものです。また復調は、検波後のベースバンド波形を一定間隔毎にサンプリングしてその電圧を判別値と比較し、その大小によって1か0かを判定して出力します。

 ディジタル変調の長所は雑音に強いことで、短所は所要周波数帯域幅が広いことです。使用しうる周波数資源には限りがあることから、その有効利用のために狭帯域化技術、多値変復調、波形整形技術などの、所用帯域幅を少なくする技術が用いられます。

(2) ディジタル振幅変調(ASK:Amplitude Shift Keying)方式

 ASK波は、変調波s(t)=Ap cosωptと搬送波u(t)=Ac cos(ωc t +φc)との乗積を作ることによって得られ、式(3)で与えられます。(ω=2πf:角周波数)

   vASK(t)= s(t)Ac cos(ωc t +φc)                    (3)

 この被変調波のスペクトルH(ω)は、フーリエ変換により式(4)で与えられます。

   H(ω)= (1/2)Ac H(ω−ωc) + (1/2)Ac H(ω+ωc)             (4)

 式(4)からASK波のスペクトルは、ベースバンド信号波のスペクトルを±ωcへ周波数変換したものといえます。

 ASK波形は図2(b)に示すように、0と1の2値信号に対応して搬送波をオン・オフしたものに相当します。
 この方式は、被変調波の電力の1/2が情報を含まない無変調搬送波成分で占められるため、おもちゃのラジコンなどの特殊な場合を除き、一般には使用されません。



 図2 ディジタル変調波の波形

(3) ディジタル位相変調(PSK:Phase Shift Keying)方式

  PSK波は、変調波s(t)によって搬送波の位相を変化させることで得られます。即ち

   vPSK(t)=Ac cos(ωc t + c s(t) +φc)                  (5)

 ここでcは定数で、位相情報の不確定性を除くため|c s(t)|≦πの条件をつけると、式(5)は式(6)で表されます。

   vPSK(t)=Ac cos(c s(t)) cos(ωc t +φc)−Ac sin(c s(t)) sin(ωc t +φc)     (6)

  従って、vPSKは互いに90゜位相の異なる搬送波を位相偏移c s(t)の正弦及び余弦で振幅変調し、それらを合成したものと解釈できます。

  s(t)が2値で、c s(t)=0 ,πの場合を2PSKあるいはBPSK(binary PSK)といい、図3(a)に示すようにベースバンド信号と搬送波を平衡変調器(リング変調器)と呼ばれる乗算器で掛けて出力を得ます。この時のPSK波形は図2(c)に示すように、0と1の2値信号に対応した2組の位相編移波が合成されたものになります。



                     図3 ディジタル変調方式の構成例

 s(t)値が4値で、c s(t)=±π/4 , ±3π/4の場合を4PSKあるいはQPSK(quadrature PSK)といい、図3(b)に示すように2系列のBPSK波を加え合わせることによって得られます。即ちQPSK波は式(7)で与えられます。

   vPSK(t)=Acs1(t) cos(ωc t +φc)−Acs2(t) sin(ωc t +φc)           
      =Accos[ωc t +φc+tan-1(s2(t)/ s1(t)]             (7)

   ここで、s1(t) =(s2(t)=±Ap

 QPSKは、搬送波の位相の直交性を利用することによって、同じタイムスロットにBPSKの2倍の情報、即ち4値、2ビットの情報を送ることができます。また、同じ情報量であれば、パルス幅を2倍にすることによりビットレートを1/2(即ちスペクトルの広がりを1/2)に低くすることができます。
 なお、位相変化量を±π/4、±3π/4の中から選択するQPSKQをπ/4シフトQPSKといいます。信号パスが原点を通過しないために、帯域制限したときの包絡線変動がQPSKより小さくなります。

(4) ディジタル周波数変調(FSK:Frequency Shift Keying)方式

 FSKは、入力情報の0,1に対応して搬送波の周波数をf1,f2で送出する方法です。FSK波形は図2(d)に示すように、0と1の2値信号に対応した2組の周波数の波が合成されたものになります。特に周波数の切り替え時点での位相が連続である場合をCPFSK(continuous phase FSK)といいます。位相連続である方が一般に占有周波数帯域幅が狭くなります。

(5) 多値変調

 多値変調とは、同じタイムスロット内に多数の情報を送出することによって、無線周波数を有効に活用する方法です。搬送波の直交性を利用すると同時に、位相、振幅またはそれらの組み合わせを利用して多値化します。M=2nの位相値でnビットの情報を伝送するPSKをM相PSKと呼びます。また、M値の直交振幅変調をM値QAM(quadrature AM)またはM値APSK(amplituge phase shift keying)と呼びます。

 図4に各種変調方式について、多値数を増加した場合の所用受信機入力C/N(無変調時の搬送波電力/受信帯域幅内の雑音電力)と周波数利用効率を示します。周波数利用効率は、2値の場合に比例してlog2M倍にすることができます。一方、伝送容量は、64(=26)QAM、256(=28)QAMと多値化を進めると、16(=24)QAMに比べそれぞれ1.5(=6/4)倍、2(=8/4)倍になります。



         図4 各種変調方式と周波数利用効率

 図5に種々のディジタル変調方式の搬送波の位相―振幅空間におけるベクトル表示の例を示します。これを信号空間ダイヤグラムまたは信号点配置図ということがあります。 多値化を進めると隣接する信号の間隔が狭くなり、雑音余裕度が少なくなるとともに、変復調器の構成が複雑になります。これを解決するには、波形ひずみ補償技術(マルチキャリア、自動等化など)、干渉補償技術、ダイバーシチ技術などが不可欠になります。



                  図5 主なディジタル変調の信号空間ダイヤグラム

(6) ディジタル変調波の復調

 ディジタル変調波の復調法には、大別して同期検波(coherent detection)と非同期検波(in coherent detection)があります。同期検波では、受信搬送波と周波数及び位相が完全に同期した基準搬送波を再生し、これと受信波との乗積を作ってその低周波数成分をろ波することにより、ベースバンド復調出力を得ます。非同期検波は、搬送波同期再生を行わない方法で、ASK、FSKなどに用いられる包絡線検波、PSKに用いられる遅延検波などがあります。

2.3 スペクトル拡散

(1) 特徴

 スペクトル拡散通信方式(SS:spread spectrum)は前述の多値変調とは逆に信号の占有帯域幅を大幅に広げ、そのかわりに雑音や干渉に強くする方式です。帯域幅拡大の程度は用途にもよりますが、PSKに比べて数倍から数千倍の帯域幅を使います。SSの特徴は次の通りです。

(a)拡散することにより信号のスペクトルは広がり、電力密度が極端に低くなるため、他の通信システムへの干渉を小さくできる。また混信を少なくでき、多くの電波が混在する中で希望波だけ高いS/Nで受信できる。

(b)拡散時の符号を利用者毎に異ならせれば、同一周波数を同時に多数の利用者が使っても、相互に干渉せずに通信すること、即ち符号多重による多元接続(CDMA: code division multiple access)が行える。

 スペクトル拡散の方法としては、直接拡散(DS:direct sequence)と周波数ホッピン(FH:frequency hopping)の2種類があります。

(2) 直接拡散方式(DS:direct sequence)

  図6にDSの原理を示します。DSでは変調を2段階に分けて行い、最初の変調を一次変調、次を二次変調または拡散変調と呼びます。一次変調では通常の狭帯域伝送で用いるFSK、PSKなどを作ります。一次変調された信号はPN(pseudorandom noise)系列と呼ばれる疑似ランダムな拡散信号を乗積されて送信されます。


                       図6 直接拡散(DS)の伝送系

 PN系列は、+1または−1がほぼランダムな順序で出る乱数発生器と見なせます。それぞれの+1または−1のパルス幅は、一次変調におけるパルス幅に比べて十分短く(数分の1から数千分の1)設定します。

 受信側では、到着した信号に送信側で用いたものとまったく同一の拡散信号を再度乗積します。すると図6のように、広い帯域幅に拡散されていた信号のスペクトル成分が元の一次変調波のスペクトルに戻り、通常のPSKなどの受信機で復調できるようになります。この過程を逆拡散と呼びます。

 伝送途中に干渉波が加わった場合、図6に示すように、送信側で一次変調されたベースバンド信号は拡散信号を2回乗積されるのに対し、干渉波は受信側で1回だけ乗積されます。したがって、逆拡散の操作で干渉波だけは広い帯域に拡散されて、極めて電力密度の低い雑音に変換されてしまいます。

 PSKの復調の前に狭帯域のフィルタを通過させると、干渉波の電力成分の大部分を除去できるようになり、干渉波の影響が最小限に抑えられます。

(3) 周波数ホッピング方式(FH:frequency hopping)

 FHの伝送系はDSと同様で、異なるのは二次変調としてホッピングパターンにより、ランダムに周波数を変化させることです。即ち図7に示すように周波数を時間と共に広い範囲をホッピングさせます。ホッピングの順序はランダムになるように設定しますが、DSの場合と同様に受信側でも同時に同じ順序でホッピングする必要があります。

 図7 周波数ホッピング(FH)の信号波とホッピングパターン例

 受信側では、受信波をホッピングパターン発生器の出力で周波数変換すると、一定の周波数の中間周波数ができるので、あとは通常の一次変調に対する検波回路で信号の復調が完了します。

 FHで使用している帯域幅内に干渉波が混入した場合は、ホップしている周波数のいくつかで干渉を受け、干渉を受けている周波数を使った時間帯のデータは確率1/2で誤りが発生します。誤ったデータは誤り訂正符号により改善します。

  周波数と時間の組み合わせパターンをチャネルごとにかえれば、符号による多重通信が行えます。

2.4多重アクセス方式

(1) 周波数分割多重(FDMA:frequency division multiple access)

  システムに与えられた周波数帯域を複数のチャネルに分割して、各利用者は異なったチャネルで通信を行う方法です。アナログの自動車・携帯電話はこの方式です。

(2) 時分割多重(TDMA:time division multiple access)

  各利用者が利用する時間帯を順次に割り当て、一つのチャネルで複数の利用者が通信を行う方法です。この方式は各利用者の信号を時間的に圧縮し多重化するため、伝送速度が上昇します。多くの利用者が同時に通信するような自動車・携帯電話システムでは、伝送速度が上昇し広帯域となるため、1システム1チャネルのTDMAを実現することは技術的に困難です。そこで、ある程度の利用者をTDMAで多重化し、そのTDMAチャネルをFDMAで多重化するTDMA/FDMA方式が採用されています。

(3) 符号分割多重(CDMA:code division multiple access)

 各利用者に異なった拡散符号を割り当て、拡散符号の直交性によってチャネルを多重化する方法です。CDMAは拡散符号が非常に高速なため、一般にTDMAより更に速い伝送速度になります。拡散方式としては、GOLD符号などで直接拡散するDSと周波数を切り替えるFHがあります。DSの原理は「3.3スペクトル拡散」で述べたとおりです。

  図8に拡散と逆拡散の過程を具体的な信号を用いて示します。拡散ではディジタル信号と拡散符号が乗積されると、右図の上のように信号と拡散符号が同相(白い)の部分と逆相(ハッチ)の部分があるために、結局右図下のように逆相部分が負の信号となって送信されます。

  逆拡散では、受信された信号に(a)のように拡散時と同一符号を用いると元のディジタル信号に戻りますが、(b)のように拡散時と異なった符号を用いると元のディジタル信号には戻らず、信号の周期で平均化すると出力はほぼゼロとなります。このようにCDMAでは直交性のよい拡散符号をつくることが重要となります。

                 図8 拡散と逆拡散の原理

 CDMA方式は1チャネルで多数の利用者を収容できるので、1システム1チャネルで運用の可能性があり、チャネル配置が不要になります。また、多重伝搬路に強く拡散率を変え任意のデータレートを多重できること、連続送信のため、同期などのオーバヘッドが少ないなどの特徴があります。

 問題点としては、上り回線(基地局受信)で各利用者の受信レベルに差があると、符号間干渉により加入者容量が減る遠近問題、送受信機が線形性を必要とするなどがあります。

[出典]
 1.大友他2:ワイヤレス通信工学,コロナ社(1995.4)
 2. 武藤佳恭:無線アクセスのすべて ,翔泳社(2000.8)

 以上で無線アクセスについては一段落しましたので、次回は光ファイバ通信についてまとめたいと思います。

 

 

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