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「コラム」ページの開設について
 既存のカテゴリーに入らない情報通信関連の話題、豆知識、エッセイ、ショートショートなど全般を対象とする肩の凝らないページです。皆様からの原稿をお待ちしていますので、ふるって投稿していただきますよう、よろしくお願い申しあげます。投稿は執筆者名(ハンドルネームも可)を明記の上、メールで事務局に送付してください。できるだけ添付ファイルなしの平文でお願いします。


【コラム80:量子ビット】                 (2005/07/11作成:tuusinsya)

 2005年7月8日付のIT Proコラムに、「量子ビットの新しい候補が登場」と題して、量子コンピュータの素子に関する記事が掲載されていました。参考になると考えますのでご紹介します。
[出典]
[http://itpro.nikkeibp.co.jp/members/NBY/ITARTICLE/20050627/163387/]

量子ビットの新しい候補が登場

カーボン・ナノチューブで人工原子

 理化学研究所と科学技術振興機構は,カーボン・ナノチューブに閉じ込めた電子が,自然の原子の中に存在する電子と同じように振る舞うことを実験により確認し,2005年5月10日に発表した。このような「人工原子」はこれまでGaAsといった化合物半導体を用いて作成した例があったが,カーボン・ナノチューブで成功したのは世界で初めて(人工原子については下記参照)。

 人工原子は,1個の電子で動作する単一電子トランジスタなどナノデバイスへの応用で知られる。しかし最近では,量子コンピュータの計算単位である量子ビットとしても注目されている。電子には2種類の値(上向きと下向き)をとる「スピン」という性質があるが,このスピンを使うと比較的安定性の高い量子ビットを作ることができると考えられるからである。

 量子ビットは現在のコンピュータのビットと異なり,同時に0でも1でもある「量子重ね合わせ」の状態で計算が進行する。しかし一般に量子重ね合わせ状態を作ることは難しく,電子のスピン以外では実験に成功する例もいくつかあったが,電子のスピンではこれまで実現されたことがなかった。そのため半導体で作った人工原子を使って,電子のスピンの量子重ね合わせ状態を作る(すなわち量子ビットを作る)競争が世界中で行われてきた。

 今回のカーボン・ナノチューブによる人工原子の実現は,電子スピンによる量子ビット実現のチャンスを広げるものである。またカーボン・ナノチューブが細長い形状をしていることから,分割して複数の量子ビットを実現する上で有利ということも想定される。

 ただし,理化学研究所と科学技術振興機構もまだ電子スピンの量子重ね合わせ状態を実現してはおらず,半導体の人工原子と比べてどちらが有利かは予断を許さない。

原子内の電子と同様の振る舞いを確認

 今回の人工原子は,直径1nm,長さ300nmのカーボン・ナノチューブで実現した(図1)。チューブの両端に電極があり,その間に電圧を加えることによって,チューブ内に電子を1個ずつ注入していくことができる。



図1カーボン・ナノチューブによる人工原子
直径1nmのチューブの中に電子を閉じ込めると,原子内の電子と同様に振る舞うようになる。SWNTはSingle Wall Carbon Nanotubeの略。

 自然の原子には「エネルギー準位」と呼ぶ定常的な状態があり,ある準位から別の準位に移るときにエネルギー(光)を吸収したり放出したりする。このような量子力学的な振る舞いの典型的な現象が「ゼーマン効果」である。これは原子に磁場をかけるとエネルギー準位が分裂する現象で,電子が1個の場合はスピンの向きが二つあることに対応して準位も二つに分かれる(図2)。


図2ゼーマン効果
原子のエネルギー準位は磁場をかけることによって分裂する。19世紀末に発見された現象で,その後の量子論成立のきっかけとなった。

 電子が複数ある場合には,電子間の相互作用が絡んでエネルギー準位のより複雑な分裂現象が見られる。今回はそのいずれの場合も確認した。研究の中心となっている理化学研究所の石橋幸治主任研究員は,これまでの半導体による人工原子の実験に比べ,ゼーマン効果をより明瞭に確認できたとしている。

 また,自然の原子は「電子殻」を持つ。これは,原子核の周りに存在する電子の配置を示すもので,最も内側の殻に2個,その次の殻に8個,といった構造を採る。例えば電子1個の原子はH,2個はHe,そして10個がNeである。これにより,殻がちょうどいっぱいになる電子2個や10個の原子(希ガス族)は,安定していてイオン化しにくいという化学的性質を持つ理由が説明できる。カーボン・ナノチューブを使った人工原子でも,電子殻が存在することを確認した。ただし自然の原子と違い,電子は一つの殻に4個ずつ入る*。これは,人工原子内のポテンシャル・エネルギーが自然の原子や半導体人工原子と違って,図3のような形をしていることによる。


図3カーボン・ナノチューブによる人工原子の電子配置とエネルギー
カーボン・ナノチューブの中ではポテンシャル・エネルギーが「井戸型」になっており,各エネルギー準位には4個ずつ電子が配置される。

 これまで固体素子による量子ビットでは,ジョセフソン接合を利用したものや隣り合う二つの人工原子のいずれに電子がいるかを0と1に対応させたものが実現されている。しかし,いずれも量子重ね合わせ状態を維持できる時間は数ns〜数十nsと短く,その改善が課題になってきた。それだけに電子のスピンを使った量子ビット実現への期待は大きい。

(石井 茂=編集委員室)

人工原子とは何か

 自然の原子と人工原子の最大の違いは,人工原子には原子核がないことである。人工的に原子を作る初期の試みには,原子核相当のものを半導体の中に作り,その周囲に電子が束縛されるというアイデアもあったが,実現されなかった。現在では半導体の構造を工夫することによって,原子核と同様の束縛力を作り出している。


図A自然の原子と半導体の人工原子
人工原子は原子核がなく,電子に対する束縛力の分布などが自然の原子とは異なるため,電子の配置などに違いが生じる。

 図Aでは,自然の原子と半導体による人工原子を比較した。自然の原子では,原子核(正の電気)が作る引力によって電子(負の電気)が周囲に引き止められている。これに対して半導体人工原子では,AlGaAsの円盤2枚GaAsの円盤(これが人工原子になる)をサンドイッチにする。すると中央にはさまれた円盤の上下の界面にはポテンシャル・エネルギーの障壁が生じる。

 また,図Aには示していないが,中央の円盤の円周を電極で取り巻いて電圧をかけることにより,円盤の中に回転対称形のポテンシャル・エネルギーが働く状態になる。この結果,電子は中央の円盤内に束縛される。

 微小な領域に閉じ込められた電子は,自然の原子の中にある電子と同様の振る舞いを見せるようになる。ただし,人工原子には原子核がないため,ポテンシャル・エネルギーの分布は図A下のように自然の原子とは異なっている。このため,原子内のエネルギー準位ごとに配置される電子は,自然の原子の場合とは数が違ってくる。



【コラム79:ブロードバンド未開拓地域】            (2005/03/04作成:tuusinsya)

 2005年3月3日付のIT Proコラムに、「ブロードバンド未開拓地域を歩く」と題して、デジタルデバイド関する記事が掲載されていました。参考になると考えますのでご紹介します。

[出典]
[http://itpro.nikkeibp.co.jp/free/ITPro/OPINION/20050302/156884/]

ブロードバンド未開拓地域を歩く

 最近,ブロードバンドを利用できない地域を取材する機会があった。ブロードバンドを使えることと使えないことの違いで生じる格差,いわゆる「デジタル・デバイド」の環境下にある自治体やそこの住民,企業などに話を聞いたのだ。

 1月26日,北海道の女満別空港に降り立つと,温度計はマイナス18℃を示していた。この日の目的地は,オホーツク海に面する小清水町。同町ではこの日,4月に全域でサービス提供がはじまる無線ブロードバンド・サービスの設備工事が行われていた。筆者は,工事の模様と町役場,通信事業者の取材に出向いたのである。

 現在,小清水町にはブロードバンドを使えない地域がある。最初に訪れた町役場で,企画財政課の村上信二・企画振興係長はこう訴えた。「町内にはブロードバンドを使える地区と使えない地区がある。ブロードバンドを使えない地区に,帳簿をパソコンで付けていてインターネットも使っている,産直販売のWebサイトを作りたいといった農家の方々がいる。こうした住民もブロードバンドを必要としている」

 その後,無線の基地局工事の模様を見学させてもらった。作業の合間を見て,昼食を取りながらワイコムの秦野仁志・代表取締役社長にインタビュー。ワイコムは,北海道内の人口密度が低い地域を中心に,無線ブロードバンド・サービスを展開している通信事業者である。

 聞くとやはり,デジタル・デバイドの現状は深刻だ。「道内の一部にはISDNを使えない地域もある」「家ではブロードバンドを使えない農家の人が,サービスを使える場所まで車で来て,Windows Updateなどをしてまた帰っていくといったケースがある」といった話が出てきた。

 基地局工事は午後も続く。この日小清水町は晴天だったが,14時を過ぎると冷え込んできた。15時に温度計を見るとマイナス10℃。無線アンテナを取り付けるために鉄塔に登っている作業員の方は,相当低い体感温度下で作業をしていたはず。作業関係者にブロードバンドへの情熱と執念を見た気がした。

Bフレッツが開通した「我が村」のこだわり

 翌1月27日,筆者は富山県の舟橋村に移動した。この日村役場では,無線を併用するタイプのBフレッツの開通を記念した式典を開催。その模様は「我が村に“新型Bフレッツ”がやってきた」富山で開通式としてお伝えしている。

 開通式の前に,総務課の吉田昭博係長に話を聞いた。同村は富山市の隣にある人口2600名の村。1991年〜92年ころの人口は1400名だったという。宅地造成が続き,人口が増えている。

 「新しく家を構える方は富山から来た人がほとんど。インターネットは生活の必需品であって当たり前という認識なのかもしれない」と吉田係長は説明する。「2003年から,他の市町村で提供されているCATVインターネットを,舟橋村でも使えるようにしてほしいといった電話が頻繁にあった。1日に3〜4件に達した日もある」と振り返る。

 しかし,最初に村内でのサービス提供を目指したCATVは補助金が下りずADSLも装置を置くスペースがないことで,提供をあきらめるしかなかった。

 今回のBフレッツ導入にはこんな経緯があった。当初,村役場はNTT西日本富山支店から「基地局1つ分ならBフレッツを提供できる」と言われたが,何とか全域での提供を実現したかった。そこで住民アンケートを実施。その結果,120件程度の加入があると見込むことができた。村役場はそれを,NTT西日本富山支店を説得する材料の一つにしたのである。

デジタル・デバイド問題は全国に

 ブロードバンドを使えない地域は,他にも数多くある。しかもデジタル・デバイドは,時間の経過とともに広がっていく。ブロードバンドは,通信事業者の競争や技術革新によって通信速度がさらに増していくが,それがなければISDNかダイヤルアップのままである。

 NTT東日本の尾崎秀彦・経営企画部営業企画部門長は「時期は不明だが,いつかはFTTHが来ることになるだろう」と話す。昨年11月に,NTT持ち株会社は「光3000万回線計画」を発表した。この計画が進むと,メタル回線と光ファイバを二重に維持しなくてはならないためコストがかさむ。つまり電話だけ使う人でも光ファイバにした方がいいということに,いずれはなるというわけだ。

 だがまさに今,インターネットを仕事で使う人(もちろん私用で使う人も)が全国にいる。出張取材の中では,ブロードバンドを使えるようになった地域の地元企業から話を聞く機会もあった。すると「仕事先から受け取るCADのデータ・サイズが大きいためにCD-Rで郵送してもらわざるを得なかった」「Webを見て顧客からの問い合わせに答えようにも表示が遅い」といった苦労談がいくつも出てきた。こうした人々は,いつ開通するか分からないブロードバンドを待ち続けるわけにはいかない

 だが,採算が取れない地域でサービスを提供することは難しいというのが通信事業者の実情。そこでこうした地域では,「採算性が取れるラインまで,自主的に加入者を募る」「採算性が合わない分を,補助金を出したり地域イントラネットを開放することで補填する」といった策が必要となる。

 そして地域によって最適な策は違う。例えば,補助金を適用すればデジタル・デバイドが解決するとは限らない。都道府県ごとなど地域によって,補助金制度の有無が異なるためだ。ブロードバンドを使えない地域一帯の世帯数が少ないために,加入希望者を集めることが難しいケースもある。こうした地域では,少しでも多くの住民にインターネットへの興味を持ってもらうところから取り組みを進めていたりする。

 今回,国内各地を取材して回ったのは,日経コミュニケーション3月1日号の特集でデジタル・デバイドの現状と,その問題の本質を探るためだった。誘致に成功した地域の自治体や住民は,それぞれの地域に合った形で地道な努力と積極的な協力を積み重ねている。こうした取り組みから得られるノウハウも少なくない。

(山崎 洋一=日経コミュニケーション)


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【コラム78:MIMO】                   (2004/08/20作成:tuusinsya)

 2004年8月20日付のIT Proコラムに、「高速化競争が新たなフェーズへ」と題して、次世代無線LAN通信技術「MIMO」関する記事が掲載されていました。参考になると考えますのでご紹介します。
[出典]
[http://itpro.nikkeibp.co.jp/members/NBY/ITARTICLE/20040803/1/]

高速化競争が新たなフェーズへ

新技術「MIMO」の搭載始まる

 IEEE802.11a/gの規格上の伝送速度は54Mビット/秒である。しかし,瞬間的に54Mビット/秒で流れていても,データが流れていない時間が多くあるため実効速度は20Mビット/秒程度になってしまう。そこで,無線LANチップメーカーはこれまでデータが流れていない時間を短くすることで,高速化を進めてきた。

 こんな状況に一石を投じる製品が登場する。プラネックスコミュニケーションズが2004年9月下旬に発売予定の無線LANアクセスポイント「CQW-AP108AG」(12万8000円)と無線LANカード「CQW-NS108AG」(1万9800円)である。MIMO(Multi Input Multi Output)と呼ぶ多重化技術を使い,既存の無線LANの2倍の速度(11a/gで108Mビット/秒)を実現する。米Airgo Networks社が開発した。「MIMOによる高速化はオプション・モードという位置付け」(Airgoの高木映児上席マネージャー)。既存の11a/b/g製品とも接続できる。

伝播のずれを利用して多重伝送

 MIMOは現在IEEE802.11委員会で検討中の無線LANの次世代高速化規格「IEEE802.11n」で採用される可能性が高い無線通信技術である。複数のアンテナを対向で使い,それぞれが異なる信号を同時伝送することで高速化する。2本であれば2倍,3本であれば3倍に高速化できる。MIMOが特に優れているのは,周波数帯域を広げることなく高速化できること。どのアンテナも同じ周波数帯で通信する。

 同じ周波数で複数の信号を流すと干渉してうまく通信できなくなりそうだが,受信アンテナごとの受信データの微妙な違いを利用して信号を分離する。例えば,2本のアンテナで異なる信号を送ったとする。受信側の2本のアンテナの位置は空間的にずれているために,受信信号も異なる。このずれを使って計算することで,二つの信号に分離する。

 今回の製品は3本のアンテナを搭載している。「2本のアンテナで通信し,残りの1本を信号処理の補償用に使っている」(高木氏)。

 また,Airgoの製品には通信相手が11a/gの時でも実効速度を高める工夫が施されている。受信側がMIMO対応製品だった場合は,3本のアンテナで受信した信号の差分を基に受信信号を整形する。送信側がMIMO対応だった場合は,それぞれのアンテナから送信するタイミングをわずかにずらすことで,受信アンテナに届く合成波の波形を調整する。

 複数のアンテナから異なる信号を送出する場合,電波法で定める送信電力量を上回ってしまうのではないかという懸念がある。Airgoによると「合計値アンテナ1本の製品と同じになるように調整している」(高木氏)という。

 また,アンテナ1本当たりの送信電力が小さくなると到達距離が短くなりそうに思える。しかし,「複数のアンテナで受信することで受信感度が上がるので結果的にアンテナ1本で送信する場合と到達距離は同じになる」(高木氏)。



【コラム77:無線ブロードバンド】                     (2004/08/09作成:tuusinsya)

 2004年8月6日付のMainichiコラムに、「無線ブロードバンド」と題して、米国における無線ブロードバンド状況に関する記事が掲載されていました。参考になると考えますのでご紹介します。
[出典]
[http://www.mainichi-msn.co.jp/it/coverstory/news/20040806org00m300067000c.html]

無線ブロードバンド:米国内では地方で意外な“成功”

 米国でもブロードバンド市場でケーブルモデムやDSLが君臨していた時代が終わりを告げようとしている。第3勢力として、いよいよ無線ブロードバンド・サービスが勃興し始めたからだ。大都会では大手がインフラ整備競争という“消耗戦”を展開しているが、大手から見放された形の地方では“地域密着”で一足早く利益を出すISPも出てきた。今回は、米国での無線ブロードバンド・サービスの現状を紹介する。【矢野 雅仁】

大都市で拡大する「Wi-Fi」

 米国で無線ブロードバンド技術と言えば、高速無線LAN技術「Wi-Fi」。今や米ではカフェやショッピングモール、空港からビジネス街に至るまで、実にさまざまな場所で「Wi-Fi」を使ったブロードバンド接続を堪能できるようになった。市場調査大手の「ヤンキー・グループ」によると、接続ポイント(ホットスポット)の数は2003年に急増し、現在約1万5000カ所の公共場所で提供されているという。

 これらの中には無料のホットスポットも多数存在するが、大手通信事業者はさらなる需要を見越してインフラ拡張に余念がない。たとえば、携帯電話大手「Tモバイル」は、「Wi-Fi」サービスを積極的に展開する事業者の1つだ。同社は、書籍大手の「ボーダーズ・ブックストア」、日本でもおなじみの「スターバックス」、さらにホテル、空港などに合計4650カ所のホットスポットを持つほか、現在も1日平均35カ所のペースで増設している。最近は全米の「ハイアット(Hyatt)ホテル」122カ所にホットスポットを敷設する計画も発表したばかりだ。

 ユーザーは、Tモバイルのサービスを利用するにあたり、月額29ドル99セントの接続料金を支払う。さらに、Tモバイルの携帯電話顧客なら、月額19ドル95セントで利用できる。同社は顧客数や売上高などの詳細を明らかにしていないが、「ホットスポットの提供で利益を上げる見通しが立った」とも発表している。

 Tモバイルは、データネットワークのインフラ携帯電話事業と共有する戦略で、コスト削減に成功。さらに、全米サービスを展開することで地域限定サービスなどとの差別化を図っている。この同社の動きが、他の携帯電話会社を刺激することになった。

ローミングに走る携帯電話会社

 米でホットスポットを提供する携帯電話会社はTモバイルだけではない。全米各地で携帯電話サービスを提供する「スプリント」、地域電話会社大手「SBCコミュニケーションズ」など、各種の通信事業者も無線ブロードバンド・サービス市場でイニシアチブを取ろうと事業を拡張している。その中でも最近になって目立ち始めたのが、接続プロバイダー同士が相手方のホットスポットに相互乗り入れる、いわゆる「ローミング戦略」だ。

 たとえば、スプリントとSBCコミュニケーションズは、「Wi-Fi」ホットスポットの相互乗り入れ(ローミング)で提携している。これにより、スプリントの顧客は、SBCが全米に保有する1800カ所のスポットを使えるようになる。一方の、SBCもスプリントが所有する12カ所のスポットをSBCの顧客を対象に提供していく。スプリントはさらに、AT&Tワイヤレスが6カ所の空港に持つスポット、STSNが提供する500カ所のホテルウェイポートが提供する1000カ所の空港やホテルなどともローミング契約を結んでいる。

 Tモバイルも負けてはいない。同社は2月、AT&Tワイヤレスとローミング契約を結んでいる。また、AT&Tとベライゾン・ワイヤレスは、ウェイポートと提携している。ローミングの最大の利点は設備投資を抑えながらアクセスポイント数を拡大できることだ。大手事業者は、独立したシステムで顧客を抱え込むより、むしろ当面は互いに協力しあって同技術を普及させるのが先決と考えようだ。

一足早く利益出した地方ISP

 さて、都市部では、携帯電話会社や新興ワイヤレス企業の事業拡張で、ホットスポットが充実するようになってきた。しかし、この広大なアメリカにはまだまだ、ブロードバンド接続が届かない場所が存在する。厳しい競争を闘う大手の携帯電話会社大手は、コスト高を理由にこれらの市場を見放した形だった。

 その「隙間」に新しいビジネスチャンスを求めて、数千社におよぶ弱小ISPが雨後の竹の子のように乱立し、地域コミュニティーにワイヤレス・ブロードバンド・サービスを提供した。多くの場合は、アンテナを設置してサービスを提供しているが、近所の数世帯にサービスを与える程度の規模しかない事業者もある。

 しかし、この市場ですでに利益を出しているISPも登場している。たとえば、バージニア州ブルーモントのマーティー・ドウアティ氏は、7万ドルを投資してアンテナを購入18マイル先のバックボーンに接続し、ブルー・リッジ周辺に散在する36のコミュニティーにサービスを提供している。顧客は、250ドルを支払い機材を購入し、設置してもらう。後は、月額59ドル99ドルでブロードバンド接続を堪能できる。設立わずか2年の彼の会社「ロードスター・インターネット」(Roadstar Internet)は、“地域密着”の細かいサービスですでに400人の顧客を抱え、昨年にはもう黒字を達成した。最終的には、大手に自分の会社を買い取ってもらうのが考えだ。

 携帯電話の祖として有名なクレイグ・マッコウ氏も動き出した。独自のワイヤレス・ブロードバンド・サービスを、ミネソタ州ジャクソンビルおよびセント・クラウドで今夏から開始し、来年には他の40地域でサービスを提供していく。同氏は、大手が注力する大都市と小規模ISPがひしめく地方の両方を市場として捉えている。マッコウ氏のベンチャー「クリアワイヤ」(Clearwire)は、月額25ドルでワイヤレス・ネット接続を、同40〜50ドルでIP電話を含めたパッケージを提供していく。

 事業としての成功が疑問視されていた地方のワイヤレス・ブロードバンド・サービスだが、「これから利益を出す」大都市圏に対して「もう利益出しました」という皮肉な形に。米ではワイヤレス・ブロードバンドのブームは意外なところから巻き起こりそうだ。



【コラム76:UWB】                      (2004/08/09作成:tuusinsya)

 2004年8月6日付のIT Proコラムに、「UWB」と題して、UWBに関する記事が掲載されていました。参考になると考えますのでご紹介します。
[出典]
[http://itpro.nikkeibp.co.jp/members/NC/KEYWORD3/20040730/3/]

UWB

 広い周波数帯域の電波を利用して高速な無線通信を行う技術。Ultra Widebandの略である。

 UWBが利用する電波の帯域幅は数GHz。帯域幅が20MHz程度である無線LANに比べ、数百倍の広い帯域幅を利用する。通信速度数百M〜1Gビット/秒と、高速な有線LAN並みだ。

 ただし、電波の多くの帯域はすでに無線通信などのインフラで利用されており、UWBが勝手に使用することはできない。そこでUWBの電波出力は、他の無線通信になるべく影響を与えないようノイズ並みに抑える。そのため通信できる距離は最大10m程度と短い。

 UWBは近距離で大容量のデータを送信するのに向いている。期待されているのが、パソコン本体とディスプレイの間やテレビとDVD/ハードディスク・レコーダの間といった、機器間の画像/動画の送信だ。

 電波を利用する技術は、各国ごとに定められた機関の認可を受けなければ実用化できない。UWBの民間利用が最初に認可されたのは2002年2月。米国の連邦通信委員会(FCC)が認可した。

 このとき認可されたのが、インパルスという信号を使う通信方式だ。通常の無線通信のように変調を行うのではなく、インパルス信号を直接送信する。この方式には、低コストで消費電力が少ないという利点がある。

 ただし、現在のUWBではインパルス通信はマイナーな方式になっている。代わって有望視されているのが「マルチバンドOFDM」という方式だ。UWBで用いる周波数帯域を複数の帯域幅に分割し、従来の無線LAN技術であるIEEE 802.11a/gが採用している「OFDM(直交周波数分割多重)」という変調技術を用いて通信する。米インテルや米テキサス・インスツルメンツが提唱している。

 インパルス通信では周波数帯域を満遍なく使用するため、信号強度がノイズ並みとはいえ、既存の無線通信への影響がないとは言えない。これに対しマルチバンドOFDMでは、既存の無線技術への影響が特に問題になる周波数の帯域を使わないことで干渉を避けられる。代わりに、低コストや低消費電力といったインパルス通信のメリットは失われる。

 ほかには、DS-CDMA(直接拡散符号分割多重接続)という技術を利用する方式を米モトローラなどが提唱している。

 UWBの標準化は米国電気電子学会(IEEE)が進めている。ただ、複数の技術が提唱されているため、調整が難航している。これに業を煮やしたマルチバンドOFDM推進派は昨年6月、同技術の推進団体「マルチバンドOFDMアライアンス」を結成した。来年半ばには、マルチバンドOFDMに対応したUWB無線通信機器が発売される見込みだ。

 日本では、総務省の情報通信審議会情報通信技術分科会が、UWBの実用化に向けて解決すべき課題を検討している。



【コラム75:デジタルデバイド解消】                  (2004/07/31作成:tuusinsya)

 2004年7月31日付のMainichiコラムに、「「田舎」にも光を 東京都檜原村のブロードバンド計画」と題して、デジタルデバイド解消に関する記事が掲載されていました。参考になると考えますのでご紹介します。
[出典]:[http://www.mainichi-msn.co.jp/it/coverstory/news/20040730org00m300122000c.html]

デジタルデバイド解消: 「田舎」にも光を 東京都檜原村のブロードバンド計画

 東京都心から電車とバスを乗り継いで2時間。山梨県境にある緑豊かな東京都檜原(ひのはら)村で6月下旬から、光ファイバー工事が始まった。周辺の市部にも光は通ってなく、「檜原村に光を」と村役場と住民が一体となった成果だ。「山村だからこそブロードバンドがいかせる」と発想の転換をはかった檜原村は、都市と地方のデジタルデバイド解消のひとつの見本になるかもしれない。【柴沼 均】

島を除けば東京唯一の村

 檜原村は東京都の西に位置し、村の周囲を山に囲まれ総面積の93%が林野。島を除けば東京唯一の村で、面積105平方キロの大半は国立公園内で、釣り場やキャンプ場があちこちにある。村を横切る川に沿っていくつかの集落が点在している。

 東京都とはいえ、典型的な過疎地域。1960年代に6000人以上いた人口は、今では3000人余と半減した。また、65歳以上の高齢化率も36%(01年)に上る。これまで光ファイバーどころかADSLも通っておらず、「インターネットって何?」という村民も多かった。

1日に1回だけのメールにびっくり

 昨年、初当選した坂本義次村長(59)は個人的に10年ほど前からパソコンをやっており、村議のときも議場にパソコンで資料説明をしようとしたが、パソコンの持ち込み自体を断られた。パソコンを持ち込んだ先例がなかったためだ。檜原村が特別というわけでなく、別の自治体の関係者は「何かあったときパソコンは凶器になるから議場に持ち込めない」との笑い話を披露するほどで、なかなか電子化は進まない。

 村役場に初登庁した坂本村長は、驚いた。役場でネット接続ができる場所は限られ、村長室もできない。外部からのメールは電算室の担当者が毎朝プリントアウトして1日1回だけ配って回る。坂本村長は早速、IT化に着手した。

 各課、各係にメールアドレスを割り振り、庁内LANを活用するという基本的なところからはじめたが、1年間でIT化はみるみる進展。会計ソフトを活用することで、専任の収入役を廃止。掲示板やメールを活用して、書類を減らすようにした。

 画期的なのは議会への答弁書作成に共有ファイルを利用したこと。これまでは、各課長がまとめた答弁書をいちいち村長のところに持っていき、村長が直したい場合は原課とのやりとりを何度もするなど手間と時間がかかった。共有ファイルを利用すれば、村長が答弁書に手を入れることも簡単にできる。村ではこの1年で1億円近い行政コストを削減できたという。村の一般会計予算規模が25億円強のことからすると、画期的な行政改革となった。坂本村長は「IT化してもコストかかかれば意味がないが、檜原村では合理化ができた」と胸を張る。

光世帯の希望者は3割以上

 役場だけではなく、村の活性化のためにも村内に光サービスの開始が必要と判断したが、簡単にはいかない。若手職員で作るIT推進委員会を設置し、調査したところ、村が主体となって敷設した場合、全体で4億円かかることが判明した。国の一部補助はあるが、大変な金額には変わりない。さらに、毎年メンテナンスで千万円単位必要となる。

 そこで、村と村民が一体となり「檜原村に光を」との誘致運動をはじめ、NTT東日本に協力要請することにした。10月末からIT推進委員会の職員が村内各地で説明会を開くとともに、各戸にパンフレットを送りPRしたところ、1カ月余りで300件を越える仮申し込みがきた。村の世帯の3割以上が光を希望したことになる。全国の光ファイバーの世帯普及率は数%にしか過ぎないことをみると、過疎の村とは思えない画期的な数字だ。

 誘致活動に携わった村総務課の藤原啓一さん(31)も「インターネットを知らない人もいて、そこらへんから説明をしなければならなかったが、これだけ多くの人が申し込むとは思わなかった」と振り返る。

 NTT東日本も地域間のデジタルデバイドの解消を掲げ、「光ファイバーのサービス地域の範囲拡大には地元の熱意、需要もみて判断する」としており、村ぐるみの誘致活動の成果がでた。

遠隔医療、SOHOなどアイデア続々

 光が開通したことで、村は早速光を活用したサービスを開始する。そのひとつが遠隔医療だ。村の診療所にCTスキャンを導入し、都内の専門医に遠隔診断を依頼する。坂本村長は「田舎は医療が充実していないから住めないという声がある。高齢者も多いため、脳梗塞などで早い段階の診断は重要だ」と説明する。年度内には遠隔診断を始める予定だ。

 次に考えているのがSOHOの誘致。「自然の中でリフレッシュしながら、光を利用して在宅で仕事ができればアイデアもわくだろう。仕事部屋には村産の杉やヒノキを使っていて落ち着ける設計にする」とSOHO向けの村営住宅を計画している。「都心まで毎日通うのは大変でも、会議などがあれば日帰りできる。東京に一番近い村という立地条件も利点だ」という。

 また、水源に監視装置を置いて渇水や災害時に現地の状況を村役場でモニターできるようにすれば、即座に行動がとれるうえ、通常の見回り回数を減らせるからコスト削減にもなる。

 せっかくブロードバンドが通っても、村民が活用できなければ仕方がない。そこで、村はボランティアによるフォローアップも計画している。また、点在している集落間の連絡など、村民同士の新たなコミュニケーションの手段にもつながる。山村だからこそブロードバンドがいかせるという檜原村の試みが狙い通りいけば、地方にとって大きな朗報だろう。




【コラム74:ADSL拡張方式】                 (2004/07/23作成:tuusinsya)

 2004年7月23日付のIT Proコラムに、「ADSLのスペクトル管理はだれのため?」と題して、ADSLの拡張方式に関する記事が掲載されていました。参考になると考えますのでご紹介します。
[出典]:[http://itpro.nikkeibp.co.jp/free/ITPro/OPINION/20040721/147537/index2.shtml]

ADSLのスペクトル管理はだれのため?

紛糾した上り拡張方式の議論を振り返る

 ADSLの上り方向(ユーザー宅から電話局向け)の速度がアップする。これまで下り方向(電話局からユーザー宅向け)の速度は,1.5Mビット/秒から8M,12M,24M/26M,40Mビット/秒超とステップアップしてきたのに,上り速度は8メガADSLサービスのときから1Mビット/秒のままで進歩がなかった。2003年11月,ADSL事業者のアッカ・ネットワークスとソフトバンクBBが上り速度3Mビット/秒のサービスを始めると発表。しかし,事業者間で上り拡張方式の取り扱いについて合意が成立せず,サービスはなかなか始まらなかった。

 それから半年以上。ようやくADSL事業者間の調整がつき,この8月から相次いで上り速度を拡張したADSLサービスが始まる。「ようやくスタートか」という印象を持った人もいることだろう。

 なぜ,こんなにもサービス開始が遅れてしまったのか。ADSLのスペクトル管理標準については,2003年5月に情報通信審議会管轄下のDSL作業班で一応の決着が付いたはず。それなのに,クアッド・スペクトル方式(下り40Mビット/秒超のサービス)や今回の上り速度の拡張方式など,新方式のサービス開始が取り上げられるたびに,議論が蒸し返されてきた。

 その原因はどこにあるのか。今回の議論の進展,決着した内容,さらに今後のADSLの進むべき道に関して考えたことを書いていきたい。

紆余曲折を経てようやく合意に達した上り拡張方式

 ADSLのスペクトル管理標準の議論は,2003年6月に舞台を情報通信技術委員会(TTC)に移し,これまで数多くの会合がもたれてきた。その内容は,TTCのWebサイト上に「議事録」としてまとめてあるので,興味のある方は見てみると面白いだろう。

 その流れを過去の掲載記事を元に簡単にまとめると以下のようになる。

・2003年6月:DSL専門委員会で下り24メガADSLの議論が始まるも紛糾
・2003年7月:スペクトル管理サブワーキング・グループ(以下SMSWG)で下り24メガADSLのサービス開始を合意
・2003年8月:SMSWGで下り40メガ超ADSL(クアッド・スペクトル方式)まで含んだスペクトル管理標準の改訂版を合意
・2003年10月:SMSWGで上り速度拡張方式(以下EU方式)の検討が本格的にスタート
・2003年12月:SMSWGでEU方式について長野県共同電算(JANIS)が反対。干渉度合いを計算するモデル自身に問題があると主張し,議論が紛糾
・2004年1月:SMSWGでEU方式の距離制限に関して意見が合わず,合意に至らず
・2004年2月,3月,6月:SMSWGで,スペクトル管理の判断基準となるモデルの見直しまで視野に入れた意見が出て,議論が進まず
・2004年7月:SMSWGで上り拡張方式を合意

 こうした経緯を経て,ようやく上り高速化版ADSLサービスが日の目を見ることになったのである。

既存のスペクトル管理標準より厳しい制限が付く

 では,今回決着した内容についてちょっと詳しく見ておこう。

 従来のADSL方式では,上り方向の伝送に26k〜138kHzの周波数帯域を使い,1Mビット/秒の速度を実現していた。それに対してEU方式は,138kHz以上の帯域も上りに使うことで,最大5Mビット/秒の伝送を実現する。しかし,この帯域を上りの伝送にも使うと,隣接するADSL回線の下り方向の通信に干渉をおよぼす可能性がある。

 そこで,EU方式から干渉を受ける方式を8メガADSLの規格であるG.992.1Annex A,同Cとし,これらとEU方式を干渉の度合いを計算するJJ100.01第2版の計算式に当てはめた。その結果,G.992.1の下りで4Mビット/秒の速度が出る距離から500mを差し引いた距離を,EU方式でサービスを提供できる上限の距離としたのである。

 つまり,ADSLのEU方式はすべてのユーザーにメリットをもたらすものではない。隣接する回線への影響を抑えるために,電話局からの距離制限を設けたので,電話局から離れたところに住むユーザーは利用できない。スペクトル管理の考え方は現在の標準規格JJ100.01第2版の定める基準をベースにするが,実際にはそれより厳しい基準を設けて,EU方式に隣接するADSL回線の速度低下を極力抑えるという折衷案になったわけだ。

 ただし,これが最終結論ではない。SMSWGでは,2004年11月を目標にスペクトル管理標準JJ.100.01の第3版をまとめる予定だが,そこで計算式のモデルの見直しなどの課題を解決して,EU方式の最終的な取り扱いが決まることになるという。

スペクトル管理の議論がなかなか進まない理由

 ADSLのスペクトル管理について事業者間で足並みがそろわない理由は,大きく2つありそうだ。

 1つは,そもそもADSL事業者は相互に協力できる関係にないということ。特にスペクトル管理の側面で言えば,銅線を共用する他社が新しいADSLサービスを始めれば,その影響は自社サービスのユーザーに及ぶ可能性が常にある。スペクトル管理上,干渉の可能性が認められれば,なおさら新サービスに合意できない。さらに,自社のサービスに同様のメニューを用意できない場合には,新サービスの提供を容認する根拠はまったくなくなる。

 もう1つは,ADSLの中核チップを開発するベンダー2社の機能拡張ステップがずれていることが挙げられる。国内の大手ADSL事業者の多くは,米コネクサントシステムズ(旧グローブスパン・ビラータ)製もしくは米センティリアム製のADSLチップを搭載したADSL装置を利用してサービスを提供している。この両社でチップの開発ステップが微妙にずれているのである。

 これについては,筆者の想像を交えながら具体的に見ていこう。

チップ・ベンダーの開発ステップのズレが原因?

 2003年8月のSMSWGでは,クアッド・スペクトル方式のADSLが議題に上った。提案したのはイー・アクセスとセンティリアム・ジャパン。それに対してソフトバンクBBとグローブスパン・ビラータが反対に回った。

 なぜか。それは,そのときイー・アクセスが展開中のADSLモデムに搭載されているセンティリアム製の最新チップが,すでにクアッド・スペクトル方式に対応していたからだろう。スペクトル管理で合意が取れれば,イー・アクセスはすぐにでも40Mビット/秒超のADSLサービスを始められたのである。

 それに対してソフトバンクBBが展開中のADSLモデムはクアッド・スぺクトル方式に未対応だった。次世代のチップに変更しなければならないので,クアッド・スペクトル方式に賛成するのはサービス提供上不利だと考えてもおかしくないだろう。

 クアッド・スペクトル方式に対して,上りの高速化はソフトバンクBBとアッカ・ネットワークスが先手を打つ。これは,グローブスパン・ビラータ製のクアッド・スペクトル対応チップには最初からEU方式の機能が搭載されており,ファームウエアの変更ですぐにでも利用できるようになっているからと思われれる。対してセンティリアム製のADSLチップには,EU方式の機能は備わっていなかった

 ただし,グローブスパン・ビラータ製のクアッド・スペクトル対応チップでは上りに使う周波数帯域は276kHzまで。速度も最大3Mビット/秒である。それに対してイー・アクセスなどは上りに483kHzまでの帯域を使い5Mビット/秒まで高速化する方式をSMSWGに提案している。これは,センティリアムの最新チップで5Mビット/秒までの上り速度に対応する目途が立ったからだろう。この方式に関しては,アッカ・ネットワークスが反対意見を表明していた。

 センティリアム製チップを採用しているNTT東西地域会社やイー・アクセスは,上り方向を高速化するためにはモデムを交換しなければならない。しかし,一度交換すれば,5Mビット/秒までの上り速度に対応できる。

 チップ・ベンダーで陣営を分けて追っていくと,おかしなことが見えてくる。ある場面では,既存ユーザーの保護より新サービスの有効性を唱えていた陣営が,別の場面では新サービスの提供より既存ユーザーの保護を訴えていたりするのだ。新サービスの内容によって考え方に差が出るということも考えられるが,チップ・ベンダー間の新機能搭載競争およびADSL事業者間のサービス提供合戦が,スペクトル管理標準の議論を混沌とさせているように感じられる。

だれのための上り拡張方式なのか

 スペクトル管理の議論の背景にこうした事情があるのなら,ある意味でこれらは「ユーザー不在の議論」と言えなくもない。そもそも「上り速度を拡張したい」というADSLユーザーのニーズはあるのだろうか。

 上りを高速化するニーズとしてまず考えられるのが,WinnyなどのP2Pファイル共有ソフトを快適に使えるようになること。P2Pファイル共有ソフトをひんぱんに使うユーザーは,ADSLからFTTHへ乗り換えるケースが多いと聞く。ADSL事業者は,こうしたFTTHへ流れるユーザーを止め,ADSLを使い続けてもらおうと考えてもおかしくないだろう。

 しかし,こうしたP2Pファイル共有ユーザーのために,下り速度が影響を受けるということに納得しない既存ユーザーも多いのではないだろうか。「違法なファイル共有のトラフィックのために,なぜ自分の下り速度が犠牲にならなければならないのか」と感じるADSLユーザーもいるはずだ。

 このように邪推してしまうのも,初めから上り速度の向上ありきで議論が進んでいるように見えるから。上り速度を拡張するニーズには,P2Pファイル共有以外にもあるのだろうか。こう考えていると,NTT東日本の担当者が「企業ユーザーが足回り回線としてADSLを使う場合上りの帯域を太くすることが重要だった」と教えてくれた。

 さらに,家庭向けでは先日,東西NTTが発表したフレッツ用のIPテレビ電話機がある。これは,高い品質の画像をやりとりするのに最大2Mビット/秒の帯域を使うという。こうしたアプリケーションが普及してくれば,上りの帯域を太くするニーズも見えてくる。

 上りが高速なサービスといえばFTTHがある。先にも書いたように,いち早くADSLからFTTHに乗り換えているファイル共有ソフトのヘビー・ユーザーもいる。しかし,FTTHとADSLの料金やスピードを今の時点で公平に比較することはできない。なぜなら,FTTHとADSLではカバーするサービス・エリアに大きな差があるからである。

 FTTHのサービス・エリアに住むユーザーはADSLを使うという選択肢がある場合が多いが,ADSLしか利用できない地域の方が確実に多いのは事実である。FTTHという選択肢がない地域の企業ユーザーにとって,ADSLサービスは「インターネットへアクセスするブロードバンド回線」としてだけではなく,「低料金で利用できる高速の足回り回線」としても重要なのだ。

多様化するADSLの用途に見合ったスペクトル管理のあり方

 こう考えると,既存ユーザーの下り方向の速度を保護して上り拡張方式に距離制限を付けるという今回の決定が,すべてのADSLユーザーの「最大幸福」なのか判断が難しくなる。

 ADSLが従来どおりインターネットのWebアクセス用途をメインに使われていくなら,上り速度のアップより,下り速度をどんどん向上させていくことに重点を置いてスペクトル管理を考えていけばよい。

 しかし,状況は変化している。P2Pファイル共有ソフトやIPテレビ電話向けに上りの速度を向上してほしいと感じるユーザーもいれば,企業ネットワークの足回り回線としてADSLを使うため,ある程度の上り速度が必要だと感じるユーザーもいる。単純に,「そこそこ速い常時接続回線」と割り切って使ってるユーザーもいるだろう。

 ADSLの使われ方が多様化していくと,スペクトル管理で優先すべき事項にさじ加減が必要になるだろう。どこまで既存ユーザーを保護して,どこまで新サービスを利用するユーザーのメリットを考えるか――。または,このままずっとインターネットへの高速アクセス回線としてサービスを提供していくのか,新しいメニューを加えることでADSLの役割を変えていくのか――。はたまた,このまま高速性を追求するのか,より多くのユーザーが利用できる長距離性を優先していくのか――。

 スペクトル管理の議論は,ユーザーにメリットをもたらすものでなければならない。ユーザーはADSLに何を求めているのか――。ここを見極めたうえで,基準なりモデルなりを決めなければ意味がない。そういう意味でも,そろそろADSLサービスの位置付けを考え直す必要が出てきたのかもしれない。

(藤川 雅朗=日経NETWORK)




【コラム73:陸の孤島】                      (2004/07/21作成:tuusinsya)

 2004年7月21日付のIT Proコラムに、「地方の中小企業が直面するデジタル・デバイド」と題して、地方中小企業の情報格差に関する記事が掲載されていました。参考になると考えますのでご紹介します。
[出典]:[http://itpro.nikkeibp.co.jp/free/ITPro/OPINION/20040720/147442/]

地方の中小企業が直面する

デジタル・デバイド

 「まるで陸の孤島だな」――。ボウリング場やゲーム・センターを運営する山梨県内の企業,桂商事の尾形惠社長はポツリと言った。同社では,県内外で運営する8店舗のうち1店舗だけ,IP電話を利用できない。冒頭の言葉をもらしたのは,その理由について通信事業者の担当者からひと通りの説明を受けた直後だった。

 IP電話サービスは,社員数の規模で十数人の中小企業にまで普及し始めている。小さな雑居ビルに入居する企業にも,周囲を山々に囲まれた地方の企業にもIP電話が入り込んできた。その事例の数々は,日経コミュニケーションの最新号(7月15日号)に掲載した特集記事「うちは通信コストをここまで下げた!」で紹介している。

 桂商事もまた,全店舗でIP電話を導入し,電話にかかるコストを削減する予定だった。しかし,IP電話はブロードバンドと一体でなければ利用できない。音声品質を確保し,常に社外からの電話を着信できるようにするには,高速な常時接続の回線が不可欠だからだ。桂商事がIP電話を導入できなかった1店舗は,このブロードバンドの提供エリア外にあった。

 大企業から中小企業へとユーザー層のすそ野を広げつつあるIP電話だが,その動きが加速するほど,“安い電話”を使えない不平等感が広がる結果となりそうだ。問題の根源は,ブロードバンドを利用できない空白地帯が発生する「デジタル・デバイド」(情報格差)にある。

ブロードバンドの提供は義務ではない

 桂商事の1店舗がブロードバンドの提供エリア外となった理由は,線路状態が良くないため,十分な通信速度を確保できないから。ブロードバンドの主流となっているADSLは,収容局から延びる電話回線の距離や線路状況などに応じて通信速度が低下する。このため通信事業者は,十分な通信品質を確保できないと判断すればサービスを提供しない。

 もう一つ,別の理由から通信事業者がサービスを提供しないことがある。通信事業者は,加入電話については全国あまねくサービスを提供する義務を負っている。ところが,ADSLをはじめとしたブロードバンドについては,こうした義務を負っていない。このため,通信事業者はサービス提供に必要な投資費用を回収できないと判断すれば,無理をしてまでサービスを提供する必要がない。

 尾形社長は,後者の実態を身をもって知った経験を持つ。桂商事は,神奈川県相模湖町でもゲーム・センターを併設したボウリング場を運営している。もともと,相模湖町はブロードバンドの提供エリア外だった。そこで,地域住民がブロードバンドを誘致する署名運動を展開した。この結果,約300世帯の署名が集まった。相模湖町では,月額3万〜5万円と提供エリアのユーザーよりも利用料が割高だが,NTT東日本のFTTHサービス「Bフレッツ」を利用できるようになった。

 こうした経験もあって,尾形社長は「店舗の先1kmぐらいのところには,ADSLが届いているんだが・・・」と悔しさをにじませる。冒頭の発言の後,尾形社長は目の前の担当者に「無線LANでも提供できないのか」と食い下がった。しかし,担当者は通信品質の維持が困難なこと,採算が合わないことなど,同じ説明を繰り返すにとどまった。

 桂商事が本社を置く山間の町,山梨県都留市は相模湖町よりも町の規模が大きい。「私一人が頑張って都留市内で300件の署名を集めるというわけにもいかない」と言う尾形社長は今,「情報通信政策を担当する山梨県の県会議員に相談して,なんとかブロードバンドが届くように働きかけている」。

ブロードバンドの有無が会社の将来性を左右

 桂商事がブロードバンドの引き込みに強くこだわるのは,IP電話のためだけではない。ゲーム・センターを運営する同社にとって,ブロードバンドの有無が会社の成長すらも左右する大きな要因になっているからだ。最近のゲーム機は,遠隔地のプレーヤとネットワーク経由で対戦できる機能を持っている。こうしたゲーム機は,これまでダイヤルアップ接続でネットワークにつなぐ「フレッツ・ISDN」に対応していた。

 しかし,ブロードバンドの普及に伴って,最新型のネットワーク対応ゲーム機ではイーサネットのLANポートを備えたブロードバンド接続に置き換わりつつある。ゲーム・センターが集客力を維持するには,常に最新型のゲーム機を設置する必要がある。しかし,最新型のゲーム機を設置するには,どうしてもブロードバンドが欠かせないという状況が生まれつつある。

 ブロードバンド対応のゲーム機は,1台で1日当たり平均4000円の売り上げがある。これを5台設置すれば,1カ月(=30日間)で計60万円の売り上げが立つ。しかし,ブロードバンドが届かなければ,この売り上げが丸々ゼロになってしまう。尾形社長は,「ブロードバンドが届かない以上,もはやゲーム・センターとして成り立たないのではないか」と不安を隠さない。

 総務省は6月10日,デジタル・デバイドの解消に向けた研究会「全国均衡のあるブロードバンド基盤の整備に関する研究会」を発足させた(関連記事)。発表資料によれば,「市」でのADSLの普及率は100%を達成している。しかし,その数字が実態を反映していないことは,ここに挙げた桂商事の例を見れば明らか。発表資料の数字は,「サービスが少なくともその地域の一部で提供されている」ことを前提にしているからだ。

 ブロードバンドは,電話だけでなく放送のインフラとしても用途を広げつつある。桂商事のようにユーザー自身が,ブロードバンドが生活や企業活動に欠かせないインフラだと気付くのも時間の問題だ。デジタル・デバイドが深刻さを増す前に,研究会には実態を正確に把握した上で,確実に実効力のある政策につながる方向性を打ち出してほしい。

 研究会は12月,最終報告をまとめる予定だ。

関連記事

総務省がブロードバンドのデバイド是正に向けて研究会開催

 総務省は6月10日,ブロードバンドを使える地域と使えない地域で生じるデジタル・デバイド(情報格差)の是正に向けて,研究会を開催した。名称は「全国均衡のあるブロードバンド基盤の整備に関する研究会」で,開催期間は2004年12月末までをめどとしている。デバイド解消に向けた取り組みを進めている地方自治体,ブロードバンド・サービスを提供する通信事業者,メーカー,識者などで構成される。

 第1回会合では,まず田端正広・総務副大臣が「デジタル・デバイドの是正,全国どこでもブロードバンドを使える環境整備が重要だ」とあいさつ,次いで総務省が全国のブロードバンド普及状況を説明した。そのあと,島根県と岡山県がそれぞれの県のブロードバンド普及状況と普及戦略をプレゼンテーションした。

 総務省の説明によれば,ADSLは全国の市町村の82.2%で提供されているが,内訳を見ると「市」は100%,「町村」は76.9%と格差がある。FTTHだと全体は28.0%だが,内訳は「市」が75.2%で「町村」は13.9%とより格差が大きい。市町村の人口が少なくなるほど,ブロードバンド提供中の割合が低くなるデータも紹介された。

 地方のブロードバンド普及策は様々ある。島根県は民間の通信事業者の積極的な設備投資を誘導する方策を採用。山間・離島を含む県内全域で同等な高速通信環境を実現したという。一方の岡山県は「岡山情報ハイウェイ」を構築して,行政系ネットワークに使うとともに民間にも開放する策を採っている。

 研究会では,ブロードバンドのデジタル・デバイドの実態や課題を整理する。次回以降,ブロードバンド整備による経済効果や普及予測,ブロードバンド整備コストの試算,取り組み事例などを検証していくという。



【コラム72:山間部のFTTH導入】                    (2004/07/01作成:tuusinsya)

 2004年7月1日付のNIKKEI NETの NET時評に、「山間の町が日本最大の光ブロードバンドの町になった」と題して、山間部のFTTH導入に関する記事が掲載されていました。地方のブロードバンド化を推進する上で参考になると考えますのでご紹介します。
[出典]:[http://www.nikkei.co.jp/digitalcore/local/13/index.html]

山間の町が「日本最大の光ブロードバンドの町」になった

〜不可能を打破した宮崎県木城町とNTT西日本の連携〜

 ブロードバンド化が進むわが国だが主役はADSL。ADSLよりも高速の光サービス(FTTH)が、全世帯の3割に導入された町がある。宮崎県の山間部にある木城町がそれだ。採算がとれないと通信事業者によるブロードバンドサービス提供予定のなかった山間の町。そこが山間部における日本最大の「光ブロードバンドの町」になったのは、町役場の熱意とそれに呼応したNTTの尽力だった。

 ブロードバンド加入数が1500万を超え、世界最先端のブロードバンド大国の仲間入りを果たしつつあるわが国だが、光ファイバの普及はまだ124万(2004年4月末)で、全世帯の2.6%にとどまる。ところが宮崎県木城町では、町が整備した光ファイバを活用し、町役場と通信事業者との連携プレー通信基盤整備を進めた。都市部と地方との情報格差(デジタル・デバイド)が広がる中、こうした官民連携は、今後日本の通信インフラの在り方を考えるうえで一つの指針といえる。

オフトークに代わる住民が発信する地域メディアを

 木城町は宮崎市から北へ約30km。宮崎県のほぼ中央に位置する人口約5,700人の緑豊かな町だ。町の面積の84%を山林原野が占め、そのうち69%が国有林だ。東西24km、南北6kmの細長い町で、町を縦断して小丸川(全長80km)が流れている。世帯数は2,000世帯3割を超える650世帯以上が光ファイバを利用した木城町インターネットサービスに加入している。光ファイバを利用したーブロードバンド通信の利用料はISP料金も含めると普通なら月額6,500〜7,000円前後だが、木城町インターネットサービスの利用料はプロバイダー利用料込みで月額3,800円とかなり安い。

 木城町では町役場から町民に向けて情報を発信するオフトーク通信を行っている。月額500円の利用料のうち、半額を町が補助しており、その加入率は約90%。しかし、「町役場が町民に情報を発信しているだけでは意味がない。ともすれば受身になりがちな住民が積極的に情報を発信するようになって欲しい。これにはインターネットがもってこいのツールになる。ブロードバンド通信環境も必要だ」と財政課電算係だった渕上達也氏(44)は考えた。

町の情報化に立ちはだかる壁

 町から住民へのコミュニケーション・ツールとして使われてきたオフトーク。これがなかなか便利なツールで、町内各地区の公民ごとに電話機を使って地区内放送のように使える。しかし、この存在が町の情報化への足かせとなった。ADSLもFTTHも提供予定のない町。せめてISDNをと思うが、これも町内全域をカバーすることができない。たとえ町内全域でISDNが利用可能になってとしても、今度は、利用に先立ちオフトークの解約と専用の機器(通常の5倍程度の額になる)が必要だ。しかも、ISDNの回線速度でこの時代の情報量に対応するには心もとない。

 「ISDNさえ提供されない地域があるうえに、ADSLもFTTHも開通の見通しがない。さらにADSLが来たとしてもオフトークとの併用がきかない。幾重にも妨げがあるのです」と渕上氏。高齢者の多いこの町には、オフトークというスピーカーから流れる情報が欠かせないものとなっていた。

市町村合併が引き金に

  町の情報化に立ちはだかる壁を一気に乗り越え、木城町が通信基盤整備に乗り出す契機となったのが市町村合併だ。2002年4月、木城町を含む4町(木城町、高鍋町、川南町、都農町)で任意合併協議会が設立された。木城町以外の3町には既に通信事業者によってADSLサービスが提供されていた。さらにそのうちの1町では、光ファイバを用いたサービスの提供も予定されていた。通信事業者によるブロードバンドサービス提供予定がない地域は木城町だけだった。合併後も想定するに、木城町のエリアの通信インフラ整備までは手が回りそうにない雰囲気が濃厚だった。そこで、合併前に通信環境整備をしようという機運が高まったのだ。

NTT宮崎支店と二人三脚

 いざ、ブロードバンド導入しようと考えると、問題は山積していた。通信事業者によるADSLや光ファイバ・サービスの提供予定はない。さらに、2.4GHz帯無線を導入すると、町の真ん中を貫く小丸川から発生する霧が天敵となる。霧が発生すると電波が飛ばなくなり通信を行うことができなくなる。町が、公共施設を繋ぐために地域イントラネットを導入することはできる。しかし、それでは「住民が情報を発信する」ということにはならない。「各家庭までのラストワンマイルの整備を行うことが何より重要」と渕上氏は考えた。

 そこに、町が整備した公共施設を結ぶ光ファイバ網を活用して、通信事業者との連携で住民にブロードバンドサービスを提供している秋田県矢島町の事例があることがわかった。さっそく矢島町に連絡を取り情報収集し、総務省にも必要事項を確認した。この方式が木城町でも使えそうだと判明。町が整備したインフラを利用すれば、通信事業者が多額の初期投資を行う必要がなくなり、従来採算がとれないとされていた地域でもサービス展開が可能となるのだ。官が敷設したインフラを民へ開放するにあたっては、総務省による「地方公共団体が整備・保有する光ファイバ網の第一種通信事業者等への解放に関する標準手続き」(2002年7月)が大きな役割を果たした。

 今回木城町が地域イントラネットと加入者系光ファイバを整備するのに要した額は約5億6千万円。そのうち3分の1を国の補助金で、残り3分の2を過疎債の起債で手当てしている(平成15年度の木城町一般会計歳出総額は40億6百万円)。2003年6月に町の予算措置を行い、事業者決定のためのコンペを実施した。その結果、NTT西日本宮崎支店がタッグを組む相手になり、2004年4月のサービス開始に向けて二人三脚が始まった。

 木城町のケースでは、町が整備した加入者系光ファイバ網をNTT西日本がIRU(破棄し得ない使用権:関係当事者全ての合意がない限り、破棄したり終了したりすることができない回線使用権のこと)契約で借受け、木城町に定額制高速インターネット接続サービスを提供木城町がそれを受けて住民向けにインターネット接続サービスを提供している。

 「NTT宮崎支店にとって、木城町のような形態での契約は初案件。しかも、NTT西日本管内でも初案件のため、まったくノウハウがなく、サービス内容一つ一つを詰めていくのはまさに産みの苦しみでした」とNTT宮崎支店の水野信一ソリューションビジネス部長(50)は当時を振り返る。

利用者集めでローラー作戦

 2003年8月から町民への説明を始めた。住民説明会での使い方のデモでは、「遠隔地にいる子供や孫とテレビ電話で会話もできるんです」という説明に「それならば……」という住民も多かった。しかし、利用意向は400世帯強目標の600世帯には足りない。そこでサービス開始まであと1ヶ月に迫った頃、木城町とNTT西日本宮崎支店は必死のローラー作戦を展開した。木城町の職員3人とNTT宮崎支店の3人が3班に分かれ、木城町全戸を一軒一軒訪ね歩いて説明をし、利用者を募った。

 高齢者が多い山間の町で、今まで触れたこともないパソコンやインターネットについて説明をし、理解を得るのは並み大抵のことではない。「それでも熱意をもって説明し、住民のニーズを喚起することが大事。住民の利用意向がないまま通信インフラだけを整備しても仕方がない」と渕上氏。同氏の85歳になる祖父も彼の熱心な説明を聞き、「よし、お前がそこまでいうならやってみよう」とインターネットに挑戦。今ではオンラインで囲碁を楽しんでいるという。

 「木城町のお年寄りと接する中で、『パソコンを使うのは難しいけど、孫と会話をしたい一心で勉強している』という話を聞き、ただインフラをつくるだけでなく木城町の皆さんがもっと喜んで利用できるものにしなくてはと思った」とNTT宮崎支店の水野氏も述懐する。

クマゼミと戦い、リモコン飛行機で川を渡す

 利用者集めと並行して、光ファイバ敷設工事も急ピッチで進めた。工事期間は2003年11月〜2004年3月まで。山間部のため、平地では考えられない障害を越えなければならなかった。

 最初の障害は、クマタカ。町の北部へケーブルを敷設しようとすると、約1.2kmにわたってクマタカの営巣地域がたちはだかっていた。クマタカのヒナは騒音など外界の刺激に対して敏感だ。そのため、営巣期間終了後、町の許可を待って本工事を行うこととし、暫定的に廃道のガードレールや樹木を利用してケーブルを敷設した。

 次の難敵は、クマゼミだった。他の地域で、夏に光ファイバの引き込み線故障が多発し、調べてみると断面が瓢箪(ひょうたん)型の外皮に覆われた光ファイバケーブルの溝の部分にセミが産卵するのが原因と判明していた。産卵時にセミがケーブルの外皮をつつき、光ファイバの芯線を傷つけてしまうのだ。そこで、鹿児島と静岡でフィールドテストして成果を上げた「セミ対策ドロップケーブル」を採用した。このケーブルは外皮に溝がなく、セミが卵を産みつけることができないようになっているのだ。

 最後に立ちはだかったのが険しい地理的条件だった。町の中央を流れる小丸川。その対岸の一軒家であっても、サービス申込みがあれば光ファイバを敷設した。河川を横断する工事では、通常、空中で作業する宙乗機を使う。しかし、どうやっても宙乗機が使えない箇所があった。

 そこで活躍したのがリモコン飛行機だ。まずリモコン飛行機が誘導ロープを対岸へ渡す。次に架渉ロープ、ストランドワイヤーを渡し、最後に光ファイバケーブルを搭載して四度目の飛行をすると工事完了だ。もげた翼を修理し、「歴戦の勇士」の面影をとどめたリモコン飛行機は、難工事の記念物としてNTT宮崎支店に保管されている。

 クマタカ、クマゼミといった難敵を乗り越え、山と谷を克服し、知恵と汗の結晶の光ケーブル敷設は、わずか5ヶ月で総延長約100kmに達した。

トラブル対策で深夜の出勤も

 ブロードバンド通信環境が整っても、使われなければ意味がない。町民から役場へ、そして全世界へと情報を発信し、双方向のコミュニケーションを図る道具も、「宝の持ち腐れ」になってしまう。それには、パソコンの使い方、通信環境の利用方法など、いくつかのリテラシーを身につけなくてはならない。

 サービス開始当初は1日で100件の問合せが舞い込んだ。それを町役場の2人の職員で手分けして対応したという。リテラシー向上を目的とした町役場主催のパソコン講習会を頻繁に開き、それを利用する住民も多かった。最近問合せが多いのはウィルス関連だ。財政課電算係長の壱岐和寿氏は木城町インターネット利用者のウィルス対策に奔走する。近々ウィルス対策講座も開講する予定だ。

 NTT西日本の問合せ対応時間は午後五時半まで五時半を過ぎてかかってきた問合せ電話には町役場の職員が適宜対応している。問い合わせがあったお宅を訪問し、トラブル解決をすることもしばしば。今までで一番遅い出動記録は午前0時20分だった。町役場の職員の熱い思いが、木城町の情報化を縁の下で支え続けている

広がる夢=1)山村留学実況中継計画

 木城町北部の山間にある中之又地区。この地区の小学校の全校生徒は11名。地元の小学生2名、宮崎県内から山村留学をしている小学生9名が通っている。山村留学の期間は1年間。その間は木城町の住人が里親となる。緑豊かな環境で元気に学ぶ子供たちの姿をご家族に伝えたい。ブロードバンドであれば教室で勉強している姿だけでなく、校庭で元気に走りまわっている姿も伝えられる。そんな思いを込めた計画を現在検討中だ。

広がる夢=2)健康チェックにも活用

 公民館に血圧、心電図、脈拍等が簡単に測定できる機械を設置。この機械が通信回線と繋がっており、測定データは保健婦のもとへ送られ、必要に応じて相談も可能に――そんな計画が実現に向けて進行中だ。各人に個人認証用の磁気カードを配布し、それを持参し測定機のカードリーダーに入れれば、個人が識別される仕組みだ。

 木城町には医療機関が一つしかない。医療機関から遠いところに住む町民が頻繁に通院するのはなかなか大変だ。そのため、「各地区の公民館をお年寄りの健康チェックの拠点にし、ゆくゆくは健康チェックのための機械を全戸に配付したい」と渕上氏は語る。遠隔医療といったニーズよりも、まずは遠隔で日頃の健康管理をといったニーズに応えたいと考えている。

「雑草の生えない高速道路」目指して

 宮崎県の三宅義彦副知事は「それぞれの地域事情に合わせた情報化が必要」と語る。木城町の渕上氏は「地域事情に合わせた利活用を考えていきたい。しかし、今まだ始まったばかり。何もかもが目新しく目移りする。自分たちが本当に必要なものは何なのか、見分ける目を養っていくことが必要」と語っている。光ファイバによる環境整備の検討を始めた当初は地上波テレビ停波後のデジタル放送再配信の必要性が頭の片隅にあった。しかし、通信インフラが完成した今、町役場の立役者達は、住人の生活に密着した身近なところからこの通信環境を有効に活用した情報発信を欲しいという願いをもっている。

 NTT宮崎支店にとっての期待は、全世帯のサービス加入だ。「木城町にアウトバーン(高速道路)ができた。アウトバーンの延長(全世帯の加入)と色々な車(アプリケーション)を走らせていきたい。このアウトバーンを雑草の生えることのない高速道路として活用していきたい。本当の意味でのサービスはこれからだ」(宮崎達三支店長)と、気を引き締めている。

 それぞれ地域で、その地域を一番良く知る人たちの手によって「手作りの情報化」が着々と進められている。官が敷設したインフラの民間開放をベースにした通信環境整備の事例が増えてきつつある。これらの取り組みの成否を占うのは、今後の利活用の促進である。木城町のアウトバーンにどんな車が走るのか、楽しみである。

( 藤井資子=慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科博士課程 )



評価と課題

官民協働の成果は、利活用が伴ってこそ

 宮崎県木城町を訪れて感じたのは、インフラ整備の遅れ−デジタルデバイド−を心配する全国の過疎地にとって、先導的なモデルとなる可能性を秘めたケースだということだ。いくつかの側面で、これから全国でぜひ欲しい協働の形を実現しているからだ。ここでは二点あげてみよう。

  第一に、最も本質的な面として、行政用のシステムと民間用のインターネットが共通の基盤の上に乗っていることがあげられる。今後の地域におけるインフラ作りを考えたときに、官用のシステムと民間用のシステムであるとか、放送用インフラと通信用のインフラであるといったふうに、用途別にバラバラに(つまり重複して)整備する贅沢が許されない状況となってくることは必定である。

 ただし、異なる組織形態や、異なる事業法体系のもとで運営されているサービスを共通の物理基盤の上にのせるのは容易なことではない。その難しさにもかかわらず、この事例では、NTTがサービス事業者として行政の物理インフラを活用するという形を取ることで、少なくとも行政と民間の垣根を突破してみせている。事業者はNTTでなくてもよく競争的にできるはずで、この方向性をさらに進めたところに、高度でありながら効率的なサービスを過疎地でも提供しうる未来が見える。

  第二に、地元自治体がイニシアチブを取り、国や民間大企業が持てる資源を集めたボトムアップ式協働であることがあげられる。すなわち、システム構想の段階から自治体がイニシアチブをとって、地元の実態に合致したシステムづくりが推進された。それを国が制度的、資金的に支え、民間企業(NTT)が持てる技術と資産で実現に寄与している。中央からお仕着せのインフラが降ってくるのを待つのではなく、地元からわき起こった取り組みであるところが嬉しい。コンテンツについても中央からくるコンテンツを待つのではなく、地元の情報を発信するのだという意欲を持っていられる心意気を買いたい。

  このように注目すべき点を持つ木城町の取り組みだが、これが本当に全国のモデルとなりうるか否かは、今後整備されたインフラがどれくらい有効に活用されるかにかかっているように思う。現状のままでは、多額の税を投入して都会でも見られないような贅沢な設備を作りながら(光ファイバを局から各所帯に直収するという、在宅で病院なみの高度な遠隔医療さえできそうな高機能なものである)、あまり活用されることのない通信版ハコモノ行政の事例となってしまいかねない。作ったインフラを目一杯使って、地域における行政や福祉の費用対効果が劇的に改善され、投資が十分回収されたと納税者が納得している姿が見たい。

(國領二郎=慶應義塾大学環境情報学部教授)




【コラム71:高速化するFTTH】                   (2004/05/28作成:tuusinsya)

 2004年5月24日付のIT Proコラムに、「手ごろな料金でさらに高速化するFTTH」と題して、FTTHの高速化に関する記事が掲載されていました。参考になると考えますのでご紹介します。
[出典]:[http://itpro.nikkeibp.co.jp/free/NNW/NETHOT/20040521/144603/]

手ごろな料金でさらに高速化するFTTH

 急速に身近になりつつあるFTTH(fiber to the home)。アクセス回線に光ファイバを使うことで,100Mビット/秒という高速でインターネット・アクセスを実現するサービスだ。2004年2月には100万回線を突破,その後も順調にユーザー数を伸ばしている。

 そんなFTTHがさらに高速化し,手ごろな料金で利用できるようになりそうだ。2004年6月にIEEE802.3ahワーキング・グループが決めるFTTHの標準規格のなかに,PON(passive optical network)方式を採用した1Gビット/秒の規格「1000BASE-PX」が含まれているからである。

 PONとは,局からの光ファイバを電源不要のスプリッタという部品で分岐し,複数のユーザー宅まで引き込む方式。光ファイバを節約できるのでコストを抑えられるという特徴がある。

 1000BASE-PXの話をする前に,現状のPONについて解説しておこう。

 国内では,NTT東西地域会社などがすでにPON方式を使ったFTTHサービスを提供している。FTTHで現在使われているPONの技術は,通信方式の違いで二つに分類できる。一つはイーサネットのMACフレームをそのまま光ファイバに流すEPON(Ethernet PON),もう一つはATM(asynchronous transfer mode:非同期転送モード)という技術を使うBPON(Broadband PON)である。

 二つの技術のうち,これまで標準規格があったのはBPONのほう。ITU-T(国際電気通信連合電気通信標準化部門)が1998年にG.983として勧告化している。現状,FTTHサービスに採用されているBPON方式は,光ファイバ上の伝送速度が155Mビット/秒もしくは622Mビット/秒で,最大32ユーザーの回線を束ねる仕様になっている。

 一方のEPONのほうは,現状,各通信機器メーカーが独自技術で実現した機器を使ってFTTHサービスを提供している。一般的な仕様では,光ファイバ上の伝送速度が100Mビット/秒で,分岐数はBPONと同じ最大32である。

 それに対して,新しくIEEE802.3ahが標準化するEPON規格1000BASE-PXGE-PONとも呼ばれる)の回線速度は,1Gビット/秒と高速化が図られている。さらに標準の分岐数は16で,最大32分岐の現状のFTTHサービスに比べて分岐数が減る。それだけ1ユーザー当たりが使える帯域は増える。

 1000BASE-PXが標準化されることで,今後国内のFTTHサービスでも1000BASE-PX方式を採用したサービスが増えてくるだろう。標準規格をベースとするので,メーカー独自規格の伝送装置よりも,価格が抑えられる可能性がある。現状と同じ程度の料金で,最高1Gビット/秒のFTTHサービスが提供される日も近いだろう。


【コラム70:デジタルデバイド解消の鍵】                 (2004/05/07作成:tuusinsya)

 2004年5月6日付のIT Proコラムに、「デジタル・デバイド解消の鍵」と題して、ブロードバンド誘致に関する記事が掲載されていました。参考になると考えますのでご紹介します。
[出典]:[http://itpro.nikkeibp.co.jp/free/ITPro/OPINION/20040505/143785/]

デジタル・デバイド解消の鍵,「ブロードバンドはつかみ取るもの」

 xDSL,FTTH,CATVインターネットを足したブロードバンド接続サービスの加入数は2004年2月末で約1449万。もうすぐ1500万に達しようという勢いである。しかし一方で,ブロードバンドを利用したくてもできないユーザーも数多くいる。このような格差は“デジタル・デバイド”と呼ばれる(デジタル・デバイドには「パソコンを使えないため入手できない情報がある」など,ほかにも意味がある)。

 こうしたデバイド環境下にある地域は,ブロードバンドが開通する日をただ待っているわけではない。懸命の誘致運動を繰り広げる市町村などもある。こうした取り組みを調べてみて感じたのは,「ブロードバンド接続サービスは“待つもの”ではなく“つかみ取るもの”」ということだ。

 日経コミュニケーションは,2004年2月9日号から3月8号にかけて「忍び寄るデジタル・デバイド」と題した連載記事を掲載した。(1)ブロードバンド,(2)IP電話と固定電話,(3)携帯電話――の3つのサービスについて,地域間あるいは媒体間で生じているデバイドの現状を紹介している。

 取材して回るなかで,ブロードバンドのデバイドがユーザーに与える影響は大きいのではないかと思うようになった。IP電話,映画のように大容量のコンテンツなど,さまざまな情報の利用で差が付くことになるだろうと考えたからだ。

300加入の目標背負い,奮闘する村役場

 現在,ブロードバンドが使えないユーザーはどれくらいいるのだろうか。2003年11月末時点のデータだが,加入電話回線に対する「フレッツ・ADSL」のカバー率で見ると,5%にあたる約252万世帯が提供エリア外だという。「Bフレッツ」のカバー率を見ると,28.9%に相当する約1460万世帯が加入できない。この数字を耳にして「まだ相当あるな」との印象を持った。

 確かにデバイドは少しずつ解消に向かっている。「沖縄の石垣島と宮古島でブロードバンドを提供できるようになる」「東京の八丈島でヤフーBBの提供が決まった」といったニュースに気づかれた方もいるだろう。だがデバイド離島に限らず山間にもあるし,都心に比較的近い場所にも今なお残る。

 東京・新宿から急行電車で55分,バスに乗り換え35分。たった1時間半で行けてしまう神奈川県清川村には,まだブロードバンドが来ていない。話を伺ってみると,村民のブロードバンドへの興味は高いようだ。昨年11月に村がアンケートをとったところ,「インターネットに接続している」とした世帯の9割以上がブロードバンドを「利用したい」と答えたという。

 こうした村民からの要望もあり,4月2日に村役場が音頭をとって「清川村にブロードバンドを誘致する会(仮称)」を結成した。商工会に婦人会,PTAなどの団体を動員して,目指すはNTT東日本「Bフレッツ」の提供である。フレッツ・ADSLでなくBフレッツなのは,村内の主な2つの地区の片方にしか電話局がなく,かつ2つの地区が9kmも離れているためだ。

 誘致への最大の壁はニーズをまとめることNTT東日本にかけ合うなどした結果,300件程度の加入申し込みをまとめればサービスを受けられると分かった。だが村内の全世帯数は約1100。27%の世帯に「Bフレッツに加入します」と言ってもらうのは容易でない。「300件程度」という要求はちょっと厳しいのではないかと思う。

 誘致する会を担当する総務部企画財政課の折田克也副主幹は,「当然,事業者にも採算性がある」と話したが,そのあとに続けた言葉こそ本音だろう。「通信基盤は水道や電気のようにライフラインに近づいているのではないか。我々は1100世帯で地域的にも大都市とは違うが,サービスに向けて最大限に考慮してほしい」。

 村は加入促進を図るため,補助制度も設けた。6月30日までに申し込めば,2年間Bフレッツ月額利用料の一定額を村が出す。4月28日現在,申し込み件数は207。折田副主幹の心配事は「チラシを各家庭に配布したが,どれくらい目に留めてくれているか」。無事目標を達成できればと願っている。

声を上げ,時には金も出す“熱意と執念”

 清川村に限らず,多くの自治体がブロードバンド誘致に向けた取り組みを進めている。こうした取り組みに共通していることは,誰かが声を上げてブロードバンド接続サービスを提供する通信事業者にニーズを知らせること。そして場合によってはお金を出してでも誘致することである。

 NTT東西地域会社から,「200〜300件程度(場所や条件によって違うようだが)の申し込みがあると分かればフレッツ・ADSLの提供を検討する」と言われた自治体はほかにもある。これを逆にとらえて,「通信事業者は,ニーズがあると認識できなければブロードバンド接続サービスを提供しない」と考えても大間違いではないだろう。

 町村がブロードバンド開通費用の一部を出すケースも,まれではない。例えば日経コミュニケーションの連載で紹介した新潟県加治川村ADSL装置を置く建物の費用愛媛県一本松町はADSL装置の費用愛媛県内海村は装置と建物の両方の費用として,それぞれ数百万円から1000万円以上の費用を出している。このほか,県が町村や通信事業者に補助金を出すケースもある。

「全市町村で開通」は道半ば

 ブロードバンドを使えない市町村がなくなるまでには,まだ時間がかかるだろう。かつ,それを達成できればデジタル・デバイドを解消できたともいえない。また一つ例を挙げたい。

 秋田県は2003年度まで,県内のブロードバンド未開通の町村でADSL接続サービスを提供できるよう,通信事業者に補助金を出す制度を設けていた。現在,県内市町村のすべてで,少なくとも一部地域ではブロードバンドを使えるようになっている。だが同県はそれで終わりにせず,2004年度から新しい補助制度「高速インターネットアクセス網整備促進事業」を設けた。県内の市町村がブロードバンド未開通“地区”でサービスを開始するために出す費用の一部を補助する仕組みだ。

 この例からも分かるように,同じ市町村の中にも“地区”によるデバイドが存在する。デジタル・デバイドを解消するには,最終的にそこまで達成しなくてはならない。先が長い話だが,重要な社会問題ととらえて今後も注目していこうと考えている。

 最後に,多くの都道府県や地方自治体の関係者の方に,質問させていただいたりご意見を頂戴したりした。この場を借りてお礼申し上げます。



【コラム69:電力線通信技術】                        (2004/03/19作成:tuusinsya)

 2004年3月19日付のIT Proコラムに、「松下が最大190Mの電力線通信技術」と題して、電力線モデムに関する記事が掲載されていました。参考になると考えますのでご紹介します。
[出典]:[http://itpro.nikkeibp.co.jp/members/NBY/ITARTICLE/20040312/1/]

松下が最大190Mの電力線通信技術

実験許可下りるも,国内利用は不透明

 電柱や屋内に張り巡らされている電力線を使って通信する技術「電力線通信(Power Line Communication, PLC)」に,新たな動きが出てきた。松下電器産業は2004年1月9日,HD-PLC(High Definition ready High Speed Power Line Communication)と呼ぶ高速PLC技術を発表。2M〜30MHz帯域を使い,最大190Mビット/秒で通信できる。

 PLCの適用場面としては,電柱と家屋を結ぶ引き込み線部分と屋内の電源コンセント間の両方が検討されているが,HD-PLCは後者のみの適用を想定したもの。インターネットと家屋はADSLや光ファイバで接続することになる。

 日本においてPLCが使える帯域は10k〜450kHz。PLCモデムメーカーは2M〜30MHzの帯域を使えるよう希望している。帯域を広げられれば,インターネット・アクセスに適するくらいに高速化できるからだ。松下電器産業は,この2M〜30MHz帯域を使う前提で符号化方式を工夫し,高速化を実現した。

データを多く詰め込み効率化

 高速化できたポイントは,データの変調技術としてOFDM(直交波周波数分割多重)を用いたことと,データを符号化してフレームを生成する際の実現手法に「Wavelet変換」を用いたことである。符号化の実現手法としては,これまでフーリエ変換を採用するケースが多かった。フーリエ変換を用いると,一つのデータフレーム中に占める「ガード・インターバル」という冗長データの割合が通常3割に達する。Wavelet変換を使えばガード・インターバルをなくすることができるので,フレーム生成時のオーバヘッドを削減できる。これにより,実効速度の大幅向上が見込める。

 Wavelet変換はノイズ対策でも有効だ。OFDMは多数のサブキャリアでデータを送る技術であるが,サブキャリアの生成ソフトウェアで制御することで,使わない帯域に生じるノイズを減らしている。フィルタ利用時より22dB低減できる。

 加えてHD-PLCは,安定的にデータ伝送するための仕組みである「QoS(Quality of Service)」機構も備えている。これは,ストリーミング・データのように,一定の速度で連続伝送するアプリケーションに向く通信機能である。

 仕組みはこうだ。HD-PLCでは,Beacon信号を合図に送信サイクルを区切っているが,Beacon信号間の時間を予約されたデータを流す時間帯と通常のデータ通信時間帯に分け,前半は送信権を持つ機器が優先的にデータを送れるようにした。

 まず親モデム(スケジュール・コントローラ)がBeaconを各機器にブロードキャストすると,優先的にデータを送信したい機器は親モデムにデータ送信のリクエスト(データの種類と伝送速度および伝送時間の情報)を送る。親モデムは,既に予約されている時間を考慮し,この要求を満たせると判断した場合のみ送信権と伝送するタイミングを返信する。「このQoSを採り入れたことが,業界団体で作るPLCの次世代規格『HomePlug AV』のベース技術として採用される決め手の一つになった」(松下電器産業ネットワーク開発本部ブロードバンドコミュニケーション開発センターの有高明敏所長)。

実験は許可,だが壁はまだ高い

 PLCは米国やスペイン,韓国などで実用化されているが,日本では実用化のメドが立っていない。PLCは有線の通信だが,電力線からの漏洩電磁波が他の無線通信に干渉を及ぼすという問題があるためだ。

 モデムメーカーは漏洩電磁波を低減するための研究開発を進めている。「各社で数値は異なるが,数dBから数10dBの抑圧効果が電波暗室等で確認されている」(日本の業界団体である高速電力線通信推進協議会,PLC-J)。だが,これまで電波暗室での実験はできているもののフィールド実験ができなかった。電波法が障壁となっていたためだ。

 2004年1月,総務省はモデムの漏洩電磁波の低減技術を検証するための実証実験を許可すると発表した。これを受けて,PLC-Jでは,まずは屋内(宅内系や集合住宅)での調査から始めるという。総務省にデータを提出し,もう一度検討の場を設ける考えだ。

 データが揃えば,漏洩電磁波の低減レベルの検討に入れる。だが,その要求水準はかなり高い。「家庭内の電力線は分岐の数や,距離がまちまちで数種類の家電が接続されている。膨大な数の組み合わせで実験しデータを揃える必要がある」(総務省総合通信基盤局電波部電波環境課の志賀康男課長補佐)ためだ。「今は漏洩電磁波が限りなくゼロに近い数値を希望する」(志賀課長補佐)という段階にある。



【コラム68:地域情報化推進】                  (2004/01/26作成:tuusinsya)

 2004年1月23日付のMainichi INTERACTIVEに、「破棄しない使用権の活用 地域情報化推進へ一つのヒント」と題して、地域情報インフラ整備に関する記事が掲載されていました。参考になると考えますのでご紹介します。
[出典]:[http://www.mainichi.co.jp/digital/coverstory/today/index.html]

「破棄しない使用権」の活用   地域情報化推進へ一つのヒント

 「地域情報化」といっても、まったく同じ文化、条件を持った地域というものは存在しないし進め方も違う。しかし、具体例を見ることでなにかヒントをつかめるかもしれない。今回は、すでに取り組みを進めている例として秋田県矢島町を中心に紹介してみる。(西  正)

■秋田県矢島町の例

 秋田県矢島町は、同県南部にあり名峰鳥海山の麓に位置する人口約6200人の町。この矢島町では、国庫補助金を使って、自治体自身がFTTHのネットワークを持った。メインの線は太く、全ての家庭まで光ファイバーをドロップ出来るぐらいになっている。光ファイバーを使ってデジタル放送の再送信をすることも可能なのだが、現段階では光ファイバーが引き込まれているのは一部の家庭であるため、サービスを享受できるのは全人口の二割か三割ぐらいにしかならない。

 ただ、矢島町の事例がユニークなのは、NTTが自治体のインフラを「IRU(indefeasible right of user)」という形で借り受けていることである。ここにまず回線確保に一つのヒントがある。

 IRUは「破棄しない使用権」と訳され、関係当事者の合意がない限り、破棄または終了させることが出来ない長期的・安定的な「線路設備」の使用権である。「IRUによる設置」と認められるためには、IRUにかかる契約(協定)では、第一種電気通信事業者特定範囲の線路設備の使用権を取得して、対象となる特定の線路設備を継続的に支配・管理することが担保されている必要がある。

 第一種電気通信事業者側からみれば、電気通信事業法で義務づけられる「電気通信回線設備を設置」を、IRUで他者が所有する線路設備を自らの電気通信回線設備として調達することを可能というメリットがある。

 矢島町のケースでも、NTTが賃借して、サービスを提供している。こうした形であれば、NTTとしても、ローカルエリアにおけるサービスを行いやすくなる。特定地域でのフレッツサービスというか、インターネット・サービスを提供するというスキームも可能なのだ。

 同様なことを福島県原町市でも行っている。しかし、少し違うのは、光ファイバーを電柱のある所、いわゆる「終端」で止めて、ここに無線機を付けて、無線でブロードバンドを利用する仕組みとなっていることである。

 ただ、重要な課題が残されている。それは、地域情報化の要でもある「デジタル放送の再送信」を行う仕組みが出来ていないことだ。住民の中からは、デジタル放送受信のニーズが出始めているようだが、国庫補助金の名目との関係で、なかなか動きが取れない状況にあるようだ。

 放送事業についても取り組むということになると、NTTがIRUで借り受けたところで、NTTには放送免許は下りない。自治体なり、第三セクターなりが放送事業主体、すなわち、今でいうところのケーブル事業者のようになる必要がある。

■合併特例債の活用と地元放送局の姿勢

 こうした中でやはり合併特例債の活用は、検討に値するものである。国庫補助ではないところも、活用しやすいと思われるし、調達規模から言っても、合併後の市町村の人口が三万人を超えたあたりから、全体で120億円くらいの調達が可能である。

 計算式も明示されている。総務省のホームページの中に、合併相談コーナーが設けられており、「試算してみよう!!合併特例債」をクリックし、自治体名を選んでクリックすると、「あなたの自治体は、これだけの合併特例債が使えて、そのうちの7割は還付されます」と書かれている。

 ローカル局としても、デジタル化に苦労していると言うのならば、こうした仕組みを自治体と一緒に検討してみるくらいの工夫は必要なのではなかろうか。もしも、これを知らないようだと、デジタル化に苦しんでいると言いながら、あまり自助努力をしていないようにすら思えてしまう。

 確かに、旧自治省の流れのマニュアルを見る限り、あまり、情報インフラがメインになっていない。まして、放送受信環境の整備などとは書かれていない。ただ、本当に厳しい状況を迎えるという認識があるのなら、自治体との協力関係を強固なものにして、自治体に残る3割の負債のうち、1割ぐらいは負担してもいいのかもしれない。その1割を地元の放送局の数であん分した時に、中継鉄塔を建てるのと、どちらが得なのか程度のことは検討しても良さそうなものだ。

 合併後の自治体が公園などを作ろうとしているのなら、それを情報インフラ整備に回した方が住民にとってもありがたいことだという説明は出来るはずだ。マスタープランを上げておけば、実際の履行は、10年かけても構わないことになっている。ただ、マスタープランと合併の完了平成17年の3月期の前までとなっているので、検討するのであれば、そろそろ取りかからないと間に合わなくなってしまう。

 ローカルエリアにおける情報基盤整備のあり方については、真剣に考えることこそが、光メディアで世界に先駆けていく国作りに不可欠なことであると思われる。各家庭まで光ファイバーが敷設されているのは、世界で日本だけであることを併せ考えれば、都市部だけでなく、ローカルエリアにおける光化の実現は世界的な注目を集めることになるだろう。

 ブロードバンドというくくりの中で、アメリカや韓国に追いつくようなことばかり考えているのではなく、1ギガのFTTHが遠い田舎町でも実現しているような情報立国を目指していくべきである。

 放送事業者と通信事業者の言葉が通じにくいのは仕方がないこととして、自治体という通訳をかませることによって、光メディアで世界を制する時代を迎え易くできるのではなかろうか。



【コラム67:モバイルルータ】                    (2003/11/08作成:tuusinsya)

 2003年11月7日付のimpress Broad Band Watchに、「KDDI、1xEV-DOや無線LANなどに対応したモバイルルータを披露」と題して、各通信方式をシ−ムレスに利用できる車載用ルータの記事が掲載されていました。参考になると考えますのでご紹介します。
[出典]:[http://bb.watch.impress.co.jp/cda/news/3186.html]

KDDI、1xEV-DOや無線LANなどに対応したモバイルルータを披露

 KDDIおよびKDDI研究所は、CDMA2000 1xEV-DO方式や無線LAN、PHSといった各通信方式を意識することなく、シームレスに通信方式を切り替えられる車載機器「モバイルルータ」を開発し、7日都内でデモンストレーションが行なった。

 「モバイルルータ」は、2GHz帯のCDMA2000 1xEV-DO、IEEE802.11a/b/g準拠の無線LAN、PHS(AirH")といった各通信方式をシ−ムレスに利用できる車載用ルータ。高度道路交通システム(ITS)向け狭域通信システムDSRCにも対応し、次世代インターネットプロトコルIPv6や既存のIPv4をサポートする。

 モバイルIP技術を用いて、オフィスから車への移動時にアプリケーションを中断せずに通信を継続し、車内で通信を継続したまま通信方式を切り替えられる。通信エリアや通信速度、電波強度などによって自動的に通信方式を切り替え可能で、切替条件も任意に設定できる。

 例えば、無線LANアクセスポイントのあるエリアでは無線LANを利用し、電波強度が弱くなれば1xEV-DOAirH"を自動的に切り替えて利用できる。パソコンやPDA、カーナビ、カーテレマティクス機器などは、無線/有線LANやBluetoothなどで車内LANに接続する。

 また、GPSも搭載可能で、無線LANアクセスポイント1xEV-DOエリアなどを位置情報から取得し、電波強度を予測しながら切り替えをスムーズに行なう仕組みも採用されている。

 端末は車内のオーディオスペースに設置できる1DINサイズとなっており、266MHzのCPU、256MBのメモリを搭載。内部にATA33対応IDEおよびCFカードスロットを装備し、外部インターフェイスとして、PCカードスロット、USB、シリアルD-sub 9pin、テレビ出力端子やS端子を搭載する。車内通信用に100BASE-TX/10BASE-Tポートも用意されている。大きさは178×182×50mm(幅×奥行×高)。

 なお、今回の端末はあくまで開発段階のもの。KDDIでは、想定される用途が広範に渡るため利用方法などを限定しておらず、カーナビに組み込む形での製品投入や、モジュールとして車の内部に搭載するほか、課金や顧客管理といったプラットフォームの提供、ASP、コンテンツ配信といったビジネスも想定しているようだ。

 プレゼンテーションでは、国内の携帯電話およびPHSが8,000万台を超え、市場が頭打ちになりつつある状況を指摘。KDDIでは、7,000万台市場とも言われる自動車産業に視野を広げることで、人をターゲットにしたこれまでの市場から物(車)へと市場の拡大を図りたい考え。また現状では、カーナビなどの外付け車載端末での提供が有力となるが、同社では最終的には車に内蔵したいとしている。

 製品投入時期に関して具体的な話はなかったものの、担当者は「2010年には普及しているのではないか」とコメントしており、すでに通信方式の切替自体はかなり進んでいるという。今後の課題となるのは、車内に設置される位置や通信方式の増加に伴なってアンテナが増えてしまうことなど車載機器としての具体的な問題で、KDDIではカーナビやアンテナ、車メーカーなどの車載機器のノウハウを持つ企業とともに製品化を考えているようだ。

■ 実車を使ったデモンストレーション

 実車を使ったデモンストレーションは、モバイルルータを搭載した車で都内のKDDIビルを1周し、通信の切り替わる様子を確認するものだった。モバイルルータには、10月31日に商用サービスが開始された2GHz帯の1xEV-DO専用端末「DO-BOX」と、802.11aの無線LAN用メディアコンバータが接続され、有線LANで車内のパソコンと接続された。

 なお、デモは無線LAN側はIPv6環境で1xEV-DOはIPv4環境と、通信プロトコルの混在した環境で行なわれた。

 出発する地下駐車付近は無線LANエリアとなり、車内のパソコンには、駐車場出口に備え付けられたWebカメラの映像と、KDDIビル内のサーバーから配信されるストリーミング映像が同時に表示され、電波強度パケット通信量などもグラフで確認できるようになっていた。駐車場を出ると徐々に無線LANの電波強度が弱くなり、逆に1xEV-DOの電波強度が強まっていき、電波強度の弱まりをきっかけに自動的に通信方式が切り替わった。通信が切り替わるとWebカメラの映像も自動的に終了し、ストリーミングコンテンツのみの表示となった。

 ビルを1周して地下駐車場に入る際には、再び無線LANの電波が強まって自動的に切り替わり、Webカメラの映像が自動的に立ち上がった。切替は本当に切り替わったのか疑わしいぐらいスムーズなものだったが、高速で移動している場合には若干のタイムラグがあるという。

■ モバイルルータ、まずはバスや新幹線で採用か

 KDDIでは、今回のモバイルルータがバスや新幹線といった交通機関向けに投入されると予測。エンドユーザーにその利便性が浸透すれば、自家用車などの一般ユースでも普及していくと考えているようだ。発表会ではカーテレマティクス分野での利用方法を紹介していた。

 また、デモでは、「DO-BOX」をルータに接続する形となったが、先日行なわれたモーターショーではCFカードタイプの1xEV-DO端末を参考出品しており、こうした小型の無線端末をモバイルルータに内蔵することも十分可能としている。

 同社では、実用化された場合の各通信方式の利用料や、有料無線LANアクセスポイントの課金形態など検討段階の点も多くあるが、ユーザーの動向を踏まえて考えていくという。発表会で挨拶を行なったKDDIの技術開発本部長の村上 仁己氏は、「EV-DO、無線LAN、PHSなど様々な通信方式がそれぞれの帯域を使って混雑していて、インターネットは使いにくい」とした上で、今回のモバイルルータが「これからのマスト(必需品)になるだろう」と自信をのぞかせた。



【コラム66:量子コンピュータ】                 (2003/10/30作成:tuusinsya)

 2003年10月30日付のNECプレスリリースに、「固体素子を用いた量子ビット論理演算回路を世界で初めて実現」と題して、量子コンピュータを構成する基本回路の完成記事が掲載されていました。参考になると考えますのでご紹介します。
[出典]:[http://www.nec.co.jp/press/ja/0310/3001.html?top]

固体素子を用いた量子ビット論理演算回路を世界で初めて実現

− 量子コンピュータを構成する基本回路を完成 −

2003年10月30日
日本電気株式会社
独立行政法人理化学研究所

 NEC(金杉明信代表取締役社長)と独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)は、固体素子で構成される量子コンピュータの基本素子2個を結合することで"量子論理演算回路"を構成し、その動作に世界で初めて成功しました。今回の成果は量子コンピュータの実現に向けた大きな一歩と言えます。これはNEC基礎研究所/理研フロンティア研究システム(巨視的量子コヒーレンス研究チーム:リーダー 蔡 兆申(ツァイ・ヅァオシェン))の共同研究による成果です。

 現在のコンピュータをはるかに越えた情報処理能力を持つと期待される量子コンピュータは、「量子ビット」と呼ばれる「0」と「1」を重ね合わせた物理状態を演算単位として使います。その演算は、量子ビットの物理状態に回路操作を施すことによって実行されますが、量子ビット1個の状態を制御する回路と2個の量子ビットの間で論理演算を行う回路との組み合わせにより、任意の量子演算が実現できることが理論的に証明されています。

 NECでは1999年、超伝導体を用い、固体量子ビット1個の回路動作に世界で初めて成功しました。さらに2003年2月にはNECと理研の共同研究チームが、前記の量子ビットを2個結合させた素子を用いて量子コンピュータの実現に不可欠な量子絡み合い状態の生成に成功しました。しかし、どうすれば2個の量子ビット間で論理演算を実現できるかは明らかではありませんでした。

 今回、2個結合した量子ビットを各々自在に制御できる素子構造と、これを用いて論理演算を行うのに必要となる特有のパルス信号列を新たに考案することで、制御付き否定ゲートと呼ばれる2ビットの論理演算を実現し、それが期待通りに動作することを実証しました。

 1量子ビット回路と2量子ビット論理演算回路固体素子での実現は、量子コンピュータが集積化可能な固体素子により構成可能であることを初めて明らかにするもので、これにより、固体量子コンピュータを実現するための基本回路が揃ったと言えます。今後は、これらの回路の集積化・量子計算アルゴリズムの実証といった、新しい段階の研究に取り組み、量子コンピュータの実現を目指していきます。
 本研究成果の詳細は、英国の科学雑誌『nature』(10月30日号)に掲載されます。

背景

 電子や原子のような微小な世界では、私たちが日常生活で経験する物理法則とはまったく異なった量子力学と呼ばれる物理法則が支配しており、粒子は同時に波としての性質を持つようになります。電子を例に取ると、量子の世界では電子波として空間的に広がった存在になります。

 量子コンピュータとは、このような電子などの量子力学的状態を利用して演算するコンピュータです。この技術が実現すれば、現在のコンピュータをはるかに越える計算能力を持つと期待されています。(例えば、現在のコンピュータでは数千年もかかるような数百桁の数字の素因数分解が数十秒で解けると考えられています。)量子コンピュータは、革新的なアイデアであったものの、実用的な応用は未開拓でした。

 しかしながら1994年、AT&Tリサーチ(米国)のピーター・ショー(Peter Shor)によって具体的な素因数分解のアルゴリズムが発見されて以来、暗号解読や膨大な情報処理演算に有効と期待され、研究が盛んになってきました。

 量子コンピュータは、具体的には「量子ビット」と呼ばれる演算単位で計算します。量子ビットは、"0"と"1"という2つの物理状態を波として重ね合わせることで同時に実現します。この重ね合わせができるのは、原子や分子などが量子力学的な波の性質を持っているからです。

 一方、量子演算はその量子ビットの物理状態に対して回路操作を施すことによって行われます。この回路操作を説明したのが図1aです。1つの量子ビットは1本の線に対応し、線上の四角は量子回路を表します。左側の線を入力ビットとすると、右側の線は、その入力に対してある特定の回路操作を施した後の量子ビットを表します。

 図1aの量子回路は1つの量子ビットに対して作用するのですが、図1bのように2つの量子ビットに対して作用する量子回路、あるいはそれ以上の数のビットに対して作用するものも考えられます。実際の量子計算は図1cに示したように、複数の量子ビットに次々と回路操作を施していくことで実行されるのです。

 さて図1cに示した量子回路の実行パターンは当然解くべき問題によって変わってきます。従って必要となる量子回路も幾らでもありそうな気がしますが、実はどんなに複雑なアルゴリズムでも、それは、1量子ビットの状態を制御する1ビット回路と、二つの量子ビットの間で論理演算を行う2ビット回路の2つに分解することが出来るということが理論的に証明されています。

 つまり任意の量子計算はこの二つの量子回路さえ実現できれば、原理的には遂行可能なのです。これは現代のコンピュータがNAND回路やNOR回路の基本回路のみにより構成されているのと同じです。

 NECは1999年、超伝導電子対(超伝導状態にある電子は2個で対をなして動き回ることが知られています)を入れる微小な箱を超伝導体で作製し、近接した制御電極への電圧パルスによりこの電子対箱中の電荷量を制御することで、固体素子による量子ビット一個の動作に世界で初めて成功しています。

 その後、幾つかの研究室でも同様な研究成果は実現していますが、量子コンピュータを構成するのに必要な上述の二種類の量子回路のうちの2番目の2ビット論理演算回路固体素子で実現するには至っていませんでした。当グループは本年2月に、キャパシタンスで結合した超伝導2量子ビット素子を用いて、量子コンピュータに必要な量子絡み合い状態の実現に成功しました。

 今回、2個結合した量子ビットを各々自在に制御できる素子構造と、これを用いて論理演算を行うのに必要となる特有のパルス信号列を新たに考案することで、2ビット論理演算回路、具体的には図2に示した制御付き否定回路の実現を目指しました。この回路は図中の真理値表で示したように、A,B二つの量子ビットの入力に対し、A(制御ビットと呼ぶ)が"0"の時のみ、もう一方のB(標的ビットと呼ぶ)の状態を反転させるという働きを持つものです。

研究成果

 研究グループでは、キャパシタによって結合した2つの量子ビットからなる回路を用いて、直流電圧およびパルス電圧によって制御付き否定回路を実現する方法を提案し、それが期待通りに論理演算動作をすることを実験的に確認しました。実際に用いた試料の写真を図3aに、その模式図を図3bに示します。素子の構成は図3bのように、量子ビットを構成する二つの超伝導電子対箱微小な結合キャパシタ(コンデンサ)により結合しており、それぞれの箱には状態制御用の直流電極およびパルス電極が取り付けられております。

 各電子対箱はトンネル接合(図3b模式図の青い部分)を介し電源端子に接続され量子ビットを形成しています。右の量子ビット(箱1、または制御ビット)の電源端子は、2点で電子対箱に接続していますが、これは実験の都合による構造で、1点で接続している場合と本質的には同じです。

 また、各量子ビットにはトンネル電流によってその状態を読み出す為のプローブ電極が備わっています。素子の全体の大きさは図3bから分かるように1ミクロン強で、量子ビットとなる箱の大きさはそれぞれ0.9ミクロン×0.05ミクロン程度であります。この素子は全てアルミ薄膜で構成され、素子の作製は最先端の微細加工技術によってなされました。

 ここで図3cを用いて制御付き否定回路の動作原理を簡単に説明します。なお図3cでは簡単化のため、プローブ電極、直流電極、制御ビットのパルス電極は省略しています。量子ビットの"0"と"1"の二つの状態は、箱内の超伝導電子対の数が異なる状態を使い表現します。この場合"0"は余剰超伝導電子対がない状態、"1"は余剰超伝導電子対が1個ある状態です。

 各量子ビットに適宜な高さ(電圧)の電圧パルスを素早く印加し、量子ビットを"0"と"1"の中間状態にバイアスすると、箱中の余剰超伝導電子対振動を始め、その個数は0個と1個の間を繰り返すことになります。この時、電圧パルスの印加を速やかにストップすると、その時点での個数状態が保持される為、電圧パルスの印加時間で箱中の余剰電子対の個数を自在に変えることができます。

 図3cの上半分に示されているように、制御ビットが"0"の場合、制御ビットの箱には余剰電子対は無い為、キャパシタで接続された標的ビットにはエネルギ的な影響はありません。標的ビットに上述のパルス電圧を印加し、適当なパルス印加時間を選ぶ事で、標的ビットの状態を"0"から"1"に変化させることができます。

 一方、図3cの下半分に示されているように、制御ビットが"1"の場合、制御ビットの箱に余剰電子対が存在する為に、キャパシタを介して標的ビットの電子対箱のエネルギ状態が高くなり(図3cに模式的に示してあります)、標的ビットの電子対箱に電子が入ることができなくなります。従って、先ほどと同じパルス電圧を加えても、標的ビットの状態を変化させることはできなくなります。

 以上をまとめると標的ビットは制御ビットが"0"の状態の時のみその状態を反転させることになり、所望の条件付ゲート動作が実現されることになります。

 図4は実験データです。実験は"0"と"1"の重ね合わせ状態も含めて様々な入力状態を準備し、それらに上述のゲート動作を施し、その出力を検出しました。左側のグラフでは入力状態として制御ビットに"0"と"1"の重ね合わせ状態標的ビットに"0"の状態を準備します。

 横軸の変化は制御ビットの"0"と"1"の状態の強さ(振幅)を徐々に変化させて重ね合わせた入力状態を準備したことに対応します。これに対応して各々の出力ビットも"0"と"1"の重ね合わせ状態として出力されます。縦軸にはプローブ電極を通して流れる出力電流をプロットしてあり、電流が高いということはその時の量子ビットの状態がより"1"に近いことを意味します。

 制御と標的ビットの2状態を簡便な表現で、例えば"00"と表現します、この場合左側が制御ビットの状態右側が標的ビットの状態を表します。図4左図の両端から、入力"00"に対して"01"の出力が、入力"10"に対しては"10"が獲られていることが分かります。これは制御付き否定回路として期待される動作です。

 また制御ビットに重ね合わせ状態を入力した場合を見ると、制御ビットが"0"になる場合に標的ビットが反転するので、出力としても"01"と"10"の重ね合わせの状態が生成されることになります。これを反映して出力電流は"01"と"10"の状態の強さが重ね合わさったものとなり、入力"00"に対する出力"01"から入力"10"に対する出力"10"へとなだらかに変化しているのが判ります。

 "01"と"10"の重ね合わせは絡み合い状態と呼ばれる量子計算には不可欠な量子状態です。この状態はグラフの上部に示した2個で1組のオセロの駒を使ってたとえることができます。ここでオセロの駒は各々の量子ビットに対応し、片方は白("0")を上にして、もう片方は黒("1")を上となるように目には見えない絡み合い棒で接続され、この棒を軸として超高速で回転している状態と比喩的に表すことができます。これをテーブルの上に落とす(観測する)と、片方が白("0")の時には必ずもう片方は黒("1")となります。

 一方、右側のグラフは入力として、"01"と"11"の重ね合わせ状態を準備した実験の結果です(標的ビットの入力が常に"1"で、制御ビットを"0"から重ね合わせ状態を経て"1"へと変化させています)。標的ビットの出力が先ほどの場合とは反転しており、図中の両端から"01"の入力に対して"00"が、"11"の入力に対して"11"が得られており、制御付き否定回路の期待される動作がなされていることが分かります。

 また重ね合わせ状態についても同様に、出力には"00"と"11"の重ね合わせによる絡み合い状態が生成されています。出力電流もこれを反映して、"00"と"11"の状態の強さが重ね合わさったものとなっており、入力"01"に対する出力"00"から入力"11"に対する出力"11"へなだらかに変化しているのが判ります。

 上部のオセロで示したように、今度は片方が白("0")であればもう片方も白("0")となるように接続されて回転している状態でたとえることができます。テーブルに落とした時、片方が白("0")であれば、もう片方も白("0")、片方が黒("1")であればもう片方も黒("1")となります。

 以上の結果は、固体量子ビット2個を用いて、2ビット演算回路を実現し、制御付き否定論理演算を世界で初めて示したものであり、量子コンピュータ実現へ大きく前進するものです。

今後の展開

 今回、結合量子ビットを用いて、2量子ビットの制御付き否定回路動作の実証に成功しました。これで量子コンピュータを構成するのに必要な二種類の量子回路の全ての量子演算が可能になったことになります。今後は、今回の2ビット量子回路と1ビット量子回路トを用いて、量子アルゴリズムの実証と量子ビットの更なる集積化を目指します。



【コラム65:超高速衛星インターネット】                (2003/10/10作成:tuusinsya)

 2003年10月10日付のMAINICHIコラムに、「衛星使用のネット接続事業へ」と題して、超高速衛星インターネットサービス企画に対するインタビュー記事が掲載されていました。参考になると考えますのでご紹介します。
[出典]:[http://www.mainichi.co.jp/digital/coverstory/today/index.html]

衛星使用のネット接続事業へ

超高速衛星インターネットサービス企画

 衛星を使ってインターネットの接続事業を検討するための会社が設立された。超高速衛星インターネットサービス企画で、NECと東芝の宇宙部門が合併してできたNEC東芝スペーシステムが設立した。国が2年後に打ち上げを予定している実験衛星の技術を使って事業化の可能性を検討し、1年後に事業会社に移行する計画だ。社長の北原正悟さんに衛星インターネット事業について聞いた。(村田 昭夫)

■07年度の衛星打ち上げ目指し

 ――会社の設立はいつですか。

 北原氏 8月7日に設立したばかりです。国が研究開発のためにWINDSというインターネット衛星を開発しています。衛星を使った超高速のインターネットの実験のためです。この技術を事業に生かせないかを検討するために作った会社です。WINDSはNASDAから受託して、親会社であるNEC東芝スペースシステムが開発しています。

 インターネット接続は地上の回線が日本全国にいきわたりつつあります。地上の回線と競合するのか、補完するのかも検討して、事業性があるかどうかを見極める必要があります。企画会社でビジネスプランの策定をして、ビジネスができると判断した場合には事業化します。そのために設立した会社です。

 ――どんなスケジュールですか。

 北原氏 1年かけて事業性の検討をします。ゴーサインが出れば、2004年度中に衛星の発注をして、2007年度に衛星を打ち上げる計画です。WINDSは2005年度に打ち上げ予定で、1年間実証実験をします。その技術を継承して2007年度に衛星を打ち上げて、本格的なサービスに持っていく形を考えています。

 ――WINDSはあくまでも実験用ですか。

 北原氏 国が費用を出して、研究開発衛星として実験用に打ち上げます。国としても、技術開発の成果が社会に還元される方向性を持つ必要があるという認識を持っています。事業化はあくまでも民間の役割ですから、官は技術開発の部分をサポートしようということだと思います。

 ――インターネットの接続は地上の回線で十分だと思うのですが、衛星でなければならない理由は何ですか。

 北原氏 地上の回線でのインターネット接続は大都市などには十分に行き届いていますが、山間部などは光ファイバーもADSLもいかない地域があります。日本の4700万世帯のうち530万世帯はブロードバンド環境がない地域です。

 この地域にブロードバンド環境を作ろうとすると、総務省の試算では8千億円とか9千億円かかると言われています。それだけの資金を投資しても事業としては成立する見込みはありません。各自治体はe-Japan計画の中で、電子自治体による住民に対するサービスを広く提供しようとしています。細い回線ではなく画像を使ってテレビ電話的な電子窓口をするようなサービスに移っています。ブロードバンド環境は必須です。

 そんな中で530万世帯がブロードバンドを使えないことは問題です。自治体からもブロードバンド環境が作れないか、という問い合わせが来ています。衛星を使えばサービスは提供できます。地上の光ファイバーと真っ向から勝負しようとは思っていません。光ファイバーと衛星とがうまく補完し合える関係になれば、ビジネスになると思っています。

■30万世帯加入でビジネスに

 ――飛行機や船などの移動体でも使えますか。

 北原氏 工夫が必要です。最大で155メガという高いブロードバンド環境を提供しようと思ってますので、ユーザーはBS受信と同じようなパラボラアンテナを家庭につけていただく必要があります。パラボラアンテナで受けますから、効率がよく大容量のデータも受けられます。

 移動体の場合はアンテナをいつも衛星に向けるような工夫が必要になります。船舶はできると思いますが、自動車は難しいと思います。自動車は準天頂衛星を使うほうが便利だと思います。

 ――530万世帯のうちどれくらいが加入すれば事業化は可能ですか。

 北原氏 50万世帯あれば十分です。30万世帯の加入者があればビジネスとして成り立つと考えています。お客さんは個人以外に二つの事業領域を設けようと考えています。自治体民間企業です。

 自治体向けには電子自治体のサービス遠隔医療、遠隔保健、在宅介護、防災などに活用できると思います。企業向けにはケーブルテレビの集配信やインターネット放送、大容量のデータを送信する時に使っていただけるのではないかと思っています。

 ――大容量のデータを同時に送信できるのがメリットですが、その部分で地上の光ファイバーに勝てる方策はありますか

 北原氏 コンテンツの提供とISPとどのような組み方をするかに関係してきます。その点は今後検討したいと思っています。

 ――デメリットはありますか。

 北原氏 衛星固有の問題点があります。一つは雨に弱いことですが、WINDSの技術開発要素の中に降雨減衰補償機能というのがあります。この衛星は日本列島を一つのビームでカバーするのではなく、10くらいのエリアに分けてカバーします。九州で雨が降って北海道は晴れている場合、北海道で余った電力を九州に回すような機能です。これで、雨に弱いといわれる衛星の弱点をカバーできると考えています。

■月額3000円で提供したい

 ――価格はどれくらいを考えていますか。

 北原氏 価格が高いと皆さん使ってくれないと思いますので、現在のADSLと同じ3000円くらいのサービス価格で提供できるようにしたいと思います。この衛星の場合は帯域が広く取れる周波数を使っています。従来の通信衛星の倍くらいの帯域があります。容量も従来の10倍の大きさがあります。

 逆算すると月3000円の価格でやっていけると考えています。衛星インターネットといえば月3万円くらいはかかります。あまり使われていませんが。

 ――今でも衛星インターネットはありますか。

 北原氏 あります。下りだけの片方向で、上りは地上回線を使っています。価格が高いので個人ユーザーはほとんどいないと思います。

 ――衛星の製造コストはどれくらいですか。

 北原氏 製造するのに130億円くらいかかります。打ち上げ費用が50億円くらいですので、トータルの費用は200億円くらいかかると思います。

 ――現在の社員は何人ですか。

 北原氏 10人です。

 ――北原さんはNEC東芝スペーシステムから来たのですか。

 北原氏 そうです。我々の会社はNEC東芝スペースシステムとNEC本体とJSATの3社の出資でつくっています。社員のほとんどはNEC東芝スペースシステムから来ています。

 ――NEC東芝スペースシステムはNECと東芝の合弁ですか。

 北原氏 宇宙の衛星関連ビジネスはNEC、東芝、三菱電機のの3社がやっていました。国内の場合マーケットが限界があるということで、一昨年4月にNECと東芝の宇宙部門を切り離してNEC東芝スペースシステムを作りました。

【略歴】北原正悟(きたはら・しょうご)1949年静岡県生まれ。72年東北大学工学部卒業。同年日本電気入社。宇宙開発プロジェクトを担当。NEC東芝スペースシステム取締役、執行役員常務を経て、2003年8月超高速衛星インターネットサービス企画設立と同時に社長に就任。54歳。



【コラム64:4G屋外実験】                    (2003/10/01作成:tuusinsya)

 2003年9月30日付のMAINICHIコラムに、「ドコモ、世界初の屋外実験開始 第4世代移動通信システム確立へ」と題して、4G(100Mbps)屋外実験に関する記事が掲載されていました。参考になると考えますのでご紹介します。
[出典]:[http://www.mainichi.co.jp/digital/coverstory/today/index.html]

ドコモ、世界初の屋外実験開始   第4世代移動通信システム確立へ

 NTTドコモはこのほど、世界で初めて第4世代移動通信システム(4G)の屋外実験を神奈川県横須賀市で開始した。2010年ころのサービス開始を目標とする4Gは第3世代(3G)よりはるかに高速大容量で、現行の光ファイバー並み最大100Mbpsの通信が可能となる。3Gの普及世界一の日本は、4Gに向けての準備も着々と進んでいる。(柴沼 均)

■携帯電話の進化系としての4G

 4Gについては、6月にジュネーブで開かれた国際電気通信連合(ITU)の無線通信総会で、10年に100Mbpsの高速データ伝送が可能(第2世代の1万倍、第3世代の50倍)で、高速移動中でも高画質の動画像を送受信することができるという勧告が承認された。また、低速移動の無線アクセスと高速移動のモバイルアクセスなど、無線システム同士がネットワークを介して相互連携し、個々のシステムを意識することなく自在に端末利用が可能になるとしている。

 これを受けて、国内でも05年までの要素技術確立を目指して総務省が研究を後押ししており、通信総合研究所(CRL)などでも研究が進められている。しかし、CRLの研究は無線LANなども組み合わせて、通信環境によって方式を切り替えるシームレス(自在な)形として発展させていくことを目標にしている。一方、ドコモの研究は携帯電話の進化した形としての第4世代携帯電話を目指している。

 ドコモのワイヤレス研究所では「一つの無線方式でさまざまな通信環境をサポートすればネットワークコストが安くなる」と分析しており、携帯電話(セルラー)が4Gになるような研究を進めている。

■4GにVSF-OFCDM方式

 ドコモは下りの無線アクセス方式には、「VSF-OFCDM」(可変拡散率直交周波数・符号分割多重)方式を開発した。

 同方式はデータを、各移動局に割り当てられた拡散符号を用いて時間領域・周波数領域に拡散させる。拡散率の可変制御を行うことにより、さまざまな環境に柔軟に適応して、それぞれの状況で最大システム容量を実現し、高速通信が可能となる。さらに100MHz帯域を768個のサブキャリアに分割し、データを並列伝送して、マルチパス(反射波)による悪影響を少なくすることができる。

 昨年10月には屋内実験で、同方式を用いて世界ではじめて下り最大100Mbps、上り最大20Mbpsの伝送実験に成功したと発表した。しかし、これはあくまでも屋内であり、実用化に向けては屋外での実験が必要となる。このため、実験用の免許を取得し、今年7月から横須賀市で屋外実験の準備を進めていた。

■横須賀市内を実験車が走行

 ドコモの研究所は横須賀市郊外の横須賀リサーチパーク(YRP)にあるが、ビルなど立ち並んでいる市街地で行って検証するのが目的なため、NTT横須賀支店に基地局とアンテナを置いた。そこから800〜1000メートル離れた市街地の中に周回コースを設定し、移動局を乗せた実験用車両を走行させている。大きな建物の影に隠れて、基地局から直接見られない「見通し外」の地点も多く、反射した電波を受信することになる。

 実験用車両にはカメラを積み、市街地の様子を基地局に送信。MPEG2方式8MbpsとADSL並みの高画質でみられる。パケットが誤った場合でも再送して誤りを訂正できるため、画像に乱れはない。基地局からは25Mbpsのハイビジョン映像2チャンネル同時伝送を行っているが、こちらの方もきれいな画像が流れている。測定コースを走行した時のパケット信号伝送特性もチェックしており、基地局から何メートル離れればどのくらいの速度になるかなど、データの蓄積を行っている。

 市街地のため、実験車両はそれほどスピードを出さないが、既に時速100キロ程度の速さで動いていても、きれいに送受信ができるという。将来的には新幹線の中でも使えるよう時速300キロで利用できることを目標としている。実験免許は05年までで、近日中に横須賀近郊の衣笠にも基地局を設置し、より広範囲な実験を行い、基地局から別の基地局に移動してもスムーズに通信ができるハンドオーバーの実験も実施する。

■最初は3Gの補完でスタートか

 ドコモによると、10年に4Gが登場しても当初は3Gと併用し、需要の多いところから投入していく3Gの補完的役割でスタートする見通しだ。高速大容量ということは、既存の料金体系のままでいけばユーザーの通信料は高額なものになってしまう。このため、コスト引き下げも重要な研究課題だ。

 05年までに主要技術を確立したとしても、端末の小型化や料金の低廉化など、実用化までのハードルはまだある。しかし、100Mbpsを実現できる携帯端末を気軽に持ち歩けるようになった時には、まさにユビキタス時代にふさわしい活用方法が生まれてくるだろう。



【コラム63:無線LANとイーサネットの速度】                   (2003/08/11作成:tuusinsya)

 2003年8月11日付のIT Proコラムに、「11メガの無線LANが10メガ・イーサより遅いのはなぜ?」と題して、無線LANとイーサネットの速度比較に関する記事が掲載されていました。参考になると考えますのでご紹介します。
[出典]:[http://itpro.nikkeibp.co.jp/members/NNW/NETHOT/20030808/1/]

11メガの無線LANが10メガ・イーサより遅いのはなぜ?

 IEEE802.11bの無線LANの速度は11Mビット/秒。それなのに,10Mビット/秒のイーサネットに比べて,「無線LANって思ったより遅いなぁ」と感じているユーザーは多いはずだ。そこで今回は,802.11bの無線LANと10メガ・イーサネット(10BASE-T)の速度を比較してみよう。

 まず,本当に10BASE-Tより802.11bのほうが遅いのか確かめてみた。手軽に入手できるフリーのスループット測定ツールを使って両者のスループットを調べてみたところ,IEEE802.11bのスループットは4.7Mビット/秒だった。それに対して10BASE-Tは8.9Mビット/秒。つまり,11メガの無線LANのスループットは,10メガ・イーサネットの約半分しかなかった。

 なぜこんなことが起こるのか。そもそも802.11bの伝送速度が11Mビット/秒というのはウソなのだろうか。いや,そんなことはない。802.11bでデータを伝送する速度は11Mビット/秒で間違いない。これはつまり,1ビットの信号を送るのにかかる時間が1100万分の1秒(約90.9ナノ秒)だということを示している。

 一方の10Mイーサネットは,データを1ビット送るのに1000万分の1秒(100ナノ秒)かかる。この瞬間速度を比べるだけならIEEE802.11bの方が高速なのである。

 では,なぜ両者で速度が逆転してしまうのか。それは,無線LANとイーサネットでデータを送る手順が大きく異なるところに理由がある。

 イーサネットでは,一つのフレームで最大1500バイトのデータが送れる。このデータの前後にイーサネットのヘッダーが14バイトとエラー訂正に使うFCSが4バイト付いて一つのフレームになる。さらにフレームの前にプリアンブルと呼ばれる信号が8バイト分付く。また,フレームを連続して送っても,フレーム間には必ずフレーム間ギャップと呼ばれる最小限の隙間があり,イーサネットでは12バイト分の間隔と決まっている。つまり,イーサネットで1500バイトのデータを送ろうとすると,

 1500+14+4+8+12=1538(バイト)=1万2304(ビット)

の信号を送ることになる。10BASE-Tの場合,1万2304ビット分の信号はすべて10Mビット/秒の速度で送られる。つまり,イーサネットで1500バイトのデータを送る時間は,待ち時間を含めて

 1万2304(ビット)÷10M(ビット/秒)=1230マイクロ秒

となる。

 同じようにIEEE802.11b1500バイトのデータを送る場合の時間も計算してみよう。ただし,無線LANの手順はかなり複雑なので,計算もややこしくなる。

 IEEE802.11bでは,1500バイトのデータの前に付くヘッダーが,イーサネットより長く32バイトある。FCSはイーサネットと同じ4バイトである。この最大長1536バイトのフレームは,11Mビット/秒の速度で送られる。伝送にかかる時間を計算すると,

 1536(バイト)×8(ビット)÷11M(ビット/秒)=1117マイクロ秒

になる。

 ただし無線LANでは,フレームの前に,プリアンブルと無線LAN特有のPLCPヘッダーという情報を送る。この二つの情報を送る時間は合計192マイクロ秒と決まっている。さらに,無線LANではフレームを送り出す前に,フレーム間ギャップの時間に加えてランダムな時間(これをバックオフ時間という)の分だけ待たなければならない。802.11bではこの平均時間が合計で360マイクロ秒と決まっている。

 さらに,無線LANではフレームを送るごとに通信相手からACKフレームを受け取って通信の成功を確認する決まりだ。ACKフレームを受け取るまでは次のフレームを送れない。この待ち時間は合計213マイクロ秒になる。

 つまり,無線LANで1500バイト分のデータが入ったフレームを一つ送るのにかかる時間は,待ち時間や応答パケットが送られる時間を含めて

 1117+192+360+213=1882(マイクロ秒)

になる。

 同じ量のデータを送るのに,10BASE-Tでは1230マイクロ秒で済むのに,802.11bでは1882マイクロ秒もかかってしまう。この違いが無線LANとイーサネットのスループットの差になって表れたというわけだ。

(山田 剛良)



【コラム62:電力線搬送技術】               (2003/08/08作成:tuusinsya)

 2003年8月8日付のIT Proコラムに、「再び動き出す電力線搬送技術」と題して、電力線搬送通信に関する記事が掲載されていました。参考になると考えますのでご紹介します。
[出典]:[http://itpro.nikkeibp.co.jp/members/NBY/ITARTICLE/20030801/1/]

再び動き出す電力線搬送技術

気になる“許容ノイズ”の目安

 電柱や屋内に張り巡らされた電力線を使って通信する「電力線搬送通信(PLC,Power Line Communication)」。総務省が設置した電力線通信技術の研究会では,2002年8月に「現時点ではまだ技術が成熟していない」として実用化の判断を先送りした。

 研究会から一年経ち,総務省は再び実用化検討に向けて動き出した。電波法を改正し,実証実験を解禁する意向である。

無線通信への影響が大きい

 PLCは,専用モデム信号を変調し既存の電力線に信号を乗せて通信する技術である。

 PLCモデムは使う場面によって二つのタイプがある(電柱からの引き込み線を使う方式と,宅内の電力配線を使う方式)。いずれのタイプも,国内では10k〜450kHzの帯域しか使えない。電波法の規制があるためだ。高速化するには帯域を広げる必要がある。そこで昨年4月,総務省は「電力線搬送通信設備に関する研究会」を設置して,2M〜30MHzを追加する検討を始めた。帯域を広げると,最大200Mビット/秒程度にまで高速化できる可能性が出てくる。研究会では,フィールド実験を実施し,2M〜30MHz帯域を使う無線通信を妨害する漏洩電磁波を測定した。

 だが,結果は芳しくなかった。漏洩電磁波のレベルが高すぎたのだ。無免許で使える微弱無線局(トランシーバーやコードレスマイク,コードレス電話機など)の制限値を越えるケースさえあった。この結果を受け,研究会では周波数帯域を拡大するのは時期尚早と結論付けたのである。

技術的な解決策を待つ

 もっとも総務省はPLC技術の実用化をあきらめたわけではない。研究会の報告書にしても,「技術的な進展が期待されるため研究開発を継続することが必要」,と将来性に対する期待感はある。

 実際,漏洩電磁波を減らすための技術開発は着実に進んでいる。電力線は二本の対線でできており,その二本の抵抗値の違い(平衡度)が大きいと漏れる電磁波が大きくなる。そのため,平衡度を上げることが有効だという。また,信号の変調方式についても特徴に応じた使い分けが検討されている。

 変調方式の改良も進む。広い帯域を使うPLC通信では,多数のキャリア(データを送る搬送波)を使ってデータを送るOFDM(直交周波数分割多重)と呼ばれる変調技術が用いられる。このOFDMを改良し,伝送路のノイズレベルに応じて,動的に適切なキャリアを送り出す技術が実用化されている。これはAdaptive OFDMと呼ばれており,例えば特定の帯域には一切キャリアを流さないといった使い方もできる。

 ただしこの技術がノイズ問題を一掃してくれる保証はない。「特定のキャリアを使わないとしても,エネルギーが残ってしまうので30dB程度しか電磁波を低減できないのではないか」(日本アマチュア無線連盟技術研究所技術課の近藤俊幸課長)。このため,特定の周波数をカットするノッチフィルタを入れるといった工夫も求められる。

 そもそもAdaptive OFDMが,本当に適切なキャリアを送り出せるのかという疑問もある。モデムが観測した伝送路ノイズに基づいて出力レベルを制御するので,微弱な電波受信専用機が近くにあるような場合は,その存在を発見できない。微弱信号と微弱でない信号をセットで使用する無線設備などもある。いずれの場合も,制御にもう一段の工夫が必要となる。

まずは実験でデータを出すべき

 では,モデムにノイズ対策を施すと,漏洩電磁波のレベルはどの程度まで低減できるのだろうか。実は,この実証データが一切ないのが実状だ。電波法で規制されているため,フィールド実験が実施できないのだ。

 フィールドにおける実験データが必要という点に関しては,モデムメーカーも,影響を受けるとされる無線通信側の関係者も賛意を示す。総務省も「当初の実験は漏洩電磁波の対策がされていなかったモデムが対象だった。この1年の間に対策がなされてきたこともあり,フィールド・テストをする段階にある」との認識を深め,今回の電波法改正手続きに着手となった。

 ただし,PLC実現のハードルは高い。「電力線通信で漏れる電磁波は単なるノイズである。周波数が割り当てられている他の無線通信とは立場が違う。2M〜30MHzの周波数帯域はすべて割り当てられて詰まっているので,特定の周波数をカットするのでなく,すべての帯域で漏洩電磁波のレベルが低くなくてはならない」(総務省総合通信基盤局電波部電波環境課の志賀康男課長補佐)。このスタンスを厳密に守るなら,“許容ノイズ”の目安はかなり厳しいものにならざるを得ない。他のすべての無線通信を妨害しないレベルが期待されるので,原則的には自然界と同等の雑音レベルが要求される。微弱無線局の制限値の電力レベルでも距離が近ければ被干渉側では非常に高いレベルの電磁波となるからだ。

 ともあれ,実証データを蓄積しなければ議論は進まない。多くの実験を繰り返し,誰もが納得できる許容ノイズのレベルを見つけることが,PLC実用化の第一歩である。

(堀内 かほり)



【コラム61:長距離向けADSL】               (2003/07/20作成:tuusinsya)

 2003年7月17日付のIT Proコラムに、「ADSLの長距離化を忘れていませんか?」と題して、長距離向けADSLに関する記事が掲載されていました。参考になると考えますのでご紹介します。
[出典]:[http://itpro.nikkeibp.co.jp/free/ITPro/OPINION/20030716/1/]

ADSLの長距離化を忘れていませんか?

 この夏,ADSL事業者各社には「24メガ」の高速ADSLサービスという“おいしい話題”を提供していただいた。が,筆者はあえて「長距離向けADSL」にスポットをあて,日経コミュニケーションの7月14日号で「『より遠く』に狙い定めたADSL」という特集を組んだ。

 正直言って初めは高速化に対する単なる“逆張り”を狙っていた。ところが調べていくうちに長距離向けADSLで大きな動きが出ていることを知った。今まで距離の問題からADSL導入が見送られていた地域で,サービスが続々と始まっていたのである。理由の1つに,自治体がADSLを整備する補助金事業が立ち上がってきたことがある。これを後押しするのが,長距離向け技術の進化である。この秋には,ITU(国際電気通信連合)が長距離伝送に絞ったADSL仕様を標準化することも分かった。

山手線内より広いエリアを1局で

 筆者は長距離向けADSLの記事を執筆するにあたり,全国4カ所を取材して回った。

 中でも印象に残ったのが,この6月からADSLのサービスを開始した岡山県の旭町である。東京駅から新幹線で3時間ちょっとの岡山駅から普通電車に乗り換え,約1時間半。そして,津山という駅のバス・ターミナルからさらにバスに40分間ほど揺られると,旭町に着く。どっしりとした構えの役場庁舎に入り,企画情報課で導入を担当する前田有輝主査を訪ねた。

 事前に電話で話したとき「NTTの電話回線の長さが10km以上というユーザーも珍しくない」と聞いていた。筆者は半信半疑だった。1997年の長野県における実証実験からADSLを取材してきたが,NTTの電話回線で10kmを超えるのは「地方でもごくごく稀(まれ)」と認識していたからだ。

 そこで,まずは旭町の地図を見せていただいた。面積は82.99平方km。この広さを想像できるだろうか。東京でいえば,山手線の内側の面積は約70平方km。行政区でいうと,新宿,中野,杉並の3区を足した面積が67.84平方kmである。この3区は13のNTT電話局でまかなっている。一方で旭町のNTT電話局は1つだけ。旭町では町の隅々まで町民が住んでおり,10km超えが続出するのも納得がいった。

限界を大幅に超えられる理由

 ADSLの伝送距離は,一般に4k〜5kmが限界と言われる。信号が減衰してしまい,接続できなくなるのである。

 旭町の10kmというのはこの2倍以上である。ところが,ユーザーは「100%接続できている」(前田主査)と言う。これには理由がある。同町でNTTが敷設しているメタル回線が太く信号の減衰に強いこと。NTT電話局からユーザー宅までの回線上に,同じく減衰の要因となる「ブリッジタップ」や「手ひねり接続」が少ないのである(これらの要因については特集記事を参照して欲しい)。

 前田主査は各ユーザーの接続速度を調べたデータを見せてくれた。それを見て少し驚いた。10kmを超えるユーザーが,NTT電話局からユーザ宅への下り512kビット/秒,上り576kビット/秒で接続しているのだ。

ADSLでまだいけるのでは・・・

 もっと驚いたのは,“普通”の12メガADSLを使っている点だ。長距離伝送に特化した「ReachDSL」を使っていると思っていた。ReachDSLは米Paradyne独自のDSL技術で,日経コミュニケーションなどでも何度か紹介しているのでご存じの方もいるだろう。

 細かな点は特集記事に譲るが,12メガADSLの仕様には高速化だけでなく長距離化の技術が盛り込まれている。ただ,10km超えで500kビット/秒というのは,筆者の想像を超えた。

 ここで筆者が思うのは,地方でもまだまだADSLの出番は多いのではないかということだ。最も広いエリアで展開しているフレッツ・ADSLでも,NTT東日本で95%,NTT西日本で93%の回線カバー率(フレッツ・ADSLが利用可能な回線数/総回線数)である。少々乱暴な計算だが全人口のおよそ5%,600万人以上がADSLを利用できない場所に住んでいる。

 こうした地域で値段のこなれた“普通”の12メガADSLが活用できるではないか。24メガADSLは長距離化という点では12メガADSLと基本的に変わりがない。さらに,あわてて光ファイバによるFTTHを導入する必要はない,と筆者は考える。現存のメタル線を活用できる。光ファイバを「誰が引くのか」「引き回すインセンティブがない」といった議論はそもそも不要になる。

 旭町では100%の接続を達成するため,ReachDSLも併用する。12メガADSL“でも”接続できない約1割のユーザーが使っている。例えば,回線の長さが13km超えるユーザーReachDSLを使って,上り下り256kビット/秒で通信している。 ReachDSLをメインに使わないのは,「予算に限りがあるので,できれば割高となるReachDSLを避けたい」(前田主査)からだと言う。

 ちなみに旭町でのADSL利用料金は「タダです」(前田主査)。もう一度聞き返した。「そうそう,メタル回線利用料金として月額300円程度は払ってもらいます。あとユーザー宅のモデムは購入してもらいます」(同)。それでも月額300円である。

 これには2つの理由がある。1つは税金を使って設備を揃えたこと。もう1つは町自体が第二種通信事業者となって,サービスを運営しているからだ。Linux使いの前田主査がサーバーを管理し,“町営通信事業”を切り盛りしている。

地方でも都市部でも導入が盛んに

 旭町以外でも,長距離ADSLの導入は各地で進められている。特集記事では,旭町のほか長距離に挑む3つの事例を紹介した。民間事業者が長距離向けサービスに積極的な長野県補助金を使って民間事業者による導入を促進している島根県,恐らく東西NTTがReachDSLを唯一導入している青森県今別町である。興味のある方は,日経コミュニケーション7月14日号を読んでいただければと思う。

 どのケースも最終的にはReachDSLを使うことで,ほぼ100%のユーザーにサービスを提供できている。地方だけではない。実は都市部でもこのReachDSLが活躍し始めている。Yahoo! BBがこの4月からReachDSLを正式メニューに加えたのである。悪条件の回線で効果が出ていると言う。

 冒頭に述べたとおり,技術面ではこの秋に長距離の“大物”が登場する。ITU初の長距離向けADSL仕様,READSL(Range Extended ADSL)がこの秋にも決まる見通しである。特集記事では,現時点で明らかとなっている情報をできる限り集め,紹介した。24メガADSLの登場で高速化にばかり目が奪われていたが,その脇で長距離向けADSLにも光が当たり始めたようだ。

(市嶋 洋平=日経コミュニケーション)

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