量子情報通信

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[QIC008:量子システムのデコヒーレンス]         2003/09/15:渚 博)

 量子通信や量子コンピュータ等の量子システムにおいて、外部環境からの擾乱による量子状態の緩和(デコヒーレンス)は通信エラーや計算エラーの原因となります。そこで、デコヒーレンス現象および量子測定への影響についてまとめました。

1 緒言および展望

 古典世界の量子起源は量子理論の先人達にとって想像することが極めて困難でした。彼らは、しばしばその独立した実在を主張するか(ボーア)、あるいは量子理論を断念してより基本的な古典的基盤のあるものを探求(ド・ブロイおよびそれほどでないにせよアインシュタインもまた)しようとさえしました。

 問題の源は量子重ね合わせの原理にあり、実際、それは考え得るすべての重ね合わせに対する利用可能状態の集合を指数関数的に拡大します。かくして、生きている猫と死んでいる猫のコヒーレントな重ね合わせは(量子理論に照らして)、古典的な二つの選択肢のいずれかと同一の実在権を有します。

 与えられたシステムを記述するヒルベルト空間内では、「古典的に正当な」状態は例外的です。ヒルベルト空間におけるすべての状態の集合は、古典的システムの状態の集合に比べて莫大です。しかも古典的対象物は可能な(そして原理的に許される)状態のうち非常に小さな部分集合だけに基づいていることは、紛れもない事実です。

 そこで、いくつかの物理システムのヒルベルト空間において、最大集合状態の実在を妨げるこの明白な「超選択」の起源が説明されなければなりません。デコヒーレンスとその原理的帰結(環境誘起超選択あるいはアインセレクション)は、この実験的な厳然たる事実を説明します。

 デコヒーレンスはシステムと環境の相互作用によって引き起こされます。種々の条件、特に巨視的対象物に対して満足するのが容易な条件下で、莫大なヒルベルト空間内から準古典状態の小さな部分集合のアインセレクションに導きます。古典的特質はそれ故、環境との相互作用によってシステムに誘起された発現特性です。

 恣意的な重ね合わせは退けられ、選ばれた「ポインター状態」の集合が出現します。これらの選ばれた状態は古典状態の候補です。これらは古典力学システムの位相空間内の点と同様に、量子測定における装置ポインターの明確な表示に相当します。

 古典特質を誘起するデコヒーレンス過程の役割は、比較的最近(過去20年以内)明確になったばかりです。鍵となるアイデアは比較的シンプルです。量子システムの環境は事実上連続的な相互作用を通じて状態をモニターできます。環境に残されたシステムの痕跡はシステムの選択状態についての情報を含むでしょう。

 プロセスをかき乱すことなく痕跡を残す状態は選ばれた状態です。かくして、準古典ポインター状態の鍵となる特性は、環境との相互作用によるモニタリングに対する不感性にあり、そして結局エンタングルメント抵抗性にあります。すなわち、エンタングル最小が最も安定な状態です。

 それらはまた一種の定義によって、システム単独の正確な記述を残存している唯一の状態です。他のすべての状態はシステム−環境結合状態に発展し、システムと環境の両方がより大きな「超システム」に包含されるときだけ、それらの純粋性(結局、観察者がそれらについて持っている情報)を保持しています。

 量子システム間の相互作用がエンタングルメントを生成するという事実は、ほぼ量子力学の始まり以来よく知られていました。実際に、デコヒーレンスとアインセレクションは量子理論だけに頼っているので、古典特質の量子起源の自然な説明に達するのになぜそんなに長くかかったのかを問うことは有用かもしれません。この遅れに対する可能な説明がいくつかあり後述します。

 しかし、とりあえず、選択状態の同一集合をもたらす環境誘起デコヒーレンスの能力は、システムおよび環境の初期状態に本質的に無関係に重要であることに言及することは有用です。このことは比較的最近まで理解されていませんでした。

選択状態集合が古典的実在の量子対応物の良き候補と考え得るのは、正にその安定性にあります。実際、予測可能性のふるいに関するごく最近の研究だけが、現出する古典特質についてのより根元的、一般的な理解を可能にしました。

 古典特質の現出における量子システムの「開放性」の役割についての真剣な研究を遅らせたと思える先入観は、それ自体宇宙についての古典的思考法に根ざしています。古典物理学の文脈では、すべての原理的問題は常に閉鎖システムの文脈で解決されてきました。

 隔離を確かなものにする標準的な戦略は、システムの拡大を必要としました。すなわち、周辺の環境を含めることによって。期待されたのは、このやり方で常にいかなる開放システムもより大きな閉鎖システムに還元できることでした。この戦略は実際に古典物理学において役立ち、拡大はエネルギーあるいは運動量のような量の保存則を満足させる助けになります。

 それは下記の量子の場合には破綻します。なぜならこの場合それが拡散を防止しなければならない情報(システムの状態についての)だからです。情報は問題のシステムがより大きくなれば収容するのがより困難になります。かくして最終的に、真に隔離された巨視的システムだけが全体として宇宙になります。そして我々観察者は、確かに外部からそれを研究するという立場ではありません。

 どういう意味で選択状態集合は選択的であるのでしょうか?この選択集合の要素の一般的重ね合わせは、混合状態に衰退するであろうことは明らかです。一方、もし初期状態が選択集合の要素一つだけであれば、時間的発展はその状態に最低限に作用し、状態は環境とエンタングルすることに抵抗するでしょう。

 アインセレクション(環境誘起選択)は、かくしてシステム状態の「記録」が環境状態中に動的に(交互作用を通じて)生成される過程と考えることができます。それは交互作用の影響が最小である選択状態の自然集合を現出させる環境によって、システムが常時モニターされている持続的過程です。

 以上素描したように、デコヒーレンスとアインセレクションの物理学的原理は、今にして思えばかなり率直であるように思えます。それらの因果関係を探求することによって、どれだけのものが成し遂げられたのでしょうか?この文脈において自然に浮かび上がり、そして過去20年間にわたり問われ(そしてほとんどの場合答えられた)いくつかの興味深く重要な問題があります。

 第一に、人は自然にこれらのアイデアでどれだけのことが説明できるかを問います(すなわち、それは古典的にふるまうことが知られているすべての事物はデコヒーレンスのためにそのようにふるまうという考え方と一致するのか?)。密接に関連する問題は、デコヒーレンスと結びついた自然時間スケールに関するものです。

 どれくらい早くデコヒーレンスは起きるのか?これはデコヒーレンス過程の第一様相は、もしデコヒーレンスが「可逆的な」古典世界の実在と一致するならば、われわれに驚異の念を残すので、非常に重要な疑問です。かくして、もし古典特質は真に量子開放システムの発現特性であると信じるならば、発現する古典特質の実在は常に、環境へのエネルギー損失のような他の開放性の徴候が付随すると結論したがるでしょう(これは、知られているように、エネルギーを保存しながら古典的にふるまう多くのシステムがあるので問題でしょう)。

 第二に人はまた細部にわたって、どのようにして選択状態集合が環境との相互作用を通して動的に選択されるのか不思議に思います。特に、どのようにしてこのポインター基底がシステムと環境の間の相互作用ハミルトニアンによって決定されるか、また、包含される物理学の他の細部を知ることは興味深いことです。

 第三に、この文脈で浮かび上がる関連した疑問:アインセレクション以外のデコヒーレンスの観察可能な徴候はあるか?

 古典的遷移に対する量子特性および量子測定問題に関する最近の議論の顕著な特徴は、歴史上初めて量子領域と古典領域の境界を制御された方法で調べる実際の実験があったというものです。制御されたデコヒーレンス実験(自然は古典あるいは量子システムを提供しますが、環境との相互作用が意のままに制御できる物体を提供するわけではないので、極めて困難です)は、最近初めて遂行され、この過程の特性を理解する助けになっています。この分野の最も有名な実験のいくつかはパリのEcole Normale Superieureで行われました。

 本稿は2状態システムを用いる量子条件つき力学の導入から始めます。条件付き力学は測定問題の設定およびデコヒーレンスとそれを解決するアインセレクションの両方に対して責任があります。もたらされるモデルは簡単であり、測定過程の理想化された研究に役立たせることができます。しかしながら、それらは明らかに単純すぎて実際的ではありません。古典特質は結局、基本的に十分に巨視的な事物の特性です。

 より一般的な設定でデコヒーレンスとアインセレクションを議論するために、量子開放システムの力学を研究すべきでしょう。

2 量子測定

 本節では測定問題(極めて長期間、量子と古典の関係についての議論を支配していた)を導入します。これはこのレビューのあれやこれや至る所で適用される条件付き力学を研究する機会を与えるでしょう。測定問題を提起するような交互作用は量子システム間のエンタングルを成し遂げるのに必要でしょう。

 それらはデコヒーレンスを実現するのに必要であり、デコヒーレンスは環境誘起超選択(アインセレクション)に通じ、かくして量子と古典の境界で生じる多くの問題を解決します。特に量子状態力学およびエンタングルメントは量子論理の根底にあり、量子エラー補正に充てた本稿の後半部で重要なものになるでしょう。

 予測可能性は間違いなく古典力学の鍵特性の一つと見なされます。一方、量子力学の決定的な特徴は、測定によって現れる確率的な性質にあると考えられます。古典的決定論と量子ランダム性の不一致は、しばしば量子理論の解釈の困難さの原因とされます。

 けれども、古典理論あるいは量子理論の基本式は、完全に予測可能であるべきという要求を実際に考慮しています。特に量子の場合に確かに予測できるものが、しばしば測定によってアクセスできないというのは正しいです。そして逆に言えば、発展している量子システムで測定できるものは、通常、確率的な意味以外では予測できません。

 シュレーディンガー方程式は任意の瞬間における孤立システムの状態を予測することを可能にします。孤立量子システムにおいて動的発展は厳密に決定論的です。この完全な量子予測可能性は、固有状態の一つとして現れる発展状態を有するオブザーバブルの測定者がいる場合に限り有用であり得ます。これらのオブザーバブルは一般に適度な測定機器ではアクセスできず、それ故に興味がありません。

 量子決定論は全体システムの一部に過ぎない観察者にとっては少し有用です。全体的な量子決定論は、(@)外側から量子システムをモニターしている誰かに対してだけ予測能力を持つことができるでしょう。さらに、観察者が(A)測定およびデータ保存のための十分なメモリを与えられていれば、そして(B)当該システムの決定論的発展を計算しモデル化する十分な能力があれば、量子決定論は助けになるでしょう。

 量子宇宙内にとらわれた観察者に対しては、これは明らかに事実と違います。宇宙は存在するもののすべてです。それ故に定義によってそれは閉鎖量子システムです。シュレーディンガー発展の決定論的性質を与えられて、量子理論の解釈に問題があると驚くかもしれません。

 結局、そのような議論でしばしば言及されている解釈上の理念は、決定論的ニュートン力学です。しかしながら解釈上の問題は、量子理論の決定論的ユニタリー発展古典的決定論とは両立しないという事実に起因しています。実際、カオスシステムの研究が示すように、古典力学は量子物理学よりもランダム性の余地があります。

 量子システムの状態は、まさにそれらをモニタリングする行為によってかき乱されます。観察行為と結びついた基本的な予測不可能性は、観測者が事前にオブザーバブル(可観測量)を無事に測定できる方法を知っていない限り避けられません。量子情報のこの特性は、量子暗号の安全性を保証するために必須です。

 量子システムの状態は、観察がメッセージの所定の受け手と同じ基底で行われない限り、盗聴者によって見つけ出されることはありません。「ノークローニング定理」は量子情報の複製を阻止します。増幅は重ね合わせの原理と結びついた対称性を破壊することにつながります。

 環境誘起超選択則は観察者が盗聴に成功し、障害となる環境なしで量子システムから有用な情報を抽出できるようにします。なぜなら(量子暗号で適用された戦略と対照的に)環境によってなされる測定は少数のオブザーバブルに限定されているからです。システムの状態はそれ故必然的にprecollapse(前崩壊)”であり、これらのオブザーバブルとともに変化します。

 観察者によってなされるさらなる測定は、物事の事前の状態を(かき乱すよりもむしろ)明らかにするだけでしょう。かくして、環境誘起デコヒーレンスは「リアリティ」の不変の印象に対する正当化を提供します。微視的領域で出会うオブザーバルと対照的に、巨視的量子システムは量子状態の前もって選ばれた(ポインター基底)集合の一つにおいてのみ発現できます。

 このように考えた「波束の崩壊」は、正に可能な事象が実際に起こるのを見いだすというおなじみの古典過程です。選択肢間の衝突の危機は、観察者が包含されるずっと前にデコヒーレンスによって解消されました。

 そもそもどのようにして、おなじみの古典的決定論古典的ランダム性の組み合わせが明らかになるような解決を期待できるのでしょうか?後世においてのみ詳細に正しさが証明されるであろうと予想される結果を承知の上で、量子決定論は孤立量子システムの初期状態を知っている観察者のとってのみ適切であろうと指摘します。

 量子宇宙に埋没している量子観察者に対して、これは極めてまれな例外であり、注意深く制御された研究室実験およびかなり小さな量子システムにおいてだけ到達できます。情報容量、メモリおよび(巨視的ではあるが比較上小さい)宇宙のサブシステムである観察者の情報処理能力は、宇宙全体はおろか小さな量子システムでさえシミュレートする課題と比較して非常に小さいのです。

 そして宇宙全体の状態を知る観察者という理念が実現不可能であると認識されると直ぐに、観察者と彼が記録したオブザーバブルの両方の状態の「環境モニタリング」が重要になり始めました。デコヒーレンスメモリを持つ観察者は、彼のメモリビットのアインセレクト状態においてのみ確かな記録を保持できます。記録はそれらが宇宙の残りの部分のアインセレクトされたオブザーバブルと相関している時だけ予測能力を持つでしょう。

.1 ビット単位の測定および量子エンタングルメント

 量子決定論から古典的確定性への移行の問題は、量子測定の解析によって最も鮮やかに描かれています。量子システム(および対応オブザーバブルの測定結果)は、決定論的ではありません。通常の教科書の議論では、このランダム要素は量子システムが古典的装置と接触するときはいつでも引き起こされる「波束の崩壊」のせいにされます。

 その問題の完全に量子的な議論において、この論点は宇宙の状態ベクトルの全体的な決定論的量子発展の代わりに(あるいはむしろそれ故に)未だわき起こっています。実際、フォン・ノイマンによって、測定の量子解析において注意深く指摘されているように、測定の純粋ユニタリモデルにおいて「実際の崩壊」に対する余地はないように思えます。

 次の困難さを明らかにするために、フォン・ノイマンとともに、初期状態の量子装置と相互作用する初期状態の量子システムを考察します。相互作用は一般にエンタングルした最終状態をもたらすでしょう。

          (1)

 ここで、およびは各々装置とシステムのヒルベルト空間内の状態であり、は複素数の係数です。この遷移はユニタリーシュレーディンガー発展の方法で遂行できます。それはやっかいな結論に導きます。の相互作用が実現できるすべてのことは、測定装置(あるいは観察者)を初期状態と呼応したすべての可能な結果についてEPR同様のエンタングル状態にしています。

 操作上、事前測定(式(1)によるステップとしてしばしばそう呼ばれる)から生起するEPR類似特性は、合計を異なる基底で書き直すことによってより明確にすることができます。

          (2)

 ここで行ったことのすべては、重ね合わせの量子原理によって保証された選択の自由を悪用して、装置とシステムの両方に代替基底を用いることです。それ故に、もし装置(観察者)の状態を分離状態と結びつけるのであれば、特定の測定結果について質問を開始できる以前でも、どのようなの分離が用いられるべきかを決定しなければならないでしょう。なぜなら、基底の変更は測定量の再定義に相当するからです。

 事前測定相関が達成された後、同一量子システムに追加測定を行うことによって、劇的以上とさえ言える量子と古典の衝突を作り出すことができるでしょう。式(2)に従って、そのような追加測定はシステムの任意のオブザーバブルを選択し、装置の対応する状態を特定する能力を持つでしょう。

 しかし、無限の方法でを書き換える自由を考えると、このの状態は、いかなる妥当な判断でも完全に「非古典的」な式(2)の合計のほとんどどのような選択にも対応しており、量子システムの初期状態に依存するでしょう。

 量子領域においては、そのようなエンタングルメントはその擾乱結果とともにありふれたことに違いありません。実際、「シュレーディンガーの猫」の状態は、最近原子物理学実験によって成就しました。ボールダーのNISTグループは内部状態(ここでは励起と基底に対して各々で表した)と位置(左あるいは右に対してあるいは)の相関を達成するように処理しました(トラップ内の単一イオンをレーザーで操作)。

 最終的な相関波動関数は事前測定のEPR類似形式を持ちます。

          (3)

 ここで

          (4)

 は基底と励起状態の重ね合わせです。この全く同じはそれ故次のように書くことができます。

          (5)

 かくして、「原子猫」の同じ相関状態は二つの非常に異なったように見える方法で説明できます。それらは、なおさら多義的な相関特性の可能性を含んでいます。第一の方法(式(3)参照)で示したように、原子猫は基底と励起状態の重ね合わせとして定義された内部状態に依存して、二つの択一的な位置の一つにいることができます。

 第二の方法(式(5)で与えられる)では、原子の自然な内部状態は、まさに非古典的状態(二つの位置における原子の重ね合わせ)と相関しています。モンローらは、式(5)の分離に相当する基底にある原子の内部状態を測定し、それが実際にプラスまたはマイナス記号(“偶”または“奇”シュレーディンガーの猫)を伴うの重ね合わせにあることを検証しています。

 この「子猫」の原子サイズを考慮すると、二つの異なった大きく隔たった位置の重ね合わせで現れる能力は、驚くべきことかもしれないし、そうでないかもしれません。しかし、この最近の実験がもたらす意味は、解釈問題の中心にあります。

 もし量子原理が宇宙的に正しければ、正に非古典的なシュレーディンガーの猫のような状態は、量子システムを測定する装置に対して、そして実際にありふれた巨視的システムに対して一般的に普通であるべきです。

 人は任意の大きさの対象物を微視的システムの量子状態とエンタングルし、これらの量子対象物をいくつかの任意の基底で測定することによって、意のままにそのような非古典状態を用意できるべきです。もしそのような出来事の順序が一般的であれば、古典対象物はほとんど常に正に非古典的重ね合わせ状態にあるでしょう。

 量子理論はこの大混乱を強制します。しかし、我々はとりわけ測定過程では決してそれに出会うように思われません。量子理論の解釈の任務は、理由を理解することです。コペンハーゲン解釈ではこの問題は決して起こりません。

 なぜなら、装置は定義によって古典的であるからです。しかしながら、もし量子理論の普遍性にこだわれば、上述の困難は避けられません。それは例えばエヴァレットの多世界解釈において現れます。それは事実最初は「相対的状態解釈」と呼ばれていました。

 エヴァレットおよび他のMWI哲学信奉者は時々、相関性を議論するだけにすべきであると強く主張することで、この疑問を迂回しようと試みました。相関性は実際この問題の中心ですが、量子形式主義は十分に単純なのでそれらを計算する方法を説明するには十分ではありません。

 代わりに必要なのは、式(2)に含意された基底選択の恣意性にもかかわらず、いくつかの状態は相関を保持するがほとんどのものはそうでない理由の説明です。あるいは同等に、必要なことは一般的な量子エンタングルメントの損失、ただし古典的相関の選択的保持の説明です。この相関はその起源においてはまた量子ですが、重ね合わせ原理の精神に違反して、一貫して量子の同一基底を特定します。

.2 量子測定における相互作用および情報伝送

 被測定システムと装置間の相関を達成するのに必要な相互作用(式(1))は、「コントロールド・ノット」あるいはc-notとして知られる基本論理操作の一般化と見なすことができます。古典的に、c-notは制御ビットが状態1のときターゲットビットの状態を変更し、さもなければ何もしません。

     

           (6)

 量子c-notは式(6)の直接的な量子バージョンです。それは制御ビットとターゲットビットの任意の重ね合わせが許されるということだけが古典的な場合と異なります。

          (7)

上記の状態の「否定記号」は下記によって定義される基底依存作用素です。

          (8)

 c-notと事前測定の間に明白な対応を有することは、およびと同定するのに十分です。

 古典的なc-notにおいては、情報伝送の方向は常に二つの関係するビットの記号表示と呼応しています。制御ビットの状態はターゲットビットの状態を制御している間変化しないままです。論理基底の項で書くと、量子c-notの真理値表は必然的に(すなわち、重ね合わせの可能性は別として)式(6)と同じです。

 それ故に情報伝送の方向および2キュービットの記号表示(「制御/システム」および「ターゲット/装置」)もまた、古典的な場合のように明白であろうと予想するかもしれません。この期待はしかしながら、制御あるいはターゲットビットに対してアダマール変換を通して得られる共役基底での過程を示すことで立証され得るように間違いです。

          (9)

 重ね合わせの原理(それは式(9)の記述を許す)と関連して、式(6)の真理値表は新しい相補的真理値表をもたらします。

          (10)

 すなわち、相補的基底において、制御およびターゲットビットの役割は反転します。式(10)の第2ケットで示された元のターゲットの状態は、新基底では影響されずに残り、元の制御ビットの状態は条件付きで「反転」します。

 上記c-not(あるいはビット単位測定)において、適切な相互作用ハミルトニアンは

     

                       (11)

 上記では結合定数、パウリ行列でシステム(すなわち元の制御ビット)および装置ポインター(元のターゲットビット)をそれぞれ参照する二つの作用素。システムの状態によって影響されないことを理解することは容易です。なぜなら

          (12)

 かくして、測定(制御)オブザーバブルによって生成された発展下で運動の定数です。装置(論理状態間の位相についての情報をコード化する)の状態は、ぴったり同じ「免疫性」を持ちます。

          (13)

 従って、装置が(明確なポインター/論理状態よりもむしろ)明確な位相状態で用意されるとき、それは真理値表が示すように(式(10))その位相をシステムに手渡すでしょう。実際、アダマール変換基底で書き直すことができます。

     

            (14)

 これは式(11)に比べてこの「免疫性」が明白になります。

 量子c-not(あるいは事前測定)における情報の流れの基底依存方向は、相補性の直接的な結果です。それは固有状態のオブザーバブルに関する情報は、相補性基底において被測定システムから装置へ移動しますが、システムによって測定されているのは装置であるように見える、と記述することで要約できます。

 この観察はまた、位相は測定中に必然的にかき乱されるという感触を明確にします。それらは実際には破壊されませんが、むしろ装置がシステムのあるオブザーバブルを測定するように、システムは装置の可能な結果の状態間の位相を「測定」します。環境と連結した巨視的装置の位相は急速にそして抑えきれないくらい変動します。かくして位相コヒーレンスの破壊に導きます。

 しかしながら、このデコヒーレンスの結末状態がなんとかして防止(すなわち、装置ポインターを環境から完全に分離することによって)できたとしても、装置の結末状態間に前から存在する位相は、内にある間、「測定準備完了状態」と同時に知られなければならないでしょう。これは二つの非可換オブザーバブルの同時知識を要求し、それ故ハイゼンベルグの不確定性のために不可能です。

 「二つの交互作用しているシステムのどちらが測定装置なのか?」(それは情報の流れの方向によって決定されるべきである)という疑問さえも初期状態に依存しているように見えます。「古典的実践」においては、装置の初期状態が決して観察者の気まぐれで選択できないため、このあいまいさは生じません。アインセレクションは装置の可能状態集合を、ヒルベルト空間で利用できるすべての状態の小さな部分集合に制限します。

.3 環境によるモニタリングおよびデコヒーレンス

 本節では、どのように量子―古典一致がデコヒーレンスとアインセレクションによって回復され得るかを見るでしょう。これらは環境による古典たるべきオブザーバブルのモニタリングによって引き起こされます。環境は当該システムと共役している任意の自由度集合として定義され、それ故エンタングルするようになるその状態をモニターできます。

 環境は外部的(空気分子あるいは散乱光子、いわゆる装置ポインターのような)あるいは内部的(例えば、フォノンの集まりあるいは装置を作っている材料における他の励起)であり得ます。しばしば環境的な自由度は、自由度の源集合がいくつかの集合的オブザーバブル(位相転移におけるオーダーパラメータ)である「当該システム」と「微視的残余」に分裂することで現れます。

 重ね合わせ原理は量子システムが閉鎖系であるときのみ適合します。システムが開放系であるとき、環境との相互作用は必然的に環境自由度によるいくつかのオブザーバブルの絶え間のない「モニタリング」をもたらすでしょう。これは純粋状態の混合状態への劣化をもたらすでしょう。

 これらの混合状態はしばしば(極めて頻繁に)、システムおよび環境の初期状態にほぼ依存しないが、相互作用ハミルトニアンの決定的な助けで選択される「選択状態」の同一集合における対角要素になるでしょう。このデコヒーレンス過程は、ヒルベルト空間内に存在するすべての可能な重ね合わせの相対的「適合性」を決定します。結果として生じた「自然選択」は古典的実在の現れの原因になります。

 常時デコヒーレンス状態の集合は、しばしば測定問題におけるその役割を認めて「ポインター基底」と呼ばれます。ポインター状態の選択基準はもっぱら密度行列瞬時固有状態に基づく頻繁に反復される特性記述を超えてうまくいきます。絶対不可欠なものは、外部自由度によるモニタリングを生き延びるアインセレクト状態の能力です。

 この発見的な基準は、古典候補あるいは関連するポインターオブザーバブルの発展予測性を定量化することによって厳密にすることができます。簡潔に言えば、ポインターオブザーバブルの測定は、付加的な初期状態を与えます。システムの開放性にもかかわらず、その結果は他のヒルベルト空間選択肢よりも予測の目的に適用できます。

 選択(ポインター)オブザーバブルと関連した状態の復元力とそれらの重ね合わせの脆弱性の対比は、ハイゼンベルグの不確定性原理によって解析できます。環境は相互作用ハミルトニアンによって決定される正確さでオブザーバブルをモニターします。かくして環境によってモニターされたオブザーバブルをたまたま変化させる測定だけが、予測のために首尾良く適用できる有用な記録をもたらすでしょう。

 対照的に、任意の重ね合わせにおける測定によって用意されたシステムはまた、環境によってモニターされるでしょう。それはポインターオブザーバブルと関連しようとするでしょう。観察者によって用意された初期の重ね合わせが環境によってモニターされたオブザーバブルと交換しなければ、ハイゼンベルグの不確定性は観察者の記録が予測目的に対しては無用であることを暗示します。

 ポインターオブザーバブルについて、環境によって連続的に遂行されたモニタリングは、ポインター状態を別にすれば何についてもつまらない選択をします。

 3量子システム−被測定システム、装置ポインターまたは観察者のメモリー、および環境−とそれらの相関は下記議論の主題になるでしょう。量子測定においては共役でしょう。量子エンタングルメントはの相互作用の結果として、効果的に古典的な相関に変換されるでしょう。

 いずれにしても環境によってアインセレクトされた状態は注目の的でしょう。において、それらは情報の貯蔵所であり、装置のポインター状態あるいは観察者のメモリー状態としての役目を果たすでしょう。システムはそれがアインセレクションの対象であり、がそのアインセレクト状態の記録を保持しているとき、効果的に古典的に見えるでしょう。

 この三つ組み(またはそれと酷似の三角形)は注意深いデコヒーレンス研究とその帰結のために必要です。心中にこの三角形の3コーナーすべてを保持することで、密度行列の瞬時固有状態の関係についての混乱を避けることができます。この3システムという文脈は、観察者のメモリーと被測定システムの相関の跡を保持するのに必要です。

 量子エンタングルメントから古典的相関への発展は、操作上定義するのに最も容易で適切な主題かもしれません。相関関係についてのこの焦点にもかかわらず、本節ではしばしば上記三角形の一角を式を簡単化するために削除するでしょう。三角形の3部分すべてはしかしながら、我々が提起する疑問の定式化およびわれわれが考案する古典的特質基準の動機付けの役割を果たすでしょう。

.4 ビット単位測定に対する1ビット環境

 デコヒーレンスの単一作用についての最も単純な議論はちょうど3つの1ビットシステムを含みます。それらは指定された役割に対する明確な言及において、およびで表されます。測定は被測定システムと装置の相互作用で始まります。

          (15)

 ここで、一般状態に対して

          (16)

 これらの式はすでに議論してきたc-not類似事前測定の例です。以前に指摘したように、この形式の相関状態は測定が行われたと主張するには十分ではありません。に伴う最大の問題は基底多義性です。式(16)はEPR状態のボームバージョンと同じエンタングルメントだけを示しています。

 この単純な例における基底選択の多義性は、装置の事前測定を行う一つの付加システムの助けで解決することができます。結果として、

     

              (17)

 ほんの少ししか相関および関連問題に導いた反復過程によって遂行されていないように見えるかもしれません。しかし、それは事実とは違います。3つの相関量子システムの収集はもはやEPR類似状態との関連で指摘した基底多義性を対象とはしていません。これは環境の状態が装置−システム結合の単純な帰結と相関しているときに特に真実です。上式(17)において、これは(およびの値と関係なく)次の記述を保証できます。

          (18)

 この条件が満足されているとき、ペアの記述は縮小密度行列という形で容易に得られます。

     

            (19)

 この縮小密度行列は古典的相関に対応する項だけを含みます。

 もし式(18)の条件が適用されなければ、すなわち、もし環境の直交状態が最初の事前測定が行われた基底において装置と相関していなかったら、そのときは縮小密度行列の対角項は状態およびの単純な帰結よりもむしろ帰結の合計になるでしょう。その状況の極端な例は純粋状態の前デコヒーレンス密度行列です。

     

              (20)

 その固有状態は単純にです。拡張すると、は二つの部分空間における状態のテンソル積からなる自然基底において表現するとき、非対角項を含みます。環境全体にわたるトレースの結果としてのそれらの消滅は、基底多義性の消滅を示唆します。

 もちろん古典的な場合とは概念的な差異があります。古典力学では結果は予定されていると考えることは原理的に可能です。量子力学では、これは原理的にも通常不可能です。しかしながら、その区別は一般的に観察者に利用できるものよりもっと完全な知識によってだけ行うことができます。

 この単純な場合に現れるポインターオブザーバブルは特徴づけるのが容易です。装置と環境の相互作用ハミルトニアンはc-notと同じ構造をもつべきです。それは装置のポインターオブザーバブルの関数であるべきです。

          (21)

 従って、環境の状態はポインターの状態の様相を示すでしょう。c-notの議論で指摘したように、は直ちにがコントロールであることを含意し、その固有状態は保存されるでしょう。

 「1ビット測定」による量子コヒーレンスの消滅は、中性子で、より最近では原子干渉分光法で実験的に検証されました。ここで議論した量子測定の単一作用は、古典的特質の出現をもたらすのに必要な連続モニタリングの簡単な離散的事例と見なされるべきです。

.5 単一キュービットのデコヒーレンス

 他のデコヒーレンス例はスピンの環境と相互作用している2状態装置によって与えられます。それはちょうど他の2状態システムと考えることができ、そういう気持ちで本節においてとして2装置状態を同定します。デコヒーレンス過程は装置ポインターの状態に明確には制限されていません。それで、これらの2ポインター状態の一般候補はいかなるシステムにも帰属し得ます。

 この状況の最も単純ではあるがかなり説明に役立つ例は、装置の自己ハミルトニアンが消滅し、のとき現れ、交互作用ハミルトニアンは次式で与えられます。

          (22)

 このハミルトニアンの影響下で初期状態は

          (23)

 次式のように発展

          (24)

 ここで

          (25)

 縮小密度行列はそのとき

          (26)

 係数は非対角項の相対サイズを決定します。それは次式で与えられます。

          (27)

 環境のk次スピンが最初に相互作用ハミルトニアンの固有状態に無ければ、生成への寄与は1より小さいでしょう。従って、多くの(N)スピンと大きな時間帯からなる大きな環境に対して、非対角項は典型的に小さいのです。

          (28)

 この効果はブロッホ球の助けで図解できます。いかなる2状態システムの密度行列も3-D空間の点で表すことができます。前に用いた係数a,b,およびr(t)によって、ρ(t)を表す点の座標は:。状態が純粋の時、、純粋状態はブロッホ球の表面にあります(図1)。状態が混合のとき、それを表す点はその球の内側にあります。



図1 ブロッホ球におけるデコヒーレンスの動作

デコヒーレンスはブロッホ球において、状態を極における二つのポインター状態によって定義される「垂直軸へ移動」するように誘導する過程として見ることができます。古典領域はまさに二つのポインター状態で構成されます。古典中心核はポインター状態のすべての混合の集合です。

 2状態システムの考え得るいかなる(ユニタリーまたは非ユニタリー)量子発展も、純粋状態である表面のブロッホ球内部の楕円への変換と考えることができます。デコヒーレンスによって引き起こされるブロッホ球の変形は、そのような一般的な発展の特別な場合です。

 デコヒーレンス過程はaまたはbに影響しません。従って、デコヒーレンスだけで引き起こされる発展は、一定のz平面内で生じます。ブロッホ球を貫通するそのような「薄片」は、最大距離の一部での状態を表す点を示すでしょう。

 複素数は、相互作用ハミルトニアンのエネルギー固有値間の差によって与えられる周波数で回転し、初期状態のエネルギー固有値を見いだす確率で重み付けされた複素位相係数の合計として表すことができます。

          (29)

 添字は相互作用ハミルトニアンの環境の部分エネルギー固有状態を示します(環境スピンのおよび状態のテンソル積)。二つの完全なエネルギー固有状態および間の対応固有値差は

          (30)

 の異なる状態があり、そして縮退がなければ同数の異なるがあります。確率は次式で与えられます。

          (31)

 言い換えると、これは特有のの積の二乗の項で容易に表されます。

 式(29)で与えられたの発展は、異なる周波数での複素ベクトルの回転の結果です。結果としてのは振幅1で始まり急速にほぼ次式に等しい値に「崩壊」します。

          (32)

 その意味では、デコヒーレンスはシステムの数(本節の例ではスピン)とともに指数関数的に効果的(期待された非対角項の大きさは環境の物理的大きさNとともに指数関数的に速く減少する)です。結局いかなる初期状態もデコヒーレンスの結果として、z軸に漸近的に近づきます。

 アインセレクションの効果は環境の初期状態に依存することに注目します。次固有状態にあり、であるとき、環境は「コントロール」の固有状態にあるので、システムのコヒーレンスは保持されるでしょう。この状況はしかしながら、環境の自己ハミルトニアンが一般にを変化させないので、現実の環境では起こりそうもありません。

 さらに、のときでさえハミルトニアンのエネルギー固有状態の環境を見いだすことは極めて起こりそうもないように思えます。そのような固有状態の固有値は、大きなシステムにおいて密集して結びつけられており、それ故にそれらは環境との相互作用によって容易にかき乱されるでしょう。さらに、相互作用ハミルトニアンの部分固有状態は、任意の重ね合わせの間では指数関数的にまれです。

 ブロッホ球の内側のデコヒーレンスによって誘起された流れの幾何学は、次のようなより大きなヒルベルト空間におけるデコヒーレンスを含む、より一般的な物理状況で直面する特性を提示します。

 (@)すべてのアインセレクトポインター状態(ここでは)からなる純粋準古典状態の領域。ポインター状態はデコヒーレンスによる影響が最も少ない(ここでは無影響)純粋状態です。

 (A)確率分布の古典的中心、すなわちポインター状態のすべての混合。図1においてそれはz軸の断面[-1,+1]に相当します。

 (B)空間の残余−ブロッホ球の体積の残余−より一般的な密度行列からなる。デコヒーレンスの結果として、ヒルベルト空間のその部分はアインセレクションによって「除外」されています。

 ヒルベルト空間のデコヒーレンス誘起分解の視覚化はここで研究した単純な2次元ケースではまだ可能ですが、要素(@)(A)の存在は一般的特性です。それはすべての環境下の古典特質の現れを特徴づけます。それ故後でこの議論の過程で発展させた直感的真実に訴えます。しかしながら、デコヒーレンスがシステムの自己ハミルトニアンによって誘起された発展と組み合わされるとき、あるいはそれが環境に対するより複雑な結合によって引き起こされるときに生じうるいくつかの現象を先取りすることは有用かもしれません。

 (a)平衡への接近はポインター基底の対角要素に影響を及ぼし、それで密度行列は時間非依存分布(無限大温度での熱へ移行に対するあるいは縮退に対するのような)に漸近的に近づくでしょう。これはブロッホ球のいくつかの特異点(すなわち、上記の二つの例における中心または「南極」)に向かう流れに相当します。

 しかしながら、デコヒーレンスが支配するとき、流れはブロッホ球内のどこかから出発し、急速に(デコヒーレンス時間尺度で)z軸上(古典中心核)の点に集まるでしょう。この後によりゆっくりした緩和、緩和時間尺度でおおよそz軸(そしてそれ故必然的に古典的中心核内で)に沿う流れが続くでしょう。

 (b)ほぼ可逆の古典力学は、システムの自己ハミルトニアンが古典中心核内のエントロピー一定表面内で動きを生成できるとき、デコヒーレンスと共存できます。ここで考慮した事例において、中心核は一次元であり、その内部のエントロピー一定の部分空間はゼロ次元です。それ故に、それらの内部の連続的等エントロピー動作を生成することは不可能です。

 ほぼ等エントロピーであるようなより上等な力学を伴う多次元ヒルベルト空間において、ほぼ可逆な発展はしばしば可能であり、古典限界内で軌跡の理想化を可能とします。

 (c)ヒルベルト空間の古典中心核と残余の峻別は理想化した状況(あるいは、h→0,質量→∞等のさらにより理想化された「数学的古典限界」)においてのみ可能です。現実的な状況において、要求されるすべては古典中心核の内外のエントロピー生成速度の明確な対比です。

 予測可能性のふるい(エントロピー生成速度がアインセレクト状態に対して最小化されるべきであることを実質的に要求する好適なポインター状態の選択基準)についての議論において、そのような基準を精緻化するでしょう。ここで議論した事例において、ポインター状態は明らかにこの基準を満足し、エントロピー生成は古典領域でゼロになります。

 より一般的な状況においては、同様には幸運ではないでしょう。例えばカオスシステムの事例では、エントロピーは古典中心核においてもまた生成されるでしょう。ただし古典力学で(すなわち、環境との結合よりもむしろ自己ハミルトニアンによって)設定された速度および古典中心核の外側よりもっとゆっくりと。

.6 デコヒーレンス、アインセレクションおよび制御された遷移

 デコヒーレンスについての上記議論は、システム、装置及び環境が多くの状態を持ち、それらの相互作用がより複雑であるような状況へまっすぐに一般化できます。ここでシステムは分離され、主に装置とだけ相互作用すると仮定します。その相互作用の結果として、装置の状態はシステムの状態とエンタングル状態になります。

 c-notとの類推によって、この条件付操作をc-shiftと呼ぶでしょう。この量子相関は前述の基底多義性からもたらされます。エンタングルメントは2システムのいずれかのいかなる状態に対しても、他の対応する純粋状態が存在することを含意しています。

 実際、の初期状態が共役基底の固有状態の一つであるように選択されるとき、このc-shiftは等しく十分にシステムによる装置状態(に対する共役基底において)の測定を表します。

 かくして、それはまさに多義性の基底ではなく、共役基底が選択されるときコントロール(システム)およびターゲット(装置)の役割が逆転し得ます。ペアに対して存在するこれらの多義性は環境の役割を認識することで取り除くことができます。

 デコヒーレンスは、いくつかの固定基底において、装置の状態を「測定」し環境下の測定結果を記録する一連のc-not(あるいはc-shifts)によって、図2に図式的に表されています。良き装置に対する要求は、システムの被測定オブザーバブルといくつかの「ポインターオブザーバブル」の相関を保持することです。



 図2 デコヒーレンスの概念図

(a)デコヒーレンスは環境によるシステムの状態のモニタリングの帰結と見なすことができます。これはここでは装置のポインター状態がコントロールとして作用し、環境はターゲットである一連のc-notゲートによって象徴的に表されています。
(b)デコヒーレンスとノイズの区別は選択基底における情報の流れの方向に依存しています。選択基底は環境から導かれたc-notの数を最小化します。

 これはの間のc-shiftがシステムの状態を環境によってモニターされる(ただしかき乱すことなく)装置のオブザーバブルと相関させるときに起こるでしょう。すなわち、理想化された測定において、システムの被測定オブザーバブル c-shiftに対するコントロールの役割をしています。

 うまく設計された装置において、ポインターオブザーバブル c-shiftのターゲットですが、 c-shiftのコントロールです。装置のポインターオブザーバブルの固有値は、通信チャネルのアルファベットの役割をします。それらはシステムの状態を符号化し、環境との相互作用にもかかわらず相関を保持します。

 図2のグラフは、環境との相互作用にもかかわらず、ノイズのない古典通信チャネルを与える理想化されたデコヒーレンス過程の核心を捕らえています。これはポインター基底において、 c-shiftは相互作用ハミルトニアンの運動の定数であるポインターオブザーバブルをかき乱すことなく作用するので可能です。

 一連のc-shiftとしてのデコヒーレンス過程をグラフ表示することの有利な点はその単純性と暗示性にあります。しかしながら、デコヒーレンスの実際の過程は、通常連続した相互作用によって引き起こされます(ほぼ離散c-shiftに分割できるだけであるように)。さらに量子論理回路で用いられるc-notとは対照的に、環境に記された記録はたいてい多くの自由度にわたって分配されています。

 大事なことを言い忘れましたが、装置(あるいは他のいかなる開放システム)のオブザーバブルは、ノイズ(デコヒーレンスではなく)の影響を受けるか、あるいはポインター状態をそれらの重ね合わせになるように回転させるやり方で発展するかもしれません。

 デコヒーレンスの基本的物理は、装置との相互作用結果として環境によって遂行される、単純な事前測定類似の過程です。

     

              (33)

 デコヒーレンスは、異なるポインター状態に対応する環境状態が直交するときアインセレクションに導きます。

          (34)

 この直交性条件が満たされるとき、状態ベクトルの複合サブシステムおよびへのシュミット分解は、直交環境状態のパートナーとして積状態を与えます。相関しているがデコヒーレントされたペアを記述する密度行列は、よって

          (35)

 ペアの縮小密度行列は積状態において対角です。

 表記上の単純さのために、しばしば環境(ここではシステム)と相互作用しないものへの言及を放棄するでしょう。それにもかかわらず、相関の維持はポインター基底を定義するのに用いられる基準であることに留意することは有用です。環境と接触して発展する単一対象の密度行列は同じ(瞬時の)シュミット基底において常に対角でしょう。この瞬時対角性は古典特質の唯一の基準として採用されるべきではありません。

 むしろ、環境への結合にもかかわらず相関を保持するいくつかの状態集合の能力が「古典的実在」の出現に決定的です。これは量子測定において特に明らかです。装置との相互作用が次式で表されるとき、基底はかき乱されないまま残されます。

          (36)

 よって、状態とのいかなる相関も維持されるでしょう。そして定義によって、相互作用ハミルトニアンの共役対角は効果的なポインターオブザーバブルでしょう。だから、ハミルトニアンがに依存するとき、とともに変化します。

          (37)

 さらに、相互作用ハミルトニアンのオブザーバブルへの依存性は、環境によるオブザーバブルのモニタリングの明確な前提条件です。

[出典]
1.J.P.Paz et al.:Environment-Induced Decoherence and the Transition from Quantum to Classical/Fundamentals of Quantum Information, Springer(2002)

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