量子情報通信

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[QIC020:衛星を用いたもつれ光子による長距離量子通信]                (2008/02/18:渚 博)

 量子通信が最も威力を発揮するのは、未来の惑星間あるいは恒星間にわたる長距離通信においてであると思われます。この宇宙空間長距離通信に関連する論文がありましたのでご紹介します。いつの日にか宇宙空間にはりめぐらされた量子通信ネットワークを通じて他星系と通信するときがくるかもしれません。

[要  約]
 もつれ光子対(および単一光子)を分配するための衛星使用は、長距離量子通信ネットワークのためのユニークな解決を与える。これは地球に束縛された技術の理論限界、すなわち光ファイバーと地球の自由空間リンクによって利用可能な100km程度の範囲を超える。

T 緒  言
 量子もつれは量子物理学の心臓部であり、同時に量子暗号量子符号化量子テレポーテーションのような大部分の量子通信プロトコルの基礎、あるいは量子通信複雑度の計算の利点を活用する方法である。これらの仕組みは効果的な通信と計算を、古典的なそれらの可能性を超えて可能にし、新興の量子情報技術をもたらす。それは世界規模の量子通信ネットワークを望ましいものにし、そこでは地球規模での量子もつれの分配と操作が中心的な仕事になる。しかしながら、そのような仕組みの実現は研究所ではルーチンワークとはいえ、長距離への応用においては重要な問題が持ち上がる。現在、長距離量子通信に対する唯一適したシステムは光子である。原子あるいはイオンのような他のシステムは徹底的に研究されているが、長距離量子通信に対する唯一の選択としての光子を離れては、量子通信の仕組みに対する適用性は現在、近い将来を含めて実現の可能性がない。

  光子ベースの仕組みにおける問題の一つは、量子チャネルにおける光子損失である。これは現在のシリカファイバーでは、単一光子の架橋可能距離を100kmのオーダーに制限する。最近の量子暗号実験はすでにそのような距離を達成している。原理的にはこの難点は架橋すべき大きな距離を、もつれがテレポートできる小さな区域に再分割することで、最終的には克服され得る。それに続く「もつれ交換」と呼ばれる応用は、長距離のもつれ転送を可能にする。加えて、ことによると量子チャネルで生じたデコヒーレンス効果を軽減するために量子浄化が適用され、最終的に完全な量子リピーターを実現するであろう。

  実際、線形光学にもとづく実物大の量子リピータの実験構成ブロックは、昨年テレポーテ−ションもつれ交換の実現によって、そしてごく最近の量子浄化プロトコルによって、成功裏に実証された。長距離適用にどちらも妥当性がある二つの関連する最近の結果は、数十メーターの距離にわたる量子状態テレポーテーションの実証と、自由に伝搬するテレポート量子ビットで、それによって最終的にテレポート状態を引き続いて使用できるようになる。現在の視点から見て量子リピータの完全な実証は、明らかに到達範囲内にあると思われる。

 これらの量子通信実験の成果にもかかわらず、もつれが単一区域、すなわち量子リピータ仲介なしでもつれが分配されうる距離は、全く地球規模ではない。現在のファイバー技術に基づく実験は、もつれ光子対が数百メートルから10kmの範囲の距離で引き離せることを実証したが、桁違いの改良はないと予想される。一方、自由空間光リンクはこの問題に対するユニークな解決を与えることができるであろう。というのは、それらは原理的にある波長範囲での低い大気吸収のためより大きな伝搬距離を可能にするからである。また、大気の九分通りの非複屈折性は、偏光もつれの高度の維持を保証する。自由空間光リンクが研究され、ほのかな古典レーザーパルスに基づく量子暗号での応用に対して、すでに数年間成功裏に実証された。最近、我々は重要な次段階を実証することに成功した。すなわち、自由空間リンクを経由する量子もつれの分配で、それは直接の見通し線なしで二つの遠く離れた受信機間でのベル不等式を破ることで検証された。

 しかしながら、地上波の自由空間リンクは、見通し線内の物体の妨害、天候およびエアロゾルによる厳しい減衰の可能性、および最終的には地球の曲率という弱点がある。そのためそれらはむしろ短距離に制限される。自由空間リンクの有利性を完全に活用するために、宇宙および衛星技術を使う必要があるだろう。光子群あるいはもつれ光子対を、衛星へあるいは衛星から送受信することによって、もつれは真に大きな距離を超えて分配されうるし、そうして地球規模の量子通信応用を可能にするだろう。そのようなシナリオは一見非現実的に見えるが、本論文で我々は衛星を使う量子通信プロトコルの実証は、すでに今日可能であることを示す。そうするために、我々はもつれに基づく可能性のある宇宙シナリオを説明する。我々はそこで衛星経由でもつれを分配するための必要条件を解析し、最初の原理実証実験のためのシナリオを説明し、そして最後に、衛星支援量子通信の考え方についての展望を提示する。

U 宇宙実験のシナリオ
 もつれ光子対の分配を可能にする宇宙シナリオを考慮するとき、我々は衛星が@)もつれ光子の送信機またはA)受信機またはB)さらなる遠隔地へ光子を分配するための中継局を運ぶために使われる場合を見分けることができる。これらのシナリオは異なった応用を可能にする。

A 地球拠点の送信機端末
 地球拠点の送信機端末を含むシナリオは、地上と衛星の間、あるいは二つの地上局間、あるいは二つの衛星間の量子もつれの共有を可能にし、かくして量子通信プロトコルを用いるそのような端末機間の通信を可能にする。最も単純な場合、一つの衛星拠点の受信機への直接のアップリンク(Fig.1(a)参照)は、送信局と受信機の間の安全な量子鍵分配(QKD)を遂行するために用いることができる。ここで、もつれ光子対の一つは送信側で完全に検出され、かくして、もつれ光子源は単一光子の誘発源として用いられる。もし衛星が中継局(Fig.1(b)参照)として作動する場合、同じプロトコルが二つの離れた位置の地球拠点通信メンバー間で確立されうる。二つのメンバー間の共有もつれは、各もつれ光子対を地球基地局衛星、あるいは二つの離れた位置の衛星の方に指向することによって成し遂げられる。(Fig1.(c)および(d)参照)。他の衛星拠点中継方式は、二つの地上局にさらにもつれ光子を分配するのに用いることができる(Fig1.(e)参照)。二つのメンバー間の共有もつれの可能な応用は、QKDまたはもつれ強化通信プロトコルである。


Fig.1 地球拠点の送信端末付の衛星支援量子通信シナリオ。送信端末は、もつれ準拠量子通信プロトコルを遂行できる受信機にもつれ光子対を分配する。図のように、中継モジュールは実際にそれらを検出することなく、出力先を変更し量子状態を操作する。

B 宇宙拠点送信端末
 第2のシナリオでは、もつれ光子源付送信機宇宙拠点プラットフォーム上に置かれる。これは大気乱流の影響低減による長距離リンクを可能にするだけではない(Appendix U参照)。それはまた地球規模の量子通信のための推奨配置でもある。というのは、もつれ対の1光子あたりただ一つのダウンリンクだけが、二つの地球拠点受信機間のもつれを共有するために必要だからである。さらに記述のように、簡潔なダウンリンクは単一光子リンク、例えば量子暗号のためのものを確立することを可能にする(Fig.2(a)参照)。この配置では二つの地球局間の鍵交換もまた可能である。この目的を達成するために、二つの地球局の各々は衛星と量子鍵を確立しなければならない。宇宙端末は双方の鍵へのアクセスを有するもで、鍵の論理結合を送信でき、地球局または同じ鍵で着信する両地球局によって用いることができる。この論理結合は、鍵についてのいかなる情報も証すことができない方法で簡単に選択できる。鍵は両受信局で同時に生成される必要がないことに注目せよ。
 
  原理的に量子鍵交換は、任意の位置の地球局間で遂行できる。これはまたFig1.(a)に示すように、地球拠点送信端末に対しても可能である。しかしながら、そのような単一光子に基づくすべてのシナリオにおいて、送信端末に対するセキュリティ要件は、地球局に対するのと同程度に高度である。二つの離れた位置の地球局に送られたもつれ状態の使用だけが、これら二つの通信中の地球境界メンバー間の即時鍵交換を可能にし、また送信モジュールに対するセキュリティ要件を緩和する。さらに、より有利な量子通信の仕組みが可能である。所用の共有もつれは、二つの直接ダウンリンク(Fig2.(b))または追加の衛星中継局(Fig.2(c))を使うことで確立できる。量子もつれは地球局と衛星の間(Fig.2(d))または二つの衛星間(Fig.2(e))でも分配されうる。

  もっと手の込んだ仕組みにおいてさえも、二つの独立光子におけるベル状態解析を遂行できる地球または衛星上の第3メンバーが必要かも知れない(Fig2.(f))。これは量子状態のテレポーテーションおよびエンタングルメントスワッピングさえも可能にし、かくして、真に地球規模の量子通信ネットワークに対する大規模量子リピーターのようになりうる。量子暗号に適用する場合、この第3メンバーは"Third Man"暗号プロトコルにおける他の二つのメンバー間の通信を制御するために用いられるかもしれない。例えば、偏光準拠実験において、彼が独立光子の単純な偏光解析を行うかベル状態解析を行うかによらず、"Third Man"は二つのメンバーのどちらか(または両方)と密かに通信できる、すなわち彼は通信内容を知ることなくその二つが密かに通信できるかどうかを制御できる。


Fig.2 宇宙拠点送信端末を伴う量子通信のシナリオ。宇宙から地球への光ダウンリンクは、大気乱流による影響がより少ないので、そのような形態はより低い綜合リンク減衰をもたらし、かくして地球から宇宙へのリンクよりも長距離を可能にする。

C リンク要件
 もつれ光子に基づく量子通信システムに対する最大許容リンク減衰は、光源の純生産速度と同時に、検出器の計時分解能および暗計数率によって決定される。最小S/N比(SNR)として、我々は量子暗号のセキュリティを確立するのに関連するベル不等式違反に必要なものを想定する(AppendixT参照)。典型的な包括検出での効率ηDet=0.3、光子生成率P=5×105 s-1、推定全ノイズ計数率(注1)S=103 s-1、そして同時計時窓Δτ=5×10-9、リンク効率はAppendixTに示す計算によれば次式に従うはずである。
         (1)
大まかに言えば、綜合リンク効率  が必要である。

 リンク減衰はまた、ある計時窓内で受信できる光子対の数を決定するためにも重要である。これは例えば低軌道衛星へのアップリンクの場合のような短時間しかリンクが利用できないシナリオでは重要である。

(注1)
  これは検出器からの暗計数(50 s-1)およびいずれISS(国際宇宙ステーション)によって反射される太陽光からの追加ノイズの寄与(950 s-1)を含む。我々の見積もりは受信側での0.1nmバンド幅のスペクトルフィルタリングおよび受信望遠鏡の十分に狭い視野に基づいている。日中の空からのかなり高い背景放射を避けるために、推定ノイズ率は夜時間だけに達成できる。

V リンク減衰
 最大減衰60dBに相当する綜合リンク効率10-6は、各種宇宙シナリオにおいて全く強い制約を課す。次に宇宙インフラを含む光自由空間リンクの減衰を研究する。計算された減衰係数は、大気によるビーム回折、減衰および乱流誘起ビーム拡散受信開口直径、アンテナ指向損失と同様のアンテナとして作動する望遠鏡内の損失の効果を含んでいる。この係数に含まれていない効果は、光子計数モジュールの検出効率(1検出器あたり〜3.5dB)および光学部品での反射ならびに吸収損失(典型的に各光子リンクあたり〜3dB)で、それらは合計で光子リンクあたり〜6.5dBの綜合検出効率になる。全リンクの固有量を計算すれば、これらの損失を考慮に入れることができる。Fig.3は静止軌道(GEO)および低軌道(LEO)衛星に基づいて考慮されたシナリオを要約している。そのような衛星は、送信機または受信機のプラットフォームとして機能する。我々は現在、それらがもたらす高リンク損失および前方指差角(注2)を実装するための困難さの故に、無給電中継、例えば再帰反射器または反射鏡の使用を想定していない。

(注2)
  前方指差角は、望遠鏡の送受信方向の差角を意味する。その発生は、信号伝搬光の有限の速度と共に衛星の動きの結果である。



  Fig.3 地球拠点局およびLEO衛星またはGEO衛星を含むリンクの要約

A 衛星-地上リンク
 1)地上-LEOまたはLEO-地上リンク
  LEO拠点送信機または受信機の場合(Fig.3のリンク1)、リンク減衰は問題ない。LEO衛星搭載のとても小さい望遠鏡でさえも、減衰係数はあらゆる場合十分に60dB以下である、Fig4は波長λ=800nmで操作された地上からLEOへのアップリンクに対して、送受信機開口直径(DT,DR)の関数としたリンク減衰の等高線図である。二つの追加垂直方向目盛りは、受信望遠鏡開口30cmでのリンク距離Lと同時に、リンク距離L=500kmでの受信望遠鏡開口を与える(Fig.4およびいくつかの後続の図に至るために用いた式やさらなるパラメーターについては、AppendixUを参照)。等減衰線は5dBごとに分別されている。LEOから地上へのダウンリンクに対して相当するプロットはFig5.に示されている。減衰はダウンリンクよりもアップリンクの方がかなり大きいことが注目される。これは乱流層が送信機に近接するアップリンクに対する大気乱流の顕著な影響によって引き起こされる。対照的にダウンリンクに対して、受信機に近接する乱流層の影響は一次的には無視し得る。その他の乱流の影響は、アップリンクに対して送信機開口を40cm以上に増やしても、リンク減衰をほとんど減少させないことである(Fig4.参照)。この効果は補償光学を用いることで評価できる。

 LEOと地上局を繋ぐリンクの場合、通信持続時間は比較的短く(例えば数分)、軌道に沿って衛星を追跡するために地上局の望遠鏡を動かさなければならない角速度は高い。すべての地上から宇宙へのリンクに対して、通信可能性は天候依存である。一方、晴天および十分な高度の地上局に対して、大気によって引き起こされるアップリンク減衰は主として乱流誘起ビーム拡散(注3)であり、曇天はいかなるリンクも不可能にする。この影響はLEOから地上へのリンクに典型的な低仰角で増大する。これは大気中の伝搬経路を長くする。

(注3)
  20cm直径の望遠鏡およびリンク距離500km限定の回折に対して、約20dBの減衰が予期されねばならない。


Fig.4 地上からLEOへのアップリンクに対して、送受信開口直径(DT,DR)およびリンク距離Lの関数とするリンク減衰A(dB)の等高線図


  Fig.5 LEOから地上へのダウンリンクに対するFig.4と同様のもの

 2)地上-GEOまたはGEO-地上リンク 
  GEOと地上の間のリンクにおける長距離(Fig3.のリンク2)は、比較的高い減衰をもたらす。結果として、地上局の開口D=100cm、GEO端末開口D=30cmで、ダウンリンクにおいて60dB要求に達することができるが、アップリンクでは達しない(X章のTableTを比較せよ)。

    TABLET 各種宇宙シナリオに対するリンク減衰

数値計算に対してAppendix Vで与えられたデフォルトのパラメータ値が、波長800nmにおいて採用された。

B 衛星―衛星リンク
 技術的視点からは、衛星から衛星へのリンクは最も要求の厳しい配置であるが、科学的実験に対する極めて魅力的な可能性を提示する。それは原理的に任意に長距離をカバーすることを可能にし、そうしてまた、量子もつれにおけるさらに新しい基本的試験の可能性になるかもしれない。
 我々はLEO-LEOリンクに対して、送受信機両方の開口直径の関数として減衰係数を計算した(Fig.3のリンク3)。Fig.6は衛星距離Lおよび両端末で等しいと仮定した望遠鏡直径DTおよびDRの関数として波長800nmに対する減衰を示す。我々は、妥当なリンク距離のLEO-LEOリンクに対して、60dB制限がなんら問題を起こさないと結論する。
 GEO-GEOリンク(Fig.3のリンク4)に対して、減衰はFig.7から読み取ることができて、そこでは再び同じ望遠鏡開口が想定されている。距離L=45000kmに対しては、減衰A=55dBがDT=DR=30cmに対して生じる。


  Fig.6 LEO―LEOリンクに対するFig.4と同様のもの


   Fig.7 GEOからGEOへのリンクに対するFig.4と同様のもの

W 宇宙におけるもつれに対する技術的要件
 前述の量子通信実験を成し遂げるためには、次のような最小限のハードウエアが要求される。もつれ粒子を生成し送信するための送信端末および単一光子操作と検出に適した一つ以上の受信端末。我々はそれらの主な特徴を簡単に概説する。

A 送信機、受信機および中継モジュール
 送信機はもつれ光子対光子源(単一qビット状態の受動および能動操作を含む)、受信機局とのタイミング同期モジュールおよび古典通信チャネルを包含する。現在のもつれ光子源はレーザー励起の自発的パラメトリック下方変換に依存している。この技術は衛星モジュールに適したサイズに極めて小型化しやすい。他のどこかで我々は、シールドされた研究所環境外で操作できるもつれ光子対のコンパクトで安定した源を示した。受信機モジュールは一つまたはそれ以上の光学的入力チャネルを包含し、各々は光子偏光の回転または干渉位相の変調のようなqビットの個別の操作を可能にする。さらに、各入力ポートでの単一光子検出器タイミング同期のための受信機モジュールおよび送信機との通信用古典チャネルで装備されなければならない。

  天候に依存して、qビット操作のための光学部品の能動(遠隔)制御は、可能であるかまたは不可能であり(例えば偏光板または位相差板を通じて)、我々は能動受信機受動受信機を区別する。受動操作は線形光学部品の静的セットアップを要求するだけである。通常、入力ポートのビームスプリッターは、着信する光子を配向の異なる位相差板、偏光板またはビームスプリッターへランダムに分配し、単一光子の操作および連続検出が行われる。この種の受動受信機モジュールは、最近も単一光子QKDに対する宇宙に適したシステムにおいて、Rarity等によって提案されている。単一qビット操作の能動的制御に対しては、到着時間に関する追加の情報(即ち、タイミング同期)が要求される。量子高密度コーディングまたは量子テレポーテーションのようなより高度の量子通信の仕組みは、プロトコルのいくつかの段階で、共有Bell状態での単独光子の投射、即ちBell状態測定を要求する。今日までこの投射の効果的な遂行は、2粒子干渉分光法という方法によってのみ可能である(注4)。これはビームスプリッターの二つの入力ポートでの二つの光子の到着時間差が、それらの可干渉時間(通常0.5ps)より小さくなければならないことを要求する。

 中継モジュールは、qビット状態を実際に検出することなく出力先を変更したり、あるいは操作する。その遂行可能性は、単純な再帰反射器からより洗練された中継衛星(例えば深宇宙通信)までに広がり、そこでは地上局深宇宙衛星の間の量子チャネルを確立している光子のもつれが純正化できる。我々は、中継器は増幅器として使えないことを強調する。これは量子クローン不可理論の結果である。

(注4)
  最近、非線形結合に基づく他の仕組みが、低効率ではあるが4つのBell状態全部の完全識別を遂行するために提案された。

B 現存の光学空間技術
 宇宙から地上へのリンクまたは衛星間リンクに対する光学的送受信機は、ほぼ最先端技術である。伝送サブシステムに対する主な設計パラメータは、レーザー波長変調フォーマットデータ転送速度および受信技術である。等しく重要なものは、ビーム位置決めリンク補足および自動端末追尾に必要なサブシステム(PAT)である。関係する通信ビームの幅が非常に狭いので、PATは高度に洗練されたプロトコルおよび桁外れの技術標準に合致する電気機械並びに電気光学のハードウエアを要求する。リンク容量に関わる主なパラメータは、望遠鏡サイズ光送信電力リンク距離および受信機感度である。他の性状は、質量体積および端末の電力消費である。現存の宇宙レーザー通信リンクの例は、ESA(欧州宇宙機関)の半導体レーザー衛星間リンク実験の衛星間リンク(SILEX)および衛星―地上リンクを含み、それらはGEO衛星ARTEMISとESAの光地上局OGSの間で、最近実現されたばかりである。

 そのような古典的な宇宙レーザー通信システムに現在実装されている光子源や検出器は、一般に量子通信システムに直接使うことはできない。しかしながら、得られる経験は量子宇宙実験に必要な宇宙に適した部品の開発の出発点として役立つであろう。有効な光通信技術は、もちろん量子チャネルと並行して常に必要な古典チャネルを用意するためにも適用できる。人はまたPATに使用した光学のいくつかを相乗使用し、一つの同じ望遠鏡を古典および量子チャネル両方に対するアンテナとして使用するであろうし、それは量子―古典多重化の新しい方法である。

C 原理実証実験
 宇宙におけるもつれの確立、およびそれに続く基本的量子物理実験および量子通信応用のためのその使用は、ある実験段階を必要とする。
 段階T:光宇空間リンクを通じたqビット(ここで:単一光子)の創生と検出。応用の見地からは、この遂行はすでに単一光子に基づくQKDを実現するだろう。
 段階U:通信粒子間のもつれ(即ち、共有もつれ粒子を通じた非古典的相関関係)の確立。これは通信している粒子の空間的に離れた位置で、同期して単一qビットを検出する能力を含む。この段階では、すでに量子物理における最も基本的な実験、Bell不等式の侵害の実証が遂行され得る。それはまた、もつれqビットに基づくQKDのようなさらなる実験を可能にする。
 段階V:単独qビットのBell状態解析。光子の場合、最も効率的な仕組みは、ビームスプリッターでの2光子干渉分光法に頼っている。技術的に言えば、受信モジュールでの光子qビットの到着時間は、光子波束がビームスプリッターのところで、それらの可干渉長以内で重なるように同期しなければならない。もしこの課題が解決されれば、量子状態テレポーテーションあるいは高密度量子コーディングのような、すべての先進量子通信および計算プロトコルが実装され得る。

 これらの段階すべてが実行できる実験シナリオの選択は、リンク減衰と実験の柔軟性の間のトレードオフを要求する。実験設備の全リンク減衰が、今日の量子光学技術を想定して、およそ60dBを超えてはならないことは上述した。現在、量子メモリの使用なしで、もつれは一つ以上のリンクが利用できるときに共有できるだけである。二つの長さの等しい量子リンクの対称的な場合(一つの送信機と二つの受信機)、これは、最大単一リンク減衰(一つの送信機と一つの受信機間)をほぼ30dBに制限する。宇宙―宇宙リンクは地球の大気によって影響されないという魅力的な優位性を持っているが、地上にすくなくとも一つの通信端末をもつ代替の仕組みに比べて、不釣り合いの技術的および財務的努力が求められることから、我々は現時点ではそれらを放棄しなければならない。二つのリンクが確立されるべきなので、送信機モジュールを宇宙に置き、一方受信機モジュールは容易にアクセス可能な地上ベースの研究所にとどめることは、それ故最も妥当である。

  最も想定される量子実験は、能動的偏光制御またはデータ解析のために受信機での高度の柔軟性を要求する。また、大気はダウンリンクよりアップリンクにおいて、乱流のより大きい影響の故により大きな装置面積を生じさせる。そのような展望によって、最初の原理検証実験では送信機モジュールを宇宙に、受信機モジュールを地球上に置くべきことは明らかとなる。相対的定常性の故に、GEO衛星上に置かれた端末は、LEO衛星上のもののような高度に洗練された位置決め、補足および追尾システム(PAT)を要求しない。それらはまた、長期実験を可能にする。一方リンク減衰およびコストはLEOリンクに比べてGEOリンクはかなり大きい。それ故、LEOベースのシステムをGEOベースのシステムに替えるとき、むしろより複雑なPATシステムおよび制限された軌道当たりの接続時間を受け入れることになり、最初の原理検証実験のための送信機端末に対してLEOプラットフォームの使用を提案することになるであろう。

X 宇宙を使った量子通信の展望と限界
 我々は、Fig.3に示すリンクに対する典型的な減衰を決定した。TableTにリストした値は、今日の光学宇宙技術に対する望遠鏡開口特性を想定し、波長800nmに対して計算された。さらに計算は波長1550nmに対して行われた。最初の波長は最良の単一光子検出器が800nmに対応しているので妥当であると思われ、一方、第2の波長は主に標準的な電気通信システムで使用されている。かくしてこの波長を適用することは、商業的市販部品が利用できるので互換性を増大し開発労力を減少させる。しかしながら全リンク減衰は、長波長での大きなビーム広がりのために、λ=1550nmに対してはやや増大するが、大気吸収および乱流の影響は800nmに比べてやや減少する。各リンクに対してデフォルトパラメータはAppendixVに規定されている。

 今日の技術および妥当なリンクパラメータの想定に基づけば、量子通信プロトコルを実証するために受信機ペアを通じて十分にもつれた光子を実現することは可能であると思われる。例えばLEOベースの送信機端末、二つの離れた位置の受信地上局への同時リンクおよび(安全側に推定した)全リンク減衰約51dB(注5)を想定すると、各受信機端末の合計でほぼ毎秒2600の局所計数率を期待できる。共有もつれ光子対の数は、それでほぼ毎秒4と期待できる。300 sのリンク持続時間に対して、これは正味受信1200のもつれqビットを蓄積する。100 sあたり7程度の誤り検出事象が想定され、それは約2%のビットエラーを与える。これはすでに二つの受信局間のQKDプロトコルを可能にする。かくして、量子もつれに基づく基本的な量子通信プロトコルの実証が、今日すでに成し遂げられていることは明らかである。

 すべての提案された装置設定は、量子情報のキャリアとしてもつれ光子対の使用に基づいている。今日の量子光学研究所で提供された最先端技術が与えられれば、我々はもつれqビットの生成と検出に対するいくつかの実際的な制限を特定することができる(注6)。
 情報伝達速度は、生成および検出できる光子またはもつれ光子対の最大数によって制限されている。(もつれた)qビットを生成できるパルスレーザーの典型的な標準繰り返し率は、166〜107 s-1程度で、それは光フィルタリング、有限のカップリング効率および有限の検出効率のような効果によって、毎秒数千に過ぎないまでに減少する。さらに、qビット送信を劇的に制限し得る送信損失を考慮しなければならない。また、最先端の検出システムは、最大オーダー6の低いダイナミックレンジ(注7)および最大数MHzの検出率(注8)を有する。光子源および検出器技術のさらなる発展は、qビット率のさらなる改良に導くであろう。

 本論文で我々は、もつれ支援の地球および宇宙ベースの量子通信に対する各種のシナリオを提案している。これはそれ自体がすでに興味深く際だった実験的挑戦であるうえに、そのような技術が提供するであろう各種の特定の新しい機会がある。先ずは技術展望から注目すべきものは、もつれに基づく量子暗号手法を用いる安全で効率的な通信を確立する可能性である。上述したように、その方法は地球上の任意の二つの位置間の安全な通信リンクを確立できるだけではない。地球から衛星へあるいは衛星間の安全な通信をもまた確立できる。これは確かに、現在極めて微妙な分野であり、これまで未解決の技術課題である衛星遠隔制御のセキュリティを増大する。

 他の非常に重要な側面は、宇宙に於ける通信手段は特に低電力消費の必要性の見地から、極めて制限され、希有で費用がかかるという事実である。そこで我々は量子通信が、光子あたり1ビットの情報を送信ときの究極的限界を利用するような自然なゴールを提供することを期待する。実際、1光子が1ビット以上の情報を運べるような高次元ヒルベルト空間における光子状態を利用すれば、これは増大しさえする。これは深宇宙通信において特に有用かもしれない。そこでは通信時間とエネルギー資源の両方がより制限され、効率的な通信が完全に必須である。人は量子通信の複雑さにおける奇抜なアイデアの究極的な応用が、いつの日かある情報を送信するために必要な資源を減少させるユニークな方法を提供するかもしれないと考えるかもしれない。

  最後に、我々は天文学的スケールにわたる量子もつれの分配が、特に現在の実験より数桁大きい新規の距離にわたるベルの定理違反を通じて、量子力学のテストを可能にすることに言及する。これはなおさら直接に今日より明らかな量子の非局所性を問題化するだろう。人は未来の他惑星、例えば火星への有人ミッションにおいて、どちらのパラメータが計測されているかの決定が、もつれ光子がすでに来る途中であるとき最後に人間観察者によってなされるという意味で、それらの実験を遂行することを決定する人間観察者を実際に持つことができるとさえ考えるかも知れない。これは最後の手段即ち人間の決定さえも決定論的であるということを除いて、どのような隠れた秘密の決定論の可能性も廃除するであろう。さらに、それは常に物理学における場合なので、我々はそのようなシステムが宇宙に置かれ、安全に操作されるやいなや奇抜なアイデアが出現すると期待する。

(注5)
  再び、量子メモリなしで量子もつれは一つ以上のリンクが利用できるときに共有できるだけであることに注意。対称な場合即ち一つの送信機と二つの受信機を含む二つの等長量子リンクに対して、これは一つの送信機と一つの受信機間の最大単一リンク減衰をほぼ30dBに制限する。ここで我々は、各ダウンリンクに対して25.5dBの損失を想定する。
(注6)
  特定の実験シナリオに対して、リンク持続時間およびqビット送信率のより詳細な解析は文献に示されている。
(注7)
  約6桁のダイナミックレンジは、Siアバランシェフォトダイオード(APDs)で得られているが、今まではInGaAsに基づくシステムが3から4桁に達しただけである。
(注8)
  InGaAsの場合数十kHz

Appendix T

リンク要求

 
偶然の同時率は次式で与えられる。
                   (2)

ここで、 は二つの検出器のバックグラウンド計数率で、 は二つの同時事象の電気的レジストレーションに対する計時分解能である。最小SNRとして、我々はベル不等式違反に要求されるものを想定する。それは同時にある量子暗号の仕組みのセキュリティを保証するからである。偏光もつれ光子の場合に対して、これは少なくとも71%の2要素の同時視認を必要とし、これは6:1のSNRに相当する(注9)。その比率以下では、観測された相関の部分的で実際的なモデリングが可能なので気づかれない盗聴を許す(注10)。それ故、同時発生のバックグラウンドから信号を識別するために、同時率は少なくとも より6倍大きくなければならない。
 同時検出率は、全同時発生効率 によって決定され、それは二つのqビットリンクに対する個々の効率の積である。
                   (3)
同時検出信号 は次の積で与えられる。
                   (4)
ここで、 は源での対発生率検出確率である。ベル不等式を成り立たせるために、信号同時性は制限値 を超えなければならず、それは全リンク効率に対して次の制限に導く。
             (5)

(注9)
  可視性は、信号 と雑音 の観点から によって定義される。
(注10)
  位相符号化もつれは、非局所実在的モデルが対応相関を表現することを示すのにやや高度の要請をもたらすことに注意せよ。

APPNDIX U

リンク減衰のモデリング

 我々は送受信望遠鏡の各出入り口で測定された平均送受信電力の比として減衰係数 を定義する。それ故、単一光子検出効率およびフィルター、偏光板あるいは位相差板のような光学要素による損失は、この数値に含まれていない。それで、一方向の自由空間リンクの減衰係数 は、次式で与えられる。
                (6)
ここで、 はリンク距離、 は波長、は送受信望遠鏡の直径である。 で我々は望遠鏡の透過率 を示し、 は送受信機の照準ミスによる位置決め損失である。この基本関係式は(@)もし受信機が送信機の遠距離場即ち にあれば、(A)もし送信望遠鏡が回折限界であれば、そして(B)もし大気の影響がないならば適用する。

大気の影響
 光ビームの伝播における大気効果は、3つのカテゴリー:吸収散乱乱流に分けられる。吸収と散乱は主に波長および可視性条件に依存するが、大気乱流の正味の影響はさらに、迎角および送信方向に依存する。大気乱流の主な効果は、受信望遠鏡で収集された信号電力量の減少をもたらすビーム広がりの拡大である(注11)。さらなる乱流誘起効果は、ビームふらつき、コヒーレンス損失、シンチレーションおよびパルスのねじれと広がりである。乱流の効果は、一般に宇宙から地上へのリンクと地上から宇宙へのリンクに対して全く異なる。宇宙から地上へのリンクでは、光は大気によって擾乱される前の最初に殆どの距離を真空中を通して伝播する、ところが地上から宇宙へのリンクに対して、乱流のビーム拡散効果は伝播の始まりに起こり、強く促進された発散を引き起こす。

(注11)
  乱流誘起パルスひずみおよびパルス広がりは、パルスダウンコンバージョンにおけるスペクトルバンド幅に対する上限を実際に課すかもしれない。

地上から宇宙へのリンク
 地上から宇宙へのリンクに対して、我々はそれ故大気による付加減衰および乱流の影響を考慮する為に式(6)を修正する。送信望遠鏡の開口直径によって引き起こされた回折限界の発散は、ビームが乱流大気を通過するときに増大する。大気の影響は、有効口径として解釈できるいわゆるFried parameter によって考慮できる。我々は、乱流による発散は望遠鏡のづれに二次的に加わると想定する。減衰係数はかくして次式で近似される。
              (7)
ここで、 はdBで与えられる大気減衰である。
送信望遠鏡からもたらされる発散角は次式のように想定される。
                                  (8)
そして乱流は次式の付加発散を引き起こす。
                                   (9)
 これは恐らく乱流効果を過小評価するが(注12)、我々のモデルは、減衰係数の下限推定を計算するのに適していると思われる。

(注12)
  文献で示された値と比べると、我々のモデルで得られた発散は、1.5倍低い。しかしながら、文献で想定された実際の乱流条件を知らない。また、ARTEMIS-OGSダウンリンクの実験結果は、我々の計算が予測するよりもやや悪い。

APPENDIX V

デフォルトパラメータ

 LEO衛星の高度を我々は500kmと想定し、これはリンク距離の下限を与える。迎角が例えば15°に対して、リンク距離は1400km程度である(注13)。
 静止衛星は高度36000kmを有する。再び、リンク距離は衛星の迎角に依存してより大きいであろう(ARTEMIS-OGSリンクに対して、リンク距離は41229km)。
 地上開口基準は1mである、なぜならこれはテネリフェのESA光地上局(OGS)の望遠鏡直径だからである。直径20〜30cmの望遠鏡は、小さなLEO衛星上でさえも操作するのに十分小さく軽い。より大きな望遠鏡は特にGEO衛星にふさわしい。
 我々は、望遠鏡を含む透過係数 を0.8と想定する。位置決め損失は場合によっては追尾精度を減少させるかもしれない衛星の高い相対速度考慮して と想定するLEO-LEOリンク以外のすべてのリンクに対して である。
 大気減衰 の想定は、卓越した視界条件(かすみ、霧、または雲がない)に適用し、ある波長領域においてのみ正しい。
 テネリフェの光地上局(OGS)に対して適用される最近得られたFried parameterの推定は、弱い乱流の場合の波長800nmに対して、 である。
 提示した計算に対して、我々は波長800nmおよび1550nmを想定した。Table U―Yはリンク特性を集約している。

(注13)
  低迎角に対して大気の影響は増大し、ここで用いたモデルによって考慮されていないという事実に注意せよ。


TABLE U 地上―LEOおよびLEO―地上リンクのパラメータ
      (デフォルト値は下線部)


TABLE V 地上―GEOおよびGEO―地上リンクのパラメータ


TABLE W LEO―LEOリンクのパラメータ


 TABLE X LEO―GEOリンクに対するパラメータ


TABLE Y GEO―GEOリンクに対するパラメータ


(出典)
Markus Aspelmeyer etc.:Long-Distance Quantum Communication With Entangled Photons Using Satellites, IEEE Journal of selected topics in quantum electronics, Vol.9, No.6, November/December 2003

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