技術講座

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■ 技術講座の開設について
  頁「実現に向けて」のU.1.(4)節「通信・情報処理技術の知識レベル向上」でうたわれている「技術講座」を、ここに開設することにしました。皆様の原稿をお待ちしていますので、ふるって投稿していただきますよう、よろしくお願い申しあげます。

【技術講座(ADSL-1)】             (2001/04/04作成)

---xDSL技術---
 各サイト、新聞、書籍などで解説され日常用語になった今日では、xDSLは今更の感がなきにしもあらずですが、ブロードバンドの一翼を担う技術として省く訳にはいきませんので、おさらいの意味で整理しておくことにしました。

1. xDSLとは

 DSLはDigital Subscriber Line(ディジタル加入者線)の略で、銅線(電話線)を使ってディジタル通信を行う技術の総称です。DSLとしては次のものがあります。

  ・ ADSL(Asymmetric DSL):非対称ディジタル加入者線
  ・ SDSL(Symmetric DSL):対称型ディジタル加入者線
  ・ HDSL(High bit rate DSL):高速ディジタル加入者線
  ・ VDSL(Very high bit rate DSL):超高速ディジタル加入者線

 xDSLのxは上記のA,S,H,Vを代表して表したものです。ユーザー側から見て上り(送信)と下り(受信)の速度が異なる(下りが速い)ものを非対称、同じものを対称型と呼びます。この分類によればHDSLは対称型、VDSLは非対称となります。
 xDSLは1990年代初頭のVOD(Video On Demand)を目的とするADSLに端を発し、技術レベル不足で一旦ダウンした後、1990年代後半のコンピュータやDSP(Digital Signal Processor)の高性能化とインターネットの普及によって、再び注目されるようになったと言われています。ADSLの特色としては次のものが挙げられます。

  ・ 既存の電話線を利用するので、インフラ整備への投資規模が小さい。
  ・ 音声信号とは異なる帯域を使用するので、電話とデータ通信の同時使用が可能
  ・ 通信速度1〜8Mbps(下り)の高速通信であるため、映像、音声、文字が一体となったマルチメディア情報の伝送が可能
  ・ データ通信は電話交換機を経由しないので、定額で24時間の常時接続が可能 SDSLは上りと下りの通信速度が2〜3Mbpsで等しく、情報発信が必要な企業やSOHOユーザー向きの通信技術です。電話とデータ通信の共用はできず、データ通信には電話用とは別の回線が必要になります。

 HDSLは1990年頃に、通信幹線用として制約が多いT1回線の改良を目的として開発が進められ、TI回線の代替として通信幹線に利用されています。伝送速度は双方向同じの1.5〜2Mbpsで、"High bit rate"の名称とは対応していません。

 VDSLはフルレートのADSLをさらに高速化して、数十Mbpsの伝送速度を実現するものです。ADSLの4倍以上の高周波を使うため伝送距離は大幅に制限され、FTTC(Fiber To The Corner)との組み合わせで利用されます。伝送速度は距離との相関で、300mでは下り52Mbps、上り6Mbps、900mでは26Mbps、1350mでは1.3Mbps程度となります。最近ではマンションやホテルなどの集合住宅、構内LANなどで一部利用されています。

 xDSLの中で最も技術進歩が大きく、一般ユーザー向きの通信システムはADSLなので、以降の説明はADSLを主体に行うことにします。

2. ADSLの伝送方式

一般に、信号伝送において元信号の形態のままでは伝送媒体に整合せず、伝送品質の劣化や伝送効率の低下を引き起こします。そこで通常、信号変換装置で元信号を伝送媒体に適した形態に変換します。これを変調と言い、再び元の信号に戻すことを復調と言います。

2.1 変調方式
 ADSLの変調方式としてはQAM、CAP、DMTがあります。矩形波の振幅変調方式の2B1Q(2 binary 1 quaternary)は、近端漏話の影響を受けやすいといわれており、最近ではあまり使われていません。

(1)QAM、CAP


QAM(Quadrature amplitude modulation)は、位相が直交する2つの搬送波(キャリア)を振幅変調してデータを伝送します。CAP(Carrierless Amplitude Phase)は、QAMを改良した変調方式で、搬送波の振幅と位相を変えてデータを伝送します。また、送信と受信に異なる帯域の周波数を使うFDM(Frequency Division Multiplex)を利用します。図1にCAPの周波数スペクトラムを示します。

(2)DMT

 DMT(Discrete Multi Tone)は、使用帯域を細分割し、各周波数チャネル(bin)をQAMで変調する方式です。フルレートDMTでは4kHz幅のビンを約250個用い、1つのビンに最大15ビットを割り当てます。また、S/N比に応じて各ビンに割り当てるビット数を変えられるので、雑音に強いと言われています。近端漏話対策としてはFDMまたはTCM(Time Compression Multiplex:時分割方向制御伝送)を使用します。図2にDMTの周波数スペクトラムを示します。TCMは送受信信号の伝送速度を2倍以上として、ケーブルの使用時間を交互に割り当てて半二重伝送を実現する方式で、ピンポン伝送方式と通称されています。

 DMTはADSLの技術標準に採用されており、1998年に国連の下部組織で通信分野の国際標準を司るITU-T(Telecommunication Standardization Sector of International Telecommunication Union )のG.992.1-G.DMT(フルレート)、G992.2-G.Lite(簡易型)として規格化されました。また、G.992.1.G.DMTには欧州地域向けの仕様としてAnnex B、日本向け独自仕様としてAnnex Cが規定されています。
 Annex Bは同一ケーブルペア上でISDN(エコーキャンセラ方式)とADSLを両方サポートする方式です。ISDNの使用周波数約80kHzの帯域をスプリッターで分け、それ以上の帯域をADSLで使用するものです。日本のISDNは使用周波数が320kHzでADSLと周波数帯域が重複すること、TCMによる周期的バースト伝送のためADSLへの近端漏話の影響が大きいことから、日本ではADSLと共存できません。
 Annex Cは日本独自方式のTCM−ISDNと同一のケーブルに近く収容される場合に、ISDNから受ける近端漏話の影響を最小限にするための方式です。ISDNの2.5ms周期の送受信に合わせて、近端漏話が大きい時点ではADSLのデータ量を少なく、遠端漏話が大きい時点でデータ量を多くするように、各ビンごとにビット配列を切り替えます。これをDBM(Dual Bit Map)方式と呼びます。

 伝送方式についてはここでひとまず置いて、次回はADSLのシステム構成及び伝送媒体である電話線(メタリックケーブル)について纏めます。

[出典]
1. 梅山、半坂:入門xDSL,技術評論社(1999−11)
2. 筒井:ADSL,光芒社(1998−10)


【技術講座(ADSL-2)】                (2001/04/29作成)

 前回の1.xDSL概要及び2.ADSLの伝送方式に引き続き、ADSLのシステム構成及び伝送媒体(電話線)についてまとめました。

3.ADSLのシステム構成

  図3にADSLのシステム構成を示します。ネットワークシステムは加入者宅、電話 局、及びNOC(Network Operation   Center)から構成されます。


 加入者宅では、周波数4kHz以下の電話音声信号と、35kHz以上のデータ信号をスプリッターによって分離します。これによって電話とデーター通信の同時使用が可能になります。電話局ではスプリッターによる信号分離と、ADSL局側装置のDSLAM(Digital Subscriber Line Access Multiplexer)によるデータ信号の多重化が行われます。これによって、多数の加入者からのデータ信号を集めてNOCへ伝送する回線の使用効率を高めます。また、データ信号は電話交換機を通らないので、電話使用料としての課金はありません。NOCではATM(Asynchronous Transfer Mode)スイッチ(SW)、ADSLアクセスサーバー、DNS(Domain Name System)サーバーを介してインターネット(通常はIX:Internet Exchange)に接続します。

 加入者宅と電話局の間の信号伝送には加入者線(電話線)、電話局とNOCの間は専用線(通常は光ファイバー)が使用されます。信号伝送方式は加入者線ではQAM/CAPまたはDMT、専用線では通常ATM(非同期転送モード)が用いられます。ATMは、回線交換とパケット交換の長所を組み合わせた技術で、データ48+ヘッダ5、計53オクテットの固定長セルを単位として、転送処理をソフトウエアを介さずハードウエアで直接行うことにより、高速の情報通信を可能とするものです。(注:最近は高価なATM伝送方式を使わず、安価なイーサネットLANで代用する方法が採用されてきました。)

 DMTのADSLモデムは、IFFT(Inverse Fast Fourier Transform:フーリエ逆変換。これによりディジタル信号はトーン信号に変調されます)でデータを256個の周波数のサブキャリア(位相が90度ずれた2つの信号)に分解し、D/Aコンバータでアナログ信号に変換して伝送します。受信端ではA/Dコンバータを経由した信号を、コンステレーション(Constellation:二次元に展開したディジタルコードのポイント数。DMTでは各ビンで4000シンボル/secのQAMコンステレーション)とFFT(Fast Fourier Transform:フーリエ変換)で分解して、元のデータに復元します。この機能は、加入者宅のADSLモデム(単一型)及びADSL局側装置(集合型)のいずれにも適合します。

4.ADSLの伝送媒体

4.1電話回線の構造
 ADSLの伝送媒体は、加入者宅と電話局をつなぐ電話回線(メタリックケーブル)です。図4に日本の電話回線の構造を示します。

 1加入者宅当たりの回線は径0.4〜0.65mmの2本の心線(より対線:Twisted Pair)からなりますが、国内ではケーブル内の心線収容本数の増加、及びより対線の見かけ容積低減のため、4本の心線をまとめて撚り合わせ、対向心線を1組みとして使用するスターカッド方式を採用しています。スターカッド5個を5角形にまとめたものを10対ユニットと呼び、ユニットを層状に互いに逆螺旋で集合させてケーブルを形成しています。市内電話網で最も多用されている市内CCP(Color-Coded Polyethylene)ケーブルには、5、10、20、30、40、50、100、200、400対のものがあります。

 市内CCPケーブルは心線に軟銅線、絶縁に着色ポリエチレンを用い、ユニットは着色プラスティックテープでまとめられています。CCPケーブルの被覆方式は2種類あります。CCP−Pケーブルでは黒色ポリエチレン、CCP−APではアルミプラスティックラミネートテープを縦添えした後黒色ポリエチレン被覆し、ラミネートシースとしています。CCPケーブルの外被絶縁抵抗は5000MΩ/kmです。このほか絶縁にポリエチレンを使用し、黒色PVCで被覆した市内対ポリエチレンPVCシースケーブルも使用されています。
 ケーブルは層間で巻き方向が逆転するため、すべてのより線対は隣接層カッドと漏話関係を生じます。これはメタリックケーブルにADSL回線を大規模収容する際の問題点となります。また、同一カッド内にあると隣接カッドに比べて、近端漏話が5〜10dB悪化する問題があります。

 ケーブルは電話局の交換機からMDF(Main Distribution Frame:中央集配線盤)、地下管路を通って岐線点で地上に出ます。岐線点から通常は架空ケーブルとなって切換え接続盤、接続端子函、保安器、コネクタを経由して加入者宅に入ります。架空ケーブルは電柱に設置された接続端子函で、ケーブル条長ごとにカラーワイヤを対応させて、より線接続または圧着により継ぎ足され、延長されます。ケーブル条長は100対までは500m、100〜200対では250mになります。

 メタリックケーブルの配線は、線番表によって管理されています。電柱の線番表とMDF端子板の線番表に基づき、ドロップケーブル(加入者宅への引込み線)に接続しているカラーケーブルの線番と電話番号を対応づけて管理します。線番表の縦軸にはケーブルの線番、ユニットごとのプラスチックテープの色、カラーケーブルの色、及び電話番号が記載されています。線番表の横軸には線路名と電柱の柱番号が記載されています。縦軸と横軸の交点が、部分的に切断されてドロップケーブルと接続しているメタリックケーブルを示しています。

4.2電話回線の減衰特性
 ケーブルの挿入損失(減衰量)L(dB)は、伝送距離d(ケーブル長)と周波数fの関数となり、次の式で表されます。

    L(dB)= (20d/ln10)( k1√f + k2f )

 ここでk1 ,k2 は伝送路パラメータです。


 従って挿入損失は伝送距離に比例します。また挿入損失の周波数特性は、周波数に比例する項と周波数の平方根に比例する項の重ね合わせになります。図5に挿入損失の測定例を示します。これは、伊那市有線放送電話の電話回線で、心線径0.5mm、距離3kmのケーブルで測定されたものです。



5.伝送性能に関する実験

 ADSLの伝送距離と伝送速度の関係について、国内では二つの実験結果が報告されています。それは長野県伊那市の有線放送電話網で行われた「xDSL利用実験」とNTTが行った「NTTxDSLフィールド実験」です。詳細は各ホームページ及び発行書籍を参照していただくことにして、ここでは結果のみ示します。

5.1伊那市「xDSL利用実験」結果


 図6に伊那市のxDSL利用実験結果を示します。伝送方式はCAPとDMTで、距離は線路図などから求めたケーブル長、速度はADSL内のリンク速度です。ケーブルは心線径0.5mmのCCPケーブルで、ADSL装置は下り2Mbps以下のものと4Mbps以上のものがあります。

この実験結果のまとめは次のようになっています。
 ・ 6Mbps以上の下り速度が得られるのは約2.5kmまで
 ・ 2Mbps以上の下り速度が得られるのは約3.5kmまで
 ・ 約5kmまでは1Mbpsの下り速度を実現できる
 ・ CAP、DMTの差は不明
 ・ 装置の機種ごとの性能差が大きい


5.2NTT「xDSLフィールド実験」結果

  図7にNTTのxDSLフィールド実験結果を示します。伝送方式はG.DMT相当のDMTで、ケーブルは各種心線径のCCPケーブルです。ADSL装置はDMT方式の装置1機種です。Annex Cは使われていないので、ISDNの影響を大きく受けていると思われます。

この実験結果の、まとめは次のようになっています。
・ 下り500kbpsの速度が保証できるのは約2.5kmまで
・ 下り1.5Mbpsの速度が保証できるのは約1.5kmまで

 以上で、ADSLの基本的事項については一段落しました。他にも記載すべき事項はありますがADSLはここでひとまず置いて、次は無線について調査したいと思います。

[出典]
1. 梅山、半坂:入門xDSL,技術評論社(1999−11)
2. 筒井:ADSL,光芒社(1998−10)


[補遺](2001/06/23/)

 図8はATM(Asynchronous Transfer Mode)とSTM(Synchronous Transfer Mode)のオペレーションとデータパスの様々なモードを、実際のハードウェアにマッピングするDMTの論理構造(局側装置の機能)を示しています。ATMデータは多重化と同期制御を行う前に、ATMコンバージェンス機能を通ります。一方、STMはこのステップをバイパスします。その後、ファストとインターリーブの二つのパスは分離され、どちらも巡回冗長検査(CRC:Cyclic Redundancy Check)を行いますが、ファストはインターリーバをバイパスします。その後、データはモデムの物理レイヤー依存サブレイヤーでトーンと座標符号化処理されます。ここで、255個のDMTサブチャネルが生成されます。最後に、データはモデムのアナログコンポーネントでADSL回線上に伝送されます。


 図8 DMT(ATU-C)の論理構造

 

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