2003年7月4日付のNECプレスリリースに、「量子暗号システムの実用化へ向け超高感度検出器を用いて世界最長の100km単一光子伝送に成功」と題して、量子暗号システム実験に関する記事が掲載されていました。将来技術として参考になると考えますのでご紹介します。
[出典]:[http://www.nec.co.jp/press/ja/0307/0403.html]
量子暗号システムの実用化へ向け超高感度検出器を用いて世界最長の100km単一光子伝送に成功
〜現用光通信システムで使用の光ファイバを用いて実現〜
2003年07月04日
日本電気株式会社
日本電気株式会社(NEC、金杉明信代表取締役社長)、通信・放送機構(TAO、白井太理事長)はこのたび、絶対的な安全性を物理法則で保証する量子暗号システムにおいて、既存の光通信インフラで使用している光ファイバと同性能の光ファイバを用いて世界最長となる100kmの単一光子伝送に成功いたしました。
このたびの成果は、昨年、科学技術振興事業団(JST、沖村憲樹理事長)創造科学技術推進事業の研究プロジェクト「今井量子計算機構プロジェクト」(総括責任者 今井浩、東京大学大学院情報理工学系研究科教授)でJSTとNECが共同開発した低雑音光子受信器を、現在継続中のTAO「量子暗号技術の研究開発」プロジェクトでNECとTAOが開発した光源部の単一光子スペクトルを高純度化するフィルタと組み合わせて実現したもので、以下の特長を有しております。
(1) 既存の光ファイバ網に使用されているファイバと同じ損失・散乱特性を持つファイバを使用しているため、既存のインフラを使用した量子暗号システムでも100kmの伝送距離が実現可能。
(2) 受信システムの信号対雑音比を従来の50倍に改善し、伝送距離の制限が受信器側ではなく、ファイバでの散乱によって決定される領域に到達したことを確認。受信器による伝送距離の制限を取り払ったことで、低散乱・低損失ファイバを採用すると、200km程度の長距離伝送が可能。
このたび開発した量子暗号システムは、一般に100km程度の伝送距離が必要とされる都市内光ネットワークでの使用に十分耐えうる性能を持つもので、あらゆる盗聴に対して高度な安全性を有する光ファイバーネットワークシステムの実現に大きく貢献するものと期待されます。
近年、電子商取引・電子投票など、インターネットを利用したサービスの本格化に伴い、企業・個人の情報セキュリティの重要性が増し、ネットワークにおけるより高度な暗号技術へのニーズが高まっています。現在、ネットワーク上の情報セキュリティとして世界中で広く利用されている暗号方式は、現存するコンピュータの計算能力に限界があると仮定した上での安全でしかなく、様々な攻撃法の発達やコンピュータの計算能力向上が予想される将来においても安全が保証されるというものではありません。こうした背景下で、無限の計算能力をもってしても破ることのできない、絶対に安全な暗号として、量子暗号の早期の実用化が望まれております。
量子暗号システムは、量子力学で不確定性原理と呼ばれる、単一光子などの極微の世界を支配する自然法則に基づき、単一光子の状態が測定前と測定後で変化することを利用して盗聴を検出するものです。こうした普遍的な物理法則を利用した量子暗号は、いかなる技術の進歩に対しても無条件安全性を保証する暗号方式として注目されています。
しかし、量子暗号は1個の光子で1ビットの情報を伝送するため、光子が1個含まれるかどうか、という極めて微弱な光信号の中から光子を検出する必要があり、受信器側に非常に高度な技術が要求されます。そのため、従来は量子暗号システムの伝送距離は光子受信器の性能に大きく制限され、都市内光ネットワークへの適用に求められる100km程度の伝送距離を実現するためには、光子受信器の一層の性能改善が必要とされていました。
こうした課題を克服するため、NECは2002年に、JSTと共同で、光子検出に伴って生じる雑音を除去する独自の検出回路を考案することで、世界最高性能の高感度光子受信器を開発いたしました。このたびの開発は、この光子受信器を、現在も継続中のTAOプロジェクトでTAOと共同開発した光源部の単一光子スペクトルを高純度化するフィルタと組み合わせることにより実現したもので、この結果、量子暗号の受信器による伝送距離の制限、という課題を克服し、都市内光ネットワークにおける量子暗号の実用化に向けて大きく前進いたしました。
NEC、TAOはこのたびの成果を活用し、都市内ネットワークでの量子暗号システムの早期の実用化に向けて、研究開発を一層加速してまいります。
[システムの詳細]
図1に示す様に、光学系を制御することにより、送信者において符号化を、又、受信者において復号化を行ない単一光子を伝送します。単一光子の検出確率は伝送距離の増加に伴ない、光ファイバーでの損失によって減衰して行きますが、従来のシステムでは、単一光子検出器の雑音レベルが高く、伝送距離は検出器の性能で制限されておりました。
今回、光源部において単一光子スペクトルの高純度化を実現するフィルタと、受信部での世界最高性能を有する高感度光子受信器とを組み合わせ、図2に示したように信号対雑音比が50倍と大幅に改善された新規受信器システムを実現することに成功しました。
これにより、伝送距離の制限要因が検出器からファイバによる散乱に移り、現用光通信システムで使用の光ファイバを用いた100kmの単一光子伝送が初めて実現されました。又、上述のように本システムではファイバ散乱が伝送距離を律則している為、さらに低散乱・低損失ファイバを用いることにより200km程度までの長距離伝送が可能であると予測されます。
図2には今回用いたファイバから低損失ファイバに変えるだけで伝送距離が125kmへ延びることが示されています。図3はシステムの外観の写真を示しています。2台のPCは送信側と受信側の信号処理部に対応します。

図1. 世界最高性能の光子受信器を用い、現用光通信システムで使用のファイバを用いた
単一光子伝送で世界で初めて100kmを突破した量子暗号システムの概要

図2.低損失ファイバを用いるだけで伝送距離は125kmまで延びる

図3.システムの外観
2003年7月1日付のImpress BroadBand Watchに、「ついにやってきた20Mbps超ADSL時代」と題して、20Mbps超のADSLに関する記事が掲載されていました。参考になると考えますのでご紹介します。
[出典]:[http://bb.watch.impress.co.jp/column/shimizu/]
ついにやってきた20Mbps超ADSL時代
〜24/26Mbps ADSLの全体像を考察する〜
6月9日の天神コアラの発表を皮切りに、各事業者から続々と発表された20Mbps超の新世代ADSL。現状は、まだ発表段階にとどまり、サービスインは7月から8月とされているが、実際に気になるのは、やはりこれまでの12Mbps
ADSLとの違いや20Mbps超ADSLの全体像だろう。技術的な側面や戦略的な意味合いから24Mbpsの実像に迫ってみる。
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■全力疾走を続けるADSL事業者
ほぼ1年ごとに高速化を実現するという、すさまじい進化を見せるADSL。技術的な進歩によってユーザーにメリットがもたらされるのであれば、それはそれで歓迎したいところだが、一方でここまで急激な進歩を遂げると、これまでに費やした設備投資費や広告宣伝費が回収できるのか? とも心配になってしまう。
いわば、現在のブロードバンド市場は、3,000万ユーザーの奪い合いを最終的なゴールとしたマラソンのようなもの。端から見ていると、ADSLはフルマラソンを全力疾走しているようにも思え、どこまで息が続くのかと心配になる。マイペースながら徐々にペースアップしているFTTHの影も見え始め、今後のレース展開が注目されるところだ。
しかも、つい先日、公正取引委員会の「インターネットサービスの取引に係る広告表示について」の調査結果といった報道もあった。それだけ社会に大きな影響を与えるほど成長したのかと感心する面もあるのだが、こうなった以上、これまでのようななりふり構わぬレースはできないだろう。
とは言え、今になって歩みを止めるわけにはいかないのがADSLのつらいところ。今回、各事業者から発表された24/26Mbpsの20Mbps超ADSLで、さらなるペースアップを図るしかないのだろう。
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■ADSLの高速化手法は2通り
さて、今回、発表された20Mbps超のADSLだが、これまでのADSLとは異なる大きな新技術が採用されている。「ダブルスペクトラム」だ。
そもそも、ADSLの高速化手法は基本的には2通りしかない。ADSLは、それまでアナログ電話では約4kHzまでしか利用していなかったメタルケーブルを使って、高速なデジタル伝送を行なう技術だ。これまでの8/12Mbps ADSLであれば、26kHz〜1102kHz(下りは138kHzから)の帯域全体を4kHzごとの小さな帯域に分け、それぞれの帯域に搬送波を立てて個別に変調してデータを送信する。つまり、このしくみを応用しながら高速化するためには、ひとつの搬送波により多くのデータを載せるか、搬送波自体を増やすという2通りの方法しかないわけだ(もちろんオーバーラップなどの技術もあるが基本的にはこの2つの方法となる)。
今回の20Mbps超ADSLで採用されているダブルスペクトラムとは、このうちの後者の手法。つまり、利用する周波数帯域を広げて、より多くの搬送波によってデータを送信することで速度を向上させる技術となる。具体的には、これまでの1102kHzの倍となる2204kHzまでの帯域を利用してデータを伝送することになる。

利用する帯域を1102kHzから2204kHzまで引き上げるダブルスペクトラムを採用することで、より高い速度を実現する20Mbps超ADSL
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■ダブルスペクトラムだけでは速度は16Mbps止まり
しかしながら、単純に帯域を広げるだけでは24Mbpsや26Mbpsの速度は実現できない。たとえば、これまでの12Mbps ADSLの技術をそのまま利用して、単純に帯域だけを2倍に広げた場合、その最大転送速度は16Mbpsにしかならないのだ。
これは、DMTシンボルあたりのフレーム容量が少ないためだ。フレーム容量は「S=」のパラメーターで決定されるが、これが従来の「S=1/2」のままだと20Mbps超の速度は実現できない。具体的には、以下の図を参照してほしい。

S=1/3やS=1/4を採用することで、DMTシンボルあたりのフレーム容量を増加。ダブルスペクトラムの性能を活かしきるだけのデータを生成する
要するに、ダブルスペクトラムで帯域を2倍にした場合、各搬送波に15bitフルにデータを載せた状態で理論上28.74Mbpsの伝送速度を実現できるのだが、たとえば「S=1」の場合であれば1回の変調でエラー訂正符号を含んだ255バイトのフレームを1つしか作成できないため、最終的な速度は8.16Mbpsにしかならない。同様に、従来の12Mbpsで採用されていた「S=1/2」では、フレーム容量は2倍になるものの最終的な速度は16.32Mbpsにしかならないことになる。
このため、今回の20Mbps超ADSLでは、「S=1/3」や「S=1/4」などの技術を利用し、DMTシンボルあたりのフレーム容量を3倍や4倍に増やしている。これによって、S=1/3時で24.48Mbps、S=1/4時で32.64Mbpsの速度を実現している。一部の事業者が、今回の20Mbps超ADSLで、理論上30Mbpsの伝送速度と発表しているのは、この「S=1/4」でフル伝送した場合の理論値ということになる。
しかしながら、前述したように、ダブルスペクトラムの場合、138kHz〜2204kHzまでの各搬送波(479ビン存在する)に最大となる15bitのデータしか搬送できないため、最大速度は28.74Mbps止まりとなる。しかも、今回の20Mbps超ADSLでは、アマチュア無線との干渉を避けるために、1810kHz〜2000kHzまでの帯域で送信電力を落とすなどの対策がなされている。実際の転送速度が24Mbps、オーバーラップを利用した場合で26Mbpsと発表されているのはこういう理由からだ。

アッカネットワークス公表の20Mbps超ADSLの技術仕様書からの抜粋。PSDマスク(特定周波数帯域における送信信号の電力制限を規定する電力スペク
トル密度のマスク値)を見ると、アマチュア無線対策のために、1810kHz〜2000kHzまでの帯域で送信電力が落とされていることが確認できる
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■2種類の規格が存在
このように、20Mbps超のADSLは、全体的にはダブルスペクトラムとS=1/4という技術によって支えられている。しかし、さらに細かく見てみると、同じ20Mbps超ADSLといってもオーバーラップを除けば2種類の規格があることが確認できる。ひとつは「G.992.1 Annex I」、そしてもうひとつが「G.992.5 Annex A」だ。
AnnexIは、現状、国内のほとんどの事業者が採用を表明している規格で、従来の12Mbps ADSLと同じG.992.1 Annex
Cを発展させたものとなる。Annex
Cと同様に、ISDNとの干渉を避けるためのデュアルビットマップ方式を採用しながら、ダブルスペクトラムを採用し、さらにトレリスコーディングなどの新しい符号化やS=1/3、S=1/4といったオプションを採用している。一方のG.992.5
Annex A(いわゆるADSL2+)は、国際的な利用が想定された規格だ。Annex IのようなTCM-ISDNとの干渉こそ考慮されていないが、ダブルスペクトラムを利用するなど、ほぼ同じような規格となっている。細かな違いについては以下を参照してほしい。

G.992.5 AnnexAとG.992.1 AnnexIの違い。細かなオプションなどに違いが見られる
なお、国内ではYahoo! BBの26MbpsサービスがAnnex Iを採用しない事業者として存在するが、同社の規格がもう一方のG.992.5かどうかは正式には発表されていない。事実上、Annex Aベースでダブルスペクトラムを利用できるのはG.992.5だけなので、ほぼ間違いはないと思われるが、このあたりは同社から詳細な発表や技術仕様が公開されるまで不明だ。
では、どうして事業者によって採用されている規格が異なるのだろうか? これには、規格の策定時期が大きく影響している。実は、G.992.5にもAnnex
Cの規格は存在する。つまり、G.992.5でも、AnnexIで規定されているのと同に、TCM-ISDNと同期させながら、ダブルスペクトラムを採用することが可能なわけだ。しかし、G.992.5ベースのAnnex
Cは、現在、まだ規格が策定中の段階であり、正式な策定は今年の後半となっている。このため、現時点では、この規格を採用できないわけだ。

G.992.5 AnnexCの策定はまだ先。サービスインの時期をG.992.5 AnnexAと合わせるためにG.992.1 AnnexIが策定された。さらに、今後は
50Mbps超ADSLの登場も控えている
もちろん、G.992.5ベースのAnnex Cが策定されるまで、市場に20Mbps超のADSLを投入するのを控えるという手もある。しかし、G.992.5 Annex AとG.992.5 Annex Cの正式策定に半年の開きがある以上、それはそのままサービスインの時期の遅れとして現れてしまう。冒頭でも述べたように、各事業者が全力疾走で覇権を争っている最中のADSL市場で、この遅れは命取りにもなりかねない。このため、国内の通信事業者が中心に、G.992.5 Annex Aとほぼ同時期にダブルスペクトラムを採用できるようにAnnex Iを策定したわけだ。
このあたりは、技術的な側面よりも、どちらかというと政治的な思惑が多くからんでいると言えるだろう。
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■実際の効果が判断できない
このように、さまざまな経緯があるにしろ、無事に20Mbps超ADSLが市場に投入されることとなったわけだが、1ユーザーとして、ひとつ気がかりな点もある。20Mbps超ADSLによって、実際にどれほどのメリットがもたらされるのかが、まったく判断の材料が提供されない点だ。
これまでの12Mbps ADSLなどであれば、正式サービス前にフィールドテストが行なわれ、その結果も公表されていた。このため、実際のリンクアップ速度と距離の関係のグラフなどから、実際の効果がどれくらいあるのかがユーザーにも見えていた。しかし、今回の20Mbps超ADSLに関しては、一部でサービスの事前申し込みが開始されているにもかかわらず、こういったデータが出てこない。
このため、今回の20Mbps超ADSLに関しては、現段階では、事業者以外、誰もその効果がわからない。中には、伝送距離と速度の関係の予想グラフやイメージ図をWebサイトに掲載している事業者もあるが、実測に基づいていない予想データでは意味がないだろう。こんな予想グラフを掲載するくらいなら、一度くらいは試しているはずの実験環境での結果を掲載した方がまだマシだ。
12Mbpsサービスの開始時のように、技術的な側面から速度向上の効果がきちんと説明されているなら、実際の効果もある程度は推測できるが、今回の20Mbps超ADSLでは、拡張された高い周波数帯は減衰しやすいとか、1000kHz以上を利用するAMラジオからの干渉が予想されるとか、技術的に見てもネガティブな要素が多い。20Mbps超ADSLという名称を用い、しかも既存のサービスより高額な料金を徴収しようとしているのだから、早くその根拠がどこにあるのかを実際のデータでユーザーに示すべきだ。これでは、公正取引委員会から注意を受けても文句は言えない。
今回の20Mbps超ADSLでは、NTTの接続約款の問題なども話題になってはいるが、個人的には実際の検証が不十分なまま、もしくはその結果がユーザーに公開されないままサービスインすることが問題だ。他事業者に一歩でも先んじたい気持ちはわかるが、そろそろブロードバンド市場全体を見据えて、各事業者が協調し、一緒にブロードバンド市場を盛り上げていくべき時期なのではないだろうか?
(2003/07/01 清水理史)
2003年6月9日付のImpress INTERNET Watchレポートに、「いなあいネットで情報化フェア開催」と題して、日本のADSL発祥の地である伊那市で開催された情報化フェアに関する記事が掲載されていました。BBの技術動向を知る上で参考になると考えますのでご紹介します。
[出典]:[http://internet.watch.impress.co.jp/www/article/2003/0606/ina.htm]
いなあいネットで情報化フェア開催
“日本のADSL発祥の地”で次に実用化を狙うサービスとは
長野県伊那市で4日から6日までの3日間、伊那市有線放送農協(いなあいネット)などの主催による「ブロードバンド(xDSL)を活用したデジタル情報化フェア」が開催された。ADSLを使ったテレビ放送のマルチキャストシステムなどが展示されたほか、通信と放送の融合についてのパネルディスカッションも行なわれた。
伊那市は、1997年9月にいなあいネットの有線放送電話網を使って、国内で最初の公衆ADSL実験が行なわれた“日本のADSL発祥の地”。その後、長野県協同電算(JANIS)と富士通長野システムエンジニアリング(Infovalley)がいなあいネットを通じて商用のADSLサービスを展開している。市内に8カ所の収容局を持つという強みを生かし、距離に限界のあるADSLでも市内を広くカバーしているのが特徴だ。実際、現在ではCATVインターネットやNTT東日本のADSLサービスが提供されるようになったものの、いなあいネットしか選択肢のないエリアも多いという。
今回のイベントでは、そんないなあいネットをはじめとする、信州のブロードバンド整備を支えてきた事業者らが、今後実用化を狙う技術やサービスなどを紹介している。
●JANISが長野県栄村でADSL放送実験
JANISは長野県栄村で9月にも、ADSLを使った民放地上波テレビ放送のマルチキャスト実験を開始する。同村は難視聴地域にあたり、その対策として来年の実用化を目指して行なうものだ。展示会場にはWindows XPベースのセットトップボックス試作機が展示されており、接続されたテレビにWindows Media 9による1Mbpsの映像が映し出されていた。1Mbpsという帯域はリンク速度の遅い世帯でも見られるよう設定されたものだが、来場者からは「テレビならこれで十分」との声も聞かれた。
端末は日立製作所製で、大きさは260×170×40mm(幅×奥行き×高さ) ADSLモデムにEthernetで接続し、テレビにはコンポジットまたはS-Videoで出力する。操作は専用リモコンで行なう
栄村の有線放送の加入世帯は約1,100世帯で、加入率は100%に達するという。このインフラを利用してJANISがADSLサービスを提供しており、約100世帯がこれを利用している。すでにこのようなブロードバンドインフラがある地域では、巨大な共聴アンテナを建設して同軸ケーブルを敷設するのに比べて、低コストで地上波テレビ放送の再配信環境が構築できるとしている。実用化までには、Windows Media 9 Playerをチップ化した端末が開発される予定となっており、1台3〜4万円程度で供給される見込みだという。
●もはや“有線放送”ではくくれない有線放送インフラ
5日の午後には、「ブロードバンドが開く新世代ネットワーク・通信と放送の変革」と題したセミナーを開催。まず、NHK技術研究所研究主幹の田中豊氏よりデジタル放送技術のトレンドについて解説が行なわれたのち、KDDI研究所長の浅見徹氏より、いなあいネットで行なわれたビデオ放送実験の映像品質に関して報告がなされた。
この実験は、ADSL上でマルチキャストによりビデオコンテンツを配信し、パケットの損失率や遅延の測定、人間の目による主観評価を行なうというもの。KDDI研究所が開発したMPEG-4ベースのライブ伝送ソフト「Quality Meeting」を使用して、384kbps/640kbps/1.5Mbps/4Mbpsの4種類の帯域で配信したところ、4Mbpsで鑑賞に耐えうる品質が確認されたという。また、パケットの損失率は明らかに夜間のほうが少なく、昼間は電話からのノイズによる影響が多いと推測している。遅延については100ms程度は見込んでおく必要があるとしており、200msのバッファを設定することで、パケットの遅延による画像の乱れは防げるとしている。
なお、この実験は当初、1997年のADSL実験の際にすでに行なわれていたもの。その時の調査結果が現在に至るまできちんととりまとめられていなかったということで、この5月末にあらためて当時の機器環境を再現して実験を行ない、今回のセミナーで正式報告に漕ぎ着けた。当時はDSLAMがマルチキャストに対応しておらず、あるユーザーが4Mbpsのチャンネルを見ていると、同じDSLAM配下にある他のユーザーにも同じトラフィックが発生。複数チャンネルが用意されている場合では、別のチャンネルが見られなくなるという問題が明らかになったという。しかし、現在ではマルチキャストに対応するDSLAMが製品化されており、実際にKDDI研究所でもVDSLシステムなどの機器評価に入っている模様だ。
セミナーの後半には、総務省信越総合通信局長の重田憲之氏を交えてパネルディスカッションが行なわれた。重田氏は、「(CATVやFTTHによる地域イントラネットなどの情報インフラと異なり)有線放送に対する国からの支援はないのか?」という会場からの質問に対して、個人的な意見としながらも、「今後はインフラの種類で補助対象にするかどうか区別するのではなく、その性能で議論すべき」との考えを示した。実際、いなあいネットなどでは有線放送のインフラ上でブロードバンドサービスが実用化されており、浅見氏も「昔は有線放送(で提供されるサービス)は電話だったが、今では映像も流せる。何をもって“有線放送”とするのか?」と疑問を投げかけた。
●ADSL発祥の地にも光化の波?
ADSLというイメージが強いいなあいネットだが、どうやらそれだけにこだわっているわけではない。展示会場ではADSLモデムやVDSLシステム、IP電話サービスなどのほかに、FTTH機器や光通信バーツも展示されていた。
これまでADSL実験を積極的に受け入れ、いなあいネットの情報化を推進してきた中川参事にこれからの展開を訊ねると、即座に「次? 次はやっぱりコレをやりたいね!」として、住友電気工業が出展していた光アクセス回線の分岐ユニットを指さした。JANISが栄村で行なうような地上波放送のマルチキャスト実験については、確かに今回の展示の目玉だとはしながらも、CATVのある伊那市では必要性がないとの判断らしい。同市で映像のマルチキャストをやるとすれば、FTTHクラスの帯域を活用するものにしたいという。
現在、いなあいネットでは8Mbpsと12MbpsのADSLサービスが提供されている一方、同社のサービス導入を前提とした性能評価実験とは限らないものの、通信機器メーカーが実験フィールドとして、いなあいネットに最新のADSL機器を持ち込むこともある模様だ。今後も、この地を足がかりにして新たな通信技術が実用化に向かう可能性もある。
2003年5月27日付のImpress Broad Band Watch特集に、「“光”だからできるこんなこと-3」と題して、光通信の先端技術に関する記事が掲載されていました。BBの技術動向を知る上で参考になると考えますので要点をご紹介します。
[出典]:[http://ad.impress.co.jp/tie-up/ntt0303/index3.htm]
〜“光”だからできるこんなこと-3〜
〜NTT未来ねっと研究所にお話を聞く
■ 「超高精細ディジタルシネマ配信システム」
これは、長距離・リアルタイムでのコンテンツ配信を行う際の実験システムである。通常、HDTVだと映像1本のビットレートは20〜30Mbps、比較的高画質なものでも60〜70Mbps程度である。勿論これでも(家庭内のハイビジョンTVなどで見る分には)十分に綺麗だが、映画館などで放映するにはちょっと物足りない。そこで今回実験したのは、3840x2048画素、毎秒24フレームの超高精細ディジタルシネマを約1/20に圧縮して記憶しておき、これをシカゴにあるUIC(イリノイ大学シカゴ校)からロサンゼルスにあるUSC(南カリフォルニア大学)まで3000kmの距離を経由してリアルタイムに配信させようというものだ。ビットレートは平均300Mbpsになるから、1時間分のデータ量は1TBを超える。
勿論、回線速度自体はこれを十分に上回る。今回テストに利用したAbilene(アビリーン)プロジェクトの回線は10Gbpsの速度を持っているから、理屈の上では300Mbps程度のデータは切れ目無く送れるだろうと考える。ところが、何も考えずにデータ転送を行うと「アベレージで50Mbps位だったですね」との事。その要因は色々あるが、そもそもこの実験のためだけにAbilineの回線を独占で使えた訳ではない。他の利用者も当然同時に利用している訳で、実際にはそれほど十分に帯域が保証されているわけではないというのが一つ。それともう一つは、遅延の問題である。まず光ケーブル3000kmを信号が伝わるというだけで、往復30msかかってしまう。その上、Ablieneの回線にしても、シカゴとロサンゼルスが直接光ケーブルで繋がれている訳ではない。この結果、途中で多くのレイヤ3ルータを経由することになる。それでもレイヤ3ルータはまだ、tracerouteなどで存在を把握できるから良いが、ルータ間に挟まる数多くのレイヤ2スイッチに至っては、その存在を把握すらできない。これらのネットワーク機器の処理遅延がかかり、トータルで往復60ms 遅延があった。
では、こうして数多くのルータやスイッチが挟まると、何が問題か?「例えばGbE回線を使って送信したとしても、途中に直接10GbEの回線が接続されていると、自分以外のトラフィックがあった場合、一時的にデータ速度量が1Gbpsを超えてしまうんですよ。勿論こうした場合のためにバッファを持っている訳ですが、それにも限界があるわけで、あまり煩雑に超えることになると、バッファが溢れてしまうんですよ」。バッファが溢れるとどうなるかというと、溢れたパケットは破棄されてしまう。勿論TCPレベルでこのバッファの破棄は検出されるので、自動的に再送が行われる訳だが、その頻度が多くなると、60msの往復遅延があるため、リアルタイムでの転送という訳にはいかなくなる。
通常こうしたケースでは、QoS機能を使って帯域を確保するというアプローチをとるが、そのためには専用のルータが必要だし、異メーカー間でのQoSは未だに完全な相互運用性を持ちえていない。ましてや今回の実験の場合、「今回の実験、我々が実際につなぐ契約をしていたのは、最初のルーターまででして、その先後は3つくらいのアメリカの研究用ネットワークを渡って行っています」という状況では、QoSなど使える筈もない。
そこで視点を変えて、「どうやったらルーターやスイッチのバッファを溢れさせずに、データを送れるか」に注目したのが今回の実験である。今回の300Mbpsのデータは24フレーム/秒のデータだから、急いで送らなくても、とにかく24分の1秒の間に1フレーム分のデータを送り終えれば、絶え間なく映画を再生できることになる。そして、バッファが溢れるのは、要するに一度にデータが殺到するからで、逆に言えばデータをゆっくり送れば、バッファが溢れる危険性が減り、スムーズに転送が出来る事になる。これを実現するために、転送を1本のコネクションでまとめて送るのではなく、複数本のコネクションに分け、各々伝送タイミングを微妙にずらす事で、ルーター類に急激な負荷が掛からないように工夫したものだ。
この結果、コネクション1本では50Mbpsが限界だったのが、コネクションを4本にすることで100Mbps、64本にする事で200Mbpsまで転送性能を上げることに成功した。ところが、この辺りで性能が打ち止めになってしまい、これ以上コネクションンを増やしても性能が上がらなくなってしまった。そこで「平滑化」と呼ばれる技法を更に導入した。これは各コネクションのなかでも、一度にデータを送るのではなく、小分けに何回かに分割してデータを送るという仕組みである。これにより、合計転送速度は300Mbpsに達する事になった。
この技術の肝心なところは、バックボーン側に手を入れるのではなく、コンテンツの送り手と受け手、つまりネットワーク両端の部分の技術だけで解決できているところだ。だから現在は100Mbps止まりの光だが、「将来的にアクセスラインもギガオーダーのものが、映画館まで伸びてくるようになれば、リアルタイムにデータセンターから配信しながら上映するのが可能になります。例えば映画館だけでなくて、公民館であるとか、スクリーンが置けるような大きな施設さえあれば、どっかからライブで、ハイビジョンカメラを4台あわせたような形でデータを送ってあげて、あるコンサートをライブで上映するといったことも可能です」といった応用が考えられる。バックボーンに手を入れるとなると、単にアクセス回線を高速化するよりも問題は多いわけだが、今回の技術を使えば両端に「多重コネクション+平滑化」に対応したサーバとクライアントを用意すれば良い訳で、非常に容易である事がお分かりいただけると思う。
■ トラフィック制御機能MXQ(MaXimal Queuing)
2つ目はMXQである。この技術、今回は2種類のビデオ会議システムを同時に利用する際の帯域管理という形で示された。「H.323というビデオ会議システムがありますが、たくさんの人がインターネットを介して使った際に輻輳が起こり問題となります。そういうときの問題を解決する、一つのソリューションとして提案しているものです」。ただ、別にビデオ会議システム専用のメカニズムというわけではない。
例えばFTPでダウンロードをしながらWebを参照する、なんていうケースを考えてみよう。相手側のサイトが遅ければ、普通のADSL回線でも別に支障はない。ところが、FTPサーバーが高速だと、しばしば回線速度の大半がFTPのダウンロードで使われてしまい、Webアクセスが遅くなる、なんて経験をした方は多いはずだ。VoIP、いわゆるインターネット電話や、ビデオチャット系がこれに入った場合、話はもっと面倒な話になる。今回の場合、アメリカと日本の間を結んでCuSeeMeとMeeting pointという2つのビデオ会議システムを利用するデモなのだが、CuSeeMeが最大1Mbps(ビデオが最大990kbps、音声14kbps)、Meeting pointが最大700kbps(ビデオが最大605kbps、音声が70kbps)を要求するのに対し、回線帯域は700kbps程度だった。これを、何も細工なしで実行すると「この2つのアプリケーションは、画像と音声で2つずつフローを作ってそれぞれ流していますが帯域が足りない場合、音声も全部切れてしまうし画像も乱れてしまいます」という具合だ。
こうした現象を解決する方策がMXQである。MXQとは「混雑が起こった時に、その時点でそれぞれのアプリケーションがどの位のレートのトラヒックを実際に流しているかをフロー単位で計測し、その結果一番大きなレートで通信しているものから順に落としてゆくという方法で、トラフィックを調整するという仕組みです。混雑が起きた時に、自分でレートを下げてくれるような種類のアプリケーションならば、ちゃんと自分で減らしますので、MXQで落とされることなくちゃんと通ります。逆に混雑が起きても、ずうっと大きなレートでデータを送ってるようなものがMXQで落とされて、全体としては、みんな好ましい方向になるだろう、という仕組みです」というものだ。今回のテストの例でいえば、
帯域の大きい順に並べると
CuSeeMeのビデオ(〜990kbps)
Meeting pointのビデオ(〜605kbps)
Meeting pointの音声(70kbps)
CuSeeMeの音声(14kbps)
ということになる。MXQを使わないと、この全てのフローがまともに通信できなくなってしまうが、MXQを使うと、一番レートの高いCuSeeMeのビデオを最優先で下げることになる。この結果、Meeting Pointはビデオ・音声共に問題なく通信でき、CuSeeMeも音声はまともに通信できるようになる。唯一CuSeeMeのビデオだけはまともに再生できないが、そもそも帯域が不十分なのだから仕方が無い。むしろ、有効に帯域を使いきれるとも言える訳だ。
この技術、特に最近流行のインターネット電話にも大いに役立ちそうだ。FTPでダウンロードしながらWebを参照しているときに、インターネット電話が掛かってきたとする。勿論、すぐさまWeb参照を止めてFTPも中断すれば、別に問題はないだろう。ところが実際はというと、時折妙にノイズがのったり、反響が響いたりすることがある。これは一時的に帯域が圧迫される事に起因する。同一プロバイダ内だとこういうことは殆ど起きないが、複数のプロバイダをまたいだりする際にしばしばこれは起こりがちである。こうしたケースでも、MXQは有効に動作するだろう。
ちなみにこのMXQ、家庭内のルーターに実装するのではなく、エッジルーター(プロバイダ側に置かれる、各家庭からの回線を接続するルーター)に実装するのが一番効果的だそうで、「試作レベルでは今年中にはできると思います」という話だった。
■ 広域多地点配信“Flexcast”
IPベースの通信には、TCPベースのものとUDPベースのものがあるのはご存知かと思う。TCPは再送制御などをきちんと行ってくれる分やや重めで、UDPは再送制御など無い分やや軽め、というのが簡単な分け方だが、UDPの派生型にIPマルチキャストと呼ばれるものがある事は、案外に知られていない。TCPやUDPは基本的に一対一接続だから、例えばライブ中継などの場合に視聴者が1000人いれば、中継サーバーには1000本のコネクションが張られる事になる。ところがIPマルチキャストは一対多の接続が可能である。つまり1本のストリームを全ての視聴者が受信できるので、視聴者が増えてもトラフィックが増えない、という優れた特性をもつ。
ところが、実際にこのIPマルチキャストが利用されている例は極めて少ない。せいぜいが、CATVインターネットなどで、独自コンテンツの配信にこれを利用している程度で、広域に関してはMBoneと呼ばれる実験ネットワークが事実上唯一のものになっている。この理由の一つは、インターネットを構築するルーターの殆どがIPマルチキャストに対応していないことだが、他にもIPマルチキャストは基本的に伝播範囲を制限しない(無条件でどこまでも伝わる)から、それが不要であっても無条件に届いてしまうといった欠点があることで、この結果殆どのISPはIPマルチキャストをバックボーンに流さない/バックボーンから受け取らない様に制限しているという事も挙げられる。
ただ、これから更にアクセスラインが高速化し、今はMPEG4の100kbps程度の動画に満足できていても、今後は1Mbpsとか10Mbpsといった、より高精彩な動画のニーズは高まるのは必至であり、それを従来のTCP/UDPベースの通信で行っていると、あっという間にバックボーンのトラフィックが爆発する。逆に言えば、単に家庭まで光が来るだけでは駄目で、ISPのバックボーンを大幅に強化しない限り、こうしたリッチコンテンツのリアルタイム配信は望めない事になる。また、送信側にとっても、多数のクライアントを捌くためのサーバー増強が必要であり、難易度が上がることになる。IPマルチキャストを使えば、こうした問題が一気に解決できるだけに、現実的にはIPマルチキャストが使えないのは非常に歯がゆいことになる。
そこで、UDPをベースに「擬似的に」IPマルチキャストを実現しよう、というのがFlexcastである。1台だけクライアントが存在する場合は、UDPの単なる一対一接続である。ところがその後、クライアント2が登場したとする。こうなった場合、サーバーからもう一本コネクションが張られて通信するのではなく、直前のFlexcast対応ルーターがデータを複製してクライアント2に送るという作業をする。同様にクライアント3が登場すると、今度は別のルーターで複製作業が行われ、クライアント3に送られるという仕組みだ。つまり、いくらクライアントが増えてもサーバーの負荷は一定だし、必要とされるネットワークには必要とされる分しかデータが流れないので、無駄にネットワーク負荷を上げる心配もない。しかもUDPをベースに通信するので、IPマルチキャストと異なり既存のInternetでもそのまま利用できるという訳で、既存の問題点を全てクリアしているのだ。
Flexcastがすばらしいのは、単に机上のプロトコルではないことだ。今回はこのFlexcastを使い、シカゴ―ロサンゼルス(3000km)及び横須賀―シカゴ/ロサンゼルス(10000km)の間で、6MbpsのMPEG2画像や500kbpsのWMV画像を相互に配信するという実験を行ったが、この目的はというと「これまでも実験室レベルでは、プロトコルの検証実験を色々続けてきましたが、実際に超長距離で通信した場合、このプロトコルが本当にちゃんと動作するのかを検証するのが、まず第1。それと、実際にUDPを使って配信してみた場合、画質の面とかがどうなるかを確認するのが第2。あとは、クライアントが要求をだしてから、実際にデータ受けられるまでの反応時間ですが、このプロトコルはそれが早い事も特徴なのですが、超長距離でどうなるのか、という測定をするのが第3です」といったもの。結果はというと、この3つの項目、いずれも良い結果である事が確認された。特に第3に挙げられた反応時間については、Flexcastを使わない状態で横須賀―シカゴが190msほどの伝達時間の状態で、FlexCastを利用した場合の反応時間は209ms程度。つまり、純粋にFlexcastを利用する事でのオーバーヘッドは19msと小さい事が確認されたという。
ちなみにこのFlexcast、クライアント上で専用のプロクシを走らせる事で対応できるという。「Flexcast自身はただの通信プロトコルですので、コンテンツとか符号化の方式には依存しません。ですので、MPEG2でもWindows Media Videoでも、何でも利用できます」という話だった。こうなると、後はいかにルーターをFlexcast対応にするかという話だが、その方法の一つとしてRFCに提案することを現在検討しているらしい。まだあくまで検討というレベルで具体的な事は決まっていないそうだが、ちょっと期待したいところだ。
2003年5月26日付のImpress INTERNET Watchレポートに、「2Gを制御回線としたシームレスな次世代モバイル環境」と題して、CRLの4Gプロジェクトに関する記事が掲載されていました。次世代モバイルの技術動向を知る上で参考になると考えますのでご紹介します。
[出典]:[http://internet.watch.impress.co.jp/www/article/2003/0526/crl.htm]
CRLのプロジェクトが目指す“4G”とは何か
2Gを制御回線としたシームレスな次世代モバイル環境
●4Gとはシームレスな通信環境
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FOMA、CDMA2000 1xなどの第3世代、いわゆる“3G”のサービスが商用化された現在、携帯電話業界や通信業界にとって「“4G”とはなにか」ということは、もっとも重要なテーマのひとつだ。しかし、その実情は「さらなる高速化」「セルラー技術と無線LANの組み合わせ」といったキーワードで簡単にくくられ、明確なビジョンを見出すことはなかなか難しい。
そんな中、e-Japan戦略/e-Japan重点計画のもと、独立行政法人通信総合研究所(CRL)が推進している「新世代モバイル研究開発プロジェクト」で次世代モバイルネットワークの研究に取り組む井上真杉氏は、4Gのビジョンをはっきりとした口調でこう語る。
「4Gというと『携帯電話が、あるいはW-CDMAがどう発展するか』という話が中心になっています。しかし私は、4Gとは『携帯電話がどうなるか』という範囲を超えたものだと思っています。そういう方向性ではなく、現在まったく別々のレイヤーとして構成されているFTTH、ADSL、携帯電話、PHSなどのサービスを、無線で、かつどのシステムを利用しているかを意識せずシームレスに利用できるよう融合し、ユビキタスを実現すること──これが4Gだと考えています。」
●4Gで再び脚光を浴びるPDCとポケットベル
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では、多種多様のインターネットアクセスをシームレスに利用することが最大の目的となる4Gを実現するために、具体的にどういう技術を研究しているのだろうか? 井上氏によれば、キーになるのは意外にも、我々のよく知る“2G”すなわちPDCやポケベルの回線なのだという。携帯電話やPHS、無線LANなどさまざまなインターネットアクセス回線を制御する手段として考えているというのだ。
現在、無線LANにせよ、3Gや2G、PHSにせよ、複数の端末をパソコンで利用していたとしても、実際に通信してパケット交換を行なっているのは1つの端末(=回線)だけだ。これに対して、4Gのあるべき姿としてプロジェクトで開発中の実験用モバイルネットワークシステム「MIRAI(Multimedia Integrated network by Radio Access Innovation)」では、実際にデータのやりとりを行なう回線のほかに、常に接続状態を保ち、「どの端末を使ってデータを流すか」を制御するネットワーク「BAN(Basic Access Network)」を用意するという斬新的なアーキテクチャーを取り入れている。
「BANには、PDCやポケベルの回線を利用することを考えています。この制御用ネットワークは、つなぎっぱなしの状態で、利用できる回線の一覧や相手先の稼働状況を参照する役割を受け持ちます。そしてユーザーの居場所や、契約しているサービスの情報、IDなど接続に不可欠な情報のほか、コスト優先なのか、パフォーマンス優先なのかといったユーザーが設定したプロファイルにもとづいて、そのとき接続可能な回線の中で最適な通信回線に接続します。BANは、ユーザーが実際にインターネットで利用するWebやメール、ファイル転送などのデータを通信するわけではないので、ナローバンドでも問題ありません。それよりもBANには常時接続性が求められます。すでにネットワークが広く敷設され、既存の資産を利用できる2Gやポケットベルがいいだろうということになるわけです。」
●MIRAIとMobile IPでシームレスな通信環境
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すでにこのアーキテクチャーは実験段階に入っている。取材にうかがった研究室では、MIRAIを利用して無線LANからPHS、3G、2Gへと自動的に切り替えるデモを見せていただいた。
デモは、接続回線を自動で切り替えながら、ノートパソコンでPing送信を行なうというもの。ノートパソコンの位置は固定されたままだが、ソフトウェアで擬似的に位置情報を変化させて、有線LAN、無線LAN、PHS、3G、2Gの順にバウムクーヘン上に構成されたカバーエリアを横断する。2GベースのBANで端末の位置情報をサーバーに送信し、返ってきた情報をもとに複数の接続可能な回線から高速なほうを選んで切り替えている。サーバー側のモニターには、端末がどの位置にいるか、どの回線に接続しているかがマップ上に示されている。
MIRAIにはMobile IPが実装されているため、接続回線が変わってもPingの発信元のIPアドレスは変わらない。また、通信の切り替え時、認証やダイヤルアップで継ぎ目が生じた場合は一時的に、制御系の回線として使われている2Gの方にパケットの流れを退避させる。このため、通信速度の変化はあるものの、パケットの流れは遮断されることがなく、Ping送信が継続されるわけだ。
なお、先日発表されたアッカ・ネットワークスとの実証実験は、今回見せていただいたデモの使い勝手を、既存のネットワークで実現するものだ。ユーザー側があらかじめ無線LANサービスやPHSサービスなどのIDとパスワードを入力しておくことで、クライアントアプリケーションがエージェントとなって最適な通信環境を選択する。ただしMIRAIとは異なり、Mobile IPも使っていないし、BANと呼ばれる制御系の電波を使用しているわけではない。通信しながら移動した場合、その継ぎ目でパケットロスが生じたり、IPアドレスが変わってしまうことは避けられない。いわば、現状から未来のモバイルネットワークのあり方、“MIRAI”への過渡的な試みといえるだろう。
●セキュリティ面でも2G回線にメリット
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MIRAIのキーテクノロジーはBANだと前述したが、BANを導入するメリットはそれだけではない。セキュリティ面についても井上氏は言及する。
「2Gやポケットベルなどは個別認証も簡単で、誰が設置したかもわからないアクセスポイントを経由する無線LANなどと比べたら、はるかにセキュアです。たとえナローバンドでも、制御系としてセキュアな回線を1本確保していれば、通信サービスに必要なIDやパスワード、オンラインショッピングに必要なクレジットカード番号を送信する場合でも安心です。Webやらメールを無線LAN経由でしていたとしても、守らなければならない情報は制御系のネットワーク経由で流せるわけです。」
また、MIRAIのアーキテクチャーを応用すれば、複数の通信デバイスをパソコンなどに内蔵していても、制御系とデータ通信に使うデバイスだけに通電すればよい。つまり、すべてのデバイスを待ち受け状態にしないで済むため、モバイルには重要な要素となる省電力という側面でもメリットも兼ね備えているのだ。
一方、今後の課題は、位置情報の取得だという。「このようなシステムをより使いやすいものにするためには、位置情報は欠かせません。GPSでは屋内にいる場合に精度が悪くなります。まだ、これといったソリューションは見つかっていないのが現状です。」
●携帯電話の未来の姿とは、新たに生まれるビジネスとは
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4Gのあり方、そして実現するためのアーキテクチャーをお聞きしてきたわけだが、MIRAIのようなネットワークが現実となった日、我々が持ち歩く携帯電話や通信デバイスはどのようなものになっているのだろう。
「携帯電話が今のパソコンの世界と同じように、『自分は無線LANとPHSが必要だからこういうチップを入れる』といった、完全に個人の用途にシフトしたものになっていくと思います。モバイルの場合、ユーザーひとりひとり行動範囲も要求するネットワークも変わってきますから。」
ところで、このようなモバイルインターネットの世界がやってきた場合、3Gのような移動体ベースと、FTTHやADSLといった固定系のインフラを双方とも押さえているNTTやKDDIなどの通信大手が市場を牛耳るようなかたちにはならないのだろうか?
「むしろ逆だと思います。サービスの多様化が進むにつれ、コーディネートするビジネスが生まれるのではないでしょうか。旅行で例えて言うとわかりやすいんですが、飛行機もホテルもユーザーが自分で選んで購入するのではなく、パッケージツアーのように携帯、PHS、無線LAN、光ファイバーなど、サービスをユーザーの好みやニーズに応じてパッケージして売ったり、あるいはコーディネートする旅行代理店のような存在が必要になるでしょう。『無線LANサービスはここ、自宅のFTTHはここ、携帯はここ、ISPはここ』といった具合に。」
MIRAIをはじめとする次世代モバイルネットワーク技術の研究に取り組んでいる同プロジェクトは、2002年度から4年間の予定でスタートした。来年2004年度にも仕様を固め、最終年度となる2005年に実証実験を行なう考えだ。
2003年4月18日付の通信総合研究所プレスリリースに、「60GHzミリ波帯ファイバ無線光変調器の開発に成功」と題して、ファイバ無線システム向けの光変調器に関する記事が掲載されていました。光通信の技術動向を知る上で参考になると考えますのでご紹介します。
[出典]:[http://www2.crl.go.jp/pub/whatsnew/press/030418/030418.html]
60GHzミリ波帯ファイバ無線光変調器の開発に成功
〜大容量家庭内ワイヤレス伝送を実現するデジタル家電の実用化に向けて〜
独立行政法人通信総合研究所(理事長:飯田尚志、CRL)は、ファイバ無線システム(用語説明参照)向けの往復逓倍変調器を開発し、60GHzミリ波帯信号による光変調に成功しました。往復逓倍変調器はCRLが独自に提案したもので、信号純度・安定度の極めて高いミリ波信号の発生をシンプルな構成で実現するものです。従来技術に比べ1/10以下の低コスト化も十分に期待できる技術です。
<背景>
ミリ波帯ファイバ無線システムは、光通信の大容量性と無線通信の利便性をあわせもつものとして期待されており精力的に研究が進められています。しかし、実用化に向けては、ミリ波帯信号による光変調の高効率化が大きな課題となっています。これまでは、
(1)ミリ波用超高速電気回路を駆使して、光をミリ波で直接変調する方法
(2)2種類の光を混合し、その干渉を利用してミリ波成分を発生させる方法
が利用されてきました。前者は電気回路の動作可能周波数の上限が数十GHzであり、また、回路も複雑かつ高コストという問題があります。後者は光技術を用いているので容易に高い周波数成分を発生させることができますが、2つの光を安定に保つために高精度な制御システムが必要となります。つまり、電気は安定であるが周波数が不足、光は高い周波数を扱えるが安定に欠けるという問題を抱えているといえます。
<本研究成果の概要>
CRLでは光の広帯域性と電気の安定性をあわせもつ変調方式として往復逓倍変調を提案し、原理確認実験を進めてきました。今回、住友大阪セメント(株)、三菱電機(株)の協力を得て、高精度光フィルタと光位相変調器を集積した往復逓倍変調器を開発し、低い周波数の電気信号(4.4GHz)を基に60GHz帯ミリ波信号で変調された光出力を発生させることに成功しました。そのミリ波信号の安定性・信号純度が標準信号発生器と同等以上であることを確認しました。
往復逓倍変調器は2つのフィルタの間に位相変調器が位置する構造で、変調器内を光が複数回往復することで高い周波数成分を得るというユニークな動作原理に基づくものです。低い周波数の電気信号を使うので回路部分の低コスト化、高効率化が容易に実現できます。また、安定化制御なしで信号純度の高い出力を得ることが可能で、これまでの光によるミリ波生成技術の常識を覆すものです。
<今後の展開>
往復逓倍変調器はファイバ無線システムの低コスト化を実現します。テレビのデジタル化に伴い一般家庭においても高精細画像データのワイヤレス伝送への需要が拡大すると考えられますが、今後、これに対応すべく実用化を目指します。この技術は光周波数変換などに応用することが可能で次世代の基幹光ネットワークにおいても高速化・大容量化に貢献するもと期待されます。
なお、関連研究を6月23日から27日までミュンヘンで開催される国際会議CLEO/Europeにて発表する予定です。
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<連絡先>
基礎先端部門光情報技術グループ
川西 哲也 Tel 042-327-7490
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<補足資料>
ミリ波で変調された光信号を得るには、変調器に数十GHzの高い周波数の電気信号を加える必要があります。電気回路での損失は周波数とともに増大し、また、高い周波数の電気信号の発生・増幅も困難で、光変調器の性能は電気回路部分で制限されているというのが現状です。これに対し光を往復させ、変調器を複数回通過させることを特徴とする往復逓倍変調では、電気信号の周波数の整数倍高い周波数で変調された光が出力として得られるので、電気回路部分の周波数を低く抑えることが可能です。
図1は10倍の周波数を得る構成例です。入力光のみを透過して他の波長成分を反射する特性をもつ狭帯域フィルタを通して、光変調器に入力し、その出力を帯域制限フィルタに入力します。帯域制限フィルタを入力光周波数との差が変調器に供給する電気信号の周波数の5倍以上である光のみを透過するものとすると、光変調器により生成される側帯波は反射され、光変調器の出力ポートから入力されます。この出力は、狭帯域フィルタにより反射され、再度、光変調器に入力されます。このプロセスを繰り返すと、入力光周波数との差が変調器に供給する電気信号の周波数の5倍以上である光が生成されるので、帯域制限フィルタを通して、変調周波数が変調器に供給する電気信号の周波数の10倍となる出力光が得られます。

図1:往復逓倍変調の原理
今回、2つのフィルタ(ファイバブラッググレーティング)と1つの光位相変調器を集積化し、60GHzミリ波信号発生用の往復逓倍変調器を開発しました(図2)。2つのファイバブラッググレーティングの間を光が往復します。光の往復や周回を利用した技術としてこれまでにモードロックレーザ、コムジェネレータなどがありました。光の発振や非線形現象を用いるもので、出力を安定化するためには複雑な制御システムが必要でした。往復逓倍変調では光は数回往復するだけで発振させていないのでフィードバック制御なしでも安定動作が可能です。

図2:往復逓倍変調器
4.4GHzの電気信号を往復逓倍変調器に供給して、その14倍成分である61.6GHzミリ波信号を発生させた例を図3に示します。スペクトル線幅が鋭く、また、強度の時間変動も極めて小さいことがわかります。図4は往復逓倍変調器で生成したミリ波の位相ノイズです。標準的な計測用信号発生器の出力よりもノイズの少ない出力が得られました。

図3:往復逓倍変調器で発生させた61.6GHzミリ波の(a)スペクトル、(b)時間変動

図4:ミリ波の位相ノイズ(実線:往復逓倍変調器、波線:参照信号)
<用語解説>
・ファイバ無線システム
光通信と無線通信を組み合わせたシステム。無線信号を一旦、光にのせてファイバで伝送し、アンテナのすぐそばで電波に変換する。光通信の大容量性と無線通信の利便性をあわせもつシステム。
・往復逓倍変調
光を往復させることで高い周波数成分で変調された光出力を得る方法。2つの光フィルタと1つの光位相変調器で構成される。CRLで独自に開発された光の広帯域性と電気の安定性を生かした技術。
・光位相変調器
加える電気信号に応じて光の位相を変化させるデバイス。出力には入力光よりも光周波数が高い方にシフトした成分と低い方にシフトした成分が含まれる。シフト量は電気信号の周波数と一致する。
・ファイバブラッググレーティング
光ファイバに周期的な屈折率変化を書き込んだもの。特定の帯域の光を反射し、それ以外を透過する。今回開発した変調器ではこれを使って光を往復させている。
・ミリ波帯
30GHz〜300GHzの周波数帯を指し、波長が1mm〜10mmとミリメートル域となるので、この名前が付けられている。特に60GHz帯については、平成12年2月に電気通信技術審議会から「60GHz帯の周波数の電波を使用する無線設備の技術的条件」が答申されており、その活発な利用が期待されている。
2003年4月1日付の日経デジタルコアに、「市民パワーで無線インターネットが広がる」と題して、京都の「みあこネット」に関する記事が掲載されていました。地方のブロードバンド化推進の参考になると考えますのでご紹介します。
[出典]:[http://www.nikkei.co.jp/digitalcore/local/03/index.html]
市民パワーで無線インターネットが広がる
〜京都の「みあこネット」〜
昨年盛り上がりかけた公衆型の無線インターネットサービスは、相互接続が進まないなどで迷走している。その中で、京都ではボランティアなパワーでサービスが拡大している。「おもてなしモデル」というユニークな方式が特徴だ。この方式が定着すれば、地域情報化の一つのパターンを作りそうだ。
利用料は無料
みあこネットは公衆無線インターネットプロジェクトのひとつで、京都で進められている、市民が中心になって無線インターネット環境を整備しようというプロジェクトである。これはいろいろな意味で大変面白いプロジェクトなのだが、特徴を述べるのは後回しにして、まずこのプロジェクトが提供しているサービスについて、利用者の立場から説明しよう。
みあこネットの利用は無料だ。みあこネットで無線インターネット環境を使いたいという利用者は、まずアカウントを取得する。これはユーザ番号とパスワードからなっていて、みあこネット事務局に連絡して身元情報を登録するともらえる。次に、みあこネットのホームページの案内にしたがって、設定を行う。これで、みあこネットのサービスエリアにいけば、無線インターネット環境が利用できるようになる(もちろん、端末と無線LANインタフェイスは自分で用意する必要がある)。
インターネットへの接続以外にも、いくつかのサービスが利用できる。みあこネット利用者は産経新聞の記事を読むことができ、NOTASIP方式という日本で開発された方式を用いたIP電話サービスも利用できる。「ここどすえサービス」と呼ばれる自分がいる場所の周辺情報を得られるサービスもあり、観光客が無線環境を利用することも意識されている。最近ではみあこネットで視覚障害者のサポート実験も始めている。
「おもてなしモデル」
みあこネットの特徴は、なんと言っても「無料で」利用できるということだろう。実はみあこネットの費用は、「基地局オーナー」によって支払われている。基地局オーナーは、自分の建物に無線基地局を設置してその近辺にみあこネットのサービスエリアを提供する。その上、基地局オーナーは月々4700円のみあこネットの維持費用と、基地局へのインターネット接続費用を支払うという仕組みだ。(ただし、基地局の機器費用・工事費はみあこネットプロジェクトが負担してくれる。)基地局オーナーは他人が使うネットワーク環境のために設備と費用を提供していることになる。これは一見、基地局オーナーにはまったくメリットがない話のように思える。
みあこネットプロジェクトの中心人物の一人である高木治夫氏(NPO法人 日本サスティナブル・コミュニティ・センター(SCCJ)代表理事、みあこネット事業統括責任者)は、これを「おもてなしのネット」あるいは「しつらえ空間」と呼んでいる。客が気持ちよく滞在する環境を、迎える側が作るという考え方だ。観光客や町を歩く人が気軽にネットワークを利用できる環境が魅力ある都市を作り、町に滞在する人を増やす、という理念なのである。高木氏は明治初頭に京都の町衆が自分たちだけで64校もの小学校を設立して運営し、それを大変誇りにしていたことを熱っぽく語り、みあこネットはそれと同じだと説く。必要な公共財は自分たちで作るのがあたりまえで、魅力ある町を作るためには、住人が身銭を切ってそれを作っていかなければだめだという。
基地局オーナーになるためには、基地局を設置する場所にインターネット接続環境がなければならないが、これにはたとえばADSL接続があればよい。今時、自宅にADSL環境のある家やオフィスは多いだろう。基地局オーナーは、自宅やオフィスで普段使うネットワーク接続の余った回線容量を提供するという形でサービスできる。町の魅力を向上させたいというような意識のある人や企業が、余っている資源を提供し、さらに月4700円ずつ余分に払うというのは、ありえる形かもしれない。
みあこネットプロジェクトの組織と運営
プロジェクトが始まったのは、2001年11月に京都で開かれたSCCJの研究会からだ。研究会の夜に有志が集まり、今後の活動について文字通り夜を徹して議論をし続け、明朝5時に「もう議論は止めて自分たちの手で京都の街中を無線インターネットで結ぼう!」と決めたという。これを高木氏は「午前5時の結論」と呼んでいる。京都のために何かをした いと考えている人たちが立ち上がろうとする熱気が伝わってくるエピソードである。
みあこネットプロジェクトは、政府が最先端のIT国家イメージを示すという趣旨で実施している「e!プロジェクト」の一部となっている。SCCJ、京都大学他いくつかの大学、民間企業が参加しており、SCCJが運営を担当し、京都大学の岡部寿男助教授・藤川賢治助手のグループが技術開発を担当している。助成金はあったようだが、それは工事費と機材費に使われており、運用コストはすべて基地局オーナーからの会費でまかなわれているという。
これを支えるのが基地局オーナーたちで、現在150程度の基地局がある。現在再募集中であり、まもなく300近くに増えるそうだ。彼らはプロジェクト運営者の心意気にモノとお金と手間で応えていることになる。
新しい通信環境の作り方
実は、無線インターネット接続事業は現在不調だと言われている。巷では2年ほど前から無線LANが一般的になり、現在売られているノートパソコンの多くには無線LANが内蔵されている。オフィスでの導入事例も増えていて、無線LANの電波の漏洩とセキュリティ対策が社会的な問題となるほどであり、すでに広く普及していると言っていいだろう。コンピュータを持ち歩き、出先でも無線LANでインターネットを利用したいと思うのは自然の成り行きである。2001年にはモバイルインターネットサービス株式会社(MIS)がこのサービスの実証実験を先頭を切って始め、他の事業者も無線インターネット接続サービス事業に相次いで参入した。
しかし、基地局の稼働率は悪く、利用者は増えなかった。MISは2002年末に早くもサービスからの撤退を決めたほどである。アメリカでも同様の撤退事例があり、現在では利用者から直接料金を徴収する事業モデルに、そもそもの問題があると考えられている。
一方、みあこネットの事業モデルはこれとは異なっている。基地局提供者が回線部分の費用負担をするため、みあこネットプロジェクトの中心機能の維持費用は小さくて済むし、収入も安定している。このため、通常の利用者から直接料金徴収するモデルとは違い、事業全体が維持できなくなるリスクは非常に小さい。
一方、エリア展開の戦略を運営側が一方的に決めることはできず、その点に多少問題がある。京都出身のある知人は、このプロジェクトの概要を聞き、「京都も町によって性格が異なり、このようなプロジェクトに積極的に参加する町と、そうでない町があるのではないか」との感想を述べていたが、確かにこのモデルがどこででもうまくいくというわけではないかもしれない。しかし、既存モデルがほぼ破綻している現在、異なる事業モデルが必要なのは明らかである。みあこネットはその候補のひとつといえるだろう。
通信事業の未来を考えると、みあこネットはまた別の観点でよいモデルを提供している。それは、通信インフラを必要とする者が直接整備、運営するというモデルである。現在多くの利用者は、通信サービスは事業者が提供するものであって、自分はそれを使う側だと考えている。このため、事業者が採算が合わないと考えるサービスは、いつまでたっても提供されず、利用者はそのサービスを受けることはできない。街中無線サービスはその好例だろう。しかし、道路や発電所と違って、通信インフラはかなり安く構築することができる。その気になれば、サービスを必要としている人々が自分でそれを作ってしまうことも不可能ではない場合もある。みあこネットの例は、人々の意識がそのような方向に変わっていくきざしかもしれない。
みあこネットの今後
これまで述べてきたように、みあこネットは多くの可能性を持っているが、まだ実験プロジェクトに過ぎない。エリアも決して広いとは言えないし、実験期間が終わった後、このサービスが継続されるのかどうかもはっきりとは決まっていない。事業化する場合、当初は補助金で補うことができた基地局の機器費用や設置工事費用を誰が負担するかが問題になるだろう。工事には通常30万円から60万円かかると言う。月4700円の負担と、30万円の初期費用の負担では壁の高さがまったく違う。しかし、自治体が協力するなどして、それを乗り切ることは可能かもしれない。第一回の記事で紹介した関西ブロードバンドの例では、県や市町村がバックボーンの回線費用や機器設置費用の面で助ける仕組みを設けている。同様のことが京都でもできない理由はない。
もうひとつ期待したいことは、他地域でも同じような考え方で立ち上がる人々が現れることである。実は、京都はその点ではいろいろと有利な点がある。大学が多く、技術的な面での人材を得やすいし、100年前の小学校設立や、活性化のために祇園祭を作ったことに見られるように、町のために活動する文化がある。こういったことを考えると、みあこネットのモデルは京都の町に合ったもののように思える。これが他の地域でもうまくいくのかは、まだわからない。しかし、このモデルが他地域にも広がるとすれば、日本の通信インフラは多様になることは確実だし、より大きな視点で言えば、地域の活性化につながる定石がひとつ増えると言えるのではないだろうか。
(石橋啓一郎=国際大学GLOCOM)
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評価と課題
NPOが主役―コミュニテイ意識が「第三の道」を拓く
現在、全国的に通信インフラの整備が進められているが、その展開は「民(市場)」に委ねられ、市場が成立しない地域へのサービス提供は後回しになる。「みあこネット」が誕生した背景にも、いつ来るかわからない商用サービスを待っていられないという思いがある。これは、第一回で取り上げた淡路町をはじめ、多くの地域で共通した悩みであり、これまで先進地域では「官(地方自治体)」が自設網や地域イントラを整備することなどで解決をはかってきた。
しかし、「みあこネット」は、「民」でも「官」でもないNPOが問題解決の主役になっている点が特徴だ。力をもたないNPOだからこそ広く市民や地元企業の協力と参加を仰ぐ必要があり、また協力や参加を促すには、単なる個々人の損得を超えた大義が必要である。それが「みあこネット」の場合、京都の街をよくしたいという思いであり、また、来訪者へのおもてなしの心である。自分が住む地域に愛着を感じれば感じるほど、何らかの形で地域に貢献したいという気持ちをもつのは当たり前だろう。眠りがちなこうした地域への思い、コミュニティ意識を掘り起こし集約する仕組みを設けたことがビジネス上の成功のポイントでもあり、他の地域でも大いに参考になる。
一方、これまで市民がうける様々なサービスは、「民」からお金で買うか、「官」に提供してもらうかどちらかであった。我々は、与えられることに慣れてしまっている。サービスは全てお金で変えるものと思い、身近に問題があっても“お上”が解決するものだと思っている。しかし、「官」も「民」も頼ることができない場合、自分たちが立ち上がり、自ら問題を解決するという第三の道があることを「みあこネット」は教えてくれた。今後、地方分権が進む中で、個別事情を加味しない国や県の政策は効果を失い、地域は独自の判断を求められる場面が増えていく。こうした中で、自立性や自前性を持つことが、資源や市場以上に重要になると考えられる。たとえ資源がなくとも自立性をいち早く身につけた地域は、独自の発展をとげ生き残っていく。
「みあこネット」は、無線LANサービスの新しいビジネスモデルを示して関係者に衝撃を与えた。しかしそれ以上に、地域が選択すべき第三の道、自立的な活動の新しいタイプを示してくれていると思う。地域への市民の思いを集約し、自分たちの地域は自分たちで創り上げていくという地域活動パターンは、従来の「民」「官」「公」とは全く違う、「共」とでも読んで区別すべきだろう。
(丸田一=国際大学GLOCOM)
2003年3月28日付のImpress Broadband Watchに、「“光”だからできるこんなこと」と題して、光伝送の近未来像に関する記事が掲載されていました。参考になると考えますのでご紹介します。
[出典]:[http://ad.impress.co.jp/tie-up/ntt0303/]
そしてその実験を支えているのが“光”だ。“光”とは、すでにFTTH(Fiber to the home)の本サービスという形で一般の家庭にもひかれはじめている光ファイバーを流れる光伝送のこと。電線の中を通る電気ではなく、光ファイバーの中を通る“光”こそが、これからのブロードバンド時代を読み解くキーワードなのだ。もちろん、実験で使われているのは、一般家庭にひかれるFTTHよりさらに速い“光”も含まれている。では、さっそく“光”を使ったきたるべきブロードバンドの世界を紹介しよう。
■ あの「STAR WARS エピソード2」が“光”で!?
いま映画界では急速にディジタル化が進んでおり、「STAR WARS エピソード2」のように、撮影から編集まですべてディジタルで制作される作品も現われている。視聴者側も同様で、すでにDVD-Videoという形でディジタル化が定着している。さらに映画館も同様で、昔ながらに焼き増した35mmフィルムを技師が上映する風景も、もうしばらくしたら見られなくなるに違いない。
すでに人工衛星による映画館への配信実験も行なわれているが、NTT未来ねっと研究所では“光”を使った「超高精細ディジタルシネマ配信システム」を開発。映画用の35mmフィルムの画質をそのままネット配信する実証実験を行なっている。まず、毎秒24コマのフィルムを3,840×2,048ピクセルというHDTVの4倍もの解像度でディジタル化し、1コマずつJPEG2000コーデックでエンコードしてサーバに蓄積しておく。あとは、必要に応じて200〜300Mbpsという広帯域でIPストリーム配信し、配信先でストリームをリアルタイムエンコードして高精細プロジェクタでスクリーンで投影する仕組みだ。
専用回線ではなくIPストリームで配信できるのがポイントで、家庭に“光”が普及すれば、映画館と同等の画質での鑑賞を家庭に居ながら楽しむことも可能だ。レンタルビデオ感覚でオンデマンドに劇場クオリティの映画を楽しむ時代がやってくるかもしれない!?
■ ブルーノート東京の生演奏が“光”でやって来る
東京は青山にある伝説のジャズクラブ「ブルーノート東京」。そのブルーノート東京での著名なジャズミュージシャンによるライブを、東京・芝のセレスティンホテルと札幌のジャスマックプラザホテルにリアルタイム配信する試験サービスが始まる。実は、すでにトライアル公開実験が行なわれている。
サービスでは、ブルーノート東京に設置された4台のSDTVカムとステレオマイクで撮影と録音が行なわれ、まずリアルタイムに720×480ピクセルの解像度で6MbpsのMPEG-2にエンコードされる。そのデータをいったん専用回線(メガライブ)で配信サーバに送り、そこから地域IP網に配信されるといった流れになる。配信先のホテルでは、既存サービスで安価な「Bフレッツ」を利用してデータを受け取り、レストランにしつらえた150インチの 大型スクリーンに投影することで、一流ジャズのライブを楽しみながら食事ができるという粋な趣向になっている。
この試験サービスは、受信側のアクセスラインとして「Bフレッツ」を利用するなど技術的にも経済的にも今すぐに実現可能なサービスインフラを組み合わせて実施するのが特長で、誰もがブロードバンド時代の到来を肌で感じることができるのではないだろうか。
■ スカパーを“光”で楽しむ!
おなじみ衛星によるスカイパーフェクTV(通称“スカパー”)のCS放送。マンションなどの集合住宅では共同アンテナの設置や配線の分配が困難だったり、一般家庭向けの小型パラボラアンテナでは荒天時の映像の乱れが気になることもあった。そこでNTTとスカパーでは、大型パラボラアンテナで受けたCS放送を、“光”でマンションの各戸に配信する共同実験を行なった。
この実験では、NTTの研究所が開発した“B-PON”システムという、一芯の光ファイバーで波長光を多重化することで最大100Mbpsの高速データ通信と最大500チャンネルもの多チャンネル映像配信を同時に可能にした技術が用いられた。マンション各戸にはそれぞれ1本の光ケーブルが引かれているが、光波長多重により高速インターネットと映像のトラフィックを1本の光ケーブルで同時に利用できるというわけだ。
今回の実験では、約300あるスカパーの全チャンネルをすべて配信したが、能力的には最大で500チャンネル(HDTVでは最大110チャンネル)まで提供することが可能だという。そのため、スカパーのみならず地上波デジタルやBSデジタルなどの放送も1本の“光”ファイバーで視聴するとができ、新方式の放送が始まるたびにチューナーを買いそろえる必要がなくなるのだ。
■ 太平洋横断もなんのその。地球規模の実験成功だ!
昨年末、NTT未来ねっと研究所は南カリフォルニア大学、イリノイ大学などとともに、地球規模の遠距離IPストリーム配信実験を実施した。実験では、次世代インターネット研究開発コンソーシアムである“Internet2”のネットワークとNTTが保有する日米間接続用実験ネットワークGEMnetを利用し、アメリカ大陸横断3,000Kmの配信等を行ない、見事成功裏に終えることができた。
実験はまず、Internet2で結ばれたロスアンジェルス−シカゴ3,000Km間で、走査線2,000本クラスの超高精細ディジタルシネマの伝送を行なった。Internet2で結ばれたこの2地点間で64本の多重ストリームに分割して配信することで200Mbpsを実現。さらに平滑化プロセスを導入することによって、なんと300Mbpsの大容量コンテンツ配信実験を成功させた。
このほか、神奈川県横須賀市のNTT未来ねっと研究所とロスアンジェルス、シカゴの3地点にて、“Flexcast(広域多地点配信)”プロトコルによるDVD並の動画像配信を行なった。元来、遠距離配信では遅延が大きくなり、遅延の大きさによる揺らぎも大きくなるものなのだが、“Flexcast”ではそうした影響を感じることなく配信され、信頼性や実用性を検証することができた。
さらに横須賀−ロスアンジェルス間10,000kmで、NTTが開発したトラフィック制御機能MXQ(MaXimal Queuing)を、インターネット環境で2つのビデオ会議システム(CUSeeMe、Meeting Point)を用いて実験した。CUSeeMeとMeeting Pointのそれぞれが使用する帯域においてオーディオ、ビデオのフローが適切に制御できることが検証された。
“Internet2”が、現在我々の使っているインターネットに代わって実用化される頃には、家庭やオフィスにも“光”がひかれ、国際電話もTV付きIP電話で三者通話するのが当たり前になっているかもしれない。
■ −“光”のもたらすもの−
どうだろう、“光”技術の実力の片鱗を垣間見ることができただろうか。すでに実用間近なものから近い将来を見据えた研究まで、夢物語ではなく、リアルなサービスとして私たちが享受できるだろうものなのだ。“光”がもたらす未来は、かつてインターネットがそうであったように、私たちの生活をも変えてしまうのではないか、といった期待感にあふれている。
2003年3月27日付のIT Proに、「周波数帯域を広げて下り速度を倍増」と題して、最高28MのADSL規格に関する記事が掲載されていました。参考になると考えますのでご紹介します。
[出典]:[http://itpro.nikkeibp.co.jp/members/NIT/ITARTICLE/20030318/1/]
周波数帯域を広げて下り速度を倍増
ITU-Tが最高28MのADSL規格を承認
ADSLがさらに高速になる。2003年春か夏には,最高で20Mbpsを超えるADSL接続サービスが始まる可能性が出てきた。「G.992.1 Annex I」「G.992.5」という2つの新しい規格が標準化されそうだからだ。どちらも,使用する周波数帯域を2倍に広げることで下り通信を高速化する。一部のメーカーでは,今春出荷を目標に製品開発を始めている。
20Mbpsを超えるADSL接続サービスが現実味を帯びてきた。1月31日,ITU-Tが「G.992.1 Annex I」「G.992.5」という新規格を承認したからだ。
G.992.1 Annex Iは,アッカ・ネットワークス,イー・アクセス,NTT,NEC,富士通,住友電気工業など,G992.1 Annex Cベースのサービスや製品を提供している企業が,高速化を狙って作成した規格。一方,G992.5は「ADSL+」と呼ばれていた規格である。どちらの規格も,伝送帯域をこれまでの倍の2.2MHzまで広げる「ダブル・スペクトル」を採用している。下り方向の最高伝送速度が,理論上,約28Mbpsにまで上がる。すでに一部のADSL機器メーカーは,2003年春〜夏を目標に,製品開発を進めている。サービス化に向けた環境は早々に整いそうだ。
使用する帯域を倍に
ADSLでは,「ビン」と呼ばれる多数の搬送波を同時に使うことで,大容量のデータ伝送速度を実現する。1秒間に4000回,つまり250μsに1回の頻度で変調処理を実行し,データを送信する。送信するデータを15ビットずつに区切り,それぞれを別々の搬送波に載せて送る。Annex
Cの場合,下り用には搬送波を223個使うため,250μs当たり3345ビットのデータを送れる。理論上の伝送速度の上限は,3345ビット×4000=13.38Mbpsになる。
ダブル・スペクトルでは,拡張分の1.1M〜2.2MHzの間だけで256個,下り全体では479個の搬送波を使う。つまり15ビット×479個×4000回となるから,下り伝送速度は28.74Mbpsとなる。
このとき,最大255バイト(2040ビット)のブロック単位でデータを載せることになっている。255バイトとは,誤り訂正方式が扱う最大サイズから決まっている。G.992.1のデフォルト設定では,1回の変調にこの255バイトのブロックを1個だけ載せる(S=1)。つまり,2040×4000=8.16Mbpsにしかならない。
そこで,Annex Iでは,1回の変調で255バイトのブロックを,3個(S=1/3)や4個(S=1/4)を載せられるようにした。S=1/3なら,伝送速度にして最高24.48Mbps,S=1/4なら最高32.64Mbps。ダブル・スペクトルの上限である28.74Mbpsをフルに生かせる。
ただし,S=1/3やS=1/4を使うと,S/N比が悪くなるため,局から1km以内などと近いユーザーでないと,高速化の効果はあまり期待できない。
G.992.5(ADSL+)も登場
もう1つのG.992.5は,ADSL+やADSL2+と呼ばれていた。Annex I同様,ダブル・スペクトルにより下り通信を高速化。Annex Iと同程度の最高速度を期待できる。
G992.5のベースになっている技術はG.992.3である。G.992.3は,通信品質向上と,伝送距離の延長を目的に,現在多くのADSLサービスで使用されているG.992.1を,改良した規格。ADSL2,G.dmt.bisなどとも呼ばれ,「ノイズの影響が大きい環境でも高速に通信できるよう,通信フレームを改良してある」(センティリアム・ジャパン プレジデントの高橋 秀公氏)。例えば,前述したSパラメータを,ハンドシェーク時に自動的に調整するような仕組みも実装されている。992.5には,こうした仕様が盛り込まれ,できるだけ安定したスループットが得られるようになっている。
ハードウエアの開発は始まっている
これらの規格に対応したハードウエアは,早ければ今春くらいには出そろう。実際,G.992.5に対応したチップ・セットは,米クローブスパンヴィラータ,米センティリアムなどがすでに発表済み。それをDSLAMなどに実装すればサービスを提供できる状況にある。
一方のAnnex Iについては,まだ公式に対応を発表したメーカーはない。ただ,Annex Iを構成する機能の要素は,大部分が既存の規格と同じ。ダブル・スペクトルはG.992.5と共通だし,ほかの部分はG.992.1 Annex Cと同じだ。このため,「G.992.5やG.992.1 Annex Cに対応しているチップ・セットを使えば,Annex Iにはすぐに対応できる」(富士通アクセス アクセスネットワーク事業部の福田 節氏)という。富士通アクセスなど,一部のメーカーは,Annex I対応DSLAMなどの開発をすでに始めている。
スペクトル管理基準問題も障害にはならない
新しいxDSLサービスを提供するにあたっては,もう1つ気になる点がある。現在総務省で議論されている,スペクトル管理基準の問題である。これが決着しないと,新しいxDSL技術を使ったサービスが始められないのではという懸念はどうしても浮かぶ。ただ,Annex
IやG.992.5に関しては,サービスを提供するにあたり障害になることはなさそうだ。
スペクトル管理基準は,電話線を使う技術の干渉の度合いなどを把握し,お互いの影響を少なくするための取り決め。2002年11月に,情報通信技術委員会(TTC)が,JJ-100.01「メタリック加入者線伝送システムのスペクトル管理」というスペクトル管理基準を作成している。
この基準では,新しいxDSL技術についてほかの通信への影響をテストし,干渉が小さいものはNTTの回線収容ルールに基づいて第1グループに分類する。干渉が大きいものは第2グループに分類し,同一カッド内でほかのxDSLやISDNなどと混在させないという制限を課す。カッドとは,銅線2本で1対になっている電話線を束ねる単位のことで,通常は2対で1つのカッドである。
カッドを分けることで,電話線を使うほかの通信への干渉は避けられる。それ自体は,歓迎すべきことである。しかし,第2グループに分類されると,わざわざ別のカッドを使わなければならず,NTTに支払う接続料金が高くなる。サービス料金も月額1000円程度高くせざるを得ない。仮に,G992.5やAnnex Iが第2グループに分類されると,サービス化の望みは薄くなる。
ただ,議論の争点になっているのは,上り用に使う低い帯域での干渉である。ソフトバンクBB/ヤフーが使っているG.992.1 Annex A(旧称A.ex)の下り通信が,ほかのxDSLの上り通信にどの程度影響を及ぼすかだ。
この点,Annex IとG.992.5は下り用の帯域を高い周波数帯に広げる技術。スペクトル・マップ上は,Annex
IがG.992.1 Annex Cベース,G.992.5がG.992.1 Annex Aベースであり,まったく新しいものというわけではない。そのため,これらが新たに議論の対象になることはなさそう。サービス開始の妨げになる可能性は低い。
(福田 崇男=tafukuda@nikkeibp.co.jp)
東大阪が人工衛星計画「まいど1号」 「宇宙」に町工場の技術結集
町工場が軒を連ねる大阪府東大阪市で、産業空洞化に悩む中小企業経営者が集まり、05年に人工衛星を打ち上げる計画を進めている。米スペースシャトル「コロンビア」の空中分解事故で宇宙開発の停滞が懸念される中、「河内のおっちゃん」たちがモノづくりの再生を「宇宙」に託す。(山本 明彦)
■小型衛星「まいど1号」
2月19日、約50人の中小企業経営者らが、東大阪商工会議所の会議室に集まった。人工衛星開発で実績のある三菱電機の技術者を講師に招き、衛星のイロハを学んだ。
技術者は「強い放射線や100度以上の温度差サイクル、打ち上げ時の衝撃に負けない耐久性が必要だ。宇宙では、故障しても修理できない」と難しさを強調。黙って聞いていたメンバーたちだが、その後の質疑は熱を帯びた。航空機部品製造業「アオキ」の青木豊彦社長(57)は「我々の工場を見てくれませんか。ちょっと力を借りれば、ハードルを越えられる企業ばかりですわ」と提案した。
半導体部品に通信機器、電力系統機器など東大阪の町工場の技術を持ち寄って、重さ20〜50キロの小型衛星を開発し、05年に打ち上げるプロジェクトがスタートした。衛星の名前は「まいど1号」。昨年12月に地元企業で「東大阪宇宙開発協同組合」を設立した。青木さんは同組合の理事長だ。
■地域再生の願い込め
2年前、アオキの工場を訪れた大阪府立大大学院の東久雄教授(61)=宇宙工学=に、青木さんは「町工場でロケット、できませんやろか」と投げかけた。東教授は「膨大な資金と技術力が必要なロケットは、大手の下請けに甘んじる可能性が大きい。小型衛星なら」とアドバイス。プロジェクトが動き出した。東教授は「衛星の製造だけでは市場規模が小さい。ビジネスとして通用するサービスを生み出す企画力が問われる」と指摘する。
「まいど1号」には、低迷する地域再生の願いが込められている。製造拠点の海外移転や不況で、東大阪経済は低迷。同市の製造品出荷額は90年の2兆円から1兆3000億円まで落ち込み、83年のピーク時に1万以上あった事業所は8000に減った。
■「オンリーワン」技術の町工場
しかし、東大阪には、「オンリーワン」の高い技術力を持つ町工場が、多い。従業員約30人のアオキも、米ボーイング社のジャンボジェット機部品を製造する世界最小規模の工場だ。衛星の用途は決まっていないが、開発することで、下請けから脱皮、企画から製造販売まで手掛ける企業群への成長を図る。
実際、宇宙部品を手掛けて飛躍した先例が、東大阪にはある。精密バルブの「フジキン」は76年、ロケット燃料の制御に使うバルブを初めて国産化、宇宙開発事業団(NASDA)に採用された。宇宙ではミクロ単位のチリや水分が故障を招くから、同社は東大阪の工場にクリーンルームを整備して対応。この技術が半導体製造設備などに発展、事業拡大の原動力になった。200人程度だった社員は、約800人まで増えた。
■優秀な人材呼び込む
アオキの社員、小林千里さん(28)は昨年10月、米テキサス州ヒューストンで開かれた国際宇宙連盟大会に単身乗り込み、小型衛星の権威、英サリー大のマーチン・スウィーティング教授を呼び止めた。
「まいど1号」計画で、同教授にアドバイスを仰ぐためだ。「靴でも作った方がもうかるよ。なぜ衛星なの?」。冷やかされたが、夢中で話した。「若者が集まるような、活気ある街にしたい。"宇宙"なら、それができるんです」。
小林さんが帰国すると、教授からメールが届いていた。「ハートを失うことなく戦う準備ができているなら、すべては可能だ」。今も続くメールのやり取りが、プロジェクトの財産だ。
小林さんは大学で宇宙工学を専攻。母校の教授から東大阪の計画を聞き、昨年8月、「アオキ」の門をたたいた。モノづくりの基本は研究・開発力だけに、人材確保が、最重要課題。人工衛星プロジェクトが東大阪の技術水準の高さを発信し、優秀な人材や情報が集まり出した。
■大学院から入社
従業員45人。最先端の微細加工技術を持ち、プリンターのインクジェット技術やDNAチップ開発を手掛け、衛星開発をになう「クラスターテクノロジー」(東大阪市)に、初めて東京大学大学院博士課程を修了した若者が入社した。植田康弘さん(33)で、昨年6月、大手電機メーカーの研究所から転身。新薬開発などにつながる、たんぱく質解析装置の開発に取り組んでいる。
研究資金や設備面で中小企業のハンディは大きいが、共同研究先の大学や、国の補助金の利用で克服できる。新しい生き残りの形だ。ク社には今春、新たに大学院を修了した2人が入社する。
日本貿易振興会(ジェトロ)から国際的な「お見合い話」が東大阪商工会議所に持ち込まれている。航空関連260社が集まる、カナダ・モントリオールの航空産業との技術交流事業だ。日本と海外の産業拠点との交流を進め、新ビジネスにつなげる。
衛星を開発するだけでは、打ち上げ花火に終わりかねない。しかし、プロジェクトを進めるうちに、優秀な若手が集まり、企画や開発力に磨きがかかる。そして、IT関連企業が集積する米シリコンバレーのような存在に東大阪を変えられれば――。そんな願いが、「まいど1号」に託される。
検証「光新世代ビジョン」 光通信だからこそ出来ること
そもそも「光だから出来ること」とは何なのか。ここ1、2年にもさらに進化しそうな光ファイバーの特徴を、ユーザーに身近な加入者系(アクセス系)を中心にみていきたい。
■今のブロードバンドの主役はADSL
現在、日本が世界でもトップレベルのブロードバンド大国となっているのは、ADSLの爆発的な普及に負うところが大きい。600万回線を越えてなお、順調に増えている。これにより、家庭のパソコン画面なら、あまりストレスなく動画を見られるようになった。タイプも1.5Mbpsから8Mbps、12Mbpsと高速化し、今春には16Mbpsまで出る見込みだ。(ただし、実際の速度は通信環境、基地局からの距離によって、ここまででないが)、料金も低廉化している。定額制はいまやネットの世界では当たり前。ADSLはブロードバンドの世界への導入役となった。
しかし、ひとたび素晴らしき新世界の扉が開ければ、さらなる便利さが求められてしまう。そう遠くない将来、ブロードバンドの主役は光に交代するだろう。光はADSLを突き抜けたところにある技術だからだ。ADSLの高速化は理論的には数10Mbpsまでといわれる。高速化するために、周波数帯域を拡大しても高い周波数領域では、メタリック線の伝送能力が乏しいからだ。また、周波数帯域を拡大するとVDSLの周波数も侵してしまう。一方、基地局からの距離が遠くなれば速度が落ちることは知られているが、高速になるほど届く距離は短くなり、数10Mbpsと言っても基地局の直近のユーザしか利用できない。同じ距離でも雑音、干渉といった要素で速度は異なってしまう。
■光が実現するギガビット級のネットワーク
これに対して光は既に、アクセス系で最大100Mbpsのものがある。ここ1、2年でギガビットクラスのものも登場する見込みだ。既にIEEEが1Gbpsの標準化作業を進めている。NTTでも1年ほど前から研究を進めており、世界でもトップレベルの研究水準という。さらに、ADSLと違って距離による制約がないのも魅力だ。「ADSLでも十分高速だから、1Gbpsなんて必要ない」といった声も根強い。たしかにメールとネット接続だけに使うならADSLでも構わないが、それはブロードバンド本来の姿ではない。ブロードバンドは手段に過ぎず、それによって、コミュニケーションをより便利に、より進化させることが重要だからである。
ADSLの場合、情報をダウンロードするための下り回線は高速だが、アップロードするための上り回線は細い。このため動画を使った双方向のコミュニケーションができない。光なら上り回線を高速化できるので、スムーズな高精細のテレビ電話会議が可能になる。eラーニングやライブなどのストリーミング配信など、光を使ったコミュニケーションの可能性は、アイデア次第でいくらでも広がる。もともと、多様なサービスへの拡張は、上下とも高速な光回線の得意分野だ。
光のアクセス系を研究しているNTTのアクセスサービスシステム研究所(千葉市など)の篠原弘道担当部長は「光にはまだ、多様な可能性がある。実際にユーザーやコンテンツプロバイダーが使い始めれば、もっといろいろな活用方法が生み出されるかもしれない」と話す。
■波長多重技術は何色も
光の柔軟な特徴をいかしたのが、光多重波長技術だ。異なる波長の光に別々の情報を載せて伝送できる。3波なので通信の上り下りと放送の3種類を送っていたが、10波あれば10種類の情報を送れるようになる。100波以上を多重化することも可能だ。すでに中継系では32波を中心に、100波以上の多重波も活用されている。これは何十万人も利用するものだから一人当たりのコストは安い。1軒1軒ひかれる加入者系の場合はコストがかかるため、現在は実験でも3波。だが、NTTはコストダウンを図り、1、2年のうちに10波まで実用化する予定だ。通信の上りと下り、スカパーなどの放送で3波を使ってもまだ7波ある。ストリーミング配信専用に1波使ってもいい。何に使うか事業化へのさまざまなアイデアが生まれそうだ。
NTTの光新世代ビジョンではさまざまなソリューションが提案されている。その世界を実現するにも光多重はかかせない技術といえそうだ。現在、アクセスサービスシステム研究所では、アクセス系の光通信技術の向上を目指した研究に全力をあげている。光ファイバーをより柔軟に、より拡張性の高いものに成熟させるためだ。光ファイバーは、ユーザーにも事業者にも、より使いやすいものに進化しようとしている。[Mainichi]
CATVは地域総合情報サービス業へ
〜先取り経営のZTV〜
現在の地域情報化の主役はインターネットだが、一時代前はCATVだった。テレビ放送の難視聴を解決する補完的なメディアとして誕生したわが国のCATVの多くは、限られた地域の中で補助金に依存した守りの経営だった。しかし、ニーズの変化や放送と通信の統合という環境変化にさらされて、地域密着の総合情報サービス業として脱皮することが求められている。三重県のZTV(本社・三重県津市)は、地域のCATVでありながら、独自の「先取り経営」で、こうした変化に先行する勢いで手を打ってきた。
三重県を先導する「日本初」の経営
三重県は、情報化先進地域として知られている。三重県を初めとしたわが国の先進地域ではデジタルデバイド解消などのために、県が主導して幹線ネットワークを自設整備してきた。ただし、三重県がユニークなのはCATVを連結してインターネットのバックボーンとしたことだ。
これは、1995年に就任したばかりの北川正恭知事が、CATVという地域資源に目をつけ「県下の情報通信網にはCATVを活用する」と宣言したことに始まる。実際に三重県のCATV加入世帯普及率は55.3%と山梨県に次いで高く、ホームパス率(接続可能世帯率)では全国一である。しかし、量的に普及していたことだけが理由ではなく、既にこの頃から、CATVが地域情報化の担い手として欠かせない存在となっていた。
これまで三重県のCATVを牽引してきたのがZTVだ。1994年に開局した津ケーブルテレビ(現ZTV)は、県内では後発の事業者。しかし、設立当初から補助金に頼らないビジネスモデルを掲げ、第三セクターとして設立されたものの行政の出資を最低限に抑えるなど、自律的な事業経営を強く志向していた。また、社員平均年齢が28歳代(2002年)と若いことから、杉本副社長以下風通しがよく、社員のアイデアを実現させるのが極めて早いという。こうしてZTVは、数多くのCATVの新規事業を手掛けていった。実に多くの「日本初」事業を打ち出し、フロンティアとして我が国のCATV事業環境を開拓してきた。ただし、残念ながらこの事実はあまり知られていない。
1997年4月、津ケーブルテレビは第一種電気通信事業許可を取得、CATV事業者としては初めてインターネット接続事業を開始した。また、国内初の常時接続・料金固定制を導入し、同年にはATMセルリレーサービスを手がけるなど、いち早く通信事業を有線放送事業と並んで事業の柱とした。
特に、料金固定制の導入は、CATV事業者のみならず通信業界初の試みであったことから大きな困難に遭遇したという。そこで設定された月額5000円の水準は、今でこそ高いと感じるが、この頃はそもそも事業として固定制が成立するか疑問視されており、まして月額5000円で採算がとれるとは誰も考えなかった。当時はまだ事業許可制が敷かれており、常時接続・料金固定制の実現のために旧郵政省と交渉を行う必要があった。特に、設定料金を巡って何回もやり取りが行われ、総括原価主義に基づいて5年間の総コストから料金算出根拠の提出が求められたという。
吉田要部長は当時を振り返り、この設定料金は「ハッタリだった」と告白する。しかし、技術革新の速さを理解すればするほど、経営者にはこのような感覚的な先読みと決断が求められるのだろう。一方、その後5年間の技術進歩を考えると、総括原価主義的な経営判断がいかに時代にそぐわないものであったか理解できる。
インターネットも「先取り精神」で
1990年代後半には、インターネットがブームになり、わが国のCATV事業は、有線放送事業と通信事業を二大柱とするようになっていく。ところが、この時点でもZTVは一歩先を行った。大半のCATV事業者はISP(インターネット接続業者)の枠にとどまる中で、ZTVは、2000年、CATV事業者で初めて「インターネット・データセンター」を構築、コロケーション用ラックにブロードバンド回線と冗長電源をワンパッケージで提供し始めた。全国的にデータセンターサービスは供給過剰といわれるものの、第1期データーセンターは完売し、敷地2万平方メートルの中に第2期データーセンターの建設に着手、5階建てのさらに大規模なデーターセンターになる予定だ。
また、2001年には、「お客様コールセンター」を設置した。事業の拡大に伴い増加する加入申込みや問合わせに的確に対応するため、顧客関係情報を管理する仕組みを持つ24時間対応のコールセンターである。現在では、地元企業に対してコールセンターのアウトソーシングサービスも提供している。このような本格的なデータセンターやコールセンターの設置は、CATV事業者として前例がない。
さらに2002年5月、ZTVは国内CATV事業者で初めてVoIP技術を使った商用電話サービス「Z-PHONE」を開始した。インターネット接続サービス利用者に対して、加入者同士であれば基本料金月額500円で掛け放題、相手が加入者でない場合は全国どこでも3分8円を実現している。
ZTVは、2000年からKDDI等と電話共同フィールド実験「VIP21」を実施してきた。その点で、満を持してのIP電話サービスの開始である。また、4県38市町村をカバーする他に類を見ない広域ネットワーク化を進めてきたことから、加入者にとっては域内通話サービスの利益実感が高い。2002年11月には、ZTVはCATV事業者としてはやはり全国で初めて、4桁のIP電話事業者電話番号(050-7000-XXXX)を取得した。
地域起点で全国ネットワークを目指す
こうしてみると、ZTVの関心は外へ外へ向いているようにみる。しかし「地域に元気になってもらいたい」と吉田部長が強調するように、関心は逆に内(地域)を向いている。地域の人々や企業や商店に高品質で多彩なサービスを常に提供することを心がけ、前例にとらわれない創意工夫と決断を続けてきたことが、結果的に日本一の一番乗り企業として結実しているといえる。また、もともと地域限定で競争が起こりにくいCATV事業環境の下で、自らが地域内に競争を創り出しているとも考えることができる。このことは、「ZTVは、県内同業他社から、いい意味でも悪い意味でも恐れられる存在。」(サイバーウェイブジャパンの岸本 明氏)という言葉にも表れている。
「ブロードバンドという情報インフラは、これからの地域活性化に欠かせない起爆剤になると考えています。そして、中でも安定した通信品質を実現できるCATVの担う役割はますます大きくなると思っています。しかしそのためには、これまで以上に全国のCATV事業者が、シームレスなサービス連携を実現しなくてはいけません。私は、全国のCATV事業者間のトラフィックはすべて無料にすべきだと考えています。」と吉田部長が語るように、ZTVには、まず地域に密着したCATVネットワークがあり、それを連結したメタネットワークが全国をカバーするという構想がある。これは、全国キャリアとは全く逆の、地域に密着したCATV事業者ならではの地域起点の発想であり、次世代のネットワーク・トポロジーをも予見させる。
今後、通信サービスは単なる接続サービスを超えて、いよいよ地域の生活や産業に直結するアプリケーション・サービスが求められてくる。また、放送サーヒスではデジタル化の流れの中で、地域コンテンツをいかに創造し、差別化を図ることができるかが課題となる。ここでもZTVは「データセンターやコールセンターは地域に密着したeコマースの伏線でもある」というように半歩先を歩んでおり、次の一手を打っている。地域情報化を考える上で、また今後の放送・通信のあり方を考える上でも、ZTVから目が離せない。
| 株式会社ZTV(ゼットティヴィ) 本 社 三重県津市 設 立 1990年10月1日 開 局 1994年10月1日 資本金 5億88900万円 サービスエリア 4県(三重県、滋賀県、和歌山県、奈良県)38市町村 接続件数 CATV約80,000件、CATVインターネット約25,000件(2002年10月現在) |
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評価と課題
地域の人材を生かす器に
東京を中心に活動している技術者と「なぜ地域情報化は進まないのか」「どうして通信インフラ整備が遅れる地方が多いのか」「どうしたら進められるか」という議論をすると、必ず聞かれるのが「地方には人(技術者)がいない」という文句だ。あまりに多くの人が口にするこの言葉は、おそらく実感に裏打ちされている。しかし私は、それは本当だろうか、と考えてきた。この疑問に対して、今回ZTVへの取材を通して、ひとつの結論を得たような気がしている。
印象的だったのは、吉田要部長がZTVの特徴を問われて最初に挙げたのが、「社員の平均年齢が若く、しかも彼らが決定権を持っていることだ」という答えだったことだ。記事でも挙げられているとおり、ZTVには、過去常に新しいサービスを率先して導入してきたこと、CATVの枠を超えた事業を展開していることなど大変多くの特徴がある。しかしZTV自身は、自らのもっとも大切なエッセンスはサービス内容でも、過去の実績でもなく、その攻撃的な意思決定プロセスであると考えているのだ。これは自らが持つ意思決定能力に対する自信の表れでもある。
翻って考えてみるに、地方には人材がいないのではなく、人材を容れ、活躍させる器がないのではなかろうか。ZTVは明らかに日本でもっとも攻撃的な活動をしている通信事業者のひとつだが、その若い人材の大半は地元から出ているわけだ。多くの地域では、地元で育った優秀な人材や、東京などの大都市に出て学んだ地元出身の人材が、地元でその能力を十全に発揮する場を得るのは難しい。しかしZTVはその人材を受け入れ、その自由な社風から、彼らの発揮させる場として十分に機能しており、それがZTVの力の源泉であるような気がしてならない。そもそもCATV事業者というのは、地元密着型の情報通信産業であり、経営基盤も比較的安定しているところが多いから、地域に優秀な人材を受け入れ、活躍させる器としては適しているかもしれない。とすれば、冒頭で述べた地方の人材不足は、CATV事業者の活躍によって補われる可能性もある。
丸田氏の稿の最後でも触れられているが、ZTVの活動は「地域基点の発想」に満ちている。これも地域の人材が生き生きと活躍しているからこそではないか。新しい活動だけでなく、ZTVがそれを生み出すメカニズムについても注目する必要がある。
(石橋啓一郎-=国際大学GLOCOM)
【コラム48:100Mbps超次世代無線LAN】 (2003/02/27作成:tuusinsya)
2003年2月27日付のImpress PC Watchに、「策定進む100Mbpsを超える次世代無線LAN」と題して、Wireless System
Design Conference and Expo 2003における講演「次世代無線LAN規格IEEE802.11nの標準化作業」についての記事が掲載されていました。無線LANの技術動向として参考になると考えますのでご紹介します。
[出典]:[http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0227/ws01.htm]
策定進む100Mbpsを超える次世代無線LAN
〜IEEE 802.11nとしてまもなく標準化作業が開始〜
無線機器の設計に関する話題を取り上げるWireless System Design Conference and Expo 2003が、アメリカ合衆国カリフォルニア州サンノゼのSan Jose Convention Centerにおいて開催。この中で、Philips Semiconductors divisionのワイヤレスビジネス開発担当取締役でIEEE 802.11委員会議長のスチュアート・ケリー氏は、「A Look at Standards Evolution」と題する講演を行ない、IEEE 802.11委員会が策定している無線通信規格の現状などについて語った。この中でケリー氏は現在HT SG(High Throughput Study Group)として研究が続けられている次世代無線LANが、まもなくタスクグループn(IEEE 802.11n)として規格策定が開始される予定であることなどを明らかにした。
●6月に規格標準化作業が完了するIEEE 802.11g
IEEE 802.11委員会には、複数のタスクグループ(TG、Task Group)があり、それぞれ異なる規格の策定を行なっている。IEEE 802.11委員会には以下のようなタスクグループが存在する。
タスクグループ一覧
TG名 |
規格名 |
議論内容 |
現状 |
| TGa | IEEE 802.11a | 5GHzの物理層設計などの策定 | 終了 |
| TGb | IEEE 802.11b | 2.4GHz帯域の物理層設計などの策定 | 終了 |
| TGe | IEEE 802.11e | QoSのためのMAC仕様の拡張 | 策定中 |
| TGf | IEEE 802.11f | アクセスポイント間通信仕様の策定 | 策定中 |
| TGg | IEEE 802.11g | 802.11bの拡張仕様、2.4GHzの高速版 | 策定中 |
| TGh | IEEE 802.11h | 802.11aの拡張仕様 | 策定中 |
| TGi | IEEE 802.11i | セキュリティのためのMAC仕様の拡張 | 策定中 |
| TGj | IEEE 802.11j | 日本における4.9-5GHz利用のための仕様策定 | 策定中 |
| TGk | IEEE 802.11k | 線資源の有効活用の研究 | 1月初会合 |
| TGm | IEEE 802.11m | 11aと11b仕様の修正など | 3月より開始 |
| HT SG | IEEE 802.11n | 次世代無線LAN仕様策定の準備 | 進行中 |
TGaおよびTGbは、言うまでもなくIEEE 802.11a(以下11a)およびIEEE 802.11b(同11b)で知られる今日無線LANの標準規格として利用されているもの。これらに関しては、すでに'99年に標準化作業が完了しており、11b製品は'99年頃に登場し、すでに広く普及。11a製品も昨年頃から実際の製品が登場。そして、現在標準化作業が進行しているのが、TGe、TGh、TGi、TGgの各タスクグループ。この中で、TGgことIEEE 802.11g(以下11g)は、11bに11aで採用されているOFDMという変調方式を追加するという物理層の変更を加えることで、54Mbpsという高いスループットを実現。すでにドラフト(最終規格案)に基づいた製品が、ネットワーク機器ベンダから登場し、大きな注目を集めている。
ケリー氏は「すでにドラフトに基づいた製品が登場しているが、最終的な仕様はまだ決定しておらず、最終仕様が登場したときに、ソフトウェアだけの修正ですむのか、シリコンレベルでも手を加えなければいけないのかは明確ではない。3月のIEEE 802.11委員会の会合で、ドラフト7が公開され、それに基づいて最終仕様に向けた話し合いが行なわれる。最終仕様は6月に決定される予定だ」と述べ、標準化作業に責任を持つ議長として、11gドラフト仕様に基づく製品出荷はあまり好ましいものではないという姿勢を示した。
●IEEE 802.11e、11h、11iに関してもまもなく標準化作業が終了し製品化へ
また、そのほかTGe、TGh、TGiという3つの拡張仕様についても、説明があった。TGeはIEEE 802.11eの名前で知られるQoSを実現するためのMACの拡張仕様。現在の11aおよび11bでは、帯域に関する保証はされていない。このため、MPEG-2のストリーミング再生といった、安定した帯域幅を必要とするアプリケーションを利用する場合、ほかのアプリケーションが走るとその影響で帯域幅が足りなくなって安定した再生ができなくなる。QoSの機能を追加することで、帯域幅を確実に確保できるようになる。11eはそれらの機能をMACの仕様に追加するもの。
TGhことIEEE 802.11hは11aの拡張仕様で、より多くの周波数帯をサポートするように拡張する。さらに、TGiことIEEE 802.11iは、現在の無線LANのセキュリティで利用されているWEPをより強化し、それを元にMACを拡張していく仕様。現在の無線LANの弱点であるセキュリティの問題を解決する手段の1つとなる。ケリー氏によれば、これらの拡張仕様に関しても、9月頃までには策定が行なわれるという。実際、無線LAN関連のシリコンを提供するベンダに確認すると、2003年後半〜2004年にかけて出荷する予定の製品で、11e、11h、11iの仕様を提供していく予定があるという。OEMメーカー筋の情報によれば、IntelのCentrinoモバイルテクノロジの一要素であるIntel PRO/Wireless 2100A(Calexico)の後継で、2004年の第1四半期に投入される予定のCalexico2でも、11e、11h、11iの各仕様に対応する予定であるという。
●100Mbpsを超える次世代無線LANを取り扱うHT SG
ケリー氏は「現在最もホットな話題を取り扱うタスキンググループ」(ケリー氏)として、HT SG(High Thorughput Study Group)の話題を取り上げた。HT SGは、IEEE 802.11委員会の中で、次世代の無線LAN規格を扱うグループで、11a/11b/11gの後継規格となるより高速な無線LANの標準化の準備を行なっている。ケリー氏は「様々な意見がでている。現在のところ仕様などは全く決定されていないが、100Mbpsという意見が多いようだ」などと述べ、HT SGがターゲットとしているスループットが100Mbpsとなる可能性が高いことを明らかにした。
実際、IEEE 802.11委員会のWebサイトに公開されている文章を読むと、HT SGに参加している参加者が考えている次世代無線LANのアウトラインが見えてくる。例えばDell ComputerのPratik Mehta氏が昨年の11月の会合で発表した「Next Generation WLAN Standard」(IEEE802.11-02-682r0)によれば、次世代無線LANの条件として・最低でも100Mbpsのスループットで、できればそれ以上・既存の無線LAN(11a/b/g)との下位互換性・2005年〜2006年における製品の普及などがあげられている。また、別の文章であるMotoloraのChris Ware、Sebastien Simoens、Amitava Ghosh、Karine Gosseの各氏が昨年の9月に発表した「HTSG Requirements Scope and Purpose」(IEEE802.11-02/567r0)では、100〜200Mbpsのスループットで、実効レートが70〜140Mbpsなどをあげ、それらを実現するには、MAC側にも何らかの改良が必要であるとしている。
これらを総合すると、次世代無線LANは100〜200Mbps程度のスループットで、ターゲットは2006年前後、現在の無線LANとなんらかの形で下位互換性が実現されるという姿が見えてくる。
●標準化作業はIEEE 802.11nとしてまもなく開始
ケリー氏は、このHT SGが、「まもなくタスクグループに格上げになり、TGnとして活動していくことになるだろう」とのべ、今後次世代無線LANがIEEE 802.11nとして標準化が進められていくという見通しを明らかにした。この規格は、日本のユーザーにとっても大きな意味を持っているかもしれない。というのも、特に都心で問題になっているのが、すでに建っているマンションやアパートなどで、どのようにしてFTTHを各部屋に引き込むかという手段。例えば、マンションの内部ではメタル配線となっているため、各部屋にFTTHを引くことができない。ADSLを引くことができればまだ良い方で、MDFが光収容になっているため、ADSLを各部屋に引くことができないマンションも少なくないと聞く。
さらに、新築マンションであっても、マンション全体で100MbpsのFTTHを引いて、全部屋でそれを共有となっているところがほとんどで、FTTHを部屋に引きたいという要望を出しても断られるというのが一般的 (混雑時の帯域幅は100Mbps÷部屋数となる)。
つまり、マンションで暮らす限り、自室に専用のFTTHを引くことはできず、“FTTH難民”と化してしまう可能性が多いにある。11nのような高速無線LANが普及すれば、現在SpeedNetが提供しているような、無線LANによるブロードバンド接続も帯域幅を上げることができるため、FTTH相当の帯域幅サービスが、低コストで提供される可能性も高くなる。これらの分野でも、より高速な無線LAN技術は非常に大きな意味を持っており、今後とも注目すべき技術と言えるだろう。
日経デジタルコア・CANフォーラム共同企画「地域情報化の現場から」
第1回 低価格ADSLを全県に 〜兵庫県で進行する民間共同事業〜
ADSLのブームで普及し始めたブロードバンドだが、民間事業者の大半は「過疎地では採算がとれない」とサービス地域にしていない。一方で県レベルの情報ハイウエー整備が進んでいる。この幹線を利用することで、低価格で過疎地域にADSLをサービスする民間事業者が現れた。関西ブロードバンド(本社・神戸市、三須久社長)が主導する「兵庫モデル」ともいえるこの方式は、デジタル・デバイド(情報格差)解消の有力な手法として注目を浴びつつある。
CATVをADSLに乗り換えた町
「来ぬ人を 松帆の浦の 夕凪に 焼くや藻汐の 身もこがれつつ」――藤原定家の和歌に詠まれた「松帆の浦」がある、兵庫県津名郡淡路町。本州側の明石市とは全長3.9キロの明石海峡大橋で繋がっている、人口約7000人の淡路島北端の町だ。この淡路町に2002年12月6日、ADSLが開通した。しかも月額料金は1980円と、3000円前後が常識のADSLとしては極端に安い。
淡路町は、「高齢化と人口の減少に対処するため、情報化事業が不可欠」(今津浩町長)と考えていた。当初はCATVの導入を考えた。その投資は16億円と試算した。一般会計の規模が50億円の小さな町で、16億円の投資はかなりの決断を要した。そこに、関西ブロードバンドが、低価格でADSLを導入できるという話が届いた。
関西ブロードバンドは、同町との交渉で、「100世帯が加入するなら月額4000円、500世帯以上が加入するなら月額1980円」という価格を提示した。当初の加入希望は500世帯に達しない。月額4000円では町民の加入意欲は冷えてしまう。そこで、「当初から1980円でサービスして欲しい」と関西ブロードバンドに依頼、そのための設備の負担など、2002年9月補正予算で、2200万円の町費の支出を決めた。
「ここから明石海峡大橋を通って県庁まで35分と、橋がなかったころに比べれば、大幅に近くなった。それでも、橋の向こうとこっちの差は大きい」と淡路町企画調整課の鍋島義隆氏は言う。町には高校はない。教育に力を入れて、高校に通わせた子供達は、結局町を出て行く。町民の高齢化も進んでいる。独居老人も増えている。コミュニティーを維持する手として、CATVは初めは魅力的だった。しかし、設備投資だけでなく、町民向けの自主放送を始めたら、相当の運営費がかかりそうだ。
そこで、定額で高速のインターネットという発想が浮かんだ。大手事業者に問い合わせても、同町でADSLをサービスする計画はないという。そこで関西ブロードバンドを選んだ。ところが町会議員もブロードバンドには